DOUBLE DRAGON LEGEND

第五十六話 共に手を取って


葵野と坂井が異変に気づいたのはサーカスの終演後、友喜と合流した時だった。
「どこを探してもいないって?トイレでも行ってんじゃねーのか」
訝しがる坂井に、友喜がくってかかる。
「なわけないでしょ!?何時間トイレに行っている計算になるのよ!第一用を足すにしても、司なら必ず、あたしに言うはずだし」
すっかり平常心を失っていた。無理もない。
いなくなったのが司ではなく坂井だったら、葵野だって同じようにパニックに陥っただろう。
司がいなくなったのは、サーカスが終わる頃だったという。
公演中は意識をサーカス団に奪われていたので、正確な失踪時刻は不明だ。
彼は消えてしまった。煙を掻き消すが如く、友喜の隣から。
「それで、ギルギスさんは?彼もいなくなっちゃったの?」
葵野の問いに、友喜は泣きそうな顔を更に歪めた。
「エロカメレオンなら、公演の前からいなくなってたわ」
同一時間じゃない、そのことに少しだけ葵野はホッとする。
同じタイミングで姿を消していたら、きっとデキシンズは司の誘拐犯に仕立て上げられていたに違いない。
友喜辺りが言い出しそうだ。
ところが安堵の葵野を裏切るかのように、別の人物から疑惑が放たれる。
「……野郎、もしかしてスパイだったのか?」
「スパイ?」
双竜がハモるのへ頷き、坂井は顰め面で答えた。
「ギルギスだよ。あいつが、司を誘拐しちまったんじゃねぇのか?」
「でも、どこに?」
友喜が当然の疑問をくちにし、葵野は露骨に嫌悪を示す。
「ギルギスさんは、俺とお前を助けてくれたんだぞ!なんで彼が司をさらわなきゃいけないんだ」
「それもそうだよな」と、あっさり坂井は前言撤回する。
誘拐するのであれば、何も疑われるようなタイミングでやる必要もない。
そもそも相手は伝説のMS、前大戦の英雄『白き翼』である。
いくら姿を消せるといっても、一介のMS如きに誘拐できるとは思えない。
「……或いは」と、友喜が続ける。
さっきまで泣きそうだった癖に、もう落ち着きを取り戻し始めているようだ。
「毛むくじゃらも、誰かに連れ去られた……?」
「だが、その場合も『どうして?』だよな」と、坂井。
いずれにせよ、ここでああだこうだと推理していても始まらない。
司もデキシンズも、いなくなる理由は勿論のこと、拉致される理由もないのだから。
「それはそうと、司はサーカスで何をするつもりだったんだ?」
話題を切り換え坂井が友喜に尋ねると、友喜は少し悩んだ後、持論を述べた。
「たぶん……多分だけど、司は庶民を味方につけて情報操作がしたかったんだと思う」
キョトンとして葵野がオウム返しに尋ね返す。
「情報操作?」
友喜は頷き、あくまでも仮説と称して先を続けた。それによると、こうだ。

軍隊の協力が得られないとあらば、民衆を煽るしかない。
その為には、各地を放浪する輩に噂を流してもらう。
サーカス団やキャラバンが、うってつけだろう。
噂の中身は、なんでもいい。
パーフェクト・ピースに対する噂なら、何でも。
奴らがMS殲滅を隠れ蓑に、人類滅亡を企んでいるとでも噂してやればいいのだ。
人は噂を信じやすい。
自分を迫害する者には、強い敵対心を抱く。
民衆の敵をパーフェクト・ピースと位置付けてしまえば、パーフェクト・ピースも彼らを無視できなくなる。
民衆を傀儡しようという手段に出るだろう。
彼らの代表と話し合おうとするかもしれない。
その時に司、或いはシェイミーの力を使えば一発だ。
群衆に紛れてクレイドルに近づき、彼の眼を覗き込む。
一度素直な心になってしまえば、説得も簡単。
パーフェクト・ピースの名が示す通りの目的を、彼に与えてやればいい。
すなわちMS撲滅ではなく、完璧な平和。人類平和を目指した活動へと軌道を修正してやるのだ。

「そう上手く、いくかねぇ?」と、首を傾げたのは坂井。
友喜も浮かぬ顔で言い返した。
「だから仮説だって言ったじゃない」
司が何をしようとしていたのか?
きちんと彼の口から聞いたわけではない。
民衆の力を借りる。そう説明されただけだ。
後は葵野のペースに乗せられて、こんな処まで来てしまった。
もっともサーカスを見に来た件に関しては、葵野だけを責めることはできない。
初めて見るピエロや初めて聞いた音楽に心を惹かれて、友喜自身、浮かれてしまった責任はある。
浮かれるあまり、不審人物のデキシンズを見失ってしまったのは痛かった。
「あいつ、結局何者だったのかしら?」
デキシンズについて友喜が話を振ると、坂井は首を捻って答えに詰まる。
「さぁな。ババァの兵士にしちゃあ、妙な感じはあったが……かといって、パーフェクト・ピースの手下とも違うんだよな」
「そうよね」
そこは友喜も同意だ。
「改造MSじゃなさそうだったし、でも創造MSにしちゃ弱そうだったし」
「もうっ!」と、葵野が二人の詮索を断ち切らせた。
「ギルギスさんが何者かなんて、それこそどうでもいいよ!彼は俺と坂井を助けてくれた。それだけで充分じゃないかっ」
えらく憤慨している。
素直な葵野のこと、デキシンズに対する疑いなど微塵も持っていないのだろう。
自分にとって、敵か味方か。
葵野の悪判断は、いつもシンプルである。
やれやれと肩をすくめて坂井が友喜を振り返る。
「確かに毛むくじゃらが何者かと今さら詮索したって、どうにかなるもんじゃねぇな。友喜、とにかくサーカス団の連中に会って、まずは話し合いといこうぜ。司が本当は何をするつもりだったにしろ、お前はそうした方がいいと判断したんだろ?」
「えぇ」
コクリと頷き、友喜も坂井を見つめる。
「民衆を扇動する作戦は、けして悪くないと思うの。まずはパーフェクト・ピースが民衆の味方、っていうイメージを皆の頭から消さないとね」
言われて、坂井は律子の話を思い出す。
突如東大陸に現われた移住民の軍団は、MS追放を声高に叫んでいる――
女帝健在の今はまだ、耳を貸す人間も少なかろう。
しかし女帝亡き後、或いは政権が崩壊すれば?
どうなるかは言うまでもない。
中央国は移住民に占拠され、移住民の支配が始まる。
東がパーフェクト・ピースに乗っ取られてしまう。
その時になって、慌てて立ち上がっても遅いのだ。
MSが平穏を得る為には危険分子、つまりパーフェクト・ピースを東から追い払う必要がある。
移住民の意識も、MS追放から戦争反対へ鞍替えさせなければいけない。
誰だって口先だけでMSが追放できるとは、思っちゃいまい。
必ず、戦争は起きる。
虐げられれば前時代のように、MSは必ず反乱を起こす。

サーカス団の小屋を訪ねた三人を出迎えたのは、看板娘のトァロウであった。
彼女は葵野と坂井を覚えていて、会うなり該やウィンキーの話を根掘り葉掘り聞きたがった。
「そう……じゃ、今は二人とも一緒じゃないのね」
がっかりした様子で呟いたかと思えば、慌てて立ち上がる。
「あ、ごめんね?私ばっかり話しちゃって。お茶を煎れてくるから、適当にその辺に腰掛けてて」
その彼女を引き留めたのは、友喜だ。
「あ、待って」
見知らぬ少女のストップに一瞬はキョトンとなったトァロウも、すぐさま営業用笑顔で尋ね返した。
「なぁに?お嬢ちゃん」
「あ、挨拶が遅れちゃったね。お嬢ちゃんじゃなくて、友喜よ」
「はいはい、友喜ちゃん。それで……なぁに?」
コホンと一つ咳払いして、友喜がまっすぐトァロウを見つめた。
「あのね。いきなりやってきて変なことを聞くかもしれないけど……パーフェクト・ピースって知ってる?」
トァロウの目が丸くなる。
「パーフェクト……ピース?何それ」
別の団員が横から口を挟んできた。
「あれじゃないか?今朝、テントの前で大声を張り上げていた迷惑な奴ら」
「なんだ?その話、詳しく聞かせてくれ」と坂井に促され、団員は戸惑いながらも話してくれる。
「なんだって言われても……朝、テントを張り終えた頃ぐらいだったかな。白い服を着た変な連中がゾロゾロやってきて、拡張器を片手に騒ぎ始めたんだよ」
「あ〜!いたいた、そういえばいたわね、そんな人達」
トァロウも頷いて、葵野を見やった。
「昼は広場でビラ配りしていたんだけど、その時も見かけたわよ。白い服の人達」
「それで」と、友喜が間に入ってくる。
「どんなことを騒いでいたの?その人達」
「さぁなぁ……ちゃんと聞いていた訳じゃないから」
頭を掻いて悩む団員の横で、トァロウがポンと手を打つ。
「……あ、思い出した。そうそう、なんかすっごく物騒なことを騒いでいたわ」
葵野も身を乗り出して尋ねた。
「どんな風に物騒だったの?」
「えぇっとね。MSを滅ぼすとか、荒れ地に追放するとか」
言って、トァロウは軽快に笑い飛ばす。
「そんなの無理よね!」
「大言壮語だよなー」と、団員も即座に同意したので、友喜は尋ねた。
「どうして?」
どうしてって?と二人は困惑に顔を見合わせ、トァロウが聞き返す。
「だって、MSよ?とっても強いのよ。友喜ちゃんは知らないかもしれないけど、力も体力も普通の人以上なのよ?そんなのを、どうやって追放するっていうの?無理に決まってるじゃない」
「とは、限らねぇんじゃねぇか?」
坂井の言葉へトァロウと団員が怪訝に眉を潜める。
「例えば?」
「説得を続ければ、自分から出ていくかもしれない。或いは、MSを使って強制的に追い出せば」
即座にトァロウが否定した。
「まさか!」
「そんなことをする理由がないだろ、MSに」
改めてケルゲイと名乗った団員は、三人を見渡した。
「立場を、自分に置き換えて考えてみろよ。パーフェクト・ピースとやらに味方して、何のメリットがあるんだ?金か?人質か?なんにしても今いる奴らを追い出したら、次は自分がターゲットになる。そんなもんに荷担したって損するだけだ。君達もMSなら、それぐらい判るだろ」
「そりゃあな」と、肩をすくめて坂井は頷いた。
一般論で考えれば、ケルゲイの言うとおりだ。
だからこそ、判らない。
作られたMDや改造MS、創造MS以外の一般MSが、彼らに荷担する理由が。
「それにしても……」
友喜が呟いた。
「あなた達、どこからどう見ても、西の人間よね。それにしては、パーフェクト・ピースよりもMSのほうを信頼しているのは何故?」
それは、と奥へ視線を走らせ、トァロウが意味ありげに微笑む。
「私達のサーカス名を考えれば、一目瞭然だと思うけど」
「サーカス名?」と首を傾げる友喜の横で、葵野が声をあげる。
「サーカス一座どうぶつ団、だよね?」
「ご名答。じゃ、私達の言う『どうぶつ』って、何だと思う?」
続けての問いには葵野もハテナとなり、看板娘にはクスクスと笑われる。
「聞いていないかな?ウィンキーや該から。それか、タンタンでもいいけど」
不意に坂井の脳裏に浮かんだ会話は、初めて該やタンタンと会った時の記憶だった。
タンタンは曲芸、該は火の輪くぐりをやっている。
あの時も妙に思ったのだ。
タンタンの曲芸はともかく、火の輪くぐりなんて、どう考えても動物の役どころじゃないか。
勢いよく椅子を蹴って立ち上がった坂井が、大声で叫ぶ。
「MSか!」
「そうよ」
トァロウは笑い、ケルゲイも苦笑した。
「人間を動物扱いするのは失礼だけど、考えたのは団長だからね」
「でも、何故?」
「何故って、そりゃあ」
ケルゲイの言葉を引き継いだのは、張りのあるバリトン。
「経費が安いからだよ。動物を飼育するのは人間を雇うよりも高くつくからね」
振り返ると、口元に髭を讃えた中年の男性が渋い笑みを浮かべて三人を見つめていた。
失礼、と会釈して男が名乗る。サガル・マンデス、このサーカスの団長である。
「公演が終わると、皆、元の姿に戻って奥で休んでもらっているの」
トァロウが言い、ちらりと奥へ目をやった。
「それじゃ、このサーカスにいる動物役は全てMSなんですか?」
葵野の問いに団長は頷く。
「だから私達は、パーフェクト・ピースなんて怪しげな者の言うことには耳を貸せない」
「仲間を裏切ることになっちまうからね」とは、ケルゲイの言い分である。
トァロウも口添えした。
「MSって西じゃ、すごく恐れられているけど、私達にとっては、そうでもないのよね。つきあってみると、いい人ばかりだし」
「じゃあ、考え方としてトァロウ達は東寄りなのね?」
友喜の問いには首を真横に振り、サガルは微笑んだ。
「東だの西だのといった思想は関係ないよ。私達は放浪の民だ、どちらにも依存しない」
あるがままを真実として受け止め、そこから生まれた自分の考えを大切にする。
東や西を渡り歩くうちに、自然と身につけた知恵なのだろう。思想と置き換えてもよい。
何故司がサーカス団の連中と接触したがっていたのか、葵野には判ったような気がした。
彼らには先入観がない。
東の民のように盲目的にMSを崇拝したり、西の民のように無闇にMSを畏怖しないのだ。
サーカス団がこうなら、同じように各地を放浪しているキャラバンや放浪の民も同じ気持ちを抱くはずだ。
「それなら、あなた達に頼みがあるの」
友喜の切り出した交渉は夜更けまで続いた。
しかし話し終わる頃にはサーカス団の誰もが納得し、噂を振りまく約束をしてくれたのであった。


――さて、皆は忘れていないだろうか?
東に潜伏したまま、動きのない連中がいることを。
「おい、いつになったら合図があるんだ?」
何度聞かされたか判らない文句を今日もギルに言われて、ミスティルは眉間に深い皺を寄せた。
「さぁな。交渉が難航しているのやもしれん」
彼に言われずとも、司から何の連絡もないのは妙な話だ。
司だけじゃない。該も美羽も何を手こずっている。たかが救出如きに。
「俺達のこと、忘れちまってるんじゃねぇだろうなぁ……白き翼様は」
「ここで隠れている事に、何の意味があるのかしらね?」とは、ギルと同じく新顔の女。
名をドミアといい、豹に変身する。
「司の策が無意味だと言いたいのか?」
ジロリと睨みあげるミスティルの間に入ってきたのは、オウムのミミルだ。
「あ、あ、喧嘩は駄目です鬼神様ぁ!ギルもドミアも早く戦いたいだけなんです?ね?そうよね?」
「失礼なのねー!」と間髪入れず横合いから、けたたましい声があがる。
「あなた達と違って、ミスティルは喧嘩したりしないのね〜。だって、彼はリーダーだもの!」
リラルルだ。得意げにミスティルの腕を取る彼女を、ミミルが憎々しげに睨みつける。
喧嘩は別の場所で始まりそうだ。
眉間の皺を、ますます濃くして、ミスティルは二人を叱りつけた。
「静かにしろ」
実を言うと、司の案には彼自身も文句を言ってやりたかった。
何故、俺が新参者のリーダーにならなければいけない?
十二真獣を分散させた方がいい。
そう言い出したのは、新参のロゼッタとかいう女だった。
司は彼女の案を採用して、十二真獣を四等分した。
本拠地の防衛にアリアとアモスを残し、該と美羽にはシェイミー達の救出を任せた。
そして司本人は葵野や坂井と共に、東の大国を説得しに行ったのである。
ミスティルとレクシィの二人に、全ての新参者を押しつけて。
D・レクシィは控えめな少女だ。
従ってミスティルがリーダー役になってしまったのは、当然のなりゆきといえよう。
だが、彼は前衛で戦いたかった。
ガキどものお守りなど、まっぴら御免だ。こういうのはアモスか該の役どころではないのか。
「森で隠れている間に、全ての戦争が終わっちまったりしねぇだろうな?」
ギルが、ぶちぶちと不吉な独り言を呟く。冗談じゃない。
しかし司と美羽の実力を考えると、あり得ない話ではないから余計に困る。
あの二人は本当に強い。たった一人で戦局をひっくり返すほどの強さを秘めている。
前大戦を共に戦い抜いてきたミスティルだからこそ、断言できるのだ。
純粋にパワーだけで比較するなら、ミスティルや該のほうが強い。
しかし、あの二人には策がある。状況に応じて、小賢しく回る知恵があった。
加えて、満月の日に発動する戌の印の能力。
司と目を合わせたが最後、K司教だろうがクレイドルだろうが自我を守り通すなど不可能であろう。
――戦争は終わって欲しいと思う。だが、自分が活躍できないのは嫌だ。
そういった複雑な想いを抱えて、ミスティル率いる一同は森に潜伏していたのであった。
「ね、街を見に行ってみない?」なんて勝手を言い出したのは、小柄な少女。
名前は……「駄目よ、キャサリン!」そうそう、キャサリンだ、キャサリン。
急に仲間が増えすぎたせいで、もはやミスティルには誰が誰やら把握できなくなっている。
駄目よと叫んだ少女にも、見覚えがなかった。
ガラガラ声にソバカス顔。これだけ特徴があるというのに。
「いいじゃない」とキャサリンは強固に言い張り、上目遣いにこちらを見上げてきた。
「ね、いいですよね、鬼神様!街の様子を探ってくるのも、活動の一環だと思うんです!」
「駄目だってば!私達の担当は潜伏でしょ!?潜伏が目立ってどうするの?」
「うるさいなぁ、そんなに怖いならカッズはココに残っていればいいでしょ!」
キャサリンは脳天に突き刺さるキンキン声だが、カッズはガラガラ声で気に障る。
二人に挟まれる格好となったミスティルは、心底辟易した表情で吐き捨てた。
「蓬莱都市の様子が気になるのは、俺とて同じだ」
「なら!」
期待に輝くキャサリンを見下ろし、短く命じる。
「行ってこい。ただし見つかった場合は、こちらへ逃亡してくるな」
「ハイ!追っ手を撒いてこいってコトですよね!がんばりまっす!!」
やたら気合の入った返事をして、早速キャサリンが走り出す。
カッズも慌てて同行を申し立てようとするが、それよりも早く鬼神の背後から彼女を促す声が聞こえた。
「お行きなさい。彼女が心配でしょう?あなたが彼女をサポートしてやるのです」
「は、はいっ!」
勢いよく頷くと、カッズはキャサリンの後を追いかける。
「あの二人は友人関係だったのか?」
振り返りもせず尋ねてくるミスティルへ頷くと、彼の背後に控えていたネオドールは小さく微笑んだ。
「彼女達だけでは心配です。もう一人、偵察を向かわせましょう」
「……よし」
ぐるりと見渡したら、ギルと目があった。命じるよりも先に彼が吠える。
「俺が行ってくる。文句はねぇよな?」
ねぇよな?と聞きながら、ミスティルがOKを出さぬうちに狼へと変化した。
行く気満々だ。ミスティルも、彼に任せてみようという気になった。
何もやることがないのなら、新人の能力テストでも行ってみれば退屈しのぎになるかもしれない。
「よし、行け」
自信満々に狼は頷き「あぁ!朗報を期待して待っていろよ」と言い残し、弾丸のように飛び出していった。
軽はずみな行動が、どのような結果を味方へもたらすかも深く考えずに。

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