Dagoo2 -Fenrir's Daughter-

ダ・グー2 -フェンリルの娘-

1.一路、東北へ

季節は秋が過ぎ、冬に差し掛かろうという時期。
東京を後にしたダグーがクローカー達と共に向かったのは東北地方、宮城県であった。
仙台駅を出た途端、真正面から北風が吹きつけてくる。
しかしながら「さぶー、さぶぅぅぅ!」と騒いでいるのはランカだけで、ダグーもクローカーも平然としている。
「はー、ここが東北……あんま東京と変わんねぇな、周りの風景」
コートの襟を寄せて呟くキエラに「牧歌的な景色でも期待していましたか?」と薄く笑い、クローカーが地図を広げる。
日本の北エリアへ足を踏み入れたのはクローカーも初めてだ。
これまでは人間の多く住む場所、東京都を重点的に回っていた。
ホテルの位置を確認し、さっさと歩き出す。
「タクシー捕まえないの?」と背後から尋ねてくるキエラへは、「歩いて移動できる距離です」と簡潔に答えて。
目的は観光じゃない。
タクシーに乗って一気に到着してしまったのでは、こちらの求める人材を探せもしない。
「さぶいのだー!ランカはタクシーで移動したいのだ。ダグー、手をあげろ!」
鼻水を垂らした少女に命令されたが、クローカーを追いかけて歩き出したキエラの背に目をやって、彼らが歩いていく方針を曲げないのを確認すると、ダグーは苦笑交じりにランカを宥めに回った。
「ほら、タクシーはお金がかかるから……すぐの距離みたいだし、歩こうか」
するとランカは瞳を輝かせ、ポンと手を打つ。
「お金?金ならクローカーが持っているのだ。クローカー!おかねー!出すのだー!!」
止める暇なく大声で騒ぎ出し、道行く人々が何事かと振り返る。
それでも振り向かないクローカーには感服ものだが、たまらないのはランカと一緒にいたダグーだ。
「ちょ、ちょっと、やめろって、やめろって、あははは、失礼しまーす!」
ランカを小脇に走り出し、その場を猛ダッシュで逃げ去ったのであった……


「往来で騒ぎを起こすのは勘弁ですよ。我々は、目立ってはいけないのですから」
二人に追いついたダグーはクローカーから冷ややかな言葉をかけられて、ランカの兄たるキエラにまで小馬鹿にした調子で肩をすくめられる。
「たくダグーちゃんは、つきあいイイねぇ。ランカなんざ、その辺にほっぽっといて良かったのに」
「いや、そういうわけにもいかないだろ」
反論など右から左へ無視されて、キエラが「おっと」とポケットから取り出したのは携帯電話だ。
「ハイハ〜イ、俺。あぁ、クォードか。そっちは、どぉ?ふんふん、一年経ったら電話で連絡ね。オッケー、判った〜」
やたら軽いノリで通話を終え、クローカーへ話を振る。
「あいつが合流するまで、ここでちょっくら待つとしましょっか」
「いいでしょう」とクローカーも頷き、ダグーにも確認を取ってくる。
「聞こえましたね?あなたの目的とは重ならないかもしれませんが」
「いや、いいよ」とダグーは言葉途中で微笑み、手を振った。
「こっちの探し人も、具体的な場所は判明していないんだ。一応ここでも探してみるよ」
ダグーの探し人であるアイリーンは、日本にいるかもしれないといった漠然とした情報しかない。
アイリーンが日本にいるかもしれないとダグーに教えたのは、インターネットの住民だ。
彼はアイリーンが"フェンリル"を司る団体に属していたとメールに書いて寄越してきた。
フェンリルを司る団体とは何なのか?
ダグーの質問へ情報主は判らないと答え、だが恐らくは動物愛護団体の類ではないかと予想していた。
正式名は『アングルボザード・ホーリーウォー』というのだそうだ。
この団体に、ダグーの探すアイリーンと容姿の酷似した人物がいたらしい。
ここまで判っているのだから、あとは検索で探せるだろうと踏んでいたのだが、これが全く引っかからない。
オンラインには姿を見せない団体なのか。だとすれば、現地調査しかない。
一方のクォードは、一人で東京に残ったままだ。
野暮用があると言っていたが、何の用事かまでは教えてもらっていない。
今の通話では一年後に合流すると言っていたから、たいした用事ではないのかもだ。
「それで……ホテルは、どこを予約したんだ?」
尋ねるダグーへ、キエラが指で真っ直ぐ前を示す。
「あそこだよ。ホテルってか旅館だよな」
前方に見えるのは、木造建築二階建ての小さな旅館だ。
朝食付風呂付一泊三千円の立て看板が入口の横っちょに置いてあり、周辺に車は一台も停まっていない。
「ここらで一番の穴場だそうですよ。ただし、風呂は温泉ではありませんが」
「え〜、普通の風呂は嫌なのだ!せっかく東北に来たんだし、温泉入りたかったのだぁん」
さっそくランカが駄々をこね始めるも、クローカーとキエラは聞いちゃいない。
「へー、見事サビッサビに寂れてんじゃん。まさに穴場」
「でしょう?ここでなら何泊しようと他の客に不審がられることもありません」
他の観光客には怪しまれなくても、宿の主人には怪しまれるのでは?
なんて疑問がダグーの脳裏には浮かんだのだが、そこはそれ、結界やら洗脳やらの力業で強引に何とかするつもりだろう。
なにしろ、同行者は全員が魔族である。人間の常識で考えてはいけない。
部屋に通され、荷物を置いて一息ついた後。
ダグーは、ここ宮城での行動スケジュールを皆と一緒に再確認した。
日中、クローカーとキエラの二人は、それぞれに魔力の高そうな人間を探す。
その間、ダグーはアイリーンの情報を集める。
「ランカは、どうすればいいのだ?」
小首を傾げる妹の頭を撫でて、キエラは、あっけらかんと笑う。
「ここで留守番すんのとダグーのおとも、どっちがいい?」
そんなの、聞くまでもない二択ではないか。
ランカは「ダグーと一緒に出歩くのだー!」と元気よく答え、その方向に収まった。
「それで……夜は?」とのダグーの問いに、クローカーが微笑む。
「一緒の部屋で寝るだけです。食事は旅館でとっても構いませんが、我々は外で食べてきます」
一緒に旅する仲間でありながら、寝る時間以外は、ほとんどバラバラだ。
ダグーが内心少々寂しい気分に浸っていると、ランカがキエラを見上げて尋ねる。
「風呂は、どうするのだ?」
「あ〜。風呂ねぇ、ここで入ってもいいんだけど、どうせなら市内の銭湯行ってみねぇ?」と、これはダグーへ振った話題で、ダグーはキラキラと瞳を輝かせて勢いよく頷いた。
「いいとも!一緒に行こう!!」
あまりにも勢いが良すぎたのか、クローカーには「構いませんが、くれぐれも目立つ真似は、お控えくださいね」と釘を刺され、キエラには抱き着かれる。
「ダグーちゃんってホント、わっかりやすいよなぁ〜。よし、寂しがり屋の人狼ちゃん。夜は銭湯で一緒にホカホカあったまって、その後は一緒の布団にくるまりましょっか」
「そこまで一緒じゃなくてもいいよ」とダグーが断る側で、ランカは思いっきりキエラの脛を蹴り飛ばす。
「だーかーらー!何度言えば判るのだ!ダグーはランカの婿なんだぞ、キエラは手を出すの禁止なのだっ」
人気のない旅館付近で、キエラの悲鳴が響き渡った――

21/03/06 Up


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