DOUBLE DRAGON LEGEND

第五十四話 暗闇の取引


「午の印が戦闘を?……そうか、判った」
通信を終え、トレイダーは戻りかけていた足を止める。
監視塔からの連絡だった。
カメラが捉えた映像に残っていたのは、午の印の他は猿と猪と蛇。
兎の姿もあったという。
間違いなく、十二真獣の美羽と該であろう。
兎というのはシェイミーではない。奴らの仲間にいた小娘か。
猿の印を捕らえたという報告は入ってきていない。彼らは共に逃走したらしい。
だが、ゼノがシェイミーを置き去りにするとは到底考えられない。
彼らは必ず、ここへ戻ってくる。
「……あれを使う時が来た。そういうことか」
ポツリと呟き、トレイダーが踵を返す。
地下へ続く階段を降りていった。


一方――
東大陸にある小さな村、琺瑯に到着した葵野達は、ひとまず酒場に落ち着いた。
「老酒一杯、それと葵野、お前は何にする?」
椅子に腰掛けながら注文をかます坂井に促され、葵野もメニューに目をやる。
東で日だまり亭以外の店へ入るのは、実に久しぶりだ。
律子の店にはないメニューが、ずらりと並んでいる。
戸惑う葵野の横から手があがり、友喜がテキパキと注文した。
「泡汁二つ、それと司は麦酒でいいよね?」
「えっ、あっ」
慌てる葵野をジロリと睨み、友喜が不機嫌に言い返す。
「何?力也は泡汁嫌い?」
そんな顔をされては嫌いとも言えず、葵野は曖昧に頷いた。
「い、いや、いいよ。うん、泡汁は嫌いじゃないし」
だが実際の処、泡汁は苦手な飲み物だった。
若者に人気のある、果実汁を泡立てた飲み物である。
一応汁とついているが、泡を飲むと言った方が正しく、料金を損した気分になる。
あれなら麦酒のほうが、ちょっぴり苦いものの、まだマシだ。
「老酒がお一つ、泡汁お二つ。それと麦酒がお一つ。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」
店員が繰り返すのへ、笑顔で割り込んできたのはデキシンズだ。
「おいおい、お嬢ちゃん。俺には聞いてくれないのかい?」
「お嬢ちゃんじゃないわ。ユ・キ」と、友喜は素っ気ない。
「スマンスマン、友喜お嬢ちゃん」
馴れ馴れしく剛毛男が握ってきた手を、力一杯振り払う。
「気安く触らないでくれる?あとココ四人がけの席だから、あなたは一人で向こうに座ってよね」
初見から友喜はデキシンズに対して刺々しい。露骨に嫌悪を見せている。
ツンケンした態度には葵野のほうが気後れしてしまい、彼は、そっと司へ救いを求める。
「ねぇ……友喜、どうしちゃったんだろ?どうしてギルギスさんのこと、あんなに」
司も厳しい表情を浮かべているのに気がついて、葵野は驚いた。
険しい視線をデキシンズへ向けたまま、司が小声で囁き返してくる。
「僕としては、君と坂井君が彼を信頼しているほうに驚いています」
「え?だって、彼は俺と坂井を助けてくれたんだよ」
思いがけぬ言葉だったのか、キョトンとする葵野。司は重ねて尋ねた。
「君の国の兵士は、女帝の命令に絶対服従ではなかったんですか?」
「え?あ、まぁ」
「なら、どうして彼は命令に背いて君と坂井君を脱出させたんです。おかしいじゃないですか」
司の表情が険しいのは、出がけにセクハラされたから……というだけではなかったようだ。
彼は疑っている。デキシンズの真意を。
恩人を貶され気分を害した葵野は、そのまま黙り込む。
司と共に、無言でデキシンズの動きを目で追った。
友喜に言われたとおり、彼は坂井たちのいるテーブルではなく隣の席に腰掛けた。
「で、だ。これから、どうするんだい?英雄さん方は」
さっそく椅子を引っ張ってきて話しかけるもんだから、友喜には怒られる。
「もう!あっちに座っててって言ったじゃないッ」
「まぁまぁ、そう怒るなよ、友喜嬢ちゃん」
「馴れ馴れしく呼ばないでってば!」
「おい友喜、怒鳴んなよ。目立ってしょうがねぇだろうが」
終いには坂井が口を挟み、窘められた友喜は思いっきり頬を膨らませてソッポを向いてしまった。
「フーンだ!達吉は毛むくじゃらの味方なの。ガッカリだわ」
「別に味方なんか、していねぇだろ?お前の声がデカすぎるっつってんだよ!」
生意気な友喜の態度に、ついつい坂井の声も跳ね上がる。
確かに彼女の大声が目立っているのは認めよう。
だが、それとは別に先ほどから店員達が、チラッチラと葵野を見ているのも気にかかる。
首都から離れているとはいえ、一応ここも東大陸の一端だ。
不用意に葵野の名を出したのは、まずかったかもしれない。
「ハッハハハ!反抗期だなァ、お嬢ちゃんは」
喧嘩の原因、デキシンズは暢気に笑っている。
かと思えば椅子をガタゴト引きずって、こちらへ近づいてきたので葵野は不機嫌な表情を和らげた。
「お嬢ちゃんには嫌われちまったみたいだ。王子様、こっち座っていいかい?」
「え?あぁ、どうぞどうぞ」
「あなたは――」
不意に司がくちを開き、ハッとなって葵野が見やる。
デキシンズは、全く何の警戒も抱かず「うん?なんだい、英雄様」と頷き返した。
「中央国の兵士、でしたね」
「あぁ、元がついちまったけどな」
「どうして、美沙女帝を裏切ったりしたのですか?王子と虎の印を逃がすのは、彼女の命令に反する行為でしょう」
ひた、と司に見据えられてもデキシンズは顔色一つ変えない。肩をすくめ、茶化してみせる。
「そうだな。けど、俺は困っている奴らを見捨てるほど冷血漢じゃァない。それに、虎の印には憧れてもいるんでね。憧れの人を助けるのは、当然だろう?」
「憧れ?」
尋ね返す司へ頷き、デキシンズはウィンクを飛ばす。
「あぁ、俺は十二真獣のファンなんだ。勿論白き翼、あんたのファンでもあるんだぜ」
「……それは、どうも」
このタイプの手合いは苦手だ。友喜の隣へ座り直そうと、司は席を立つ。
だが椅子と一緒にデキシンズもついてくるので、勢いよく振り返った。
「なんで僕の後をついてくるんですか?坂井君が好きなら、彼の隣へ座ればいいじゃないですか」
「言っただろ?俺は、あんたのファンでもあるって」
「でも本命は――」
言い争いかけたところへ、先ほどの店員が注文の品を運んでくる。
次々と置かれていくコップを横目に坂井が友喜の様子を伺うと、ふてくされていたはずの彼女は、ぼんやりと窓を眺めていた。
もう機嫌が直ったのか。
大人びているように見えても、まだまだ子供だ。
「おい、来たぜ?泡汁」
コップを差し出してやるが、友喜の返事は坂井の予期していたものとは全く異なった。
「サーカスが来てるのね」
ポツリと呟いた彼女の言葉に、坂井の眉毛は怪訝に釣り上がる。
「あぁ?」
友喜の呟きへ応えたのは、店員だった。
「あぁ、今、サーカス団が公演に来ているんですよ。なんて言ったかな……」
思わず葵野も口を挟む。
「サーカス一座どうぶつ団?」
「あぁ、そうそう!そんな感じの名前でした」
パッと顔を輝かせ、店員が頷き返す。
「おい、また見に行こうなんて抜かすつもりじゃねぇだろうな?」
間髪入れず葵野を牽制する坂井だが、横合いから司が挟んできた一言には驚愕する。
「あとで行ってみましょう」
「お、おいッ!お前まで何寝言を抜かしてやがんだ!?今は、そんな状況じゃねぇだろうが」
仰天の坂井に、しかし司は大真面目に首を振って否定する。
「いえ、僕はサーカスに用があるんです」
「えっ、じゃあサーカスを見る為に、ここへ来たとか?」
瞳を輝かせて葵野が尋ねてくるのへも、真剣に頷いた。
「えぇ。正確には見るのではなく、団員の人達に用があるんですけどね」
答えている側から葵野には腕を引っ張られ、司は無理矢理立ち上がらせられる。
「じゃ、じゃあ行こう!見よう、見に行こう!!」
「な、何張り切ってんの?力也ったら」
「おい葵野、お前まで何トチ狂ってやがんだ?」
友喜と坂井の同時ハモリにも葵野は振り向いて、キラキラした笑顔で促してきた。
「坂井と友喜も早く!早くいかないと、サーカスが終わっちゃうぞ」
「大丈夫ですよ、お客さん」
苦笑しながら、店員が突っ込む。
「サーカスが始まるのは、夜ですからね」
かくして。
夜になって妙に張り切る葵野を筆頭に、一同はサーカスの公演場所へと赴いたのであった。
サーカスのテントが目前に迫る頃には、ぐちぐち文句を呟いていた坂井も諦めつつあった。
言いたいことは山とある。
しかし葵野はともかく、司や友喜までもが乗り気でいるんじゃ三対一。勝ち目がない。
「ん?ギルギスのヤロウはドコ行ったんだ……」
到着してすぐ、坂井は人混みの中でデキシンズを見失う。
キョロキョロしていると、腕を取られた。葵野だ。
ニコニコと、しまりのない笑顔を浮かべて坂井を見上げてくる。
「なーに喜んでやがんだよ。バカみてぇに」
ツンと額を軽く突いてやると、葵野は嬉しそうに言った。
「ね、これってデートみたいだよね?」
「……ハァ?」
またしても素っ頓狂な発言に坂井がポカンとしている間も、葵野のノロケは止まらない。
「考えてみれば二人っきりで、こうしてサーカスを見るのって初めてじゃないか?」
「二人っきり?何言ってんだよ、ツカサやユキも一緒だろうが」
「一緒じゃないよ?」
「ハァ?」
平行線な会話に、坂井が素早く左右に視線を走らせると、一緒にいたはずの司や友喜の姿までもを見失っていることに気がついた。
「お、おい、あいつらまでドコ行っちまったんだ?」
泡を食う彼に、葵野が説明する。
「ここからは別行動だって、さっき司が言ってたよ。坂井、全然聞いてないんだから……」
聞いていないも何も周囲はワイワイガヤガヤ、人の声でうんざりするほど騒がしい。
この中で司が何を言ったのかなんて、覚えていられる方が奇跡じゃないか。
「別行動だと?ったく俺達を置き去りにして、あの二人は何を企んでやがるんだ」
「サーカス団に聞きたいことがあるんだってさ。でね、俺と坂井はサーカスを楽しんでてくれって!」
「ホントに言ったのかよ、あいつらが」
いつもポヤンとしている葵野が騒然とした中で司の言葉を拾っていたとは到底信じがたく、坂井は何度も聞き返してしまったが、葵野の返事は変わらない。
ついでにデキシンズの居場所も尋ねてみたが、彼は司と一緒に歩いていったという。
友喜が同行を許すとは思えないし、強引についていったのであろう。
「……なら仕方ねぇ。あいつらの用事が終わるまで、サーカスでも見ておくか」
渋々承諾する坂井の腕を引っ張り「だね!」と、嬉々として葵野が走り出す。
ぐいっと引っ張られる形でオットットとよろけながら、坂井もつられて走り出した。
「お、おい、そんな急がなくても平気だって!」
「平気じゃないよ。良い席が取られちゃうじゃないかっ」
大はしゃぎしながら、やがて人混みに紛れて二人の姿は見えなくなった。

「……あれ?毛むくじゃらは?」
サーカス内部に入った辺りで、友喜と司の二人もデキシンズを見失う。
ピッタリ真後ろをついてきていたはずの、あの男は、二人が席を決めた頃には姿が消えていた。
「ねぇ、司。どうしよう?毛むくじゃらを、ここで見失うなんて」
さっきまで散々「ついてこないでよ!」と大騒ぎしていたにもかかわらず、友喜は眉根を寄せている。
いなくなったらいなくなったで、今度は別の不安が増してきたらしい。
すなわち、彼が敵のスパイではないかという疑惑だ。
デキシンズは中央国の正規兵士ではない――というのが司と友喜、二人の見解である。
ただ、友喜が最初から敵視しているのに比べ、司は慎重であった。
裏切るにしても敵にしても、王子と虎の印を逃した後、どこへも誘導せず司の行き先に任せている。
この点が、どうしても引っかかる。何故彼は、行動を起こさない?
「あっ、暗くなってきた!始まるよ?」
司の思考は友喜の声で一旦停止を余儀なくされる。
袖を引っ張られ、司の意識も舞台へ向いた。
折しも舞台端からは象に乗ったバニーガールが姿を現わし、会場一帯が拍手で包まれる。
公演の始まりだ。
ドラが大きく鳴らされて、バニーガールと入れ違いにピエロが顔を出す。
一番後ろの席に陣取った友喜と司は、ひとまず公演を見始めた。

異変を感じたのは、公演も半ば頃だっただろうか。
舞台では双子の美人姉妹が空中ブランコを披露していた。
誰かに太ももを触られたような気がして、司はビクッと体を震わせる。
しかし、自分の隣には友喜しかいない。
彼女は舞台に、すっかりオネツで、一時も目を放さず夢中になっている。
――なんだろう?
気のせいかな、と思い直して席を座り直す。
直後、生暖かい息が耳元にかかり、ぞわりと司は総毛立つ。
慌てて後ろを振り向くも、背後には誰もいなかった。
そりゃそうだ、自分が座っているのは一番後ろの列じゃないか!
不思議がる司の太ももを、そろりそろりと見えない何かが足の付け根へと這ってゆく。
――なんだ?
そう考える暇もなく、見えない手がズボンの上から司の大切な部分を、ぎゅっと掴んでくるものだから、司は危うく悲鳴をあげそうになり、自分の両手で口元を押さえる。
「……声を出すなよ?英雄さん」
低い声が耳元でした、ような気がした。
「だっ……誰……っ」
言いかけた司の目が、驚愕に見開かれる。
ズボンのチャックが誰も触っていないはずなのに、ジーと音を立てて下げられていくではないか!
「な、なんだ、これ……?」
驚いている間にチャックが大きく開かれたかと思うと、今度は布の上からではなく直に金玉を握られた。
ひッと喉を鳴らして悲鳴を飲み込んだ司の耳に、またしても先ほどと同じ声が囁く。
「隣のお嬢ちゃんには見られたくないだろ?だったら、声を出さないよう気をつけるんだな」
見えない何者かに後ろから抱きかかえられている。
背後に当たるのは柔らかいもの、そう、例えるならば人間の肉体だ。
だが、いかに司が目を懲らそうとも、そこにあるはずの人の姿は、どこにもない。
椅子に座ったままの格好で、しかし実際には誰かの膝へ座らされるようにして、大事な部分を触られている。
金玉をいやらしく揉んでいた何かが、つぅっと竿を伝わり尿道を突いた瞬間、今までにない奇妙な感覚に司は体を仰け反らせた。
「んんっ!」
出そうになった声を、見えない片手に塞がれる。
「声を出すなって言ってるだろ?」
耳元で囁く声には聞き覚えがあった。
これは、デキシンズの声じゃないか?
「次からは、自分でくちを押さえろよ」
「デ……デキシン、ズ、なのか……?」
声の主は違うともそうだとも答えず、僅かに笑っただけだ。
何が目的だ?
そう尋ねようと再び開きかけた司の口を甲高い悲鳴が飛び出そうになり、慌てて両手で自分の口を塞ぐ。
股間を弄っていた方の手が尻の穴に入り込んできたのだ。
中で指を動かされるたびに、司の全身を痺れるような感覚が走り抜ける。
「さて、と……白き翼様の性感帯は、どこかな……?」
小さくデキシンズが呟いた。
不意に指の動きが激しくなり、そのたび出かかる悲鳴を司は両手で必死に押しとどめた。
じわりと涙が双眸に滲む。意識していない涙だ。
涙を気にする余裕もない。
今の司に出来るのは、ただひたすら悲鳴を我慢する。それだけだった。
「英雄様、後ろも前も触られるのは初めてかい?」
デキシンズの指が、ずぶずぶと深く突っ込まれる。
「んっ、んん……!」
耐えられない。これ以上、触られるのも突っ込まれるのも!
だが逃れようにも、背後からガッチリ抱きかかえられているのでは身動き一つ取れやしない。
つん、と突っつかれた肉の内部に軽い痺れを覚えた。
それも、先ほどまでとは比較にならないほどの強い刺激だ。
「ふっぁッ!」
押さえつけていた口から、喘ぎが漏れる。
心臓がドキドキと激しく脈打った。この動悸、まさかこれは――
信じられない思いに、再び目の前の視界が滲む。
嫌だ。
僕は、こういう行為、絶対に嫌なのに……
しかし意識とは裏腹に、体は勝手に感じ始めている。
「おっ。ここか」
同じ箇所を何度も指で突かれて、司は身を強張らせる。
やめろと叫ぼうとした言葉が喘ぎに変わりそうになり、必死に両手で口を押さえた。
尻の穴が熱い。
デキシンズの見えない手が、司の乳首を軽く摘む。
「んあッ」
ビクッと体を震わせる司を見下ろし、嘲笑うかのような囁きが降ってきた。
「……可愛いな。千年生きた英雄でも、快感には抗えないのか」
司が身をよじればよじるほど自然と体が密着し、デキシンズの股間に尻をこすりつけるような形となり、反動で指がぐっと中に突っ込まれ、腕の中の英雄が小さく喘ぎを漏らす。
無意識だろうか。
口元を押さえていたはずの両手は、見えないはずのデキシンズにしがみついていた。
「英雄さま、俺の声は聞こえているか?取引がある」
ぼんやりと白い霞のかかる頭で、司はデキシンズの声を聞いた。
「虎の印、或いは、あんたをマスターの元へ連れていきたい。どっちがいい?」
「ど、どっちって、どっちかを差し出せとでも言うつもりか!?」
一瞬だが強い意志が司の瞳に蘇る。しかし、意志は指の動きの前に四散した。
「く、ぁっ」
「おぉっと、反撃は禁止だ。あんたが答えるのは二つに一つ、それだけだ。どうする?坂井を差し出すか、あんたが大人しく俺についてくるのか」
快感にかすむ目で、司は友喜を盗み見た。
なんてこった。彼女は全く気づいていない。
司が隣で散々痴態で悶えていたというのに、聞こえてもいなかったようだ。
サーカスの鳴らす音楽と周りの歓声が、届くはずの声も掻き消してしまっていた。
「い……くッ」
「ん?」
「い、一緒に……いく、から、だから……ッ」
坂井を無断で人身御供にするわけにはいかない。
それに、自分を求める相手とは一体何者か。
パーフェクト・ピースか、或いはジ・アスタロトなのか。
それとも全く別の第三者だとしても、会っておく必要があろう。
自分なら切り抜けられる自信が、司にはあった。
こんな風に、卑猥な手さえ使われなければ。
「いいだろう。だが、おかしなマネをされないよう、このままで行くとするぜ」
「……え?えっ!?」
ぐいっと身を起こされ、立ち上がらせられる。
弾みでチャックから出てはいけないものが飛び出して、司は焦った。
「や、ちょ、ちょっと待ってくれ、これは」
自分の股間へ目をやって、恥ずかしさのあまり目を逸らす。
ダメだ、直視できない。
なんで、こんなものが僕にはついているんだろう。考えるだけでも嫌になる。
「ん?あぁ、悪い悪い、隠さないとヤバイよな」
密かに鬱る司とは対照的に、至って陽気にデキシンズは笑い飛ばすと、開いたままのチャックから侵入し、勃起したままのモノをぎゅっと握りしめた。
「んァんッ」
反射的に自分でも信じられないほど高い声が出て、かぁっと司の頬が赤らむ。
「シッ。静かにしろって……こんな格好、友喜嬢ちゃんに見られたら困るだろ?」
「だ、だったら手を……放して、くれ。あ、暴れたりしない……からッ」
涙目で訴えると、ややあってから股間を触っていた手が解かれる。
「さ、いこうぜ」
友喜の様子を横目で伺いながら、未だ姿を消したままのデキシンズが促してくる。
司も、もう一度彼女を一瞥してから、そっと音もなく立ち上がった。
友喜……ごめん。
別行動を取るけれど、僕のやろうとしていたことは、君が必ず為しえてくれ。

果たして司の想いは友喜に伝わったのか。
デキシンズに連れられて去っていく司には、知るよしもなかった……

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