DOUBLE DRAGON LEGEND

第五十八話 親子


ルックスや該と途中で別れた美羽達はゼノの案内の元、『檻』の場所まで辿り着いていた。
そこで彼らを待っていたのは囚われのシェイミーとウィンキーではなく、変わり果てた姿となった異形の怪物であった――!
「なっ……なんなのよォッ、アレェ!」
叫ぶや否や、入ったばかりの部屋を飛び出すタンタン。
遅れるようにして美羽も飛び出し、今見たばかりの異物を遠目に眺める。
『檻』の中にいたものは、シェイミーでもウィンキーでもない。
部屋一杯にふくれあがった人間。
いや、かつては人間であったとでもいうべきか。
巨大な肉塊と化した何者かが、部屋一杯に詰まっていた。
人間だった名残なのか頭部に僅かな白髪が見える他、上の方に目鼻口らしきものもついている。
ただし、まともな人間の顔とは言い難く、全てのパーツが中央に寄り集まっていた。
「ゼノ!お下がりなさァいッ、潰されましてよ!?」
美羽が呼びかけるも、ゼノは応じない。
肉塊と睨み合ったまま、部屋の中に踏みとどまっていた。
その額を、汗が一筋滴り落ちる。
忘れるものじゃない。
忘れようもない。
肉塊が発した声は紛れもなく、あの男の声だった……

街から街へ、東から西へ。
あてどなく放浪を続け、行く先で仕入れた品物を遠方で売りさばく。
たまに立ち止まる事があっても、けして同じ土地に永住することはない。
キャラバンとは、そうした人間の集まりだ。
戦災孤児のゼノが彼らに拾われたのは、十にも満たない少年時代。
無愛想で、無口な子供だった。
そうなったのには、訳がある。
殺されたのだ。
目の前で、両親を。
孤児には、よくある話だ。
ならず者に襲われて首をかっ切られた父親の、飛び散る赤い色は永遠に忘れることができない。
赤い、花弁のように広がった血の色を。
無口なゼノを、それでも可愛がってくれたのがキャラバンのリーダー、プレイスだ。
黒々とした髪の、東生まれの男だった。
国籍は捨てた。それがキャラバンのメンバーの口癖だ。
プレイスも東を捨て、放浪の旅に身を投じた。
そのことに彼は後悔していない。それどころか、旅を楽しんでいるようにも見受けられた。
ゼノという名前は、彼がつけてくれた。
昔の名前は呼ばれるたびに両親を思い出して辛くなるから、ゼノも新しい名前を受け入れた。
それから数年、仲間の一人が赤ん坊を拾ってくるまで、ゼノはプレイスに可愛がられて育ち、少しずつ心の傷を癒していった。
血のつながりはなかったけれど本当の息子のようによくしてもらったと、ゼノは思っている。
感謝の気持ちは今もある。
プレイスはゼノの父親だ。ゼノという名前をもらった、あの日から。

そのプレイスと同じ声を、目の前の肉塊が発した。ゼノ、と彼の名を呼んで。
聞き違いではない。聞き違えるわけがない。
低く、それでいて暖かみのある渋いトーン。
幼い自分を包み込んでくれた、優しい父の声だ。
ゼノは面をあげ、顔と思わしき部分へ目をやった。
全てのパーツが中央に寄っていて、到底人間の顔とは思えない。
だが目元に見覚えのある表情を見つけて、ハッとなる。
憂いを帯びた、泣きそうな目。
あれはゼノが間違いを犯した時に、プレイスがよく見せた表情ではないか。
「プレイス……なのか……ッ?」
苦しげに吐き出されたゼノの問いに、肉塊が答える。
くぐもっており聞き取りにくいが、ゼノの想い出に眠るプレイスの声で。
「そう……だ。ゼノ…………お前も…………」
もぐもぐと動いていた唇が、動きを止めた。
続きを待てども、肉塊が話す様子はない。
お前も。
お前も、なんなのだ?
無言で眉を潜めていたゼノは次の瞬間、部屋一帯に広がった殺意に全身を貫かれる思いがして、咄嗟に後ろへ飛び退いた。
それと、同時であった。
「ウヴァアアアァアアアアァアァァァアァァアアアアアアア!!」
大地を揺るがす振動、そして絶叫。
肉塊が発したのだと判る頃には壁が崩れ落ち、三人と肉塊は転げるように廊下へと躍り出た。
「ちょ、ちょっと、何なのよコイツ!さっき、あんたの名前を呼んだみたいだけど!?」
遠く離れた場所にまで一気に脱兎したタンタンが叫ぶのを無視して、ゼノは背中の剣へぼそりと囁く。
「デスアーム」
言葉に反応して形を変えた剣が、彼の身体へ張り付いていく。
プレイスの作ってくれたギミックだ。
シェイミーと二人でキャラバンを離れる前、護身用としてプレゼントされた武器である。
三つの言葉に反応し、それぞれ鎧、剣、乗り物へと変形する。
その強度たるや人間体型のままでもMSと対等に渡り合えるもので、実際に旅をしている間、何度この武器に命を救われたか判ったものではない。
金属の鎧を身に纏い、ゼノは油断なく身構えながら肉塊の出方を伺った。
どのような攻撃に出るのかが未知数であった。
何しろ、でかい。とてつもなく大きいのだ。
このような巨大生物と戦うのは、生まれて初めてである。
天井につかえた窮屈な状態で、真上にくっついた両目がゼノを見下ろしている。
「ゼノ……」
肉塊が呻く。
ドン、と地面が揺れたような気がした。
同時にゼノの身体は跳ねとばされ、数メートル先で壁に激突する。
全身が粉々になるかのような衝撃。ゼノの口端からは血が滴り落ちる。
「……ぐッ!」
口元を拭う暇もなく、続いて襲ってきた風圧に身を屈める。
直後、頭上を大きな影が一閃し、廊下の壁が派手な音と共に粉砕された。
それがプレイスの腕であると判る前に、ゼノは、その場を転がり抜ける。
それまで居た場所の床が抉られ、宙に放り投げられた。
全ては肉塊の腕が破壊したものであり、凄まじい怪力であった。
「ヴヴァア」
肉塊が、また呻く。
呻きながら、腕は胴体とは別の生き物の如く振り回され、ゼノを執拗に追いかける。
そいつを寸前で避けながら、ゼノは徐々に間合いを詰めていく。
一発で仕留めるつもりだった。
プレイスを、これ以上苦しめておけない。
どういう方法を取ったのかは知らないが、彼を変えてしまったのはパーフェクト・ピースの仕業に違いない。
そして恐らく、プレイスを元に戻す方法はないのであろう。
改造されたMSが元へ戻らないのと同様で。
ゼノとて彼を殺したくは、ない。
しかし――
「ッ!」
腕の一閃をかわした、そう思った刹那に油断が生まれたか。
肉塊に拳を突き入れようとしていたゼノは突出した足に突き飛ばされ、またも廊下を吹っ飛んだ。
「ねぇっ!どうして変身しないのよ!?美羽、あんたも見てないで加勢したらどうなの!?」
遠くでタンタンが騒いでいる。
だが床を這って、こちらへ向かってくる蛇を止めたのは他ならぬゼノ本人。
「来るなッ」
短く叫ぶゼノへ、間髪入れずに美羽も言い返す。
「何故ですの?」
「プレイスは……ッ」
言いかける側から丸太棒のような腕が一閃し、ゼノは廊下を転がった。
転がった先で壁を蹴って反転すると、素早く立ち上がって体勢を整える。
「……俺が、倒す!俺が人のままで倒さねばならんのだッ」
「人のままァ!?でも、あんた押されてんじゃないのよォ!」
タンタンは素っ頓狂な悲鳴をあげ、美羽も露骨に舌打ちして彼を咎めた。
「MSが人の姿で戦うのは合理的ではありませんわぁ。何故そうまでして姿に拘るんですのぉ?」
風がうなる。
タンタンのいる場所にも届くほどの風圧だ。
振りかぶる腕、飛び出す脚が邪魔して、肉塊はゼノに近づく隙を与えない。
それでも、いつかは疲れが見えてくるはずだ。プレイスが生き物である限りは。
突っ込みかけて、床を蹴ったゼノが後ろに飛び退く。
ギリギリを風が薙ぎ、髪の毛が数本千切れて飛ばされる。
肉塊は絶えず呻きをあげている。
腕や足を動かすたびにあげているのだと、ゼノは気がついた。
あの巨体だ。動くだけでも相当なエネルギーを要求されるのだろう。
肉塊の口元が苦痛に歪むのを見た。
もう、限界だ。
これ以上、苦しむ彼を見たくない。
次の一撃にかける。
飛び込んで、心臓部分を一気に貫く。
肥大していても器官の位置は、そう変わるまい。
MSには、ならない。
MSになってしまったら、プレイスとの人生を否定することになってしまう。
彼は、人として自分を愛してくれたのだ。
ならば、眠らせるのも人として育ててもらった自分の役目だ。
振り回される腕を寸前でかわし、身を屈めた状態で肉塊の懐に突っ込んだ。
「……うおぁぁぁッッ!!
渾身の拳がプレイスの心臓位置にめり込み、肉塊が絶叫をあげた。
――やった!
そう思ったゼノは、思いもかけぬ事態に見舞われる。驚愕で顔が引きつった。
めり込んだ腕が、徐々に肉塊の内部へ取り込まれてゆくではないか!
引き抜こうとしても、引き抜けない。
余程強くめり込んでしまったのか、いや、違う。
肉自らが動いて、ゼノの全身を取り込もうとしているのであった。
「早く!逃げて、早く!!」
タンタンが叫んでいるが、ゼノにはどうしようもない。
引き抜こうと懸命に暴れるも腕はがっちり肉に挟まれており、やがて周りの肉も彼の上に覆い被さってきた。
「ぐぅっ」
苦しい、息が出来ない。何も見えない。
目の前に広がるのは肉の色。一面が桃色の世界だ。
「ゼッ、ゼノォォォッ!!」
タンタンの絶叫が響く中、午の印は肉に包み込まれ、肉塊に取り込まれた。


――意識が目覚めてくると共に、自分が裸でいることにゼノは気がついた。
ギミックが見あたらない。服もだ。全て肉塊に吸収されてしまったのか。
やけに体が軽く感じる。
肉塊に受けた傷も治っていた。
もしかしたら、自分は死んでしまったのかもしれない。
あぁ、これが死ぬという事なのか。
感慨に耽っていると、見覚えのある少年が歩いてくるのをゼノは見た。
桃色の髪の毛。
子供っぽさを象徴する、大きな瞳。
シェイミー・ロスカーは、いつまで経っても大きくならない子供だった。
そろそろ十五歳になったはずだが、幼さの残る外見を保っていた。
シェイミーはキャラバンの仲間が拾ってきた赤ん坊だ。
焼け跡で置き去りにされているのを見つけてきた。
幼いゼノが世話役を任され、オシメやらミルクやらを与えているうちに本格的に可愛く思えてきて、気がついたら恋人と呼べる関係に陥っていた。
そのことに後悔はしていない。
ただ一つ気になることがあるといえば、シェイミーの世話をするようになってから父プレイスが目に見えて自分の元を離れていった点。
それだけが、ずっと気がかりだった。
初めは赤ん坊の世話で忙しい自分に気を遣っているのかとも考えたが、どうもそうではないらしい。
もしかしたら、彼自身がシェイミーを育てたかったのかもしれない。ゼノに任せるのではなく。
大きくなって、そのことを尋ねてみようとした矢先、MS軍団に襲われて、結局聞きそびれてしまった。永遠に。
「ゼノ?ゼノ、なの?」
シェイミーの呼びかけに、ゼノも応じる。
無言で頷いた彼に、シェイミーが飛びついてきた。
「ゼノ!ゼノッ、また会えて良かった……!」
「シェイミー」
むせび泣く小さな背中を優しく撫でてやりながら、ゼノは囁きかけた。
「ここは、何処なんだ?俺達は死んだのか」
すると涙に濡れた顔をあげ、シェイミーが首を真横に振る。
「うぅん、死んではいないみたい……ただ」
「ただ?」
ぐるりと周りを見渡して、こう締めた。
「取り込まれちゃったんだ。プレイスだったモノに」
「やはり、これはプレイスだったのか……」
できればプレイスに似せた、別の何かであって欲しかった。
だがシェイミーも認めるのであれば、この肉塊は間違いなくプレイスということになる。
シェイミーのくちから語られる処によると、再会したばかりの頃は肉塊ではなかったようだ。
彼はトレイダーに連れられてやってきた。
愛を打ち明け、近寄ってくる彼をシェイミーは拒んだ。
「何故?」
ゼノの問いに少年は目を伏せ、小さく呟く。
「だって、プレイスはお父さんだもん。恋人には、なれない。ボクの恋人はゼノ、あなただけだよ」
シェイミーがプレイスに愛を囁かれた――衝撃だった。
自分には囁いてくれなかった愛を、シェイミーには囁いたのだ。父は。
胸の何処かで、チクリとする痛みをゼノは感じる。
こんな状況でも人は嫉妬するのか。
「父と言っても血のつながりはない。お前にはプレイスを受け入れることもできたはずだ」
そう言うと、シェイミーが勢いよく顔をあげる。泣きそうな目をしていた。
「どうして?どうして、そんなことを言うの?ゼノはボクが嫌いになっちゃったの?」
違う。
もちろん、シェイミーを嫌いになった訳じゃない。
だがシェイミーが拒んだから、プレイスは彼を己の体内に取り込んだ。そうとも言えるのではないか?
愛し合えないのならば、せめて一心同体になろうと。
それでも、まだシェイミーは拒んでいる。
だから、ゼノは襲われた。プレイスに本気で殺されかけたのだ。
誰よりもゼノを大切にしてくれた、父親代わりの男に。
黙りこくるゼノに、シェイミーがしがみついてくる。
「いや!嫌だよ、ゼノッ。ボクを捨てないで……ボクは、ボクは、あなたに捨てられたら、生きていけない……ッ」
「何故だ?」
二回目の何故を発する恋人を見上げ、シェイミーは涙声で答えた。
「だってゼノは、ボクが生まれて初めて好きになった大切な人だもの。ボクは、ボクはきっと、ゼノ、あなたと結ばれる為に生まれてきたんだと思う……!」
話している間も、少年の頬を大粒の涙が頬を伝ってゆく。
「ボクが卯の印だったのも、ゼノが午の印だったのも、偶然だなんて思いたくない。ボク達は出会うべくして出会い、互いに惹かれあったんだ。そうでしょう?ゼノッ」
十二真獣としての印が、二人を結びあわせたのか?
二人が出会ったのは十二真獣の生まれ変わりとして、初めから定められていた運命だったのか。
いや、そうじゃない。
二人が出会ったのは、運命じゃない。
あくまでもキャラバンの気まぐれであり、偶然だ。
二人が結ばれたのは他でもない、二人の気持ちが同時に重なったからではないか。
「シェイミー……それは、違う」
「ゼノ!?」
否定され、シェイミーの瞳が悲しみで大きく見開かれた。
だがゼノには唇を塞がれ、目を閉じる。閉じた拍子に、再び涙が頬を伝った。

ドクン、と周りの壁が反応する。

「……ゼノ」
ゆっくりと唇が離れ、小さく呟くシェイミーを強く抱きしめる。
「シェイミー、俺達が出会ったのは偶然だ。しかし俺とお前が愛し合ったのは、偶然ではない。なるべくして結びついたんだ」
「なるべく……して?」
「そうだ。俺はお前しか見えなかった。お前も俺しか目に入らなかった。ならば、二人が互いに互いを好きになったとしても、何の不思議もあるまい」
再び、ドクン、ドクンと、今度は早い脈拍で壁が振動した。
「ゼノ……ゼノは、ずっとボクしか見えていなかったの?プレイスは好きにならなかったの?ずっと、一緒にいたんでしょう?ボクよりも長く」
少しも躊躇せず、ゼノが頷く。
「プレイスは父親だ。家族としての愛情はあった、しかし恋人にはなりえなかった。俺が愛するのは生涯ただ一人、お前だけだ。シェイミー・ロスカー」
一気に言い放ち、最愛の恋人を抱きしめる。
プレイスに渡すものか、という程の力強さで。
「苦しいよ、ゼノ……」とぼやきながら、シェイミーもゼノの背中へ手を回す。
彼の背中は広すぎて回しきれなかったが、届く範囲でしがみついた。
「ボクも、あなたが好き。一生、ボクを愛してね……ゼノ」
振動が激しくなる。
壁だけではなく、床も動き始めた。
ボコボコと波打った床という床から、真っ赤な血が吹き上げる。
「……ッ!?シェイミー、俺から離れるな」
異変に気づいたゼノは身構えるが、シェイミーは彼にしがみついたまま囁いた。
「プレイス、怒っているんだね。でも脅したって無駄だよ。ボクはゼノを信じているもの」
「シェイミー……?」
訝しがる恋人には目線で頷き、なおもシェイミーはプレイスに話しかける。
二人を取り込んだ、かつての父親へ。
「例え完全に取り込まれたとしても、ボクは、あなたとは混ざり合わない。ボクの命はゼノのものだ。ここでボクが死んだとしても、ボクの魂を好きにしていいのはゼノだけだ」
「オ……」
暗く、くぐもった声が応える。
声は、やがて長く尾を引き、次第に大きくなってゆく。
「オォォオオオオォォォォォオオオオオッッッ!!」
絶叫が轟き、周りの壁という壁、いや床までもが激しく脈打った。
シェイミーを抱きしめたゼノも立っていられず、腕の中の少年を守るかたちで尻餅をつく。
揺れは止まらない。腕の中で、シェイミーもぎゅっとゼノにしがみついた。
しがみついて、叫んだ。
「プレイス、あなたが本当に、あなたの言うとおり死者だとしたら……死者は死者の国へ帰るべきだ!ここへいちゃ駄目なんだッ。ボクを、ボク達を少しでも愛していたのなら……あなたとの想い出を、これ以上傷つけないで!」
耳元で吠えるプレイスの声と揺れる床と壁に挟まれて、ゼノは自分の意識が、また何処か遠くへ飛ばされるような衝撃を感じた。


「な……なんなのよぉ?もー、説明しなさいよね、ウィンキー!」
ガックガックと揺さぶられ、部屋の隅で気絶していたウィンキーは意識を取り戻す。
取り戻して見てみれば、ハテ、閉じこめられていたはずの部屋は跡形もなく崩壊しており、本来ならいないはずのタンタンが額に青筋を引きつらせて仁王立ちしている。
傍らには美羽の姿もあり、ゆっくり起き上がったウィンキーは、ひとまず彼女に状況確認を行った。
「えっと……何が起きたんや?美羽、助けにきてくれたん?」
「何が起きたのかはワタクシ達もお尋ねしたい処ですけれど」
美羽は、すまして答えた。
「今のワタクシに言えるのは、どうやらアナタ方を無事に救出できそうだという事だけですわぁ」
廊下に出たウィンキーは裸で気絶しているゼノとシェイミーを見つけて、慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫かシェイミー!?」
脈拍に異常はない。大丈夫だ、二人とも生きている。
あれだけ巨大にふくれあがった肉塊は、美羽とタンタンの見守る前で突然四散した。
弾けた風圧で美羽とタンタンも壁際まで吹き飛ばされたが、その際にウィンキーを見つけた。
倒れている人物がウィンキーだと判ったのは、見覚えのあるモヒカンのおかげだ。
彼は牛ではなく、人間の姿で転がっていた。
さっそくタンタンが駆け寄って叩き起こした、というわけである。
「あっれ〜?オレ、元に戻っとんのと違うか!?」
今頃になって大騒ぎするウィンキーを横目に、美羽が二人をピシャピシャと叩き起こす。
先に目覚めたゼノは真っ先にシェイミーを探し、傍らで気絶する彼を見つけると安堵の溜息を漏らした。
「お帰りなさいませ。まったく、ここでアナタに死なれたら大損失でしたわぁ」
美羽の皮肉へ頷くと、ゼノはシェイミーを抱き上げて立ち上がる。
「行こう」
謝罪も何もなしとは。
だが美羽はあれこれ文句も言わず、肩をすくめただけだった。
「ちょーっと!待ちなさいよぉ」
彼女の代わりにタンタンがギャンギャン喚いて後を追いかける。
「さ……喜ぶのは後にして。ここを逃げ出しますわよぉ」
一人喜ぶウィンキーを促し、美羽も歩き出した。
これだけ派手に戦闘してしまったのだ。帰りも思いやられる。
帰り道は美羽の予想通り、困難を極めたのだが。
「これしきの雑魚に何を手間取っている!」と乗り込んできた鳳凰の助勢により何とか窮地を脱し、美羽ら一行は何とか逃げ出すことに成功した。
ただし、その中に該とルックス。二人の姿は、どこにも見あたらなかったのである……

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