Friend of Friend's

14.またね!

十二月二十四日といえば、どんな仏教徒でも無宗教派でもクリスマスだと知っている――はずである、のだが。
去年クリスマスを知らないと答えて大恥をかいた黒鵜戸は、今年も黒歴史な日が来たと知ってカレンダーの前で渋顔になった。
トシローは何週間も前から「クリスマスデートは人類の恥」だの「クリスマスを中止させよ」と騒いでいたが、その彼でもクリスマスの開催は回避できなかったようだ。
今日は夜から酒木の家でパーティをやるそうで、それにはトシローも誘われている。
あれだけ中止だのカップル粉砕だのと騒いでおいてパーティには出席しようってんだから、トシローも随分とツラの皮が厚い男だ。
「ま、知っていたけど」
ポツリと呟き、黒鵜戸は今日着ていく服を吟味する。
正装してこいと言われたので、それなりに小綺麗な洋服を取り出して悩んでいたのだが――
ピンポーンと間の抜けたチャイムが鳴り、思考は中断された。
「ハイハイ」と扉を開けてみれば、なんとビックリ。
そこにいたのは北畝 浩三ではないか。
この世界での、自称・黒鵜戸の叔父である。
叔父と言っても、実際には赤の他人だ。
何しろ黒鵜戸は、この世界で生まれたわけではないのだから。
「ふむ……どうやら、すっかり馴染んだようだな、クロードよ」
「突然来たかと思えば、何なワケ?つか、何のようだよ」
「お前のことだから、どうせ去年はクリスマスで赤っ恥をかいたことだろう」
「なんだよ、予想できたんなら教えてくれればよかったのに」
「なぁに、自ら学習していくのも異世界トリップの醍醐味だ」
訳のわからない事を言って、一人悦に入っている。
夜の準備もしなきゃいけないし服も選びたいしで、イライラしてきた黒鵜戸は再度用件を尋ねた。
「様子を見にがてら、お前の冒険終了のお知らせを届けにきたのだ」
「ハァ?」
「残念!クロードの冒険は、ここで終わってしまったッ」
「いや、勝手に終わらせなくていいから。つか、簡潔に判りやすく説明してくれる?」
「つまりだな――今日の夜十二時ピタリに、お前は元の世界へ戻される」
「も、戻るのッ!?しかも、今日ォ?」
「うむ」
「け、けど、どうして、それをアンタが知っているんだ?」
「今朝枕元にイエス=キリストが立って、私に伝えてくれたのだよ」
話が胡散臭くなってきた。
否、この男自体が元々胡散臭い存在でもある。
北畝はクロードが身の上話をする前から、異世界の住民であると知っていた。
なにしろ、いきなり部屋に入ってきたかと思うと「ようこそ!ファンタジー世界の住民よ」と発したのだ。
普通なら通報されて、精神病院へ搬送されても、おかしくない異常さだ。
そうされなかったのは、部屋にいたのがクロード一人だったのと、彼が本当に異世界の住民だったせいだ。
ポカーンと北畝の口上を聞き流しているうちに、高校へ通うことが決まって、アパートへ住むことになった。
改めて考えるに、この男。
一体何者なんだ。
だが今更考えるのも馬鹿馬鹿しいな、と、どこかで冷めている自分に黒鵜戸は気づく。
今、彼が言ったじゃないか。
元の世界へ戻れるって。
それが本当なら北畝の正体など、今更判ったところでどうしようもない。
「けど……けど、なぁ〜」
「どうした?元の世界へ帰れるんだぞ、嬉しくないのか」
「んー。せっかく皆と仲良くなってきたのに、ここで帰っちゃうのもなーって思って」
「そうは言っても仕方あるまい。神のご意志によるのだから」
「ハイハイ、とりあえず死人の伝言ご苦労さん。じゃあ、とっとと帰ってね」
そんざいに背中を押して追い出そうするが、北畝のオッサンは足を踏ん張って出ていこうとしない。
「なんだよ、用事終わったんじゃなかったの?」
「まだだ。どうせ、お前のことだからクリスマスに着ていく服もなかろうと思ってな」
「余計なお世話だよ」
「なに、遠慮するな。私が一緒に選んでやろう」
「いや、別に遠慮してないし」
「いいから、早く来い!」
「も、もう行くのかよ?まだ何も用意してないんだけど」
「遠慮するな、財布は私もちだ。レッツゴー・しまむら!」
「だから遠慮してない、ってか行くのって、しまむら!?」
「何をー!?しまむらをバカにする奴は、自分がバカなんだぞぉーっ」
訳のわからないノリにより、黒鵜戸は買い物に引きずり出されたのであった。
レッツゴー、しまむら。


「なぁ、これ絶対おかしいって」
「何を言うか。おかしいと思うから、おかしくなるのであって、おかしくないと思えば、おかしいことなどないのだよ?」
「いや、あんたの言っていることもおかしいけど、そうじゃなく」
数時間後、黒鵜戸と北畝は何やら言い合いをしながら歩いてくる。
黒鵜戸は何故かパリッとしたリクルートスーツを着ており、北畝は蝶ネクタイに燕尾服という出で立ちだった。
まるで、どこかの結婚式にでも参加する格好だ。
「大体しまむらに行こうっつってたのに、なんで途中でAOKIになっちゃったんだよぉー」
「仕方あるまい。しまむらよりAOKIのほうが近かったのだから」
「何が仕方ないんだか……俺はさ、もっとカジュアルな格好のほうが似合うんだよ。何が悲しゅうてスーツなんか」
「何をいうか!パーティといえば男はスーツ、女はドレスと相場が決まっておるものぞ」
「一体どこの貴族参加パーティの話だよ。こっちゃ、たかが学校の友達のクリスマスパーティだぞ?」
文句を言い合いつつ酒木邸を目指す二人だが、ついて驚いた。
でかいのだ、門が。
しかもご近所そこらでは滅多にお見かけできないであろう、自動式の門である。
高級車が二台も車庫に並んでいて、これでもか!とばかりに酒木家の裕福っぷりを強調していた。
たかが同窓生のクリスマスパーティと侮っていたが、これはカジュアルな服装でこなくて正解だったかもしれない。
「う、うわぁ〜。金持ちとは聞いていたけど、ここまでとは」
「ウフフフ。酒木家は、ここいらでは一番のセレブと聞いておる。粗相のないようにな、クロード」
「粗相?そりゃ、俺よりアンタのほうが……」
言いかけて、黒鵜戸の目が点になる。
向こうから歩いてくるの、あれは栃木じゃないか。
だが、その格好は、どう見ても――
「ほう、渋いな」
「いや、渋いっていうか、空手着?空手着じゃねーの、あれっ!?」
「うむ、まごうことなき正真正銘の空手着で間違いあるまい。彼は知りあいかね?」
「え、あ、うん。友達だけど……あれ、でも、このパーティって正装必須だよね?」
とか何とか言っている間に、栃木も黒鵜戸に気づいたようだ。
栃木はポカンと黒鵜戸を見つめ、たちまち頬を上気させる。
「あー、やっぱ退かれてるわ。リクルートスーツじゃなぁ」
「いや、違うぞ。あれは……ホの字ってやつだ」
「ハァ?」
「ヤァヤァ、君はクロードのお友達だそうだね。お名前は?」
「って!何勝手に話しかけてんだよっ」
北畝に声をかけられて、我に返った栃木が訝しむよりも早く、黒鵜戸が声をかけ直す。
「よぉ、栃木。正装って言われても、なかなか服って用意できないよな」
「お、おぅ。だが……なかなかに似合っているぜ、それ」
「あ、ありがとう。栃木のそれは、着てくる服がなかったのか?」
「いや?こいつが俺の正装だが」
上には上がいる――いや、この場合は下か?
一瞬黒鵜戸が言葉を忘れた間に、よく見慣れた丸いフォルムの黒い何かが近づいてきた。
「よー、クロードにケースケ!お前ら、なんちゅー格好してんだよ?」
「トシローだって、人のこと言えた服じゃないだろ」
「ほぅ……丸いな」
「丸いって何だよ!感想、それだけ!?つか何なんだよ、このオッサン!クロードの知りあい?」
「あぁ、えっと一応叔父って事になってんだけど」
「一応?」
「叔父の北畝です。どうぞ宜しく栃木くん」
「え?あ、どうも」
「では、いざゆかん!パーティーへッ」
「仕切るなよ、オジサン!」
黒鵜戸はリクルートスーツで、栃木は空手着で、そしてトシローは上下黒のセーターにズボンという格好で、燕尾服の後を、ぞろぞろとついていった。

豪邸は、中に入っても豪邸だった。
広いホールには丸いテーブルが、あちこちに置いてあり、立食形式になっている。
「お、来たな。黒鵜戸、決まってんじゃん」
「火浦も呼ばれてたのか」
「お前、なんだよー?ちったぁオシャレしろっての、俺やクロードみたいにさぁ」
「失礼ね!お兄ちゃんはオシャレなんかしなくても、元々格好いいからいいんですッ!」
「い、いや、その、ごめんなさい」
「ハッハッハッ!JKには丸いのも形無しだな」
「丸いのって誰の事だ!?俺はトシローっていうの!」
「JKなんて呼ばないで下さい、気持ち悪い!っていうか、誰なんですか?おじさん!」
「おぉ失礼した、若いの。私はクロードの――」
北畝が里見に自己紹介を始めた、ちょうどその頃合いにパーティの主が挨拶にやってくる。
「やーねぇ、栃木くんってば。ここを武芸館と間違えているんじゃないの?」
「正装で来いと言われたから、来たまでだ」
「あっそう。じゃ、あんたはいつも正装で試合に出てるってワケね」
ジト目で栃木を軽く睨んだ後、改めてトシローと黒鵜戸をジロジロ眺め、酒木はプッと吹き出した。
「栃木くんも最低だけど、あんた達ってば、もっと駄目ねぇ!なんでこうもセンスのない奴ばっかりなのかしら、あの学校の連中は」
「そういうサカキンだって……ちょ、ちょっと胸元開きすぎじゃないですか?」
「ドコを覗き込んでんの、この変態スケベ。そんなんだから、あんたはキモオタから脱出できないのよ」
いつになく毒舌な生徒会長には、黒鵜戸もトシローもタジタジだ。
「あぁ、そうそう。ユッキーも来ているけど手を出したら殺すからね、ヒビキン」
「な、何もしねーよ!誓って、何もッ」
「俺が見ているから大丈夫だよ。それより酒木さんこそ、栃木に変なトコ見せてとか言わないでくれよ?」
「言うわけないじゃない。今のあたしには……フフッ♪」
「?」
「あ、他のお客様にも挨拶しないといけないから。またね」と言い残し、酒木は去っていった。
「ご機嫌だなぁ、火浦と何かあったのかな」
「火浦?違ェーよ、冬コミが近いから浮かれてるんだろ」
「冬コミが近いと、どうして浮かれるんだ?」
「バッカ、だってそりゃあ、冬コミでお気に入りの本がたくさん買えっからだろ!」
よく判らない理由だが、トシローも酒木も楽しみにしているんだなってのだけは、なんとなく黒鵜戸にも伝わった。
「あ、火浦といえば」
「ん?」
「ちょっと」と、ぐいぐい火浦の腕を引っ張って部屋の隅までつれていくと、黒鵜戸は声を潜めて囁いた。
「あれから酒木さんと、どう?何か進展あった?」
「何かって?」
「も〜、ほら、デートしたじゃん。あの後だよ」
「あー、あの日は大変だったらしいな。里見に色々驕ってくれたそうで、サンキュ」
「いや、俺の苦労はいいから!そっちは、どうだったんだ」
「どうって?別に何もないぜ、オトモダチ認定されているってのが判っただけだ」
「え〜?」
「えーって何だよ、なんでお前が不満顔なんだ」
「いや、だって酒木さんもデート楽しみにしてたんだぞ?それで何もないって言われちゃうと」
「実際何もなかったんだから、しゃーねぇだろ。あ、そういや見せろって言われたぜ。例のアレ」
「あ、やっぱ言われたんだ。……で?見せたの?」
「ホテルで見せてやるっつったら殴られた。わっかんね〜女だよな、あいつも
「お兄ちゃん!いつまでコソコソ内緒話しているの!?」
「おぅ、今行く。じゃあな、黒鵜戸。何かあった時には報告してやっから、あんまヤキモキすんな」
「う、うん……じゃあ、また後で」
ギロッと里見にガンを飛ばされて、臆する黒鵜戸の元へトシローが歩いてくる。
「あれ、栃木は?」
「それがさぁ、サカキンが戻ってきて家族に紹介するとか言って連れてっちゃったんだよ」
「えぇ?火浦じゃなくて栃木を!?」
「あ、家族っつってもサカキンのじゃないぞ。ユッキーの両親だってさ。なんでかは判らないけど」
「そ、そうなんだ……へぇ……池上さんのねぇ。まだ、早いんじゃないかなぁ?」
「何が?」
「い、いやいや、何でもないっ!そ、それより俺達もパーティを楽しもう」
「おう!腹一杯食べようぜ、今夜は!」
「そっち系の”楽しむ”かいっ!」
ガツガツと頬張りだしたトシロー、ついでで、やけ食いに走る黒鵜戸。
その頃、酒木に強制連行された栃木はというと、池上家のご夫妻と顔合わせさせられていた。
「美智子おばさま、こちらが栃木啓介くんですのよ」
「……のよ?」
「まぁ!まぁ、まぁ、とてもお凛々しい方でいらっしゃいますのね」
「ハァ、どうも……」
「そちら、なんというお召し物でいらっしゃいますのかしら?特注オーダー?」
「空手着だね」
「はい」
「うんうん、スポーツマン、いやカラテマンか。さすがは、あの子の見込んだ男だ」
「……おい、あの子って?」とヒソヒソ栃木が問えば、酒木は眉間に皺を寄せて囁き返す。
「決まってんでしょ?ユッキーよ」
「その池上の両親と、なんで俺が話をしなきゃいけないんだ」
「決まってんじゃない、ユッキーがあんたを両親に紹介したいって頼んできたからよ」
「んで、肝心の本人はどこだ?」
「お色直ししている最中よ。いいから黙って待ちなさい」
「お色直しィ?」
「おぉ、来た来た。雪、こちらだよ」
父親に呼ばれて、純白のドレスに身を包んだ雪がやってくる。
春に会った時とはうって変わって、やけに大人びて見えるのは、化粧のおかげか、それともドレスの余波か。
「あ……っ、と、栃木さん。こんばんわ」
「おぅ」
「あ、あの、パーティは楽しんでいらっしゃいますか?」
「それがよ、楽しもうとした直後、この眼鏡女に邪魔されて」
「あーっと!ユッキー、ここから先は二人の時間!ささ、二人で楽しんでいらっしゃーい!」
「え、ちょ、ちょっとユイナちゃん!?」
「押すんじゃねぇよ、オイッ」
ぐいぐいと背中を押され、栃木と雪は無理矢理両親の元を退場させられる。
「オホホホ、二人とも奥手だから、これぐらいはやらないといけませんわね!」
取り繕った酒木も逃げるようにして、その場を離れた。


会場は人混みに溢れて熱気ムンムン。
加えて食べ過ぎと飲み過ぎで少々気分の悪くなった黒鵜戸は、ベランダへ出てみた。
「うぉぉっ、さみぃ!」
寒いけど、星空は綺麗だ。
この空も、今日を最後に見られなくなるのか――
そう思うと、なんだか急に胸の辺りが締め付けられる。
元の世界へ帰れるのは、自分にとって嬉しいんだろうか?
来たばかりの頃は、どうやって暮らしていくのか、そればかりが不安であったはずなのに。
気づけば生活に馴染んでおり、元の世界のことなど、すっかり脳裏から消え去っていた。
「うぅ……帰りたくないなぁ」
「なら、今日は俺の家にでも泊まっていくか?」
「うへ?」
振り返ると、栃木が立っている。
雪と一緒にいたはずなのに、いつの間に、こっちへ来たんだろう。
「池上さんは?」
「あー、お前がベランダで寂しそうにしてっから様子を見にいけって言われたよ」
「や、別に寂しそうにはしてなかったんだけど……星を見ていただけで」
「けど今、帰りたくないだのぼやいていたじゃねぇか。どうしたんだ?何かあったのか」
「いや、まぁ……十二時になったら、帰らなきゃいけないんだ」
「お前、一人暮らしだろ?門限なんて、あってないようなもんじゃねぇのか」
「や、アパートじゃなくてね」
「……帰郷すんのか?」
「ま、そんなトコ。けど一度帰ったら、もう二度と戻ってこられるか、どうか」
「んな大袈裟な」
「それが、大袈裟でもないんだよね……」
「…………」
「…………」
「どこなんだ?お前の故郷」
「え?」
「いや……どこであろうと、俺が必ず会いに行ってやる。だから、もう、寂しそうな顔をすんな」
「や、別に寂しそうな顔なんてしてないけど」
「してるぜ、今」
「そ、そう?」
思いの外、真面目な顔で栃木に見つめられて、黒鵜戸はガラにもなくドキマギしてしまった。
馬鹿な、相手は栃木なのに。
酒木やユッキーならともかく、男友達相手にドキドキなど!
「このままずっと十二時にならなきゃ、帰らなくても済むんだけどな〜」
「だが、いずれは時間がくる。誰か迎えに来るのか?」
「あー……そういや、オッサン何も言ってなかったな。どうやって帰るんだろ?」
「お前が寂しいなら、俺も一緒に行ってやる」
「え?ホントッ!?」
「あぁ。本当だ」
正直にいうと、一人で元の世界に帰るのは寂しかったのだ。
友達が一緒なら、当分は楽しくやっていけるだろう――と考えて、はたと黒鵜戸は己の間違いに気づく。
自分は天涯孤独だが、栃木には家族がいるじゃないか。
こちらへは二度と戻れないかもしれないのに、彼を巻き込むのは良くない。
「や、でも、やっぱり悪いよ、戻ってこれなくなるかもしんないのに」
「気にするな」
「いや、気にするって!家族とか、どーすんだ?」
「いいから、気にすんな……俺は、お前の為なら何処にだって行ける覚悟がある」
ぎゅうと栃木に抱きしめられて、黒鵜戸は大いに慌てる。
こんなとこ、火浦やトシローに見つかったら大変だ。
いや、もっとヤバイのは酒木か。
ホモ伝説を作られたまま元の世界へ帰るのは、もっとも猛烈に嫌な別れ方ではないか!
「ほほぅ、お熱いなクロード。栃木くんと別れのチュウでもかますのかね?」
物陰から現れたのは幸か不幸か友達の誰かではなく自称叔父の北畝で、どちらにせよ見られていた恥ずかしさに黒鵜戸は絶叫した。
ギャアァァ!いつから見てたんだ、テメェ!!」
「最初から最後まで見る気満々だったよ」
「死ね!死んでしまえっ!!」
「ま、冗談はさておき……栃木くん。クロードがいなくなったら、君は寂しいと思うのかね?」
「当然だ」
「クロードも元の世界へ帰るよりは、こちらで暮らし続けるほうが良いのかね?」
「当ったり前だろ!?」
「元の、世界……?」
「よし、判った。では、神にはそう伝えておこう。末永く、栃木くんとはお幸せに!」
「お幸せにっじゃねーっつの!言いふらしたら、てめぇ、酷いぞ!?」
「嗚呼ホモ伝説よ、永遠なれ!」
勝手に伝説にすんなァァァァ!!
北畝は軽快に去っていき、後には絶叫しすぎで息を切らせた黒鵜戸と、呆然とした表情の栃木が残される。
「おい黒鵜戸、お前の叔父さんが言ってたのって何なんだ?神だとか元の世界だとか、頭は大丈夫なのか?あの人」
「いや……たぶん、大丈夫じゃない。けど……」
ちらっと自分の腕時計を見て、黒鵜戸は栃木へ微笑んだ。
「けど?」
「十二時を過ぎても、大丈夫だったみたいだ。来年も、よろしくな」
「うん?あぁ、けど来年はもう俺達、卒業だぞ」
「え?あ、あぁ!だ、だから、卒業してもヨロシクってことで!卒業しても、ずっとずっと友達でいよう!な?」
「お、おぅ。約束だ」


チカチカと頭上で星も瞬いた。


おわり
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