DOUBLE DRAGON LEGEND

第五十三話 V.S


第九研究所。
パーフェクト・ピースが所有するMS研究用の施設。表向きは、そうなっている。
その実態は改造MSや創造MS、果ては量産型MDを製造する施設であった……

監視カメラの死角沿いに走っていた三匹の獣は、不意に背後から呼び止められる。
「――おいッ、止まれ!そこの二人!!」
つい先ほど廊下へ出てきたばかりの人物の気配に、迂闊にも気がつかなかったとは。
小さく舌打ちして蛇が振り返る。猪は後ろを向いたままだ。
二人、そう呼び止められた。
タンタンも一緒にいるのだが、相手には兎の姿が見えていないらしい。
該の影に隠れているせいだろう。
「何ですのぉ?」
「何ですの、じゃない。なんだ、お前ら?見かけないツラだな」
MSの格好で見かけないツラも何もあったもんじゃない。
「失礼ね、何処にでもいるような蛇ですわよぉ」
平然と受け答える美羽に、男が近寄ってくる。
「そうか?どうして変化したまんまで走り回っているんだ。それも、コソコソと」
「別にィ。コソコソとなんて、しておりませんわぁ」
側へしゃがみ込んだ男が、美羽の全身をジロジロと眺め回す。
顔から始まり、目、鱗の模様まで、じっくりと、舐め回すように。
視線のいやらしさに、横目で盗み見していた該は内心むかついた。
だが、美羽がいいと言うまでは黙っている事にした。そうしないと、彼女に怒られる。
「そうか、じゃあ質問を変えよう。お前らは何故、用もないのにMS化していたんだ?」
「先ほどの休憩時間で」
チラ、と蛇が猪を振り返る。
「そこの人と睦み合っておりましたの」
一体何を言い出すつもりだ?
気が気じゃない該に代わって、今度はタンタンが気を悪くする。
「でも、すこぉし時間をオーバーしてしまいまして……それで、急いで戻ろうとしておりましたのよ」
「ふぅん……」
男の視線は美羽に釘付けだ。猪を見ようともしない。
その口元が、不意に嫌なふうに歪んだ。
「てことは、お前はオンナで間違いないってことだな?」
「え?」と思わず振り返りそうになる該だが、美羽にジロリと睨まれて慌てて後ろをむき直す。
「さっきから、気になっていたんだ。お前の声……オトコにしちゃ高すぎる。それに、体にも気を遣っているな?鱗がツヤツヤだ」
「あらぁ、お褒め下さっても何も出ませんわよぉ」
男が立ち上がり、白衣を脱ぎ始める。
美羽は勿論のこと、該にも男が何をしようとしているのか判ったが、あえて彼は美羽の命令を辛抱強く待ち続けた。
「ヘッヘッ、休憩時間にオトコと乳繰りあっていた。当然、このことは誰にもヒミツにしておきたいよな?」
男を値踏みするような目つきで睨み付けて、蛇も尋ね返す。
「……何が言いたいんですの?」
「たとえコイビトでも、勤務時間中にイチャつくのは禁止されてんだぜ?知らなかった、とは言わせねーぞ」
服を脱いでいる間にも、男の息は荒くなってゆく。興奮しているのが丸判りだ。
「あらぁ、では何故アナタは服をお脱ぎになっているのかしらぁ?」
目の前で粗末なモノが取り出されるのを眺めながら、美羽は悠然と問い返した。
対して、男の答えは単純で。
「黙っててやるから、人の姿に戻れ。ヘヘ……判ってるだろうが、服を脱いでケツを差し出しな」
貧相な全裸を露わにして、鼻息荒く美羽の体を要求してきた。
度重なる男の態度に該の怒りは爆発寸前だ。
「ワタクシは構いませんけどぉ、それではアナタも罪に問われるのではなくて?」
しかし美羽は平然としており、ジロジロ眺め返すほどの余裕っぷり。
「お前はチクるようなオンナじゃない。自分と、そこのヤロウの身が危うくなるもんなぁ?」
ビシッ!と猪を指さし、男が勝ち誇る。
「まだグダグダ抜かすようなら、その可愛いオクチに無理矢理突っ込んでやってもいいんだぜ」
チロチロと舌を出しながら、美羽は監視カメラの向きを確認する。
依然、死角には間違いない。
続いて左右の扉へも視線を動かすと、男が先を読んだかのように言ってきた。
「安心しろ。今、この練の部屋にこもってんのは俺ぐらいだ」
「他の人は?」
「あ?聞いてねーのかよ、さっきの館内放送」
美羽の問いに男は一瞬眉を潜めたが、すぐに思いなおす。
「あぁ、そうか。乳繰りあってて聞こえもしなかったってか、ゴチソウサン」
卑猥な視線に辟易しながら美羽がもう一度同じ質問をしてやると、男はニヤケ顔で答えた。
「殆どが別練で警戒中だ。なに、猿が一匹迷い込んできて、その余波で他棟にも警備を増やすって方針に変わったのさ。それが、ついさっきの放送だ。まぁ、あとは監視塔の連中と俺みたいなサボリが、こっちの練にいるってわけで」
「そこまで聞けば充分だ」
「――えっ?」
身構える暇も与えず、猪の牙が迷わず男の尻穴を直撃する。
一瞬で間合いを詰めてきたかと思うと、下から勢いよく突き上げられて、悲鳴をあげることなく男は悶絶した。
「……酷いことをなさいますのねぇ」
呆れる美羽に振り返ると、暗い目で該が答える。
「君に無礼を働く、この男が許せない。そう思ったんだ」
恋人の嫉妬百パーセントな回答にも、美羽は素っ気ない。
「あとで、ご自分で洗って下さいませね。その、牙」
少しでも援護が遅ければ、彼女は間違いなく、さっきの男に犯されていたはずである。
なのに恩人を冷たくあしらう美羽に憤慨したのはタンタンで、該の影からサッと飛び出すとキンキン声で怒鳴りつけた。
「ちょっと、アンタ!」
だが次の瞬間には猪に押さえつけられ、「ぶぎゅぅっ」と蛙の潰れた声をあげて無理矢理黙らさせれる。
「静かになさぁい?オチビさん。ここで騒いでしまっては、全てが台無しになりましてよ」
オマケに美羽には見下され、しかし彼女の言葉は正論で、タンタンはグギギと歯がみするしかない。
「猿……というのは、ウィンキーかしらぁ?」
美羽の問いに、タンタンを押さえつけたままの該が答える。
「……いや、違うな。ウィンキーはキリングに肉体を乗っ取られていたはずだ」
「では……」
続きを聞くまでもない。
無言で頷く該の足下で、小さなキーキー声が尋ねてよこした。
「なによ、二人だけで納得してないで最後まで言いなさいよっ。誰なの?侵入してきたオサルって!」
途端に美羽には哀れんだ目つきで見下ろされ「な、なによ」とタンタンが狼狽える中、小さく溜息をつき、該が答えた。
「奴らが血眼になって捕獲を急ぐほどの相手だ。侵入者は、ただの猿ではあるまい。恐らくは、俺達の探していた十二真獣。猿の印だろう」
ポツリと呟かれ、タンタンが驚きに目を見張っているうちに、今度は天井からストンと何かが降りてくるもんだから、美羽も該もハッとなって身構えた。
「待って!」
いましも飛びかからんとする蛇にストップをかけたのは、降りてきた張本人。
茶色の毛並みに、小柄な体躯。長い尻尾を見てタンタンが囁く。
「お……オサル?」
小さな猿はコクリと頷き、三人の顔を見渡した。
「そうです、僕はオサル……っていうか、猿のMSです。どうか僕の話を聞いて下さい」
猿のMSことルックス・アーティンは該の予想通り十二真獣の一人、猿の印であった。
いつ、自分がそれだと気づいたのかと美羽に問われ、彼がぽつぽつ話したところによると――
「では君の育て親、テリア・アーティンは独自に石板の研究をしていた……と?」
「そうです」
該の問いに頷いて、ルックスは僅かに俯いた。
「でも、それを丸々エジカ博士に横取りされちゃって」
テリアの恨みを晴らすべくエジカと接触しようとしていた矢先、博士がMSに拉致されてしまった為、救出するつもりで、ここへ来たのだという。
「救出なさったあとは、どうするおつもりかしらぁ?」
「どう、とは?」
質問の意味が判らず問い返す猿へ、重ねて美羽が聞く。
「過去の罪を責めた挙げ句に、殺すおつもりかと聞いているんですのよ」
「まさか!」
即座に否定し、猿は俯いた。
「僕は、ただ……謝って欲しかっただけです、母さんに」
テリアの研究を盗んだ罪。それを償って欲しかった。彼女の墓の前で。
僅かに瞳を潤ませて語るルックスに、タンタンはすっかり貰い泣きで同情している。
しかし美羽と該は、彼の話を信じかねていた。
まず、話の原点であるテリアの存在からして、どうにも胡散臭い。
大規模な研究を行う場合は、それなりの設備や人材といった準備が必要である。
最後は暴徒に石をぶつけられて死んだそうだが、自分の身も守れない奴が石板の調査とは片腹痛い。
研究を盗んだ件にしても、あの温厚で誠実そうなエジカ博士が?
にわかには信じがたい。
だがルックスの話は全てが嘘、というわけでもあるまい。
少なくとも、エジカに対して彼は怨恨を抱いている。それだけは口調を通して伝わってきた。
「それで?博士は今、どちらに監禁されていらっしゃるのかしらぁ」
美羽の問いにルックスが顔をあげる。
「博士なら、僕が安全な場所へ移しておきました」
「安全な場所?」
オウム返しに聞き返した該へも頷き、博士を寝かせておいた部屋を教えると、美羽には嘲られた。
「何処かと思えば、この施設内でしたのぉ?では、安全とは言い切れませんわねぇ」
「なによ!」
猛然反発したのはタンタンで、なんとしたことか彼女は、うっすら涙ぐんでいるではないか。
先のルックスの身の上話を聞いて、すっかり同情してしまったらしい。
「もし安全じゃないっていうんなら、あたし達が助け出して安全にしてあげればいいんだわ」
そうでしょ?ルックス。と同意を求められ、ルックスも頷く。
「僕達にしても、ここで話し合っているのは時間の無駄です。まずは十二真獣を助け出し、次いで博士も連れ出して脱出を謀りましょう」
どうする――?
該が目で尋ねると、美羽は黙って頷く。了解と取り、該はルックスへ答えた。
「シェイミー達は別の棟で囚われている。そう考えて、間違いないか?」
すると猿は小首を傾げ、考え込んでしまう。
「……違うんですのぉ?」
再度美羽にも尋ねられたが、彼は小さく呟いたのみだ。
「別の棟を警備……?じゃあ、僕が見たリフレクターは一体」
薄い膜で覆われた部屋。
ここへ入り込んだばかりの頃に見た場所だ。
あれこそがリフレクターであり、十二真獣の囚われた部屋ではないのか?
「リフレクターって?」
三人のハモリ声にはハッと我に返り、言い直した。
「あ、いや、何でもありません。僕も警備されている別練は怪しいと思います、行ってみましょう」
「怪しいと……思う?」
あやふやな言葉尻を聞きとがめ、該が聞き返すも、廊下の向こうから迫ってくる鋭い殺気に、美羽を咥えて横に飛んだ。
直後、ルックスとタンタンが同時に悲鳴をあげる。
「キャア!」「がはッッ!?」
致命傷とまではいかなかったものの、今の不意討ちは、かなり効いた。
勢いよくドテッ腹を殴られたルックスは、一瞬意識が飛びかける。
受け身を取り損ない、小さな猿は廊下を何度もバウンドした。
何が起きたのか確かめようと、顔をあげた猿は首根っこを掴まれ、釣り上げられる。
「あ……あんた、まさか……?」
故意か偶然か攻撃を食らうことなく、ルックスの真横にいたタンタンは奇跡的にも無傷だった。
彼女は、ぺたんと廊下に座り込み、視線は突然の来訪者へ釘付けになる。
美羽を足下へ降ろし、該も小さく呟いた。
「ゼノ……?」
タンタンの前に仁王立ちし、ルックスの首根っこを掴んでいる大男こそ、十二真獣が一人、午の印。
ゼノ・ラキサスであった。
背中には、いつもの剣。大きな剣を背負っている。
初めて出会った時と同じ、人の姿で現われた。
「ど、どうして?どうやって抜けだしてきたの?」
にしてはMSへ変化することもなく、シェイミーも連れていないというのは、おかしいじゃないか。
「ウィンキーとシェイミーは?一緒じゃないの?ねぇ、何か答えなさいよ。も〜、無口なのも時と場所を選びなさいよね!」
不審がる該とは正反対に、タンタンの顔は見る見るうちに安堵の色に染まってゆく。
足下で美羽が囁いた。
「おかしいですわぁ。監視塔が彼の脱走に気づかないなんて」
声には出さず頷いて、該がゼノへ声をかけた。
「捕まっていたと聞いたが、無事で良かった。他の二人は、どうした?」
「それは、今あたしが聞いたじゃない!」
キーキー騒ぐタンタンを見据え、続いて猪にも目をやったゼノは、やがて口を開く。
「邪魔だ」
「え?」
キョトンとするタンタンに、重ねて命じた。
「美羽と該をつれて、さっさと帰れ。俺の邪魔をするな」
「ちょ……!じゃ、邪魔って、何よ!あたし達は、トンマなあんた達を助けにきてやったのよ!?それを」
最後まで言い終わらせてもらえず、横から該に首根っこを咥えられて宙づりになる。
寸前まで彼女のいた場所に大剣が振り下ろされ、タンタンの文句は舌の先で凍りついた。
「なっ……」
「それが返答?……ワタクシ達を、裏切るおつもりかしらぁ?」
睨み付けてくる美羽に、そうだとも違うとも言わず、ゼノは全くの無言だ。
大剣が振り下ろされた床には亀裂が走っている。それだけでも、剣の威力が判ろうというもの。
彼の戦いを見たのは、砂漠の一戦っきりだ。ゼノは一度も変身していない。
もっと言うなれば、美羽は彼が変身した姿を一度も見たことがなかった。
ゆっくりと剣を構え直し、再度ゼノがぼそりと言う。
「三度目は言わない……俺の邪魔をするな。さっさと帰れ」
受け答えたのは、該だ。
「帰れと言われて、大人しく帰るわけにもいかない」
「ちょっ、ちょっと待って?まさか、あんた戦うつもりなの!?」
慌てたのはタンタンだが、美羽もまた然り。血気はやる該を軽く睨み、窘めにかかる。
「オチビさんの言うとおり、そんな暇はありませんわぁ。残り二人と博士を捜さなくてはいけなくてよ」
「だから!オチビさんって、ゆーな!!」
左右へ素早く視線を動かし、該が応える。
「本気で やりあうつもりはない。俺が隙を作る、美羽はルックスを取り返したらタンタンと共に別練を目指せ。俺も後から行く」
「あのオサルさん?彼を、どうして?」
聞き返す美羽に、すかさずタンタンが噛みついてくる。
「どうしてって、彼がエジカ博士の居場所を知ってるからに決まってんでしょ!そうだよね、ガイ?」
「それもある。あるが……」
「あるが、何よ?じれったいわねぇ、一気にチャッチャと言いなさいよ!」
話そうにもタンタンのマシンガントークに阻まれて、該は言葉に詰まる。
「引き返すつもりはない、のか」
おかげで、一気に迫る殺気への反応が遅れた。
間一髪。
臓物をぶちまけるのだけは、どうにかこうにか避けたが、腹をざっくりやられて該は大きく後退した。
「該ッ!」
廊下に美羽、そしてタンタンの悲鳴が響き渡る。
間髪入れず「平気だ!致命傷ではないッ」と該は叫び返し、一転して突進する。
血が、ぼたぼたと廊下に垂れて、赤い線を刻んでゆく。
「……やせ我慢を」
鋭い牙に臆することもなく、ゼノは真っ向から該の突進を受け止めた。
牙と金属がぶつかり合う音が響き、両者は一旦間合いを取り直す。
いや、取り直そうとするゼノを該は逃がさなかった。
すかさず突進し、下から突き上げようとする。
しかしゼノも然る者、伊達に生身でMSと渡り合える男ではない。
大剣を盾に牙の貫通を防ぎきり、両者は再び睨み合った。
激しい戦いの中においても、ルックスの首筋は放される事もなく。
プラン、プランと吊り下げられながら、ルックスはゼノを観察する。

――コイツは何故、僕を狙ったんだ?

該は彼をゼノと呼んでいた。つまり、こいつが午の印なのだ。
該達はゼノを助けに来た。でも、何故か当の本人は拒否している。
ルックスを捕まえたまま、戦いを始めてしまった。
そもそも、なんで僕はゼノに殴られたんだ。しかも首根っこまで掴まれて。
午の印に乱暴される理由なんて思いつきもしない。
それもそうだ、ゼノとは今日が初対面なのだから。
コイツに、僕のちからは効くんだろうか?
ふと思いついたルックスは、じっとゼノを見上げてみる。
ゼノの意識が始終、該へ向けられていると知った彼は、いきなりゼノの腕に噛みついた。
つゥッ」
首根っこを掴むちからが緩み、手が離れた。
その隙を逃さず、ルックスは器用にクルンッと一回転すると、床へ着地する。
「猿が……!」と血相変えて睨まれても、ルックスはちっとも怖くない。
身軽な動きで美羽の元まで走ってくると、くるりと振り返ってゼノへ尋ねる。
「何故、僕を狙った?僕に何の恨みがあるんだ」
「お前を捕まえれば、シェイミーが釈放される」
ぼそりと応える彼に反応したのはタンタンだ。
「何それ?それを先に言いなさいよォ、バカねぇ!」
言えば協力でもしたんだろうか。ルックスの捕獲に。
「要するに」
美羽がまとめに入る。
「シェイミーを人質に取られているから、侵入者を捕らえに来た……と?」
「……そうだ」
素直に頷くゼノを、ジロリと睨み付けて美羽は吐き捨てる。
「オバカさん」
「利用されて終わるだけだぞ」と該にも責められ、ふっとゼノの体から殺気が消えた。
見れば彼は項垂れて、すっかり意気消沈している。
「……すまない」
小さく呟き、再び顔を上げた時には殺気の代わりに憂いの表情を浮かべて、ゼノは言った。
「万が一の可能性に、かけてみたかった。俺のせいでシェイミーが殺されるよりはマシだと思ったのだ」
なんとなく彼が気の毒になり、さっきまで責め立てる側にいたはずのタンタンはゼノの味方に回る。
「ま、まぁ、戦う理由も判ったんだし、いいんじゃない?そのへんでやめといてあげたら」
「ま、オチビさんの言うことにも一理ありますわねぇ」
蛇も溜息をつき、該の足下まで這いずってきた。
「悪いのはゼノではなく、約束を持ちかけた人物ですものね」
「だーれーがーっオチビサンだってぇの!!あんた、いい加減しつっこいわよ!?」
キーキー喚くタンタンをガン無視し、該も美羽へ頷き、続いてゼノへ尋ねた。
「誰なんだ?お前に、その約束を取り付けてきたのは」
間髪入れずゼノが答える。
「トレイダーだ」
「トレイダー!まぁぁぁった、あの男なの!?」
再びテンションの高まるタンタンを横目で睨み、美羽が叱咤する。
「静かになさぁい?それと、詳しい話は移動しながら聞きますわ」
ちらと彼女が監視カメラを見上げたので、タンタン以外の誰もが把握する。
ここで騒ぎすぎてしまった。
きっとカメラを通じて、監視塔とやらにも情報が伝わってしまった頃だろう。
「二人が囚われているのは別の練なのかしらぁ?」
美羽の問いにゼノは首を振り、きっぱりと断言する。
「いや、この練だ。奥にトラップの仕掛けられた場所がある」
つい先ほどまで一緒に囚われていたのだから、断言できて当然だろう。
その答えに美羽と該は顔を見合わせたが、ルックスは一人合点した。
やはり、自分の見た部屋が囚われの檻で正解だったのだ。
では別練に集まっている、警備とは何だ?少し気になったが、今は人質救出を優先するべきだ。
ちょこちょこと走り出し、皆を誘導する。
「行きましょう!その部屋なら、僕も知っています」
真っ先にタンタンが「おー!」と、かけ声勇ましくルックスの後へ続き、ゼノ達も後を追いかけた。

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