Friend of Friend's

10.休日の過ごし方

「サカキンに誘われたァ!?お前がァ?」
素っ頓狂な大声が休み時間の教室に響く。
声の主はトシロー。
無事三年生に進学して、またしてもクラスは栃木や黒鵜戸と一緒になった。
「ん、まぁ。色々あって……な」
「色々じゃ判んねーよ!ちゃんと説明しろっ」
「だから……春休みに、あいつらの手伝いをやらされただろ?んで、その延長線で出かけようって話になった」
女の子から誘われたにしては、栃木の歯切れは悪い。
さもありなん、彼と酒木は大して仲の良い友達ではない。
トシローの友達だから、そのつながりで顔見知りだという程度である。
「で、どこに行くんだって?シティは当分ないから、ティアか?」
「ティア?なんだ、そりゃ。違う、遊園地だよ。東京……ディズニーランドっつったか?そこだ」
「デズニィ〜ランドォォ〜!?」
「ぶッは!似合わね〜っ」
「うるせぇな、指定してきたのは酒木なんだから仕方ねぇだろが」
ぶすくれてソッポを向く栃木に、なおも黒鵜戸が質問する。
「で、行くのは?酒木と二人だけなのか?」
「いや、違う。三人だ。ホラ、なんつったっけか、春休み、あいつと一緒にいた……」
「ユッキーちゃんだとぉぉ!!?」
「そ、そう。そのユッキーとかいう奴も一緒だ」
「ふっざけんな、ケースケ!両手に花たぁ、どういう了見だ!?」
「俺に怒鳴ってもしゃーねぇだろうが。指名してきたのは、向こうなんだからよ。で、こっからが本題なんだが」
「本題?」
「あぁ。俺一人で行ったら、春の二の舞になるのは目に見えている。だから、お前らも一緒に来てくんねぇか?」
荷物持ちにされたくないから、一緒に来てくれと言う。
栃木の不安はごもっともで、黒鵜戸とトシローは、すぐさま頷いた。
「でもよ、断る……ってのは考えなかったのか?」
「あぁ、確かに。そもそも、なんで栃木だけが誘われたんだ?トシローのほうがオタクだし、話だって合うだろうに」
「知らねぇよ、そんなの。酒木本人に聞いてくれ」
「いや、お前が聞けよ。お前が誘われたんだから」
「聞いたよ、けど、ユッキーがどうのこうのっつって、適当にはぐらかされちまってよ。結局教えちゃくんなかった」
「ふぅーん」
「けど、そうなると今度は男三人、女二人か……一人余るな」
「それが、どうかしたか?」
「……クロード、火浦の妹さんを誘うっての、どうかな?これなら女三人、男三人で釣り合いがとれるし!」
「えっ!?で、でも、どうやって誘えばいいんだ?」
「妹だけを誘うのか?妹を誘ったら、兄貴もついてくるんじゃねぇのか」
「だよな、すごく妹思いみたいだし……」
「そこはクロード、お前に任す!とにかく火浦の妹さんを誘ってくれ!そうしたら三対三で俺が余らずに済む!」
「えっ、そこ?心配なのって、そこ?」
「お前は元々余らんだろ、酒木とは友達なんだし」
「いや、サカキンはきっとケースケ、お前に興味があるんだよ!間違いない、俺の勘は絶対だ」
なんて言っているけどトシローの勘が当たった試しなど一度もないわけで、黒鵜戸と栃木は首を傾げるが、深く追求しないことに決めた。


――そして、当日。
駅に早朝集合した面々を見渡してから、トシローは黒鵜戸の襟首を掴んで引き上げた。
「なーんで火浦兄まで連れてくるんだよ、お前はァァァ!!!」
「し、しかた、ない、だろ?い、いっしょに、ぐぇっ」
「里見が俺と一緒に行きたいって言ったんだ。なっ?」
「そうよ。お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ、行くもんですか」
火浦 里見は当然のように兄同伴。
トシローの思惑からは、外れたメンバーになってしまった。
「お前も!誰か女の知りあいはいなかったのか!?」
「いるわけねぇだろが。いたら、お前らなんざ誘わねぇで、そいつに頼んで俺は部活に行ったよ」
「ちょっと、聞き捨てならないわね。あんたが来なきゃ話にならないでしょうが。大体誘ったのは、あんただけなのに、なんでヒビキンや黒鵜戸くんまで一緒なワケ!?」
「俺一人じゃ不安だったからに決まってんだろ」
「不安?あんた、男のくせに女の子が怖いの?」
「違ぇよ。お前、どうせ俺を荷物持ちにする気満々だったんだろ?」
「何言ってんのよ!あたしはねぇ、ユッキーがあんたを」
「ゆ、ユイナちゃんっ!」
ぐいぐいと袖を引っ張られ、我に返ったかして酒木はゴホンと咳払い。
「ご、ごめん。つい取り乱しちゃったわ。まぁ、三百歩譲って黒鵜戸くん達が一緒なのは、いいとしても。火浦くん達を誘ったのは、なんで?」
「あたし達が来ちゃ、いけないんですか?」
「あ、二人は俺が。どうせなら、大勢で行った方が楽しいかと思って……」
「あぁ、俺が頼んだんだ。黒鵜戸とトシローに来てくれってよ。んで、トシローが火浦をつれていこうって言い出して、黒鵜戸が誘いをかけたってわけだ」
「そ、そうですよね!やっぱ、大勢のほうが楽しいですよね」と同意したのは、意外にも酒木の同人仲間の池上 雪。
「そうですよねって、ユッキー、あんたねぇ〜」
「いいの!私たちだけ楽しんでも仕方ないし……栃木さんが、そうしたいって思ったんだから」
「俺は妹ちゃんだけを誘えっつったんだがなァ」
「妹ちゃんなんて呼ばないでくださいって、前にも言ったでしょ!ホント気持ち悪いッ」
「まぁまぁ、里見。あんま大声出すと他の客にも迷惑だし、その辺にしとけって」
妹を宥めてから、ジロッと酒木を睨むと、火浦は口調を改めた。
「こないだの一件、俺ァ許したワケじゃねェが……ま、黒鵜戸の顔を立てて、今日のところは不問にしといてやるよ」
「やーねぇ、まだ根に持ってんの?言っとくけど悪いのは全部、あんたの妹なんですからね」
「何だと?」
「何言ってんのよ!大体、あれはあんた達が勝手に人んちに入ろうとするから!」
「ま、まぁまぁ!今日のところは俺の顔に免じて、二人とも落ち着いて!」
「クッ……わ、判ったよ。悪かったな、大声出して」
いきり立つ火浦兄妹を何とか宥めた後、黒鵜戸は小声で酒木に耳打ちした。
「もう、これ以上刺激しないでくれるかな?火浦の事は、俺に任してくれればいいから」
すると酒木は、哀れむような視線を向けて黒鵜戸へ言い返してきた。
「あんたも大変ねぇ。栃木くんと火浦くん、あんまり仲が良くないんでしょ?それと、火浦くんの妹とヒビキンも」
「え!ど、どうして、それが!?」
「だって。栃木くん、一度も火浦くんと挨拶かわしていないもの。それに里見って子、すっごくヒビキンの事、嫌ってる」
ちょっと見ただけで判るとは、さすが生徒会長。
洞察力は只者ではない。
「こんなメンバーで本当に楽しめると思ってんの?」
「で、でも栃木が一人じゃ嫌だって言うから……」
「何よ、あいつ、そんな事を言ってたわけ?美少女が二人で誘ってやったのに、何が不満なのかしら」
自分で自分を美少女呼ばわりとは、なかなかに不貞不貞しい。
「荷物持ちにされるんじゃないかって、本人は言ってたけど?」
「どうかしらね……荷物を持つぐらいなら、本人はどうってことないんじゃないかしら」
「えっ?」
「まぁ、いいわ。今日は大勢で一緒に楽しみましょ、黒鵜戸くん」
「う、うん……」
急に酒木の態度が変わったのには疑問を持ったものの、一同はホームに入ってきた電車へ乗り込んだ。
「しっかしディズニーランドかぁ〜。小学校ん時の遠足以来じゃね?」
「なによ、ヒビキンってば寂しい奴ねぇ。一緒に行ってくれるカノジョもいないの?」
「い、いるわけねーだろ!?そーゆーサカキンこそ、一緒に行くカレシは」
「カレシじゃないけど、友達となら結構いくし」
「お、俺だって、クロードが暇なら一緒に行くし!」
「俺?俺はいつでもいいけど……」
「ハ!男同士でディズニーランドねぇ〜。何が楽しいの?それ」
「なんだよ!女同士で行くのと、大して変わんないだろ!?」
「だいぶ違うと思いますけど」
「えっ」
「あはは、こういう時だけは話があうじゃないの、えっと、里見ちゃんだったっけ?」
「こういう時だけって、一言余計ですっ」
「……あ、あの、栃木さん。栃木さんは、行かれるんですか?よく」
「いや?俺は、あんま、ああいう処は……」
「遠足以来か?」
「いや……遠足でも行ってねぇな」
「え?でも立浪だろ?小学校」
「いや、俺ァ、中学ん時、引っ越してきたんだよ……こっちに」
「へぇー、初めて知った!」
「何よ、ヒビキンそれでよく今まで友達ヅラしていたわねぇ」
「と、友達ヅラって……」
「あんた達、昔話とかしないの?普段は何を話してんのよ?」
「何って、アニメの事とか、鉄道とか……」
「それ、全部あんたの趣味じゃない。栃木くんや黒鵜戸くんが、アニメに興味あるようには見えないけど?」
「それ、俺も知りてェな。黒鵜戸は一体何が気に入って、キモデブとダチやってんだ?」
「誰がキモデブだ!!」
「え……と、俺の引っ越してきたアパートの隣に住んでいて、それで、何となく」
「そういや黒鵜戸くんって、こっちに引っ越してくる前は何処に住んでいたの?」
「え?」
「だって、時々とんでもなく無知だったりするし。もしかして、すっごいド田舎だったりする?」
「あ、ま、まぁ……そんなトコ」
「えー、何処ですかぁ?四国?九州?愛知?それとも、東北?」
「えっと……」
答えを探しているうちに、乗り換えの駅が近づいてくる。
「あ、次、降りないと」
「何よ、ごまかさないで教えなさいよ。どこ?」
「おい、さっさと降りるぞ」
「判ってるわよ!まぁ、いいわ。黒鵜戸くん、そのうち教えてよね」
「う、うん」
バタバタと慌ただしく電車から電車、さらに電車を降りてからはバスに乗り換える。
バスの中が混んでいることもあってか皆、大人しくなり、二十分少々で目的の地へ到着した。
「はーぁるばる来たぜ、ネズミ〜ランド!」
「ね、お兄ちゃん、ここからは別行動にしよ?」
「おいおい、ついた早々勝手な行動取るんじゃねぇよ」
「いいじゃない!別に、遠足じゃないんだしっ」
「別にいいわよ?別行動取ったって。栃木くん、ハイこれ。あんたの分」
「何だ?こりゃ」
「あ、パスポートです。今日一日分の」
「なっにぃぃ〜〜!?なんでケースケだけ、入場料まで大サービスなんだよォォォ!」
「だって、栃木くんを誘うのが今回の目的だったんだし」
「なんでケースケを!?……ハッ!サカキン、やっぱお前、ケースケのことを……!」
「何がハッ、よ?言っとくけど、今回の発案者はあたしじゃなくてユッキーなんですからね」
「池……上、さんが?」
「は、はい。あの……春のお礼がしたくって、どうしても……って、それで」
「春の?なら、何もこんなトコじゃなくたって」
言いかける栃木の鳩尾に、酒木の肘が綺麗にキマる。
「ぐほっ!」
「こんなトコって何よ。あんた、そんなにディズニーランドに不服でもあんの?」
「い、いや、ディズニーランドがどうってんじゃなくてだな……」
「なら、グダグダ言ってないで、さっさとついてきなさいよ。ユッキーはね、あんたと出かけるの、すっごく楽しみにしてたんだから!」
「お前、全部、池上……さんの為に?せっかくの休日を潰してまで、俺を誘ったのか?」
「当然でしょ?あたし達、友達なんだから」
「……このチケット代は、どっちが?」
「あたしよ。どうせ、あんたは年間パスポートなんか持っちゃいないだろうし、だからってユッキーにそこまで負担させるわけに、いかないし」
いくら二人が幼なじみといったって、少しお節介が過ぎるんじゃなかろうか。
そう思った栃木だが、酒木の眼鏡の奥に殺気を感じ、それ以上は突っ込まないことに決めた。
「ん……年間?」
「そ。あたしとユッキーは年間パスを持っているから、他の皆は実費で当日券を買ってちょうだい」
「う、うぉぉぉ〜!さっすがサカキン、リッチウーメンー!」
「てか、高ェな……入場料」
「あ、俺が払うよ。里見さんの分も含めて」
「いや、悪いだろ?」
「でも誘ったのは、俺だし」
「結構です!五千円ぐらい、私達にだって出せますし!!」
「里見ちゃん、せっかくクロードが奢ってくれるって言ってるんだし、甘えたら?」
「いいっていったらいいんです!私達が貧乏だと思って、余計な真似しないでもらえます!?」
「べ、別に貧乏だとは……」
「何?火浦くんちって、ビンボーなの?」
「ゆっ、ユイナちゃん!!失礼だよ、火浦さん達に謝って!」
「なら、あたしが立て替えといてあげるわ。あ、ヒビキンと黒鵜戸くんは自分で払うのよ?」
あっさり財布から数枚の万札を取り出す酒木には、火浦兄妹もポカーン。
同じく呆気にとられながら、黒鵜戸はヒソヒソとトシローへ耳打ちした。
「酒木さんって、お金持ちだったのか?」
「あ、言ってなかったっけ?あいつのオヤジさん、議員なんだぜ」
初耳だ。
考えてみればオタクで腐女子で生徒会長だという以外、黒鵜戸は酒木の事など何一つ知らない自分に気がついた。
トシローや栃木にしたって、そうだ。
半年つきあっているのに、栃木が別の土地から引っ越してきた事も今日初めて聞いた。
「も……もっと色々、教えてくれよな。トシローも」
「お、おう?いいけど、サカキンの何を知りたいんだ?」
「いや、酒木さんの事じゃなくて。お前の」
「俺のぉ?や、別に改まって話すほどの秘密はないと思うけど」
「しっかし……」
酒木にエルボーされた鳩尾をさすりながら、栃木が呟く。
「なんだって、俺を……?別に春の礼なんか、する必要ないのにな」
そこへ、火浦が割り込んでくる。
「お前、見た目通りにニブイんだな」
「あァ?」
「こんだけサービスされりゃ、誰だって気づくぜ?フツー。あの女、お前に気があるんだよ」
あの女と雪を指さすと、すぐに火浦は里見をつれて先に入っていった。
「え……と……?い、池上さんが、栃木をスキ……?」
「ハァ?何言ってやがんだ、あのバンダナ野郎」
「ケ……ケースケ、てめぇぇぇぇぇ!!!!なんで、お前ばっかり!お前ばっかりぃぃい!!」
血の涙を流さんばかりに怒濤の勢いで掴みかかってくるトシローには、「お、おい、やめろっての、トシロー!ちったぁ、落ち着けって」と黒鵜戸も栃木も難儀していると、横合いから酒木が呆れた顔で言った。
「ちょっと、二人とも何じゃれてんの?さっさと行くわよ、こうしているだけでも時間が勿体ないんだから」
「……そういや、以前ニュースで聞いたことがある」
「何が?」
「休日のディズニーランドって、殺人的に混んでいるんだってな」
「まぁ、休日は、どこも混むけどな。けどサカキンの言うとおり、一日は短いんだ。俺達も行こうぜ」
入り口でも散々大騒ぎしながら、黒鵜戸達はディズニーランドの門をくぐったのだった。

「最初に言っとくけど、お化け屋敷などのハウスものには行かないわよ。子供向けだし、時間が勿体ないわ」
「オイオイ、ずいぶん仕切ってんなァ」
「遊園地奉行かよ、お前は」
「あんた達、誰のお金で入場できたと思ってんの?それと、栃木くん。あんたは今日一日ユッキーと二人で回りなさい」
「えっ!む、無理!!」
「何が無理よ、ユッキーの為に言ってんのよ?これは」
「だ、だって、いきなり二人っきりだなんて……ユイナちゃんも一緒に来て?ね?」
「そうそう、黒鵜戸がせっかく大勢で回りたいっつってんだからよ、ここは全員で回るのが一番じゃねぇか?」
「あんたに意見を言う権限はないのよ、栃木くん」
「つか、おい、里見。里見、里見、お前どこ行くつもりなんだ?みんなと一緒にいなきゃダメだろが」
「別行動取っていいって言われたもん、さっき!」
「えっ、でも今ケースケが言ったじゃん、皆で回ろうって」
「さっき、この眼鏡の人が別行動取ってもいいって」
「で、どこ行きたいんだ?里見は」
「えっ……?え、えぇっと、あれ!あの大っきなジェットコースター!」
「……スプラッシュマウンテン?ハン、入ってすぐスプラッシュマウンテンを選ぶなんて、さすがはお子様ねぇ」
「何よ!選んじゃいけないっていうの!?」
「ディズニーランドっていったら、まず最初に乗るのは決まってんでしょ?あれよっ」
「あれって……」
手元のパンフレットを見て、黒鵜戸が名前を読み上げる。
「サンダーマウンテン?」
「大して変わんねぇんじゃねーか?火浦の妹が乗りたがってたやつと」
「全っ然違うわよ、このド素人が」
「ユイナちゃんっ!」
「いいから黙って、あたしについてきなさいッ!ディズニーランドの効率のいい周り方ってもんを教えてあげるわよ」
歩いて十分、並んで一時間、乗って五分――とは、よく言ったもので。
行列に並ぶのとアトラクション間を歩いただけで、昼を回る頃には黒鵜戸やトシローの足もクッタクタに。
それでも女子三人、それから栃木と火浦はピンピンしている。
早い話、くたばっているのは黒鵜戸とトシローの二人だけだ。
「おいおい、何だよ黒鵜戸。だらしねーなァー。デブは仕方ねーとしても、お前までギブアップか?」
「う、うるひぇー」
「あー、運動不足かなァ……」
「運動不足ね。あんた達、二人とも何かの部活に入ったほうが良かったんじゃない?」
「ま、今さら入ったところで、すぐ卒業だがな」
「つーかケースケはともかく、なんでサカキン、そんなに元気なんだ?生徒会って肉体労働だったっけ?」
「ふふん、イベントで鍛えた体力をナメんじゃないわよ」
「そっか。俺も来年からは、毎月出ようかなぁ……」
黒鵜戸の隣に、火浦も腰を下ろす。
「けど、遊園地ってなぁ、ずいぶん金のかかる場所なんだな」
高いのは入場料だけじゃない。
園内で売っている弁当やランチ、飲み物も相当なボッタクリ価格だ。
「何言ってんの、イマドキ小学生だって知っているわよ?それぐらい。あんた、もしかしてディズニーランドは初めて?」
「ディズニーどころか、こーゆーとこ自体が初めてだよ」
「へーっ。あんたんちって、本当に貧乏だったのね」
「余計なお世話よ!!」
「ユイナちゃんってば!」
「なら、今日は楽しめたんじゃない?」
「まーな。ありがとな、黒鵜戸。それと……酒木、お前も」
じっと火浦に真顔で見つめられ、酒木は慌てて言い返す。
「え?あ、あぁ、あたしは誘ってないから!お礼なら黒鵜戸くんだけに言ってあげて!」
「ふふっ。ユイナちゃんったら、照れちゃって」
「照れてないっ!変なこと言わないでよ、ユッキーッ」
「俺も、栃木に言われなかったら誘ってなかったと思うから。お礼なら栃木に」
「いや、俺ァ礼を言われる覚えはねぇよ。そもそも火浦を誘おうって言い出したのはトシローだろ?」
「じゃあ、火浦くんは俺に感謝しなさい」
「ケッ。なんでキモオタ相手に礼を言わなきゃいけねェんだ」
「なっ!?なんで俺だと、そんな態度なんだよー!」
「ふふっ。皆さん、仲が良いんですね」
「このやりとりを見て、どうしてそう思うんだユッキーちゃん!?」
「おバカ同士、気の合うところがあるんでしょーよ」
「俺とこいつを同列に並べるなよなーっ、サカキン!」
「こっちだってお断りだわ!お兄ちゃんとこんなキモオタを一緒くたにするなんて!!」
「きっ、キモオタって……!そんなぁ〜、里見ちゃあぁぁんっ」
里見の毒舌には、雪も引きつった笑顔で黒鵜戸へ囁いた。
「火浦さんの妹さんって、きっついんですね……」
「ま、まぁね……あの子と比べたら、火浦はまだマイルドだと思うよ」
「……さってっと。次、行ってみる?どうする?つってもヒビキンと黒鵜戸くんは、もう無理っぽいけど」
「あ、あー、俺、パス」
「お、俺もパス」
二人ハモッてパスする黒鵜戸とトシローをジト目で睨むと、酒木は相棒に相づちを求める。
「だってさ。体力のない人って、これだから、やぁよねぇ。午後からがディズニーの真骨頂だってのに」
「も、もー、ユイナちゃん、しょうがないじゃない。ここって広いんだし!」
何のフォローにもなっていないフォローを雪がして、腰を下ろしていた火浦が立ち上がり、壁に寄りかかっていた栃木も一同を見渡して言った。
「んじゃあ、帰るか」
「お、おぅ」
よたよたとトシローが立ち上がり、隣で黒鵜戸もボソッと呟く。
「俺、明日、筋肉痛になりそー……」
ダメダメな彼の顔をのぞき込み、心配そうに栃木が声をかける。
「黒鵜戸、大丈夫か?辛いんだったら、あー、俺がおぶってやってもいいんだぞ」
心なしか赤面する栃木を酒木と雪は互いに何事か考え込んだ様子で眺めていたが、言われた張本人の黒鵜戸はというと全力で栃木の申し出を却下した。
「げっ!い、いいよっ、遠慮する!!」
そんな恥ずかしい真似をされたら、二度と浦安には来られなくなってしまう。
「ホントに大丈夫か……?」
「ほ、ホントホント、ホントのホントに大丈夫だから!じゃ、じゃあ皆、帰ろ〜っ!」
キビキビと、だが本当はギクシャクする足を無理矢理動かし、黒鵜戸は元気よく走り出す。
月曜日は本格的な筋肉痛に悩まされるであろう事を、確信しながら――
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