Folxs

act8.別れ

アミュに助けられたヒューイが、ようやく口をきけるようになったのは。
一刀両断されたカインの体が地面へと崩れ落ち、さらに数分を要した後であった。
「お……お前、お前、仲間を……!?」
やっと口をついて出てきた言葉は、それだけで、感謝の言葉もない。
つまりは、それだけヒューイのショックも大きかったのだ。
アミュは彼女の弁を借りるならば、仲間を捜しに此処へ来たはずだ。
なのに仲間であるはずのフィスタを斬り殺してしまっては、何にもならないではないか。
他の仲間を見つける手がかりを、放棄してしまったと言っても過言じゃない。
当のアミュは涼しい顔――というには少々陰っていたが――で佇んでいる。
剣についた血をじっと眺めた後、それを拭き取り鞘に収めた。
「お前!仲間を殺しちまったんだぞ!?」
再度ヒューイが怒鳴る。彼は本気で怒っていた。
アミュを師匠と呼んでいたはずが、いつの間にか『お前』呼びになっている。
剣からヒューイへ視線を移し、アミュは静かに頷いた。
「えぇ」
淡々とした態度は、ヒューイの怒りに火をつける。
「なんで、そんな冷静でいられるんだッ」
さらに怒鳴る彼へ、アミュはきっぱりと言い放つ。
「カインは、死んでいません」
「え!?」
――何を言い出すんだ?
頭から真っ二つにされて、それでも生きている奴などいるもんか。
怪訝に眉をひそめるヒューイの前で、アミュが話す。
「カインの肉体は滅びましたが魂は神界へと舞い戻り、新たな肉体を大天使様より授かって再生します。私達は大天使様の手足。死ぬことなど、永久にありえません」
それで彼女は落ち着いていたのか。
泣きもせず、混乱もせず。
生き返ると判っていたから、躊躇もなしに一刀両断したというのか。
理屈では納得できる。だがしかし、ヒューイの本能は納得できなかった。
再び彼はアミュにくってかかる。
「たとえ生き返るとしても!切り捨てなくても良かったんじゃないか!?お前の仲間だろ!相手が仲間でも、お前は簡単に切っちゃうのか!」
対するアミュの答えは、あっさりしたもので。
「はい」
一言返事で頷いた。
「何でだよ!お前の話を聞かなかったからか!?」
「それもありますが、彼は罪を犯しました。大天使様の意思に背く大罪を」
「大罪って何だ!!」
真っ向からヒューイを見つめ、ことさら大きな声でアミュは答えた。
「彼は敵意のない者へ刃を向けました。敵意のない者の命を奪ってはいけないと、大天使様は命じておられたのに」
そこにいるのは村に現れた時の、どこか抜けている彼女ではない。
使命を帯び、決意を固めた一人の剣士であった。
でも――と、さらにヒューイは言いかけて、不意に恐ろしい考えに思いあたり、ぶるっと身を震わせる。
「まてよ、死なないってことは……復活したら、あいつはまたここへ来るのか?どうなんだ!?」
「それは……」
天に目を向けアミュは何事か考える仕草を見せ、数秒おいてから横に首を振った。
「それは、ないです。魂が新しい肉体へ定着するまで、最低でも数百年を要しますし。数百年経つ頃には、私達の任務も達成できるはずですから」
「任務?」
間髪入れず問うヒューイに、アミュは自身を納得させるかのように頷く。
「えぇ。私達の目的は、この星のどこかにある奇跡の石を手に入れること。ヒューイは石のありかについて何か、ご存知ないですか?村の長老様は、石に奉わるお話をして下さらなかったでしょうか」
奇跡の石。
先ほど倒れたフィスタも、そんな言葉を口にしていた。

レジェンダーは石を使って、俺達を殺す兵器を作るつもりだ。
奇跡の石で作られた武器を使えば、神族も魔族も簡単に倒せるらしいぞ。

本当だろうか?
本当なら、どこで、誰が、そんなすごい物を作っているのだろう。
それさえあればフィスタもホルゲイも、この地から追い払えるんだろうか。
それを知るには、ここにいたんじゃ駄目だ。
もっとレジェンダーの多い、大きな街へ行かないと――
「師匠」
ヒューイの怒りは新たな冒険心へとすり替わり、アミュの呼び方も『お前』から『師匠』に戻っていた。
キョトンとするアミュを、ヒューイは真っ向から見上げる。
「俺、都市に行ってみる!石のことを知るなら大きな街に行かなきゃ判らないからっ」
「都市?」
大きな都市など、あったっけ?
残念ながら、アミュの記憶には一つも記されていなかった。
でもヒューイは自信満々に頷き地平線へと目を向けたから、きっと何処かには、あるんだろう。
「あぁ!この草原を抜けて、さらに荒野も抜けた場所にあるんだって。城壁都市ジェネ・グレダっていう大きな街がね。俺はまだ行ったことないんだけど、俺の親父が行ったらしいんだ。前に、そう話してくれたことがあったから……」
まだ彼の父親が生きていた頃、ヒューイに語ってくれた昔話。
ホルゲイやフィスタが地上に現れるよりも、ずっと前の話。

広場は今までにないほどの熱気に包まれて、一言でいえば殺伐としていた。
「よーし、次ィ!! 髪の長い小娘だぁァッ」
強引に髪を引っ張られて、レジェンダーの少女が短く悲鳴をあげる。
手足を縛られたままなので抵抗もままならず、彼女は広場の中央へと引きずり出された。
「こいつが欲しい奴ぁ、手をあげろ!早い者勝ちだぞ!!」
広場に集まった者達の手が一斉に挙げられる。
どいつもこいつも嬉々とした顔で、その中にレジェンダーの顔は見あたらない。
並ぶ顔は色とりどりの、見知らぬ姿格好をした奴ら。
魔族――
彼らは自分達をそう呼び、レジェンダー達はホルゲイと呼んだ。
空から降って現れた種族。
ある日、突然現れた彼らは無差別にレジェンダーを殺しまくり、とうとうジェネ・グレダの広場までも占領してしまったのだ。
数々の手が上がり、それらが一斉に少女へ掴みかかる。
「いたっ……」と少女が悲鳴をあげる暇もなく、一つの手が彼女を抱え込んだかと思えば、更なる腕が奪い取る。
一人の少女を巡って、ちょっとした奪い合いが巻き起こる。
だが、周りを囲んでる奴らは止めるでもなく笑って観戦していた。
見てるだけでは飽きたらず「やれ、やっちまえぇ!」と、けしかける者もいる。
手足を柱にくくりつけられ身動きの取れないレジェンダー達は、その様子を黙って睨みつけるしか出来ない己を嘆いた。
「次ィ、くりくり頭の坊主だ!こいつは肉も軟らかいし美味そうだなァ!!」
少女の取り分が決まらないうちから、次のレジェンダーが引っ張り出される。
次に中央へ連れて行かれたのは年端もゆかぬ少年で、だが魔族に情けを期待してはいけない。
これは戦に負けた代償。すなわち『捕虜』というやつだ。
魔族は今、レジェンダーら捕虜の分配をしている最中であった。
「見ろよ、ほっぺのプニプニ具合。煮ても焼いても美味そうだぁ〜」
ぷにぷに、とほっぺたをつつかれ、少年の恐怖が爆発する。
「う……うわぁぁぁぁ〜〜〜!助けて、母ちゃん助けてぇ!!」
少年の声に弾かれるように、母親らしきレジェンダーも声を張り上げる。
「あぁ、やめて、やめてお願い!その子を殺すなら私を殺しなさい!!」
言い終わらぬうちに女は喉元を抉られ、ずるりと頭が垂れ下がる。
女を殺したのは、クォードであった。
「あっ!」
これには味方も捕虜達も驚き、続いて非難の罵声が飛び交った。
「ずるいぜ指揮官!捕虜の分配は公平にって取り決めだったはずだ!!」
「捕虜は原則生かすのがルールだろ!あんたがルールを破るのか!?」
どいつもこいつも、食事がかかっているので真剣だ。
彼ら魔族は、生き物の感情や精気を糧とする。
中には肉を食べる連中もいるが、大半は精気がごちそうなのだ。
ただし、食べるには糧となる対象が生きた状態であるのを条件とする。
死んでしまっては、糧にすることもできない。
「あー、悪いな。殺せって騒ぐもんだから、うっかり殺しちまった」
だがクォードは飄々としたもので、指についた血を拭い取り、くくりつけた柱ごと女の死体を蹴り倒した。
「分配を邪魔した罰だ、俺の取り分はナシでいい」
さらには死体の髪を掴んで、少年の側へ投げ捨てる。
喉元からじわじわと流れ出てきた血が、少年の目の前で地面へと染みこんでゆく。
ゆっくりと、だが早急に母親の体は暖かさを失って、青ざめた顔が半目の状態で少年を見つめていた。
「う……あ………ぁぁっ……ああぁぁぁああああ!」
言葉にならない絶望を、少年が、あげる。あげ続ける。
彼の悲鳴が、白けた空気に再び熱気を取り戻させた。
「そいつは俺が貰う!」「俺のもんだ!!」
再び奪い合いが始まった。
それらを背に聞き流しながら、クォードは部下の一人に命じた。
「フェルミーに伝えろ、俺は町長の家で待ってるから早く来いってな」

もう、だめだ。
レジェンダー達が広場で絶望に瀕した頃、第七階級魔族・本日の名前はフェルミーも同じく絶望に瀕していた。
何しろ、指揮官直々の勅命を受けていながら、あっさり作戦に失敗した。
それだけならまだしも、指揮官の手を煩わせるという失態っぷり。
この戦いでフェルミーが晒したのは自分の無能っぷりだけで、いいとこなんか、まるでなかった。
むしろ、悪い面を見せつけてしまったようなものだ。
彼女は落ち込んでいた。
だが、時は彼女に落ち込む暇も与えてはくれない。
というのも、誰かがこちらに向かって走ってきたからだ。
そいつは明らかにフェルミーを探しに来たようで、彼女を見るやいなや声をかけてよこしてきた。
「おい!指揮官殿がお呼びだ、町長の家に来いってよ!!」
絶望を皆が糧とするのなら、真っ先に自分のを食べて欲しいとフェルミーは切に願った。

青ざめたフェルミーが町長家の扉をノックしたのは、それから数分後。
「入れよ」と言われても踏ん切りがつかぬ様子で迷っていたが、とうとう彼女は決心して中に入り込んだ。
クォードは大きな居間のソファーに腰掛けて待っていた。
「まぁ、座れ。呼ばれた理由は判るか?」
彼女を見上げた顔に不思議と怒りの色はなく、半分驚き半分安堵したフェルミーは直立不動の姿勢で首を横に振る。
「いえ!自分は、ここで結構であります!用件は何でありましょうか!?」
「言わなくても判ると思ったんだがな……」
ぎくりと体を震わせる彼女そっちのけに、クォードは言葉を紡いだ。
「お前は俺の信頼を裏切った。命令に対し何の役にも立たないばかりか、お前のポカのせいで全ての作戦が台無しになるとこだった。この罪は極めて重い。そこでだ」
「ぎゃああああああ!!!お、お許しをぉぉぉ〜〜!」
クォードの言葉は途中で断ち切られた。彼女の口から飛び出した絶叫に。
広場の捕虜達に勝るとも劣らぬ絶望感に満ちていて、これにはクォードも驚いて、しばし二の句が出てこなかった。
「お、おい。話は最後まで聞けよ」
慌てて、なだめすかしてみるも、泣くわ足元にすがりつくわで彼女は全く聞いていない様子。
「ご慈悲を〜〜!ご慈悲をお願いしますぅぅ〜〜〜」
能力の無自覚、頭の回転の鈍さ、加えて早とちり。
まったく、ヴィクターもとんだお荷物兵士を送り込んでくれたものだ。
それでも彼女は第一小隊で唯一の女性であり、唯一のサッキュバスでもあった。
しくじったからといって、あっさり首を切るには惜しい人材である。
「だからな、慈悲っつーかチャンスを与えようと思っているんだ。話を最後まで聞け」
溜息混じりにクォードが言うと、フェルミーは目を輝かせた。
「ここでお前の首を切るのは簡単だ。だが、俺はそうはしない。お前は俺が徹底的に鍛えてやる。持って生まれた能力の使い方も神族との戦い方も、全部教えてやるから覚悟しとけ」
「え………」
言われたことが一度では伝わらず、ぽけーっと立ちつくすフェルミーにクォードは念を押す。
「判ったなら返事は!」
「は、はいっ!」
ようやく出てきた返事を耳に、クォードは町長の家を出て行った。

広場では、まだ捕虜の分配が行われている。
レジェンダーの数は、だいぶ減っていたけれど。
「瓶のやつは、どこに置いてある?」
戻ってきたクォードに、兵士の一人が瓶を差し出す。
瓶の中には黒々とした煙のようなものが渦を巻いていた。
と言っても中に入っているのはただの煙ではなく、れっきとした魔族である。
名をポウワ。部下の報告によれば、第十五階級だという。
クォード達と敵対しレジェンダーに力を貸した愚か者であり、ジェネ・グレダの大砲も魔法陣も彼の仕業であると判明した。
魔族にとって裏切り者の彼を、生かしておく意味はない。
だが、すんなり殺すのも味気ない。というより腹の虫が治まらない。
別に、仲間が殺されたことを怒っているのではない。
死んだ奴らは弱いから死ぬのであって、ポウワのせいではないのだから。
ポウワは、あろうことかゴミ同然のレジェンダーに魔族の英知を授けた。
それがクォードには許せないのだった。
ポウワには、世にも残酷な死を与えてやろう。だが、それには、どうすれば?

広場の中央に、また一人レジェンダーが連れ出されてくる。
「いたっ!放せよ、襟首掴むなってばぁ!!」
甲高くも反抗的な声に周囲の連中がどよめき、瓶の中の気配にも動揺が感じられて、クォードも中央を見やる。
そこに、オレンジ色のツンツン頭を確認した。
レジェンダー特有の尖った耳には、ピアスがぶらさがっている。
めいっぱい瞳に反抗の色を宿していて、いかにも生意気そうな少年だった。
唐突に、瓶の中のポウワが叫ぶ。
「カイ!!!」
「カイ?あのガキの名前か?」と、クォードはポウワに尋ねたのだが。
「そうだよ!」と答えたのは、当の本人であった。
「俺がカイだ!そんなことより、ポウワを放せ!」
瓶の中のポウワをめざとく見つけ、カイが怒鳴り返してくる。
ポウワの反応といい、彼に対するカイの反応といい、これは単なる知人ではないなとクォードは踏んだ。
二人は友人だ、それも相当信頼し合った仲とみていい。
「……よし。てめぇら、そのガキをこの場で食らいつくせ」
指揮官のいきなりな提案に、魔族達は再びどよめく。
カイはぎょっとなり、ポウワは瓶の中からクォードを睨みつけた。
「貴様!カイを嬲り殺しにするつもりかッ、許さんぞ」
怒鳴ったが、元より脅しのきく相手ではなく、不敵に笑い返されただけだった。
「こいつの見てる前で盛大に精気を搾り取ってやれ。楯突く元気はおろか、生きる希望すらも持てなくなるほどにな。搾り取るだけ搾り取れたら、殺しても構わねぇぞ」
クォードは片手に持った瓶を皆の前で、ぶらぶらさせる。
中に入っているのが裏切り者だというのは、部下の誰もが知っている。
そのせいか、いつもよりも皆の残虐心には火がついた。
魔族達は我先にと身動きの取れないカイをよって集って殴りつけ、爪で斬りつけ、牙で噛みつき、骨を折り、腕を、足をもいだ。
顔面を殴られたはずみで眼球がこぼれ落ち、地で跳ねた。
あまりにも悲惨で、且つ、あまりにも残酷な光景に、言葉にならぬ嗚咽が捕虜達の喉から漏れ、女子供は目をそらす。
カイは最早、悲鳴すらあげる気力も残っていない。
体のあちこちを刻まれ、潰され、それでも死ぬまでには至らず、死ぬギリギリの状態で生かされ続け、逃げることも叶わない。
生きながら食われている。精神を、精気を搾り取られていく。
いっそ簡単に殺してくれた方が、カイにとっては幸せだっただろう。
「やめろ、やめてくれェェェッ!!」
カイの代わりに、ポウワの懇願する悲鳴が広場に響き渡った。


狂乱の宴は終わり――夜が来た。
柱にくくりつけられていた捕虜も今は殆どが姿を消していて、今頃は皆、分配先の魔族の元で食われているのだろう。
恐怖を。
そして、精気を。
思考力がなくなるまで、搾り取られ続けるのだ。
生かさず殺さず。それが魔族に食料として囚われた者の運命だ。
一人だけ、柱にくくりつけられたままの捕虜がいる。
いや、いたといったほうが正しいかもしれない。
その捕虜は、もうとっくに息絶えていたのだから。
既にレジェンダーとしての原型を留めておらず、ただの肉塊と化していた。

カイ。

それが、彼の生前の名前だ。
他種族との共存を望んでいた、このちっぽけな少年は、街が戦いに敗れたせいで無惨にも殺されてしまった。
彼と最も仲良くしていた他種族――魔族のポウワは、どうしただろうか。
ポウワもまた、殺されてしまったのだろうか?


占領された都市、その町長の家。
今は指揮官クォードが我が家の如く、陣取っていた。
広間にあるテーブルの上には小さな瓶が一つ乗っていて、中には黒い、もやもやした物が入っている。
ポウワだ。ポウワは、まだ生きていた。
手下共にカイを惨殺させた後、実はポウワも殺す気でいたのだが。
体のないポウワは爪で切り裂くことも歯で噛みつくこともできず、限りなく気体に近い彼を殺すには感情を食らうしか術がない。
かといって同族の感情を食うのは気が退けるらしく、配下達は、こぞって引き取りを嫌がった。
だもんだから、仕方なくクォードが引き取ったのであった。
しばらくテーブルの上に置いて瓶を眺めていたクォードは、不意に考えを改めた。
良いことを思いついたのだ。
「おい、フェルミーを呼んでこい。今すぐにだ」
扉の外に立つ見張りへ命じると、瓶の前に腰を下ろす。
「調子はどうだ?あのガキが死んでから一言もしゃべらねぇようだが」
「…………」
黒い煙は、瓶の底にこびりついたまま動かない。
「しゃべる気力も無くしたか。まぁいいさ。どうせお前は、もうすぐ死ぬんだからな」
その言葉に、一言も発しなかったポウワが反応した。
「俺を殺す?どうやって。同族食いでも決心したのか」
できはしまい。ポウワの口調からは、そんな嘲りが伺える。
「知っているか?魔力を根こそぎ奪っちまえば、俺達は死ぬんだ。……いや、死ぬってのは正しい言い方じゃねぇな。魔力を失った魔族は無力化する。こいつは死ぬより残酷だろ」
確かに、魔力のない魔族などレジェンダーにも劣る存在だ。
ポウワのように魂しか持たぬ魔族は、存在を維持することすら難しくなる。
そればかりか、魔力がなくては他の生き物から糧を得ることも出来ない。
魔力を失うというのは、死ねと言われているようなものだ。
だが、どうやって?
魔族が魔族から力を奪うなど、精気を食らう以外に方法がないではないか。
「魔力を奪う?精気を食らうのではなく?」
クォードが答える前に、フェルミーが到着した。
「失礼します!指揮官がお呼びと聞き、参上致しましたッ」
相変わらず直立不動で、大声を張り上げている。
女でありながら色気が微塵もない彼女を見つめ、クォードは言った。
いや、命じた。
「お前に新たな特命を与えてやる。まずは、こいつを吸い込め。吸い込んだらベッドにあがるんだ。俺がお前を犯してやる」
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