1話
剣と魔法と機械の世界、ファーストエンド。ファストの時代に発祥し、エイストの時代に栄え、サウストの時代には滅びるとされてきた。
しかし予言は外れ、サウストの時代――
そこには、今を強かに生きる者達の姿があった。
第四次聖戦が世界を焼き尽くし、十二の審判が舞い降りて、地上は殲滅された。
しかしながら僅かばかりでも生き残った人間の手により、世界は復興。
彼らは神の目からも存続を許される。
一度は滅びた国も建て直され、人々は安寧を取り戻しつつあった。
大地は砕け、形を大きく変えた。
サウストのファーストエンドを覆うのは、一面の海。
商船による交易で息を吹き返した反面、それを襲う海賊も増殖した。
海賊は徒党を組み、それを許すまじとする冒険者が海賊退治に名乗り出て、三つ巴が展開された。
これは、そんな混沌としたサウスト時代の物語――
S777、ファーストエンド。
「やっぱ襲うなら女がいい、それも女しかいないギルドが狙い目だぜェ!」
一戦交えた後は、海の勝者が決まる。
海賊ギルドの蛮行は、もはや商船のみならず同業にまで及んでいた。
本来海賊の暴走を止める立場の冒険者ですら、同業同士の戦いには不干渉を貫いた。
クズどもが殺しあう分には"応"だと踏んだのであろう。
結果、海は荒れに荒れた。
今も海賊ギルド「Oceans」が海賊ギルド「Amazones」を下し、略奪行為の真っ最中だ。
女は犯し、宝は全部没収する。それが略奪の基本である。
だからこそ、彼らは女の多いギルドを狙った。
この時代、男女に大きな能力差はない。
剣の腕では負け知らずな用心棒が卑猥な手管で敗北したのを、きっかけとし、相手の戦力は総崩れとなった。
無論、男を手玉に取る女海賊も、いないことはない。
ただ、今回の相手は、そうではなかった。それだけだ。
目の前で負けた女海賊らが脱がされ、胸を乱暴に揉まれて泣き叫ぶ。
殺せと騒ぐ女用心棒を押さえつけ、露わになった性器へ指を突っ込みかき回す。
敗者の陵辱で荒ぶる仲間を一瞥し、少年は小さく溜息をつく。
「おいソルト、お前もヤんねーのかぁ?」
暴れる女に馬乗りとなった仲間が尋ねてくる。
ソルトと呼ばれた少年は僅かに首を振り、小さく答えた。
「いい。俺は、そういうのやらないって決めてるから」
ちょっとばかり目線を逸らして頬を赤らめる彼を見て、ギルメンは誰もが胸をキュンさせる。
ソルト。
以前、貿易都市の波止場でギルドマスターがスカウトしてきた少年だ。
なりは小さいが戦闘ではナイフと弓の使い手で、素早い動きで敵を翻弄する。
口数は少なく無愛想で目つきの悪い三白眼であるにも関わらず、女は無論、男に興味のない輩でも彼のちょっとした仕草に胸をときめかせ、和んでしまう。
不思議な魅力のある少年であった。
甲板の狂乱を、もう一度見渡し、ソルトは踵を返す。
陵辱には興味がない。
ギルドマスターの様子を見てこようと思った。
ギルドの女メンバーやギルドマスターは、捕虜の陵辱行為には立ち会わない。
何をやっているのかといえば、略奪したお宝を船内で鑑定しているのであった。
売れるものと売れないものに選別し、売れるものは港街で売り払う。
売れないものは船内に飾りつけたり、ゴミとして処分する。
「Oceans」のギルドマスターしゅういちは、鑑定を得意としていた。
"しゅういち"というのは本名ではないらしい。
過去の八英雄に肖った偽名だそうだが、彼の実の名は誰も知らない。
彼はソルトにも、しゅういちと名乗った。
怪しいこと、この上ないが、ソルトは彼の誘いに乗って海賊船に乗り込んだ。
何故ならばソルトにも深い理由があって、そうせざるを得なかったからだ――