斬×ジロ編
「我が「ぬあ!?いきなり何なんッスか、おじさんっ」
ここは亜空間。笹川の用意した、二人だけの空間である。
そこでいきなり斬が、先ほどの言葉を叫んだのだから、ジロがビックリするのも無理はないという話で。
そのジロだが、いつもの彼とは少し違う。まず、体が女の子だ。
いや、体だけではなく顔も女の子っぽくアレンジされているのだが、何しろ元の顔が、濁ったマグロみたいな生気のない目をした冴えない風貌なもんだから、そいつが女の子になったところで、いきなり可愛くなるわけもなく、やっぱり死んだ魚のように覇気のない目をしていた。
対して斬、ジロの叔父にあたる男だが、この男は今やニセ忍者風味の装束を脱いで、素顔を晒している。
ジロの叔父とは思えないほど凛とした黒い双眸に、年齢不詳なほど若々しい風貌。
眉毛も太く、きりりとした男前だ。だが中身は変態だと思うと、悲しいほど悔やまれる。
どうせなら、ジロが斬の顔で生まれてくればよかったのに。
世の中とは、いつもこうした風に不公平なのである。
「ジロ、喜べ。お前は今、生涯二度と味わうことのできない経験をしている!」
「いや……こんなん二度と経験したくねぇですよ?」
「何を言うか。自分が普段と異なる異性となる、それは人間なら誰でも一度は夢見るものだ」
「いや、俺は夢見てませんでしたけど?」
「しかもジロ、お前のその体格は完璧だ!完璧に、あるニーズをがっちり掴んだ理想の体型であると言えよう!」
「ニーズって、叔父さんのニーズっすか?なんか、どマイナー路線まっしぐらっぽそう」
「俺だけではない。そうしたニーズは、極少数派であるが、確実に存在している」
「あっそーですか」
興味なさげに鼻をほじるジロを、斬が窘める。
「女子は人前で鼻をほじったりしない!」
「へーへー。でも俺、男の子ですから。残念でした」
反省のないジロを睨みつけ、叔父はマイペースに話を続けた。
「いいか、ジロ。今夜一晩、お前は俺のものとなる」
「ハ?また変なことを言い出して……妙な電波でも受信したんスか?叔父さん」
「お前は俺の女中となり、俺に奉仕するのだ。判るか、ジロよ。一人の女児を手中に収めるは、男子として生まれた者にとって永久の春!本懐、これに極まれりッ!!」
「……や、テンションあがってっとこ悪ィけど。俺、女児じゃなくて男児ですから」
「だが、今は女児だ。まごう事なき女児だ。何故ならばッ」
「おぅわ!?」
ぶわっとスカートをめくられ、ジロは慌てる。
別に下着姿を叔父に見られたところで恥ずかしくはないのだが、何しろつけている下着がアレだ、恥ずかしいタイプの下着なのだ。
メイド服を着る際に手渡されたジロの下着は、超ビキニなショーツであった。しかもむだにハイレグ。
だがジロの食い込みラインは、ハイレグを着ても無駄毛がはみ出ることはなかった。
そればかりか、ハイレグだというのに全然色気を感じないから驚きだ。
「見ろ、下についているべきはずのものもついておらぬ。そう、普段なら皮を被っているものが!」
「か、被ってるって言ったな!?被ってるって!いくら叔父さんでも許せねぇっすよ!」
「ふん。言葉遣いには気をつけてもらおうか、ジロよ」
「な、なんすか、えらそーに。スカートめくり小僧な叔父さんに、文句言われる筋合いは」
「スカートめくり小僧ではない。今の俺は、お前のご主人様だ!」
「ご主人様?」
「今のお前は俺の女中であり、絶対服従の身だ。従って、俺には敬語で話してもらおうか」
「んん、まぁ、いつも通りでオーライっすか?」
「オーライだ」
よって、第一段階はクリアとなった。続く第二弾を脳裏に思い浮かべ、斬は会心の笑みを浮かべる。
カンペなど読まなくても、ちゃんと暗記している。
二段階目は尺八で、三段階目は口移しの食事、四段階目が風呂、最後は……ムフフ。
「ちょ!叔父さん、キモッ!キモイっすよ、何ニヤニヤしてるんスか!?」
「何でもない。ジロ、俺は今、最高に幸せだぞ」
「そ、そーですか……俺は最高に不幸せなんスけどね」
「なに、それも幸せ色に塗り替えてやる。この俺の手によってな」
「はぁ……」
すっかり頭に春が来てしまった叔父を見て、ジロは深く溜息をつく。今は冬なのになぁ。
だが、この程度の電波など、実はまだまだ初歩の段階であることを、ジロは次回から知ることになるのである――
ベッドへいそいそと歩きかけた途端、急に思い出したかのように「あぁ」と斬が振り返る。
「ん?どうしたんすか、叔父さん」
「先ほど言い忘れていたのだが、お前の一人称……」
「あー。俺じゃおかしいっていいたいんでしょ、今の俺は女児ですからねェー」
「そうだ。そこで、一人称はジロたんで統一して欲しい」
「……ハ?」
私と言ってくれ、とでも言われるかと思っていたのに、斜め四十五度にすっ飛んだ言葉が返ってきて、ジロは言葉を失う。
要は自分のことを自分の名前で呼べと言いたいのだろうが、それにしたって名前の後ろに『たん』までつけるとは、やり過ぎである。
ジロの着ている服はピンクのロリータ調なメイド服だし、頭につけているカチューシャも、ふわふわとした薄桃色で、似合っているか否かは別としてロリっぽい方向性のものだから、斬も頭の中でロリータ風味なイメージを妄想しているのだろう。
迷惑な話だ。
「なんすか、それ……嫌ッスよ、なんかそれじゃ俺がバカみたいじゃねぇっすか」
「ジロ!女中は絶対服従だぞ」
「……ぶーぶー」
「文句を言うな、あとでたっぷり報酬をはずんでやるから」
「……絶対ッスよ?じゃー始めましょうかねぇ、ご主人様ァ〜ん」
マネーの一言により納得したジロ、一転してノリノリで斬にすり寄ると、叔父も顔を綻ばせてジロを抱き寄せる。
「はっはっは、ジロは素直で可愛いなぁ!」
「ワーイ、ワーイ」
「そんなジロに、おじさん、お願いがあるんだが、聞いてくれるかな?」
「なんでしょ〜ご主人様ァん」
「ジロたんの可愛いお口で、おじさんのココをペロペロして欲しいなぁ〜」
「ゲッ!」
ココ、と自分の股間をツンツンする斬にドン引きし、しかも思った以上に目が真剣で、ギャグで言ってるのではないと判ったジロは二度引きする。
即座に「無理!無理っすよ!」抱きかかえられて膝に乗せられたまま、ジロはジタバタと暴れたが、叔父の腕は簡単に振り解けない。
腐ってもギルドを率いるマスターだけに、斬の基礎能力は並以上。
加えて今のジロは女の子なので、非力も非力、泣けるほどの腕力差があった。
「ゲッ、じゃない、ゲッじゃ。素に戻らないで真面目にやりなさい」
「真面目に嫌っすぅ〜!」
「駄目だぞ?ジロ。今のお前は俺の女中、俺の命令には絶対服従の身だと説明したではないか」
「いくら命令ったって、そんなきたねぇもん、舐めたくねーっすよ!」
極めて普通の反応に、斬はふぅっと溜息をつき。
「おじさんは、ジロたんの体なら何処でも舐められるんだがなぁ」
もぞもぞと上着の中へ手を入れてくるものだから、ジロは慌てて手足をばたつかせる。
これが彼のできる、精一杯の抵抗だった。
「や、やめてくださいよぉ、おじさぁんっ!はうっ!」
斬の指がジロのナイムネをサワサワと撫でまくり、きゅっと小さな乳首を摘み上げた。
「ちょ、マジだめっ!ヘルプ、ヘルプっす、叔父さん!!」
「叔父さんではなくて、ご主人様だ。ちゃんとやらないと報酬も出せないぞ、ジロ」
「あはァ〜ン、だめっすぅ、そんな、そんなとこ、つまんじゃイヤァ〜ン」
「ははは、可愛いぞジロ。今の顔は最高だ!」
「ちょっと、マジでやめてくださいってば!くすぐったいんすよ、そこ摘まれんのっ」
「ほぅ?お前は男児なのに、男に乳首を摘まれただけで感じてしまうのか?」
「んなッ!ず、ずるいっす、叔父さん散々俺のこと女児扱いしてきたくせに、ここで男扱いとか!」
「だが……男児でも女児でも可愛いぞ、お前は」
不意に真顔になった斬、唇だけでジロの耳たぶを甘噛みする。
たまらないのはジロのほうで「ひぎゃあ!」と、殺される寸前のブタのような悲鳴をあげて大きく仰け反った。
叔父の手は相変わらず両乳首を摘んだままだし、このままじゃ叔父なんかにイカされてしまう。
ジロはキッと振り返り、眉じわを寄せて斬を怒鳴りつけた。
「い、いい加減にしてくれないと!俺、叔父さんのこと、大っっ嫌いになりますよ!!」
「ジロ……」
「そ、そんなせつねー目で見つめたって駄目っす!」
「……ジロ、報酬は通常で5000ゴールド、特別上乗せで7万払おう」
「乗った!」
「よし」
満足げに頷く叔父を見て、ハッと我に返るジロだが時遅し。金は魔物なり。
やっとチクビから手を離してくれた叔父はジロを解放し、立ち上がる。
「ではジロ、今度こそ真面目にやりなさい。報酬が欲しければ」
屈辱に身を震わせながら、ジロも上目遣いに見上げた。
「はい、ご主人様……で、次に俺は」と言いかけて、言い直した。
「じゃなくて、ジロたん、次に何をやったらいいんですかぁ〜?」
「だから、おじさんのココをペロペロしてほしいんだよ」
「ここってドコォ?ジロたん、おばかさんだから、わっかんなぁ〜い」
「陰部だ。もっと判りやすく言えば陰茎から睾丸、肛門までを丹念に舐めてもらおうか」
「わかりやすっ!判りやすい上、範囲広すぎ!!」
「ははは、愛撫とはそうしたものだ。もしかして、ジロたんは未経験なのかな?」
「ぐっ……わ、わるかったっすねぇ、ドーテイで!そ〜ゆぅご主人様こそォ〜、女の人との経験、あるんですかぁ〜?」
「ある」
「なぬぅ!?」
「……だが、それはそれとして、おじさんはジロたんにやってほしいんだ。してくれるね?」
悔しい。今の押し問答は人生の中で一位二位を争うほどショッキングな内容だった。
まさか叔父が、変態ホモでジロしか愛せないような男が、過去に女性と肉体関係あるいは性行為を経験していようとはっ!
しかし、よく考えてみれば叔父だって三十から四十の境目ぐらいにはなっていようし、ないほうが不自然なような気がしないでもないのだが。
「え〜、ジロたん、そんなものペロペロしたくないってゆぅかぁ〜。そこ、オシッコ出る場所じゃないっすかぁ〜」
「だが、愛の結晶を生み出すものが出る場所でもある。平たく言うと、精子だな」
「平たく言い過ぎ!」
「本来ならば、舐めて咥えたのちに精液を飲んでもらうところまでやって欲しいものだが、お前は初心者だ。そこまでやれとは、さすがの俺でも言わぬ」
「いや、いやいやいや、飲むのは無理っす。なんぼ金積まれても、それだけはできねーっすよぅ」
「あぁ、そうだろうとも。だから舐めるだけでいい。ほんの二〜三回、先端を舐めるだけで許してやろう」
「……うぅっ」
どうせなら全部免除してくれると嬉しいのに。
涙目で斬の着ているパジャマのズボンを降ろし、パンツもズリ下げる。
するとイケメンな外見に見合ったサイズのものが出現し、ジロは二重の屈辱を味わった。
ずるいや、顔だけじゃなくてコッチも立派だなんて。神は叔父に二物を与えすぎだ。
しかも叔父ときたら、すでに勃起しており、ジロは早く早くと急かされているような気分になる。
「あぅぅ」
「呻いていないで、早くやりなさい。咥える必要はない、舐めるだけでいいんだぞ」
「はぅ……それが嫌だから困ってんじゃないっすか」
「なに、先端をちょっと舌で突っつく程度だ。味は感じるかもしれんが、すぐに済む」
「うぇっ。味とか、何それ、生々しい発言は勘弁して下さいよ!今から舐めようってのに!!」
股間に触るか否かという場所まで顔を近づけたジロの頭を、不意に叔父がぐいっと引き寄せる。
おかげで、べったりとナニに顔をくっつけるハメになり、「ほぎゃあああ!!」と絶叫をあげるジロなどお構いなしに、斬は譫言のように呟いた。
「あぁ、ジロ……ジロ、お前は俺の物だ」
「やめ!やめて、ぶぇっ!」
「ジロ……愛している」
「愛って、ぐえぇぇ!お、おじさん、キンタマすりつけんのヤメレェェッ」
「あぁ、ジロの息がかかって……いい、いいぞ、ジロ」
「マジくせーし、やめてってば!おじさん、ちゃんと風呂に入ってきたんでしょーね?なんか臭うっすよ!?」
「風呂だと……?風呂ならば、この後入る予定だ。それよりも、ジロ。息を、息をかけてくれないか」
「うるせーっす!離せ、この変態!!」
「報酬上乗せで十万払おう」
「じゅっ……マジで!?」
「マジだ」
全部あわせると、二十万近くの報酬が入る事になる。
金の魔力に守銭奴のジロがクラクラしていると、唇にナニを押しつけられた。
もう、何がなんだか判らない。
ただ一つ、判っているのは、これが全部終われば十七万五千ゴールドがジロの貯金に振り込まれるという点だけだ。
ジロは無我夢中で、押しつけられたソレをペロペロと舐めた。
やがて叔父の動きも止まり、彼は満足したように溜息を一つ漏らすと、体を離した。
「……いいぞ、ジロ。初めてにしては、よくやった」
「うぅぅ……なんか、とっても大事なものを失った気分っす」
「泣くな、ジロ」
「ほっといてくださいよぅ、うぇっうぇっ」
口の中が苦いようなしょっぱいような最悪な味で、早いとこ洗面所で思う存分うがいをしたい。
そんなジロの気持ちが伝わったか、どことなく寂しそうな表情を浮かべた斬は優しく彼へ命じる。
「……少し、洗面所で気持ちを落ち着けてきなさい。食事の支度は俺がやっておく」
ジロは泣きベソをかいたまま立ち上がると。
「うぇっうぇっ、わかりましたぁ」
流れ落ちる鼻水もそのままに、めそめそと洗面所へ向かった。
洗面所に入ったジロは、ハッとなり鏡を見つめる。
何かが、映りこむはずのない何かが、鏡の向こう側で蠢いていた。
それはやがて、人のカタチとなり、はっきりと見覚えのある人物へとかわり、こちらへと姿を現わした。
「ルリエ……もごごっ」
「静かにして。声を出すと、気づかれるわ」
「ご、ごめん。気づかれるって、叔父さんに?」
「えぇ。ジロ、助けにきたの。二人でここを抜け出しましょう」
「サンキュ〜。持つべき者は友人だなぁ!」
「シッ」
「っと、ごめんごめん。で?どうやって抜け出すんだい、こっから」
先ほど不快なものを口にしたショックなど、ルリエルのおかげで、どこかへ吹き飛んでしまったようだ。
ジロはいつものペースを取り戻し、暢気に尋ねるが、救世主であるはずのルリエルは、どこか陰気な様子で囁いた。
「ここから出る原理は簡単……ただ、出るにはザンの意志を、どこかへ向けさせないと」
「叔父さんの?」
「えぇ。あなたの叔父さんが、この空間から出口を消滅させているの。その封印を解くには、あなたの身代わりが必要」
「ま、まさかっ。ルリエル、君が身代わりに!?」
「……まさか。あなたの体の一部を使って、身代わりを作ります。でも、それでも保つのは、ほんの数秒……」
「うぇぇ。マジでか」
「えぇ……ザンの、あなたに対する想いは強烈。とても防ぎきれない」
「勘弁してぇ〜」
「泣いている暇はないわ。ジロ、あなたの体毛を使います」
言うが早いか、ルリエルはジロのスカートをめくりあげ、ずるっとパンツも脱がしてしまう。
「ぎゃああ!見ちゃイヤー」などと騒ぐジロを冷静に見上げ、彼女は淡々と呟いた。
「私もジロも、今は女。恥ずかしいと感じるのは、一種の気の迷い。だから……少し黙っていて」
「そうはさせぬ!」
「おっ、叔父さん!!」
だが敵も然る者、斬が台所から駆けつけた。
何故か黒装束を完璧に着こなし、いつもの怪しさ爆発な似非忍者仕立てになっている。
ジロ以外には絶対素顔を見せたくないというポリシーでもあるのだろうか。
偉そうに腕組みしながら、斬は朗々と言い放つ。
「今のジロの裸を見たり、アレやコレをしてもよいのは俺だけだ。ルリエル、お前にその権限は与えられておらぬ」
「そうかもしれない……でも……」
「そうなのだ。判ったならば、さっさと帰れ」
「…………」
「叔父さん!ルリエルを虐めたら、俺が許さんッスよ!!」
「ジロ、お前もだ。お前は今日一日ずっと、俺の女中であるはず。何処へ逃げるつもりだったのだ?」
「叔父さんのいないトコロッス」
「ぐはッ!じ、ジロ、今のは叔父さんの心にグサッときたぞ!謝れ、叔父さんに謝れッ」
「嫌ッス!」
「ジロ…………子供みたいに喧嘩している場合じゃないわ。次元の扉が閉まってしまう」
「え?何の扉?」
「むぅ。ワールドゲートを開くとは、ルリエル、お前……なかなかやるな」
「へ?何の話?俺一人だけ置いてけぼりムード?」
「……ジロは知らなくてもいいことだから……」
「ガーンッ。何か今、すっごく仲間はずれにされたッ!」
「何なのかは判らなくてもいい……でも、それが閉まれば二度とジロを助け出せない、それだけは覚えていて」
「ギャース!ルルル、ルリエル、はい、これ!」
ブチッと何本かシモの毛を抜き取り、ルリエルへ手渡すと。
汚いものでも摘み上げる手つきで彼女は一本だけ受け取り、小さく呪文を唱え始めた。
「下の毛を女性に渡すなどと!おじさん、ジロたんを、そんな不埒な子供に育てた覚えはないぞッ」
「俺だって叔父さんに育てられた覚えはねぇですよっ」
「まぁよい。それはさておき、叔父さんにも一二本、同じものをくれてやるという気は起こらぬか?」
「何遠回しに催促してるんスか?あげる気になんてなるわけないっしょ。変態っ」
「なにぉぅうっ!」
「ギャース!ルリエル〜タスケテ〜ッ」
哀れジロたんは、生意気が過ぎて叔父に押し倒される。
こういう末路を異世界では口は災いの元などと言うが、まさにその通りである。
モミクチャになって暴れるうちに、スカートの中へ手を突っ込まれ、さらにはパンツの中まで手が侵入してきて、アソコの毛をサワサワされたジロは再び「ギニャー!」と哀れな声をあげたのだが、叔父の侵攻は止まらない。
パンツの中に首を突っ込んだ斬が囁いてきた。
「ジロ……お前のココは良い匂いがする……」
「しねぇ、しねぇっす!今日はまだ俺、風呂入ってねぇし!」
「いや、良い匂いだ。ジロ……」
「いやぁぁぁぁ!!!!息がかかって、くすぐったいぃぃぃ!!」
「ジロ、お前のココはまだ誰も踏み入れたことがないのだな。良い桃色をしている」
「当たり前ッスよ!俺はホントは男児なんすからっ。あああッ!な、舐めちゃ、そんなトコ舐めちゃ、らめぇ〜っ」
「……できた。あとはこれを……」
「ぎゃあああああ!へるぷ、誰かヘルプミー!」
パンツの中身を斬にペロペロされ、狂気の真っ最中なジロ。
――を横目に、ジロの身代わりとやらを造り出したルリエルは思案する。
これを使うには、ジロから斬を一旦離れさせなくてはいけないのだが……
鼻息も荒くスッポンのように乙女の花園を舐り続ける斬を離すには、一骨折れそうだ。
ふと、台所から煙があがっているのに気づき、ルリエルは斬へ声をかけた。
「いいの……?せっかくの夕飯が、焦げてるけど」
「何!?いかん、ジロとのラブラブスーパーデリシャスな夕飯がッ」
ガバッと身を起こすやいなや、疾風のように台所へ向かった斬を尻目に、ルリエルはジロを手荒く退けると、彼が今まで寝ころんでいた場所に、身代わりを転がした。
身代わりジロは、ぽうっ……と黄色く光っている。
だが紛れもなく、その姿は今のジロそのもので、ジロは自分で自分の身代わりを見ながら、こんなブスのどこが叔父はいいんだろ、叔父の趣味は最低だなと呆れたのであった。
「ジロ、こっちよ。ザンが、あの人形にかかった瞬間、鏡から扉を抜ければ此処を出られるわ」
「お、おっけ」
かくして。ウルトラスーパーデリシャスな夕飯の入った鍋を手に、斬が戻った時には。
本物のジロたんは、既に元の次元に戻ってしまった後であった。
――だが。
元の場所に戻ってきても、女から男の姿に戻れるわけではない。
笹川を見つけられず、ジロは傷心に暮れてルリエルへ愚痴った。
「俺さ、こんなことなら叔父さんの思いを添い遂げさせてもよかったんじゃないかと思うんだ」
「どうして?」
「俺が叔父さんを満足させてやればさ。あいつも姿を見せて俺を元に戻したんじゃないかと……」
「ジロ……どうしても、元に戻りたい?」
「え、そりゃあ、まぁ」
「元に戻れなくても……ジロはジロよ。私は、ジロが女でも男でも……好き」
「え……?」
「ジロ、魂の器に性別は関係ないわ。大切なのは、心だと思う」
「う〜ん」
「もうザンは来ない。……それでもジロが男に戻りたいのなら、私が協力する」
「えぇ!?」
「もう夕飯は過ぎたから……お風呂とベッドね」
「い、いやいやいや?ルリエルに、そんなことしてもらうわけにはっ」
「そうそう、百合ネタは一つで充分だしねぇ?」
「って、うわお!笹川、テメェ、いつここに出現しやがった!?」
「たった今ですが何か?(・∀・)」
「ホントはホンチャンまで頑張って欲しかったんだけどね〜(・∀・)ニヤニヤ」とか何とか、意味不明なことをほざきつつ、ようやく笹川の光線を身に受けられ、ジロは元の姿へと戻ったのであった。