19.決戦は○○で
Round:1デヴィットチーム:ダグーvsコードKチーム:アリス
「先鋒は俺か……先鋒って緊張するよね」
誰に同意を求めているのか、ダグーは緊張でガチガチだ。
対するアリスは、いつもどおり無表情。
負けたら皆の前で全裸の刑だというのに、平気なんだろうか?
「さぁ、両者向かい合って、そこの線の上に立って」
デヴィットに手招きされてダグーが足下を見てみると、いつの間にか足下には線が引かれている。
アリス、ダグーの両名が立つと、高らかにデヴィットが号令をかけた。
「せーのでジャンケン、じゃんけん、ポーン♪」
同時にアリスとダグーが手を出した。
両方パーで、あいこだ。
「ふぅー……ドキドキするなぁ」
ダグーがどこまでも余裕ないのに対し、アリスは無表情に急かしてくる。
「早く次を」
「はいはい。じゃんけん、ポーン♪」
続く勝負は、ダグーがグーでアリスがパー。
「わぁ、勝ってくれないと困っちゃうぜ?」
デヴィットに煽られて、ダグーは困ったように頭をかく。
「そんな事言われても……勝負ってのは苦手でね」
逆に聞きたいが、得意なものってあるんだろうか。
バサッと男らしくダグーがシャツを脱いで、皆の注目がそちらへ向かう。
意外と鍛えられた上半身がお目見えした。
「あいつ……強いのか?」と囁く吉敷へは、コハクが否定する。
「無駄な筋肉だ……」
「はいはい、どんどんいくよ、じゃんけんポン!」
今度の勝負ではダグーが勝った。
途端にウォォーと盛り上がるギャラリー。
やる気がないフリして、皆ちゃっかり見ているらしい。
「……仕方ないわ……」
ぼそっと呟きアリスが腰紐を抜き取る。
「……これでいい?」
「それ、着衣なの?」
当然ながらダグーサイド及び男性ギャラリーからはブーイング。
デヴィットも顎に手をやり思案していたが、却下した。
「アリスのって着物だろ?だから着物と下着上下と靴で四点だ」
「俺は?俺は四点ないような気がするんだけど」と、ダグー。
ダグーを上から下まで眺め回すと、デヴィットは答えた。
「上着と下着と靴と……うん、一点はオマケだ」
「オマケ?」
「一回負けてもセーフってことさ」
そして二人は勝ったり負けたりを繰り返し――
ついに、リーチがかかった!
「あっと一回♪あっと一回♪」
周囲の一回コールが激しくなる。
声をあげているのは、主に男性陣、それもエロに定評のあるキースやピートなどの駄目男達だ。
胸を隠してパンツ一丁になったアリスは、ここで初めて動揺を見せる。
「どうしても……全部脱がなきゃ駄目なの?」
デヴィットが得意げになって、せせら笑う。
「当たり前だろ?野球拳をナメるなよ」
ダグーが最初に負けた時はハラハラしたが、なんとか一回戦目は勝てそうだ。
「それそれいくよ、じゃんけんポーン!」
運命の女神は果たして、どちらへ微笑むのか――!
ダグーの手を見、アリスの手を見たデヴィットがニヤリと笑う。
ダグーはチョキ。アリスはパー。
アリスの負けであった。
「さぁ、脱いでもらうよ」
ニヤニヤ笑いのデヴィットを睨み、それでもアリスは最後の下着に手をかける。
しばらく、そのままの姿勢で固まっていたが、「ぬーげ、ぬーげ!」と周囲の催促コールが騒がしくなってくると、意を決したようにパンツを下までズリ下げた。
「うぉぉー!」
ギャラリーが一気に沸き立つ。
最前列のキースとピートは前屈みだ。
なんと、ピートは鼻血まで出している。思春期なお年頃だ。
キースもしたり顔で「うむ、潔し」と頷いて、眼鏡を光らせた。
どうでもいいけど貧乳には興味ないんじゃなかったのか、キース。
「つかみはバッチリだね。さぁ、二回戦目をやろうか」
デヴィットはグッと親指を立て、次の試合へ移行した。
Round:2
デヴィットチーム:ダグーvsコードKチーム:エイジ
ダグーが服を着直して、次の相手はエイジである。
「さぁダグー。今回も張り切って倒してくれよ、僕の為に」
何故か鼻息の荒いデヴィットに応援され、ダグーは少々ドン引きしながらも頷いた。
「任せてくれ」
初回の緊張や弱々しさは何処にもない。
アリスに勝ったことで、ダグーにも多少の自信がついたようだ。
「さぁ、早く!エイジ、早く線の上に!ハァハァ」
鼻息の荒いデヴィットにはエイジもドン引きしていたが、やれやれとばかりに首を振り、線の上へ進み出た。
「くだらんな……だが、やるからには本気でいかせてもらう」
今度の勝負は、どちらが勝ってもデヴィット得だ。
ギャラリーからすれば、果てしなくどうでもいい勝負でもある。
……いや。金切り声で応援しているのが約一名。
『エイジ様、がんばって下さいー!』
デヴィットチームに組み込まれたはずのランスロットだ。
『絶対裸になっちゃ駄目ですよ!』
エイジが負けたらランスロットにもダメージがいくのか。
そう考えると、ダグーは気が重くなった。
二人の気持ちを判っているのかいないのか、デヴィットが無情に開始を告げる。
「負けたら脱ぐよ、じゃんけんポーン♪」
最初の勝負は、エイジがパーでダグーがグー。
さっきと同じ展開だ。
察するに、ダグーは後半強くなるタイプなのかもしれない。
その後も、とんとん拍子で勝負は進んでいき――
ついにリーチがかかった!
「もう後がないようだが……?」
涼しい顔でエイジが尋ね、パンツ一丁のダグーは眉を下げる。
彼が後半に強くなると思ったのは、デヴィットの大いなる勘違いだったようだ。
ここに至るまで、エイジは一枚も脱いでいない。
本気宣言は本物であった。
「君がそこまでジャンケンに強いとは、知らなかったよ」
不満げにデヴィットが言うのへも、クールに答えるエイジ。
「ジャンケンは運だけが勝敗の決め手じゃない。……あいつは読みやすいんだ、次に何を出すかが」
喜怒哀楽が顔に出やすいダグーは、確かに次の手が読みやすい相手かもしれない。
それにはデヴィットも同感だ。
「それじゃ、ダグーは踏ん張ってくれよ?じゃんけーんポーン」
運命の女神は、あっさりとダグーを見限り、エイジの上着を一枚脱がしただけで、ダグーが全裸の刑と相成った。
「しょうがない、アリスも脱いだんだ。俺も脱がないとフェアじゃないよね」
てきぱきパンツを脱いで、ダグーは全裸になる。
ほとんどのギャラリーが興味を示さない中、『ニャッ』と叫んだパーシェルが鼻息も荒く最前列まで詰め寄ると、身を乗り出して眺めまわす。
その様は、まさに舌なめずりでもしかねない勢いだ。
「ちょっと待て」
思わずデヴィットが突っ込む。
「お前が好きなのはラングリットじゃなかったのか?」
ところが猫娘は、しれっと『そんニャことないニャ』と答えると、そのココロを暴露した。
『パーシェルは逞しい男なら誰でも興味あるニャ。ダグーのチン』
「あーはいはい、そこまで、そこまで!」
悪魔が危険単語を言い終える前に、デヴィットはストップをかけた。
「次の相手は誰だ……?」
エイジに問われ、デヴィットがからっと答える。
「もちろん決まっている。僕は大将だ、つまり」
『……えーっ!?』
皆の注目を浴びて、ランスロットが絶叫する。
さっきまで応援していたご主人様と、まさかの対決。
しかし、まさかと思っていたのは本人だけで、エイジにも予想はついていた様子。
「だと思った。ランスロット、やるとするか」
『し、しかしですねぇ、エイジ様っ!?』
「どちらが勝っても、恨みっこなしだ」
エイジは意外とやる気満々だ。
予想していた展開とは多少異なり、デヴィットは肩すかしを食う。
てっきり恥ずかしがって棄権するか、ランスロットに命じて棄権させるかと思ったのに。
「まさか、わざと負けるつもりじゃないだろうね?」
「まさか」と肩をすくめ、エイジがランスロットへ向き直る。
「お前も本気で勝負に挑め。手加減したら、絶交だからな」
ご主人様に睨まれては、ランスロットも従うしかない。
悪魔は渋々頭を下げた。
『は、はいぃ……』
Round:3
デヴィットチーム:ランスロットvsコードKチーム:エイジ
「エイジは強敵だな……だが、ここでランスロットまで負けると、もう後がない」
やおら真面目な解説を始めた吉敷に、キースが頷く。
「うむ。だが俺としては個人的にランスロットの全裸が見たい」
「欲望全開じゃないか!」
思わず突っ込む吉敷に、キースもボケ返した。
「じゃあ吉敷はエイジの全裸が見たいっていうのか?」
「誰が見たいなどと言ったんだ!」
「結果的には、そういうことだろう!?」
アホ二人がコントをしている間に、エイジが負けたようだ。
「それでいい。どんどん行くぞ」
上着を脱いだエイジを、ランスロットは複雑な表情で眺めている。
勝たねば、元の世界へ帰れない。
だからといってエイジの裸体を皆の前に晒すのは、自分が脱ぐより屈辱だ。
悩むランスロットに声援が飛んでくる。
「君は好きなんだろ、エイジが!だったら彼を脱がしても、君が守ればいいじゃないか!皆の視線からッ」
誰だ、こんな事を言っているのは。
デヴィットではない。もっと低い声だ。
ギャラリーを見渡すと、バンダナを巻いた男と目があった。
GENだ。いつの間に囮作戦が終了していたのか。
いや、それ以前に彼は悪魔と悪魔遣いを嫌っていたはずだ。
その彼が何故、声援を……?
「ランスロット、集中しろ。俺は負けても、お前を恨まない」
再三エイジにも言われ、ついにランスロットは決めた。
心を鬼にして、この勝負、必ず勝ってみせると。
――それからのランスロットは、見違えるほど強くなり。
ついにリーチがかかった!
「うわぁ……勝って欲しいとは思ったけど、ここまで頑張られると引くね」
ランスロットは一枚脱いだっきりで、エイジをリーチに追い込んだ。
『引かないで下さい!私はチームの為に貢献しているんですからッ』
ランスロットはデヴィットを怒鳴りつけ、ぽっぽと赤くなる。
自分でも、ちょっと頑張りすぎかな〜という自覚があった。
エイジが手を抜いたのではない事は、エイジを見れば一目瞭然。
「やるな、ランスロット……だが、俺はまだ負けちゃいない」
パンツ一丁でも、エイジのやる気は失われていない。
「俺よりモヤシだな」というキースの野次にも鋭い目を向け一喝した。
「たとえ体はモヤシでも、あんたよりは根性がある!」
「エイジ……」
「さぁ、勝負だ!」
気迫に押され、デヴィットがうわずった声で号令をかける。
なんて迫力がある瞳なんだ。たかが野球拳なのに。
「そ、それじゃ、いくよ?じゃーんけーん、ポン!」
ランスロットはチョキを出し、エイジは――
己の出したパーを見つめ、エイジは、ぷるぷると震える。
全裸キター!!と叫びたいのを堪え、デヴィットが肩に手を置いた。
「エイジ……残念だけど、ルールはルールだから」
「わ、判っている!」
デヴィットの手をはねのけたエイジがパンツを降ろすのと、ランスロットが飛び出してきてエイジの股間を手でガードしたのは、ほぼ同時といってもよいタイミングで、ぐにっと思いっきり急所を手で掴まれて、エイジの引きつった悲鳴が「ひぅっ!?」と響く。
「ら、ランスロット、そ、そこは……」
『エイジ様、ご安心下さい!誰にもエイジ様の秘部を見せたりしませんので』
「に、握るな……ばかっ……」
『エイジ様、暴れないで下さい!暴れると手が離れてしまいます』
大事なところをニギニギされて悶えるエイジに、気づいているのか、いないのか。
いや、恐らくは全く気づいていないのであろう。
ランスロットは更に握る力を増して、エイジを恥ずかしさで丸めさせた。
隠すにしたって、タオルを巻いてやるなど他にやりようは、いくらでもあっただろうに。
困った天然悪魔だ。デヴィットは少しだけ、エイジに同情した。
哀れな醜態を横目に、コードKが立ち上がる。
「次は僕か……意外と早く出番が回ってきたものだな」
「おーい、誰かエイジにタオルでも巻いてやって」
デヴィットも仲間へ指示を出し、最後の勝負にランスロットを駆り立てる。
「次で君が勝てば、僕らの勝利だ。頑張ってくれよ、勝利の女神様」
『フン、この勝負が終わったら次はあなたの番です。首を洗って待っていなさい』
とても味方とは思えぬ言葉を吐くと、ランスロットは線の上に立つ。
一体勝負が終わった後、デヴィットへ何をするつもりなのか。
まぁ、天然悪魔の企みなど、考えても判るものではない。
デヴィットは気にせず、次の勝負の開始号令を出した。
Round:4
デヴィットチーム:ランスロットvsコードKチーム:コードK
「女性が相手でも遠慮なくいかせてもらう」
Kに微笑まれ、ランスロットも不敵に笑い返す。
『私に遠慮は無用です』
「さぁて、ラストバトルになるかどうか……じゃんけんぽーん!」
皆がハラハラ見守る中、最初に脱いだのはKであった。
途端に周囲からは落胆の声があがり、逆にエイジは安堵する。
自分は脱いでしまったけど、ランスロットは脱がないで欲しい。
勝負は本気で!とけしかけたのも、脱いで欲しくない一心であった。
皆の期待や心配をよそに、ランスロットは絶好調だ。
「あ、じゃーんけーんポンッ♪」
おどけながら進行するデヴィットとは違い、気迫がこもっている。
『ハァッ!』
不本意ながらもエイジを脱がすハメになった後悔がなせる技なのか。
別に気迫に負けてというわけではなかろうが、Kは上着を脱がされズボンも剥奪され、あっという間に下着一丁になってしまった。
『もうリーチですか……弱いですね、あなた』
ニヤリと笑うランスロットにKが受け答える。
「僕もジャンケンは苦手じゃなかったはずなんだが……君が強すぎるのかな」
態度も格好も涼しげだ。
皆の前で脱ぐのは、Kにとって苦痛ではないらしい。
エイジもモヤシだったが、Kも、あまり恰幅がいいとは言えない。
どちらかといえば貧弱な部類に入るだろう。
彼が負けても誰もガードしてくれない。
我ながら残酷な勝負方法を選んでしまったものだ。
などと勝手な思いを巡らせながら、デヴィットは号令をかける。
「あ、それ、じゃんっけんっぽーん!」
『ハァッ!』
勢いよくランスロットがパーを突き出し、Kは握り拳で応戦する。
「や……やったぁぁっ!」
誰よりも悪魔の勝利を喜んだのはエイジで、タオル姿のままランスロットに飛びつくと、何度も何度も使い魔の背中を撫でてやった。
「よくやった!さすがは俺のランスロットだ」
『は、はい。頑張りました……エイジ様』
ほぼ全裸のご主人様に抱きつかれ、ぽっぽこ赤くなるランスロットを微笑ましげに眺め、Kが言う。
「面白い……これだからこそ、不確定な勝負は面白い。君達の勝ちだ」
デヴィットも口元を歪めて笑うと、Kを促した。
「じゃあ、あるべき場所へ戻ってくれるね?それと全裸になってくれ」
「いいだろう……真人の元へ帰るとしよう」
言うが早いか、コードKの体はキラキラと輝き出す。
何が起きたのかと目をこらす面々に、彼の声が頭上より響く。
「心配ない。諸君らも必ず元の世界へ帰しておこう」
Kの体は光に包まれて、肉眼では見えない状態になってきた。
上を見上げて、デヴィットが声をかける。
「それは、ありがとう。あと全裸を見せてくれると、もっと嬉しいんだけど」
それに対する答えはなく、代わりにKの呟きが皆の耳に届いてくる。
「あぁ……楽しかった。こんなに楽しかったのは、宇宙人と手を組んだ時以来だ」
輝いているのはKだけではない。
皆の周りも、キラキラと輝きだした。
「な、なんだこれ?」
動揺する吉敷へは、キースが平然と構える。
「恐らく、元の世界へ戻る為の準備動作だろう」
皆が輝きに包まれる中、デヴィットは空に向かって大声を張り上げた。
「おーい、K!君のヌードを見せてくれよー!ルール違反だぞ〜!」
だが、デヴィットの声は満足したKには届かなかったのか――
気づくと、またしても彼は真っ白な空間に横たわっていた。