2008年クリスマス企画・闇鍋if

ご主人様と私

リュウ×クレイ編

「まぁ……俺もお前の可愛い格好が本編の三話分だけじゃ、寂しいと思ってたんだよな」
メイド服を着せられ困惑の表情で立ちつくすクレイの前を、先ほどからリュウが行ったり来たりしている。
正確には三話ではなく四話なのだが、それをリュウに正したところで意味はない。
軽く、どうでもいい話として処理されてしまうのがオチだろう。
「だいたい、あの後おっぱいも見せてもらってねぇし。だが今日は思う存分見せてもらうぞ、クレイ!」
なんて嬉しそうな兄さん。
いつもなら、リュウが嬉しい時は自分も嬉しいクレイである。
しかし今はとても、そのような気分になれそうもなかった。
「兄さん。先ほどから一つ気になっている点があります」
消え入りそうな声で、ポツリと呟く。
通話機を取り上げられてしまったので、自前の声で話すしかない。クレイにとっては、それが屈辱のようだ。
顔を覗き込まれ「あぁン?どうした、言ってみろ」とリュウに促されたクレイは、スカートを軽く摘み上げた。
「どうして、このような服に着替えなくてはいけないのですか?」
「そりゃお前、お前が今日一日メイドだからだよ」
「メイド?」
メイドというのは知っている、ホームヘルパーの別名称だ。
しかし、この何処とも判らぬ異空間でホームヘルパーなど雇ってどうするのか。しかも一日だけとは、おかしな契約だ。
「そうだ。俺専門の俺だけを楽しくさせる為の特別なメイドなんだよ、お前は!」
そう言って、リュウはぎゅうっとクレイを抱きしめる。
「ははは!ちっちゃくなっちまって、かぁいいなぁ〜。この腰、腰のくびれがたまんねェ!」
さわさわと腰を撫でられ、クレイは彼の腕の中でジタバタと藻掻いた。
「や、止めて下さい。くすぐったいです」
「へっへへ、くすぐったい、か。そのうち、そいつを気持ちいいって言葉に変えてやるぜ」
アダルトビデオに出てくる悪漢みたいな事をほざきつつ、リュウはひとまずクレイを解放する。
乱れた服装を整えながら、クレイは尚も尋ねた。
「ホームヘルパーの件は了解しました。しかし、服の疑問は解消されていません」
「ホームヘルパーじゃねぇ、メイドだ。それとメイドってのは、元来そーゆーユニフォームを着る決まりになってんだよ。以上!」
兄さんによる説明を受けても、まだ納得がいかぬのか、クレイはスカートをめくりあげて不満を漏らす。
「ユニフォームの件は納得しました。しかし、下着もユニフォームのうちに入るのですか?……先ほどから下着に付着した布が太股に触り、不快な気分を倍増させています。何とかなりませんか」
細くて白い太股と、レースのついた可愛らしいショーツが丸見えとなる。
一瞬は目を奪われたものの、すぐさまリュウはスカートを下に降ろさせ、クレイを怒鳴りつけた。
「うォい!コラ、クレイ!!女の子ってなぁ、もっと恥じらう生き物なんだ!自分から見せるんじゃねぇッ」
「俺は女の子ではありません」
冷静に言い返すクレイの額を軽くペチッと叩き、リュウは窘める。
「今は女の子、だろ?それと、女の子は自分のことを、俺なんて言わねぇもんだぜ。自分のことは私、だ。以降は徹底して【私】を使うようにしろよ。あぁ、それと!」
「はい」
「俺のことは【ご主人様】と呼ぶようにな。お前は俺に雇われてるメイドなんだから」
ややあってから、クレイは頷いた。
「了解です、マスター」
いつもは即答なのに今回時間がかかったのは、女じゃないのに女扱いというのがクレイの中でも引っかかっているからであろう。
「こら!マスターじゃねぇ、ごしゅじんさま、だ!勝手なアレンジを加えんなっ」
また怒られ、淡々と言い直すクレイ。
「……了解しました、ご主人様」
「よし」
満足そうにクレイを見て、リュウも頷いた。
「なんとか第一段階はクリアってトコだな。よくやった」
褒められて、鉄仮面だったクレイの顔にも、ようやくほんのりと笑みが浮かぶ。
「ありがとうございます」
「へっへっへ、じゃあ次だ。次のノルマは難しいぜェ、なんたって」
リュウは懐からカンニングペーパー――先ほどのホワイトボードの移しを取り出し、じっと眺める。

おかえりなさいませの第一歩は、ニャンニャンから(・ω・)

見れば見るほど、バカみたいに下品なノルマだ。だが、クレイなら出来るかもしれない。
人形のように端正な顔で、リュウの第三の足を、はむはむするクレイ。
慣れていないくせに、リュウに言われたとおりに舌を使ったり、根本までしゃぶったりしてくれるのだろう。
……想像しただけでも、イッてしまいそうだ。
「ご主人様?どうかしましたか」
クレイに声をかけられ、リュウは我に返る。いかん、うっかり想像の虜となって呆けてしまっていた。
「あぁ、いや、なんでもねぇ。じゃあ、さっそく第二段階に、とっかかるか」
「はい」
何も知らないクレイは、即座に頷いた。


次なる試練は、どのようなものなのか。
期待半分不安も半分で待機するクレイの前で、リュウは言った。
「次をやる前に一つ聞きてぇんだがよ。お前、オナニーしたことあるか?」
歯に衣を着せるという言葉を知らないのか、ズバッと確信をついた言い方だ。
「オナニー……ですか?」
クレイは首を傾げる。
言葉の意味としては知っているが、やったことがあるかと聞かれると、一度もない。
なので素直に「いえ、ありません」と答えると、リュウは「やっぱりなぁ」と実に嬉しそう。
「じゃあ、イッたりイカされたり、なんてのもねぇんだな?」
「イクというのはオルガスムスに達した瞬間の事ですか?そうだとすれば、まだ体験したことはありません」
「なんだ?オルガなんとかってのは」
逆に尋ね返されてしまったが、すぐにリュウは答えなくてもいいと手振りで示す。
「そうかそうか、体験したことがねぇってか。なら喜べクレイ、今日がお前のオルガなんちゃら初体験日だ!」
喜ぶべきことなんだろうか。
だが知識によれば、達した瞬間には恍惚とした感情が芽生えるとのことだから、悪いものではあるまい。
その『恍惚』というのが、クレイにはイマイチよく判らなかったのだが……
「いいか、クレイ。ニャンニャンってのはなぁ、ラブラブな二人がイチャイチャすることを言うんだよ。今の場合は俺とお前、な。まぁイチャイチャするっつっても具体的に言わないと何すりゃいいのか判んねぇよな?だから俺もさっき脳内で笹川に尋ねてみたんだけどよ、奴からのテレパシーによると、こういうご回答だ」
テレパシー?
いつからリュウ兄さんは超能力に目覚めたのであろうか、と、またしても首を傾げるクレイ。
しかしながら、これについては説明の必要もないだろう。
要は脳内会議、リュウが勝手に自分で考えて結論づけただけの話だ。
「今日のニャンニャンは、これだっ。俺のちんぽを舐めてもらうぜェッ!」
今日のって、明日も続けるつもりか?明日までにはクレイだって、元の姿へ戻るだろうに。
黙って聞いていたクレイはポンと手を打ち、納得したように頷いた。
「なるほど、ニャンニャンだけに舐めるのですね」
最初ニャンニャンという文字を読んだ時、猫がどう関係するのかと悩んだものだったが、これで解決した。
「そういうこった。物わかりが良くて助かるぜ」
だがニヤニヤしながら顎を撫でていたリュウは、クレイの次の質問にはズッこける。
「それで……ご主人様の『ちんぽ』とは何ですか?」
「おいッ!本気で聞いてんのかァ!?」
思わず怒鳴りかけるも、クレイの目は真剣だ。
本気で知らないらしい。まぁ、博士も造語や隠語までは教えていないのだろう。知らなくてもいい雑学なのだから。
「ちッ……お前の股ぐらにもついてるだろうが。アレだよ、アレ。ま、今はついてねぇがな」
股間を指さされ「あぁ」と納得するクレイを抱き寄せると、リュウは気を取り直して続けた。
「まずは跪いてチャックを開けて、取り出してみろ」
「了解です」
コクンと素直に頷き、リュウの前に座り込むと、彼のズボンのチャックを降ろしてゆく。
パンツの中へ細い指が侵入し、リュウの逸物を外気へ晒した。
ここまでの動作で、クレイが動揺したり戸惑ったりといった感情は伺えない。
「よーしよしよし。よく出来ましたっと!」
頭をナデナデしてやると、彼は嬉しそうにリュウを見上げた。
「この次は、どうすればいいのですか?ご主人様」
「さっきも言ったろ、舐めるんだよ」
「了解です」
はむっと何の恥じらいもなく咥えられたもんだから、驚きのあまりリュウは叫んだ。
「うぉっ!」
舐めろといったのに、何故咥える!?
しかも咥えたまま、口の中でクレイがペロペロと舐めてくる。やべぇ、こんな展開は予想外だった。
舌が尿道を舐めるたびに脳天まで快感が突っ走り、リュウはぶるぶると体を震わせる。
「く……ぉっ……お、おい、クレイッ……おま、お前、ずいぶんと、慣れてんじゃねぇ、のかっ?」
対してクレイの返事はない。彼は一心にペロペロと舐めるので忙しく、返事どころではないようだ。
もっとも、まずいとか苦いとか多少障害があったとしても、クレイは途中で辞めたりしないだろう。
任務を途中で放棄する、それこそが彼の一番嫌う行動だからだ。
目をつむり、両手でリュウのアレを掴み、口の中で忙しなく舌を動かしている。
彼を見ただけで、嫌でもリビドーは高まっていく。
「うぁ……っ、はぁっ、く、クレイッ、も、もういいっ、もうアレだ、俺がダメだ、ちょっとやめろ、こら!」
ぐっと力を込めて頭を押さえてやったら、ようやくクレイは舌の動きを止めてくれた。
ちゅぽん、と咥えていたものを解放し、じぃっとリュウを見つめ上げる。
「もう終了ですか?ご主人様」
淡々と聞かれては、逆にリュウのほうが焦ってしまう。照れ隠しに視線を逸らし、彼は尋ね返した。
「も、もう……って。なんだよ、お前、一体いつまでやり続けるつもりだったんだ?」
じっとリュウを見上げたまま、クレイも無表情に答える。
「今日一日、ずっと続けるのかと思っていました」
「ばか、ずっとやられたらフヤケちまわぁ。ったく、お前ってやつは妥協ってもんを知らねぇのな」
そそくさとしまい込む彼を見つめ、クレイはこうも尋ねた。
「オルガスムスに達さなくて宜しいのですか?」
「ハ?」
何を聞かれたのかとポカンとするリュウへ、再度真顔で尋ねる。
「性的快感を与える行為を途中でやめるのは体によくないと、Q博士からも教わっています。最後までやり遂げるべきではないでしょうか?」
冷静に言い切られると、却って『じゃあ続けてください』などと言い出せなくなってしまう。
ぽりぽりと顎をかきながら、リュウは気まずそうに答えた。
「い、いや、まぁ、そうだが……トイレで出してくっから心配すんじゃねぇ。あぁ、そうだ、クレイ。俺がトイレに行ってる間、夕飯の支度をヨロシクな」
「はい」
頷くクレイに背を向け歩きかけたリュウだが、不意にくるりと向き直って一言付け足した。
「あぁ、それと!飯を食う前でいいから、うがいしとくのも忘れんじゃねぇぞ!」
「了解です」
打てば響く返事を背に、今度こそリュウはトイレへ駆け込んだ。


「さってーと!次は、案外簡単だぜ?なんといっても――うぉあっ!」
トイレから出てきてスッキリのリュウ、台所に入った途端奇声をあげた。
――いや、別にそこではクレイが料理を作っている最中であっただけなのだが。
そのクレイがつけているエプロンが、異常に似合っていたので、驚いてしまったのであった。
「ぐはぁッ!かぁいいなぁっ、たくオマエはよぅ〜」
クレイがつけているのは、熊がプリントされた淡い水色のエプロンだ。
普通、こういう可愛い柄のエプロンをつけるのを男性は嫌がったりするものだが……
自分から進んでつけるとは、よっぽど柄が気に入ったものらしい。
リュウはニマニマといやらしい笑みを浮かべながら、クレイの周りを飢えた野良犬のように徘徊する。
しかしクレイは気を散らさず、じっとシチューの入った鍋を見つめている。
周りをウロウロするリュウが気にならないとは、さすがは鋼鉄の神経である。
「しっかし……お前、料理なんて出来たのか?」
今さらな事を尋ねてくる兄さんへは、視線を鍋に集中させたまま短く答えた。
「教本が、横の棚に置かれていました。本日の夕食は、グラタンシチューとスパゲッティです」
その教本を手元に広げているわけでもなし、クレイは本の内容を暗記してから作り始めたものらしい。
「春名ちゃんが羨ましいぜ。料理のできる旦那さんってか」
ぽつりと呟くと、やることもないのでリュウは居間へ戻った。

数時間ほど経過しただろうか、そろそろリュウの腹時計が夕食の時間を告げる頃。
クレイが出来たてホカホカの料理を運んで、居間に現れた。
「おぅ、上手そうじゃねーか。ちゃんと味見はしたか?」などと鼻をひくつかせるリュウに頷き、クレイは対面へ腰掛ける。
シチュー皿に一杯、二皿目にも入れようとしたが、リュウに止められる。
「おいおい、ちゃんとボードの項目を読んでなかったようだな?盛るのは一杯だけでいいんだよ」
きょとん、とするクレイの唇を指でなぞり、リュウが顔を近づけると。クレイは反射的に身を引いた。
「……なにを、するのですか?」
その目は怯えているようにも見え、肩を竦めて応えるリュウ。
「何もしやしねぇよ。するのはお前だ」
「……私が、ですか?」
「そうだ。このシチューとスパゲッティを、口移しで俺に食べさせろ」
「口移し……」
「口移しってのは、わかるよな?口と口をくっつけて、食べさせるんだ」
ぽーっと考え込んでいたクレイは、不意にハッとした顔になり、見る見るうちに頬を赤らめる。
リュウのナニを取り出した時だって、それを咥えた時だって顔色一つ変えなかった彼が……だ。
「おいおい、赤くなって照れやがって。ナニを想像したんだ?コラ」
ニヤニヤしながらリュウが尋ねると、クレイは紅潮したまま俯いてしまった。
「……唇を重ね合うのは、恋人同士が互いの愛情を確かめあうための行為と学びました。リュウ兄さん……いえ、ご主人様は」
視線をテーブルへ向けたまま、小さな声で彼は尋ね返す。
「ご主人様は、私を……愛しているのですか?」
「おぉよ、当然だ。俺ほどお前を愛してる奴ァいねぇぜ」
リュウは即答し、ますますクレイは赤くなる。
「……なら、俺も……いえ、私もご主人様を愛します」
「よぅし、良い子だ」
頭を撫でてやると、ようやく顔をあげたクレイは嬉しそうに微笑み返す。
心から喜んでいる。それが伝わってきて、リュウはガラにもなく胸がキュウンッと締め付けられた。
照れ隠しにスプーンを手に取り、クレイへ突き出すと。
「そんじゃ、まずはシチューから食べさせてくれや」
アーンと大口開けて、受け入れ体勢に入った。
可愛くない雛鳥。そんな言葉が脳裏に浮かび、クレイは吹き出しそうになる。
でも、雛鳥にしては似合わないものを兄さんはつけている。
アレがあると失敗してしまうかもしれない。事前に取ってしまおう。
クレイは手を伸ばすと、リュウの顔からサングラスを外してしまった。
いきなりの謎な行動に「お、おい!?」と彼がたじろくのにも構わず、クレイはシチューを一口含むと。
そっとリュウの唇へ自分の唇を押しつけた。

「んっぶ!ぶげっ!」

――だが。
リュウのほうは受け入れ完了していなかったようで、二人の唇が離れた途端、彼は口元を押さえて椅子から転げ落ちる。
ブパッと勢いよくシチューを吹き出すと、床に転がったままゲホゴホやり出した。
「に、兄さん!?」
これにはクレイも驚いて、タオルを片手に彼の元へ跪く。
苦しそうな咳だ。むせているところを見るに、気管にシチューが入ったのか。
「げはッ、ごほっ、がはっ!」
「兄さん、しっかりしてください!水は要りますか?」
「げふっげほっごほっっ……ハー、ったくよォ。お前、いきなり何、予定にないことしちゃってくれんだよ?」
「え?」
ひとしきりむせた後、いきなりリュウからのクレームを受け、クレイはキョトンとなる。
口と口をつけろというから、つけたのに。接触は上手くいっていたし、シチューを流し込むのだって上手くいったはず。
だが、現実問題としてリュウは怒っている。何故だ。
シチューを上手く飲み飲めなかったから?
シチューが気管に入ったから?
しかし、シチューを飲み損ねたのはリュウの失敗であって、こちらが怒られるような事ではないはず。
判らない。
何故、リュウに怒られてしまったのかが判らない。
わけも判らないリュウの怒りを受け、クレイは一気にブルーな気分になってしまった。
いや、直接の原因はわからないが、一つだけ判っている事がある。
それは、シチューどころか愛の受け渡しにも失敗してしまったということだ。
リュウを見ると、怒っているような苦笑しているような、複雑な表情を浮かべている。
テーブルに置かれたサングラスを手に取り、彼が再びそれをかけるのを見ながら、クレイはポツリと謝った。
「……申し訳ありません。失態に対する処罰は、如何様なものでも受ける覚悟です」
しょぼくれる彼の頭を軽くナデナデしながら、リュウは苦笑した。
「いや、そうじゃねぇんだよ、俺が驚いたのは」
指でピン、とサングラスの柄を弾いて彼は続ける。
「なんでコイツを、いきなり取ったんだ?おかげで俺ぁ驚いて、シチューを飲み損ねちまった。勿体ないことしちまったぜ」
「あ……」
予想外の出来事に驚いて、しゃべっている時にシチューを流し込まれたのだ。
そりゃあ、どんな奴だってむせてしまうに決まっている。
兄さんの怒る理由の説明がつき、クレイはますます凹んでしまう。穴があったら入りたい。
項垂れるクレイを見て、焦ったのはリュウのほうで、彼は慌てて付け足してきた。
「いや、だから、口移しに失敗したのは、もうどうでもよくてだな?お前が俺のサングラスを取った理由を教えろよ」
「……邪魔だと思ったのです。唇を併せる時に、私の額とサングラスがぶつかるのではないか、と」
「はァん?」
ポカンとするリュウへ、ますます消え入りそうな声でクレイは呟いた。
「障害を事前に取り除いたほうが、任務も完璧にこなせるのではと思ったのです。なのに結果としては失敗してしまいました」
今にも涙をぽろぽろ流して泣き出しそうな雰囲気である。
そうなる前に、リュウはガバッとクレイを抱き寄せて慰めてやった。
「あー、よし!わかった、お前はお前なりに考えた行動だったんだな。悪かった、俺が台無しにしちまって!」
力いっぱいの抱擁に、ぽーっとなったクレイは、ぽつりと呟き、リュウの腕に身を任せる。
「……兄さん」
いつでもリュウの腕の中は暖かくて、安心できる。
だが、今夜の兄さんはシチューの匂いもした。
後で服を洗濯しなくては、染みになってしまう――と、クレイはボンヤリする頭で考えた。
リュウは彼を椅子へ座らせてやると、自分も対面へ座り直す。
「よし、それじゃあ、お前がせっかく作ってくれた夕飯だ!無駄にするのも悪ィし、後は全部普通に食べちまおうっ」
「……はい」
気を取り直したクレイも、こくりと頷くと。その後は、二人仲良く夕飯を平らげたのであった。


そして、夕飯も終わり……
「ふぅっ。ゴチソウサマ、だ。お前、料理上手いよなぁ」
「ありがとうございます」
「今度、俺の夜食も作ってもらいたいもんだぜ」
「はい」
頷くクレイの背後へ回ってエプロンを脱がしたリュウは、二度三度わざとらしく咳をする。
「エー、ゴホン。それで、だ。この次は風呂とベッドインなわけだが……覚悟はいいなッ?クレイ!」
妙にリキの入った問いかけに、一瞬ポカンとするものの。クレイは素直に頷いた。
「え?は、はい」
だが気づけばリュウの手はエプロンだけを外すに止まらず、クレイのメイド服をも脱がそうとしているではないか!
「兄さ……いえ、ご主人様。服を脱ぐのは脱衣所でやらないと」
クレイの制止に一旦はリュウの手も止まる。
ホッとしたのもつかの間で、リュウはニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
また何か、よからぬことでも思いついたらしい。
「そういやさっき、どんな処罰でも受けるっつってたよな?なぁ、クレイ?」
「え……いえ、それは兄さんが怒っていたようでしたので」
「言ったよな?」
「……はい」
渋々頷くと、リュウは「よろしい」と大変満足そうに納得し、背後からクレイを抱きしめる格好のまま風呂場へと向かった。


脱衣所は二人で入ると、さすがに狭く感じた。
いや、狭く感じるのはリュウが大柄なせいだ。彼が一人で場所を取っている。
リュウの服、特にシチューの染みついた部分へ目をやり、クレイが促す。
「ご主人様、シャツを脱いで下さい。風呂へ入っている間に洗濯しておきます」
だが腕を掴まれ、よろめくようにリュウの胸へ倒れ込む。
見上げると、口元をニヤニヤ歪める彼と目があった。
「あァン?脱いで下さい、じゃなくて、お前が俺を脱がせるんだよ。メイドなんだから」
そんな仕事、ホームヘルパーの仕事範囲に入っていただろうか。
しかし兄さんの話では、ホームヘルパーとメイドは別物だそうだから、あるのかもしれない。
クレイは「判りました」と頷きリュウの前に立つと、ボタンを一つ一つ丁寧に外してゆく。
彼の体は大きいから、小柄になってしまった少女のクレイが袖から腕を出そうとするたびに、リュウへ抱きつく形になってしまう。
それを繰り返すたびにリュウと体が触れ合って、そのたびに彼の体温を感じて、クレイはドキドキした。
おかしい。
兄さんとハグするのは、これが初めてではないはずなのに。
「……ん?どうした、手が止まってるぞ」
注意され、ハタと我に返ったクレイは、慌ててズボンを脱がしにかかった。
ベルトを抜き取り、ズボンをずり降ろす。パンツも脱がせて、洗濯籠に放り込む。
全部脱がせるだけでも重労働だ。ふぅっと小さく溜息をつき、クレイは上から下までリュウの裸を眺めた。
久しぶりに見る兄さんの胸板は昔よりも広くて分厚く、下は……下も十五年前より立派になっていた、とだけ言っておく。
「おぅ、次はお前だ。俺が脱がしてやるからジッとしてろ」
洗濯機へ服を全部放り込み、セットするクレイへ躙り寄ると、リュウはいきなり背後から抱きついてくる。
クレイは小さく息を呑んだかと思うと、激しく身悶えして振り解こうと暴れたが――
「やめて下さい、兄さん。俺は自分でも脱げます」
「俺じゃねぇ、私で統一っつったハズだぞ?今ので更にツーペナな。どら、おっぱい拝見っと」
悲しいほどの体格差が、それを許してくれるはずもなく。
リュウの大きな手が直に胸をモミモミしてきて、お尻にも何かが当たってきて、クレイはパニックに陥った。
「に、にいさんっ!?一体何を」
「ハァ〜、かぁいいなぁ。お前のおっぱい、やぁらかくてキモチイィ〜ぜ?もう風呂すっ飛ばしてベッド行こうぜ、ベッド!入れてもいいだろ?つーか、入れさせろ!」
「入れるって、一体何をですか」
「入れるといったら決まってんだろうが!男は黙ってアナルセックスだぜ!!」
何の話やら、さっぱりだ。
リュウは一人で興奮しており、クレイの疑問そっちのけで腰をすり寄せてくる。
クレイは困った表情を浮かべて背後の男へ目をやった。
「……ご主人様、順序は守らなくてはいけません。風呂へ入りましょう」
彼としてはリュウが何をしたいかよりも、順番を守って任務を完了させる。そっちのほうが大切なようだ。
生真面目な返事に気もそがれたか、リュウは大きく溜息をついた後、軽く肩を竦める。
「ったく、お前って妙なところで可愛かったり可愛げなかったりすんのな。いいよ、判ったよ。仕方ねぇから風呂に入るか。どら、全部剥いてやるから大人しく立ってろ」
「結構です。服ぐらい自分で脱げます。私は子供ではないのですから」
きっぱり断ると、クレイはリュウの目の前で脱ぎ始める。
恥じらいも何もないが、これはこれで、まぁ萌えないこともない。
リュウも彼を脱がすのは諦め、目の前で始まったストリップショーを楽しむ事にした。
――さて。
首を通す穴が意外と小さいのに苦戦した後、何とかズボッと上着を脱ぐことに成功したクレイ。
続いてスカートを脱ぎ、パンツも脱ぎ捨てた。やっと太股に触れていた感触ともオサラバできて、これだけは嬉しい。
「ほぅ。お前は下も青いんだな」
いつぞやのミグと同じ事をリュウも呟き、クレイは黙ってコクリと頷く。
だがミグと違ったのは、近寄ってきて下の毛をサワサワ撫でられたことだ。
「けど、ここの毛も柔らかくて気持ちいいなァ」等と言いながら、青い毛を数本ひとつまみしてキュッと引っ張る。
思わず悲鳴が出かかり、クレイは急いでリュウの手を掴んだ。
「やめてください、陰毛は股間を守る大事な毛です。無闇に引き抜かれたら……私が、困ります」
眉根を寄せて困った表情を浮かべられ、リュウも慌てて手を引っ込める。
「わ、悪ィ。いや、なんかサラサラして柔らかそうだったから、な?つい触りたくなっちまったんだよ」
お前だって柔らかそうな子猫が目の前にいたら、抱きしめたくなるだろ?
とか何とか早口でまくし立てられているうちに、段々クレイも怒っているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
要するに、兄さんは柔らかいモノが好きな人なのだ。
だから柔らかいものがあると、つい触りたくなるのだ。俺の胸を何度も握りしめてきたように。
「お、脱衣所の狭さに反して風呂場は意外と広いぜ?見てみろよ、クレイ。これなら二人一緒に入っても大丈夫そうだな」
ガラッと風呂場の戸を開け、リュウは興味津々に覗き込んでいる。
つられてクレイも覗き込み、やたらと用意されたスポンジタワシとボディシャンプーの瓶の数に首を傾げた。
風呂桶も大きいが、タイルも広い。ここの風呂は日本形式のようだ。
「体は、タイルの上で洗えということでしょうか……?」
「だろうな。こいつぁきっと、笹川って野郎の趣味だぜ?あいつ、見るからに日本人っぽいもんなァ」
適当に流しつつ、さっさと桶で湯を汲みクレイへ手渡した。
「ホレ。こいつでスポンジを濡らしたら」
「ご主人様を洗えばいいのですね?」
その通り、と頷いたリュウが風呂桶の縁に腰掛け、その側にクレイも跪く。
お湯を含ませたスポンジに、たっぷりとボディシャンプーをふりかけて二度三度揉むと、瞬く間に泡でいっぱいになった。
「さぁ〜、キレイキレイしてくれよ?特にココを、ココを重点的に洗えよ!お前のソコに突っ込むんだからな、コイツは!」
ココと自分の立派なモノを指でさし、続いてクレイの股間も指さすリュウに、クレイは首を傾げて反論する。
「…………体を洗うのでしたら、全体を洗わないと」
「あぁ、モチロンだ。体は全部洗う。た・だ・し!滑りやすくするためにも、ココんトコを綺麗に洗えっつってんだ!」
ぐいっと引き寄せられ、あやうく頬と兄さんのナニが接触するところだった。
直前でクレイはぐぐっと身を逸らし、代わりにスポンジで包み込んでやる。
泡だらけ且つ柔らかいスポンジの感触に、リュウが呻いた。
「あぁ……たまんねぇなぁ、こりゃ」
「では、洗浄を開始します」
淡々と開始を告げれば、怒られた。
「オイ、俺は車か?洗車サービスじゃねーんだから、俺が言うとおりにやれよ」
言葉なんて何でもいいだろうに、彼は細かいところに拘るタイプのようだ。
「俺が言うのと同じように言えよ?ハ〜イ、キレイキレイしましょうねぇ〜」
何故かオカマちっくにリュウが言うのに続け、クレイも言った。心なし、ちょっと照れながら。
「は……い、キレイキレイ、しましょうね」
「くはぁっ!グゥゥレイトォ!!やっぱお前って可愛いな、特に照れた時の顔がベリーたまんねぇッ」
興奮のあまりかリュウは怪しげな外人みたいな口調でガバッと抱きしめ、さらにクレイを困惑させる。
「どれ、俺も一緒に洗ってやるよ。まずは、ココを一番綺麗にしとかねぇとなぁっ」
片手でスポンジを掴み、足でボディシャンプーの瓶を蹴っ飛ばした。
ドロドロと流れ出る液体にスポンジを押しつけ、片手でワシワシと握って馴染ませる。乱暴な使い方だ。
「いいか、お前は俺を洗うんだぞ。俺がどこを洗おうと気を散らすんじゃねぇ」
「え……」
不安に煽られ振り返ろうとするクレイだが、リュウに押さえつけられ、無理矢理前を向かされる。
「え、じゃねぇ。いいから、お前は俺をパーフェクトに洗い上げろ。ちゃんと湯もかけてこそ、完成だぞ」
「は、はい」
「よし……」
リュウが立ち上がったので、併せてクレイも立ち上がる。
言われたとおり下腹部を熱心に洗っていると、後ろに回ってきたリュウの手が尻たぶをぐいっと掴んできた。
「ひッ!?」と喉を引きつらせ、クレイは再び振り向こうとする。だが――
「かぁいい声あげてんじゃねぇぞ?お前はお前の任務を全うしろ」
兄さんの手は容赦なく、露わになった穴に泡だらけのスポンジを押し当てる。
と同時にクレイの体を何とも言えぬ感触が走り抜け、彼はモズの早贄よろしくビビーンと体を硬直させた。
「ハッハッハッ、か〜わいぃ小菊ちゃんめっけェ〜。ン?どした、クレイ。お前、感じちゃってんのか?」
「あ……ぅ……」
返事の代わりに出たのは、小さな呻きだけ。
ぎゅうっとリュウの体にしがみついたまま、クレイは真っ赤になって小さく呻いている。
これが――これが、オルガスムスというやつなのだろうか?
くすぐったいような、変な感覚。初めてなのに、初めてではないような不思議な感じ。
「や……ぅ、に、にぃさん……ダメッ……」
ぷるぷると小刻みに体を震わせながら哀願するクレイなど、彼が生まれてから初めて見たリュウである。
ゴクリと喉を鳴らし、丹念に尻の穴をスポンジでコシコシと擦ってやった。
「クレイ……お前、ケツアナで感じるのかよ。ならフィニッシュはアナルファックで決まりだな」
ぎゅっと抱きついたまま、クレイはふるふると首を振った。
だがリュウの体に押しつけられた彼の胸は、両方とも先っちょがツンと立っている。
やはり、穴を弄られて感じているようだ。それを、クレイの頭が理解できていないらしい。
「今日は、お前のオルガなんちゃら記念日だっつったろ?そいつが今、きてんだよ。お前の体に!」
スポンジの先端を穴の奥へ突っ込んでやる。突っ込み、グリグリと内側を洗ってやった。
「あ……っ、はぁッ!」
たまらず小さく叫んだクレイにリュウはS心でも刺激されたのか、今度はスポンジの代わりに指を突っ込む。
「スポンジもいいが、指もなかなかキモチイイだろ?最後は俺様のバズーカ砲をブッこんでやるからな!!」
グチュグチュと動き回る指に、クレイはもう言葉も出ない。目を瞑り、黙ってじっとリュウに抱きついている。
「あーもーなんだよ、お前、処女って顔しやがって。あぁ、処女なんだったな、そういや。けどこれ、俺が後ろに突っ込んじまったら、お前オトコとしても処女喪失ってことになんのかぁ?」
やっと指が尻から出ていく気配に、クレイはそっと目を開けた。見上げると、リュウと目が遭う。
答えを待たれているような気がしたので、小さく呟いた。
「わ……わかり、ません……に、にいさんが…………何を言っている、のか……」
息も絶え絶えなクレイを抱きかかえ直すと、リュウは不意に真顔で彼を眺める。
上から下まで、そりゃあもう、舐るようにジロジロと。
「クレイ、なんだ、お前……バッチリ感じちゃってんじゃねぇか。下の毛も濡れちゃってんぜ?」
イヒヒと笑うリュウを見て、クレイは恥ずかしそうに視線を逸らす。今日の兄さんは、何故かとても意地悪だ……
「へっへ。いつまでも風呂に入ってたんじゃ、フヤケちまわぁな。そろそろベッドに行こうぜ」
待って下さい、まだ全部洗い終わっていません。
――そう言おうとしたのだが、クレイの口からは言葉が出てこない。体が恐ろしくダルイ。
兄さんにお姫様ダッコで抱きかかえられているというのに、暴れて逃れる力も出ないほどに。


クレイをベッドへ横たわらせ、リュウは自分も隣へ寝そべった。
「……ヘッヘヘ。灯りは消すぞ?そのほうがムードも出ていいだろ」
まさかムードを台無しにするような粗雑な風貌の男が、ムードを気にするとは。意外な一面である。
真っ暗になった部屋で、クレイは聞いてみた。
「あの、兄さん……」
「なんだ?」
「……兄さんは、俺が女の子になったから愛してくれているのですか?」
どうも最初から今日の出来事を思い返してみるに、リュウが興味あるのは女性の体のみ……
そんな気がしてならない。だが、クレイの悩みをリュウは鼻で笑い飛ばした。
「バカ、んなわけねぇだろうが。俺はお前が、こーんなちっちぇ頃から見てきた男だぞ?お前のことは弟みたいに……いや、弟以上に大切だと思ってる。たとえ地球人が滅亡したとしても、お前だけは助けたいと思うぐらいにはな」
くちから先に生まれたんじゃないかってぐらい舌先の回る男である。本心かどうかは怪しいものだ。
現に今、真っ暗闇の中でもリュウの手はモミモミとクレイの胸を触っており、説得力というものに欠ける。
「では、どうして体を触るのですか?」
「触りたいからに決まってんじゃねぇか。俺ァ、お前が男の体してる時でも、そーしてきたはずだぜ?」
確かに。シャワーを浴びているときに背後から抱きつかれたのは、一回や二回では済まない。
となると、これは信じてもいいんだろうか?
「……何故、触りたいと思うのですか?」
「何故何故って、お前こそ、どうしてそんなことを気にするんだよ?触っちゃ駄目なのか?なんで嫌なんだ?触られんのが」
「愛しているのならば……」
そう呟いたまま、しばらくクレイは黙り込んでしまう。
それでもリュウが我慢強く待っていると、思い切ったように先を続けた。
「体など、触れなくても安らぐことは出来ます」
ハグするのが嫌いなわけではない。
だが、やらなければやらないでも、側にいるだけで相手を感じることは出来る。
春名やQ博士の事も大好きだが、彼らとハグする機会は少ない。それでも一緒にいられるだけで、クレイは満足していた。
隣で大きな溜息が聞こえる。リュウがついたものだ。
「側にいるだけで満足ってかィ。お前はそうなのかもしれないが、俺は駄目なんだよ。いつ如何なる時でも触れ合って触ってねぇと、相手がいなくなるんじゃないかって不安になるのさ」
リュウはクレイの幼少時の記憶、その半分以上を占める存在である。
Q博士の話によると、彼はクレイの世話係兼観察係に任命されていたらしい。
覚えている限りの記憶の中でも、リュウはクレイを抱きしめたり頬ずりしたりとスキンシップが激しかった。
そして、空白の十五年間を過ぎてから。
クレイの元へ戻ってきたリュウは、やっぱりスキンシップの好きな男のままであった。
スキンシップは、彼なりに寂しさを埋めるための行為なのかもしれない。
「……では、Kとも?Kは、兄さんの友達だったのでしょう?」
「あー、Kか?いや、あいつはスキンシップが嫌いらしくてな。一度だけ抱きついた事もあったんだが、あいつ、思いっきりグーで殴り返してきやがった。以来、全然やってねぇ」
ならばインフィニティ・ブラックにいた時の兄さんは、不幸だったのではないか。
そう問うと、暗闇の中でリュウが笑ったような気配を感じた。
苦笑に混ざって「かもな」という声が聞こえ、だが、とも続く。
「Kとの関係は、Q博士との関係みたいなもんだと割り切ったからな。それなりに、まぁ、楽しい時期だったよ」
暗闇に手を伸ばし、クレイもリュウの体に触れた。暖かい、これは、どの辺だろう?
「兄さんは、誰かに触るのが好きなのですね……では、触られるのは好きですか?」
闇の向こうで、もぞもぞとリュウが動き、握った何かが張りを増す。
「モチロン大好きだぜ、触られんのもな。しかしオマエ、純な顔してエロイとこ触ってくるじゃねぇかよ?」
「えっ?」
「いやぁ、お前がそこまで俺のキャノン砲に興味あるたぁ、さしもの俺様も気づかなかったぜ!」
闇の中でクレイは首を傾げる。
「…………キャノン砲、とは?」
すると、胸を揉んでいたリュウの手が下の毛まで移動して、股間をツンツンと突いてきた。
「オ・マ・エの、普段はココに生えてるヤツのことだ!ったく、何度も言わすなよ」
「えっ……では、これは」
握ったままのモノから慌てて手を離し、目に見えないまでもクレイは頭を下げた。
「すみません。手を握ったつもりでしたが、間違えてしまったようです」
リュウはクックックッと意地悪に笑い、かと思えばクレイの手を自分の手で握ってやる。
「別に構わねェよ、なんならずっと朝まで握ってたっていいんだぜ?けどまぁ、握られっぱなしじゃ何もできねぇしな。代わりに俺の手でも握ってろ」
五本の指を手で確認し、今度こそ本物の手だと判り、クレイも安堵の溜息をつく。
兄さんの手は温かいけれど、少し湿ってもいた。緊張しているのかもしれない。
けど緊張するって、何に?
これから先は、寝るだけなのに。
――いや、とクレイは思い直す。寝る前に、何かもう一つ項目があったはずだ。
追い打ちをかけるように、闇の中からリュウが声をかけてくる。
「おいクレイ、まだ寝たりすんなよ?本日最大にして最高のメインイベントが残ってんだからな!」
不意に、ホワイトボードの記述が脳裏に浮かび上がった。

ベッドの上で、メイドさんをいただくにゃん(ΦωΦ)

自分は戴かれてしまうのか、兄さんに。戴くというのは、お召し上がりになるということで……
つまりは、食べられてしまうということだ。しかし、まだ、ここで死ぬわけにはいかない。
「に……にぃさん」
声が震える。リュウの手がクレイを抱き寄せ、抱きかかえた。
リュウにまたがる格好で抱きつかされ、クレイは暗闇の中で目を閉じる。
「なんだ、怖がってんのか?安心しろ、優しくしてやっからよ。お前が痛いって感じたら、すぐにやめてやるから」
座っている下に、ちょうど兄さんの『キャノン砲』があり、そいつはグングンと気力を漲らせている。
リュウの力強い言葉に反応しているようでもあった。彼は自在に自分の体の一部を動かせるのだ。
普段は自分の股間にだらしなくぶら下がっているアレが、実は動くものだということを、クレイは今日初めて知ったのであった。
「兄さんは、俺を食べたいのですね」
小さく囁くと、大きな返事が返ってくる。
「おぉともよ。お前ってやつは食べちゃいたいぐらい可愛いからなぁ」
「…………」
言葉をなくし、クレイはぎゅっとリュウにしがみついた。
そうしていないと、怖くて心がバラバラになりそうだったから。
「おいおい、そう怖がるなって。まぁお前は処女だから怖がるのは判るけどよ。俺様はエロスのエキスパートだぜ?俺を信じろって、な?どら、ベチャクチャ話してばかりだと不安も増すよな。そろそろ始めようぜ」
エロにエキスパートがあるのかどうかはともかく、下から伸びてきた手が、またしても胸を揉み始める。
だが、揉まれても全然感じない。
というか気持ちいいといった気持ちすら沸かないので、クレイはリュウへ、ささやかに申告した。
「やるのなら、すぐにやってください。俺は……恐怖に取り憑かれたまま長時間は居られません」
「ほぅ、やる気満々か。ならズバッ!とォ、入れちまうぞ?コノォッ」
「……入れるって、何をですか?」
「俺のビッグキャノン砲を、お前のケツマンに入れるっつってんだよ!」
「…………?」
会話が噛み合っているような、いないような?
首を傾げるクレイを余所に、下のリュウがモゾモゾと動き「ちょっと、お前どいてろ」と指示してくる。
無言でコクリと頷きクレイが立ち上がると、リュウは器用にもベッドに寝そべったまま一回転。
つまり頭を下にして、足を枕の上に放り出した。
「……兄さん、なにをやっているのですか?」
「いいから、お前はさっきみたいに俺の上に乗れ。そうだ、ケツを俺の顔の上にのっける形でな!」
「しかし……」
「しかしもカカシもねぇ。言われたとおりにやれ」
「はい」
闇の中、手でペタペタと位置確認しながら、クレイはそっとリュウの上に乗り直す。
すると、被さってきた青い毛に顔を埋めたリュウが鼻息も荒く「お前は素直で助かるぜ!」とか怒鳴ったもんだから。
クレイはビクンッ!と背中を反らせ、反射的に両足でリュウの頭を挟み込む。
「にっ、兄さん!」
叫ぶ彼の意志などお構いなしに、リュウは青き茂みをかき分けた奥にチュウッと吸いついた。
生暖かい唇の感触、そして激しく動き回る舌が、先ほどと同じ感覚を――
指で尻穴を掻き回された時と同様の感覚が、クレイの体を駆けめぐる。
痛いのではない。だが、くすぐったいというのは痛みと同じぐらい我慢ができないものである。
「……ッ、にぃ、さん、だめ……ですっ」
だが駄目といったところで、この男がやめるわけもない。
舌が更に奥へ突っ込まれてきて、くすぐったさ以外の感情がクレイの脳と体を覆い始める。
わけのわからない感情に支配されるのは、嫌だ。
人は本能的に、自分が理解できないものを恐れる。クレイも恐怖のあまり、意識を縮こまらせた。
いつの間にか舌の動きが止んだことにも気づかず、彼はひたすら恐怖に怯えて耐え続けた。

ハッと我に返れば、リュウに頭を優しく撫でられていた。
「ったく。なんだよ、全然気持ちよくねぇってか?お前って不感症なんじゃねーだろうな?」
ニヤッと微笑まれ、なぜだか判らないけどクレイは恥ずかしくなって俯く。
「……す、すみません……」
「あぁ、謝んなよ。こういうのは謝ったって、どうにもならねぇんだからよ」
「き……気持ちよくないわけではないのです。ただ、俺には気持ちいいかどうかも判らないのです」
「あァ?」
「…………すみません。上手く言えなくて」
「いいよ、いいよ。要するにだ、ワケわかんねぇってわけだな?今の感覚が。言葉で説明できねぇから、そいつがワケわかんなくて怖いっつーんだろ?」
「兄さんには、判るんですね……」
「判るさ。お前の顔を見てりゃーよ。ビクビク怯えちゃって、可愛いったらありゃしねぇ」
話している間もリュウの大きな手はクレイの頭を撫でており、クレイを安心させる。
恐怖からの開放で気が楽になり、クレイは再びリュウに抱きついた。触れ合う暖かさで安堵も高まってゆく。
しばらくそうしていると、やがて下のほうでモゾモゾと動く気配がして、リュウが身を起こしてくる。
慌てて上から降りようとするクレイに声がかかった。
いや――
「……おう、どうやらクリスマスもオシマイらしいぜ?」
――ぎゅっと、股間に生えてきたナニをリュウに握られ、クレイは危うく悲鳴をあげるところであった。
「お前の可愛い拳銃も復活ってわけだ」
「に、兄さん。それは判りましたから、握らないで下さいっ」
あわあわと暴れたら勢いよくベッドから落ちて、クレイは強か腰を打ちつけてしまった。
「お、おいっ。大丈夫か?このドジッ子さんが」
「……平気です」
腰をさすりながら立ち上がると同時に部屋の灯りがついて、天井に空いた穴から覗く笹川と目があった。
それには構わず、クレイは鏡を見る。
鏡に映る自分。それは、女の子と変化する前の格好に戻っていた。
躙り寄ってきたリュウも鏡を覗き込み「へっへ。自分のイケメンっぷりに見とれんなよ?クレイ」等と茶化してくる。
「見とれていたわけではありません、ですが……やはり、俺は男のほうが似合うと思います」
力強く頷き、自身で納得するクレイは天井をちらりと見上げたが、既に笹川の姿は、そこにはなく。
見上げた瞬間に意識が一瞬薄れ、再び気づいた時には、あの場所――
最初に呼び出された場所に、リュウと二人で立っていたのであった。
裸のままで。

++End++

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