合体戦隊ゼネトロイガー


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Coalescence Squadron Zenetroyger Epilogue

一番古い記憶は、中学一年になった頃。
それより前の記憶が一切なく、気がつけば曽祖父を名乗る男の元で用意されたレールの上を歩いていた。

御劔 高士みつるぎ たかし

それが、私の名前らしい。
全く馴染まず、ずっと借り物の名前のように感じていた。
母親を名乗る女性も父親を名乗る男性も私とは顔の造形からして全く違い、曽祖父も同じ血筋とは思えず、さては自分は、どこからか貰われてきた戦災孤児か養子なのかもしれない。
通ってもいない大学の卒業資格を持たされ、軍に研究者として潜り込んだ。
恐らくは曽祖父曰く、私の類まれなる頭脳を、ベイクトピアに捧げさせたかったのだろう。
指示と異なる道が開けたのは、クローズノイスとの出会いがきっかけだった。
恐ろしく影の薄い男で、それでいて発想は他の者を軽く凌いでいて、何故彼は軍で優遇されていないのか不思議になったけれど、今にして思えば、きっと入隊した軍人に後から乗り移ったのだ。
彼とは、いっぱい話した。
ほとんどがロボットの設計に関する話だったが、見解が広がるとは、こういうことを言うのだろう。
私は彼の考えに興味をひかれ、どんどん深みに嵌っていった。
彼を崇拝していたと言ってもいい。
ライジングサンの後継機を造る。
それが私達の研究チームに課せられた目標だった。
だが、私はクローズノイスの唱える念動式ロボットに強く惹かれた。
デュラン=ラフラス不在の軍は、『空からの来訪者』との戦いで互角以下まで落ち込んだ。
優秀なパイロットがいないというだけで、これでは、ライジングサンを多少改造した程度では奴らには勝てないと判ったようなものだ。
今の機体よりも強い機体を作るには、根本から構造を変えなくては。
しかし、それはベイクトピア軍の意向とは大きく外れ、だから私は軍を退役した。
曽祖父の残した御劔グループ、その資金を使って自前で研究をやるしかない。
私が軍を離れると知って同チームにいた部下、乃木坂勇一、石倉剛助、水島ツユの三人も一緒に辞めると言い出したので、これ幸いと彼らを私の考案に誘ってみた。
養成学校を作るので、そこの教官になってみないか――
表向きは傭兵養成学校だが、本質は私設のロボット研究所だ。
私は、どうしてもクローズノイスの残した設計図を試してみたかった。
彼は私よりも先に退役していったのだが、軍を抜けて、その後の行方は判らない。
彼が軍を辞めた理由も不明だ。
もしかしたら『空からの来訪者』であると、誰かにバレてしまったのかもしれない。
あの頃にも、気配の判るものは軍にいたのだから。
話を戻して設計図だが、細かに書かれた文字を読む限りだと彼は小さな機械を作るつもりで書いたと思われた。
しかし組み立てを脳内シミュレートした結果、どれだけ頑張ってもロボットサイズになってしまうと予測された。
このスケールの差異は、一体何なのか。
彼は設計図を書くだけで、実際には作らなかったのか。
なら、私が実際に作って確かめてやろう。
願わくば、完成した機械を彼にも見せてやりたい。
そんな気持ちで作り始めた傍ら、学校としての体面を守る為に生徒募集を開始した。
元部下の三人は研究者でありながら、ものを教える才能もあったようで、学校によく馴染み、生徒にも好かれる良き教官となった。
募集生徒に犯罪者まで紛れ込んできたのは予想外だったが、御劔の血縁を名乗る後藤春喜が興味を持ったのをヨシとして、彼も学校に引き入れた。
翌年にも三名入ってきて、最後に設立された学校のブランドも上々に固まってきた。
教官面接は年に四、五回ほど行っていたが、生徒と比べると伸びしろのありそうな人材は芳しくなく、採用は難航する。
遊ぶ金が欲しい、なんとなくやってみたい、ここはハーレムウハウハと噂を聞いて、といった就職理由の有象無象が面接を受けに来る中、木ノ下進は驚くほど熱血真面目なニケア人で、将来優秀なパイロットを育てたいと熱く語られ、私は喜んで一発採用した。
隠れ蓑として始めた学校経営ではあったが、乃木坂や石倉の熱心な授業風景を見ているうちに、ロボットを作るだけが貢献及び勝利の道ではないと気づかされた。
木ノ下の次に採用したのがフレンチェス=マリコーで、就職理由はロボットのみならず多方面に渡る傭兵を育てたいと言うから信用して採用したのに、三週間で辞められてしまった。
辞めた理由は『候補生が話を聞いてくれないので失望した』ときた。
失望したのは、こちらだ。
たった三週間で、あの子たちの何が判るというのか。
四期生の少女、遠埜メイラだってラストワンに入学したばかりの頃は内気で誰かと会話をするのも難儀だったのに、今じゃ廊下で他愛ない雑談が出来るまでに至った。
全ては乃木坂が四年間、心を砕いて彼女の面倒を見てくれたおかげだ。
前の学校でネクラオタクと虐められていた呪縛を解き放ってくれたのだ。
人は一面だけで判断できるものではない。
オタクな面も明るくて無邪気で素直な面も、全てメイラの魅力である。
どれも恥じる面ではない。誰かに罵倒されるものでもない。
乃木坂は、それを本人に教えたのだ。
マリア=ロクケイスが話を聞いてくれないのであれば、話を聞いてもらえるよう、何度でも話しかけて心の警戒を解いてやるべきではないのか。
カチュア=ガーナクロイザにしても、そうだ。
何故、話に耳を傾けてくれないのか原因を考えてあげるのも教官の役目だろう。
一方的に話して、聞いてくれないからとスネるのは子供以下の駄々っ子だ。
教官の仕事が教本を読むだけでいいなら、人を雇わず録音テープを流しておけばいい。
生徒の心理を理解し、判りあう。教官が人である必要は、そこにある。
私が、そういうふうに考えられるようになったのも、乃木坂たちのおかげだ。
彼らは私が指示せずとも、自分なりの教官像を考えて実践した。
ともあれ突然の辞職で教官が一人足りなくなり、取り急ぎ面接を行った。
そして採用したのが、辻鉄男だった。
就職理由は『自分を変えたい』
理由欄には、この一言しか書かれておらず、生徒ではなく自分をというのが気になった。
面接前にエリス=ブリジッドは彼を『シークエンス』だと診断し、モニターで様子を観察して、彼を教官として育ててみたい欲が私の中に生まれた。
だから、彼を採用した。

『シークエンス』とは、予期せぬ変化、繋がり、断片。
クローズノイスの残した言葉だ。
あの頃の私には意味の分からない言葉だったが、今なら朧気に判る気がする。
予期せぬ変化も繋がりも断片も全て『空からの来訪者』、シンクロイスがシークエンスとの接触で変化していく姿を指していたのではないか――


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