DOUBLE DRAGON LEGEND

第十四話 約束


キングアームズ財団に所属して長い者には、各個人に私室が与えられる。
御堂美羽の部屋も、そうした私室の一つであった。
該を招き入れ、扉に鍵を下ろすと、彼をベッドへ座らせた。
「再会を祝して、まずは乾杯といきましょうか?それとも、今すぐ先ほどの答えを聞きたい?」
見下ろす形で尋ねれば、目線はシーツに落とした格好で該が小さく呟く。
「先ほどの答えが先だ」
「いいですわぁ。では、服をお脱ぎなさい」
「――!?」
弾かれたように顔をあげる彼の隣へ腰掛けると、美羽は同じ事を命じる。
「聞こえなかったのかしらぁ?ワタクシは服を脱げと命じましたのよ。アナタは、どんな体罰でも受けると言った……フフ、お望み通り体罰を食らわせてやりましてよ」
該は身じろぎ一つしない。
何を躊躇っているのかと苛つく美羽の耳に、聞き取れぬほどの小声が届いた。
「……美羽が」
「うん?」
聞き返す美羽から視線を外し、該はポツリと呟く。
心なしか頬を赤らめて。
「美羽が、脱がして欲しい」
恥じらう様が可愛くて、美羽は彼をもっと虐めてやりたくなった。
「あらぁ、ワタクシの手を煩わせるなんて悪いオトコですわねぇ。服ぐらい、ご自分で脱げない年頃でもないでしょう?さっさと、お脱ぎなさぁい」
ズボンの上から股間を膝で押してやる。
「さぁ、さっさとなさい?脱がないと、アナタのココが使い物にならなくなりましてよ」
グリグリと膝で押しつぶしてやると、該は痛みに呻いたが抵抗する素振りもない。
「み、美羽……ぁっ」
抵抗するばかりか美羽の膝を掴み、さらに潰せと言わんばかりに引っ張った。
目には涙を浮かべているくせに痛みを強要するとは、どういった心境なのであろうか。
「あらぁ、アナタ、膝で大事な処を潰されているのに、感じていらっしゃるの?とんだ変態ですわねぇ。なら、これはどうかしらぁ?」
該のズボンを脱がし、股間に生えた肉棒を外気の元に晒した。
さらに足の指で根元を挟んでやると、彼は小さく悲鳴をあげる。
「あっ……はッ、み、美羽……!」
体が歓喜に震えている。いたぶられているというのに、感じているのだ。
「嫌ですわ、やっぱり感じていらっしゃるのね?足で踏まれて感じるだなんて、アナタ、いつからそっちの趣味に目覚めましたのかしらぁ」
口では嫌と言いつつも、実に楽しそうに美羽が該の竿を足の指で扱いてやると、そのたびに該の体は大きく仰け反り、艶っぽい喘ぎを断続的にあげ続けた。
「フフ、さぁ、次はどうして欲しいのかしらぁ?このまま挟み続けるか、それとも」
グニグニと形が変わるほどに玉袋も足の指で揉んでやると、該の口からは涎と共にお願いが飛び出した。
「美羽、美羽、も、もっと、もっと強く、強く踏んでくれッ……!」
顔を上気させて哀願する該など見るのも久しぶりで、美羽の中でも何かが激しく燃え上がる。
「あら、そう。でも、アナタのお願いをかなえて差し上げる訳にはいきませんわぁ。願いを叶えてしまったら、それは体罰になりませんものね。フフッ」
足の指で玉袋をぎゅっと挟んでから不意に開放した。
該の口からは痛みとも快楽ともつかぬ苦しげな声が漏れたが、それには構わず、今度は覆い被さる形で彼の股間へ口元を寄せると美羽は悪戯っぽく微笑む。
「該のココ……久しぶりに拝見しましたわぁ。随分、逞しくなったのではなくて?」
「ば……馬鹿を言うな」
息がかかってくすぐったいのか、ぶるっと体を震わせた該も軽口につきあう。
「そんな処、鍛えられるはずないだろう。君が見忘れてしまっただけだ」
「あらぁ、ワタクシが見忘れてしまったのは誰のせいだと思っていらして?」
美羽は小さく微笑み、ビクビクと脈うつそれを口に頬張った。
「ふ……ッう……」
舌がレロレロ動くたびに、声にならぬ声を該が漏らす。
それほど気持ちいいのならば我慢する必要もないだろうに、彼は妙な処で恥ずかしがる癖があった。

該と美羽のつきあいは、研究所で生まれた頃から始まる。
研究所――
そこでは、MSを人工的に造り出すという悪魔の研究を行っていた。
そして生まれたのが、十二真獣。
優れた能力を持つ特殊なMSである。
十二真獣と名付けられたMSのうち、今でも前時代の記憶を持っているのは五人しかいない。
いや、神龍が死んだ今は四人だけだ。
白き翼。
死神。
鬼神。
騎士。
それぞれに異名を取り、のちに伝説のMSとまで謳われた者達でもある。
二人は生まれた時から、自分達が十二真獣だと認識していた。
特別な者であるという意識もあった。
やがて黒衣を纏う美羽は死神と呼ばれ、常に真っ向勝負を挑む該は騎士と呼ばれた。
だが当時の該は騎士というには少々頼りなく、どちらかといえば学者肌の平和主義者であった。
泣き虫で臆病で、他のMSにだって負けない強さなのに、肝心の場面で度胸に欠ける。
恋人の美羽が戦いに志願したから、渋々参戦しているといった有様だった。
美羽がいなかったら、実際、何度死んでいたか判ったものではない。
それなのに、彼は美羽の戦い方を否定した。
美羽がいなければ、敵にトドメも刺せないくせに。
殺すだけでは何も解決しない、どんな命でも生きる価値はある。
そう言い残し、彼は美羽の元を去っていった。
大戦も終盤に差し掛かり、平和な世界が見え始めた頃の話だ。
彼がいなくなり、生まれて初めて美羽は涙を流した。
生きることに悲観した。
彼女は悲しみに打ちのめされ、一歩も前に歩けなくなってしまった。
そして情けなく蹲っている自分と、自分を捨てた該。全てのものに腹を立てた。
該が側にいてくれない世界など、滅んでしまえばいい。
そんな想いを浮かべた夜だって数え切れない。
だから――
白き翼が戦争を終結させ、サンクリストシュアが平和宣言を行った時、美羽はキングアームズ財団に身を寄せた。
財団は明らかにストーンバイナワークの後継と呼べる組織で、掲げられた思想は気に入らないものだったけれど。
該のいない世界がどうなろうと、彼女にとって知った事ではなかった。

「該……」
咥えていたものを離し、美羽は優しく微笑みかける。
喘いでいた該も視線を落とし、美羽と目を併せた。
「……ん」
「ずっと、これからはずっとワタクシの側にいなさい。また逃げたりしたら、二度と許しませんわよ」
微笑み、頷く該だが「あぁ、約束す……るッ」と途中で声を引きつらせ、シーツを強く握りしめた。
再び美羽の舌が蠢き、先端を激しく何度も舐め回す。
脳まで痺れるほどの快感に耐えきれず、該は射精し、美羽の喉を強かに白いものが打ちつけた。
彼女の喉が上下し、出されたものを飲み込むのを朧気に見ながら、該は小さく溜息をついた。
久しく忘れていた。誰かに愛撫されるなど。
行く方々で何故か女性には好かれたけれど、彼は美羽以外の者とは、けして体を重ねようとしなかった。
それほどまでに、愛していたのに。
思想が違う。
たったそれだけのことで、自分は何故、彼女の元を去れたのだろう。
「フフッ。該、早漏な処も変わっておりませんのね。そのように早くイッてしまっては、婦女子の皆様に呆れられてしまいましてよ」
美羽の軽口に気怠く答える。
「……君以外とは、しないから大丈夫だ」
呆れたように溜息をつき、美羽もスカートを脱ぎ捨てた。
「大丈夫って、そういう問題ではありませんわぁ」
「なら、どういう問題なんだ?」
尋ねる該の手を己の股間に導くと、美羽が薄く笑う。
「ワタクシも、呆れてアナタを見捨ててしまうかもしれなくてよ」
「そ、それは……困る」
慌てて身を起こそうとする該を押し止め、美羽は身をすり寄せる。
股間に生えたもの――肉の棒を該の手になすりつけて囁いた。
「冗談ですわ。それよりも……そろそろ、アナタにご褒美をあげないといけませんわねぇ」
黒衣をめくりあげ、二つの膨らみで該のモノを挟み込む。
柔らかい感触に、該の声は上擦った。
「あ……ぅっ、美羽、ご、ご褒美って、何を……ッ」
先ほど出したばかりだというのに、またしても該の股間は漲り勃起する。
ビクン、ビクンと脈打つのを楽しげに眺めながら、美羽は答えた。
「アナタにも愛撫する権利を与えると申し上げたのですわぁ。さぁ、ワタクシをイカせて下さいませ」
尻を高く掲げ、自ら尻たぶを掴んで穴を見せつける。
まだ濡れてもおらず、入れれば激痛間違いなしだというのに、美羽が急かしてきた。
「さぁ、該。アナタのいきり立ったソレをワタクシに突っ込んで下さいな」
少年のようにドキマギしながら頬を赤らめ「い……ッ、いいのか……?」と該は怖じ気づいていたが。
「早くなさい!」
強く叱咤され、ゆっくりと美羽の尻に突き入れた。
まだ濡れてもいない肉と肉が擦れ合う。
悲鳴すらでないほどの激痛に彼女の体は硬直したが、この激痛こそ、美羽が待ち望んでいたものだ。
一方の該も締め付けられる快感に押し流され、無我夢中で彼女の体を抱き寄せる。
後ろから手を伸ばして美羽の乳房を両方とも鷲づかみにすると、激しく腰を振った。
「み……美羽、美羽ぁッ」
譫言のように名を呼ぶ該へ、美羽も応える。
あられもなく髪を振り乱し、もっと奥へ入れて欲しいとばかりに尻をすり寄せた。
「あぁッ!該、該ぃ、もっとワタクシを、虐めてくださいませぇッ。ワタクシの中に、アナタの精液を、いっぱい、いっぱい注いでぇッッ!」
叫びあいながら激しく抱きしめ、胸を揉みしだき、キスを交わして舌を絡ませて。
美羽の中で、したたかに放った瞬間。該の意識は闇の底へと深く沈んでいった――


――事が終わった後。
美羽は傍らで眠る該を見た。
安らかな寝息を立てている。子供のように無警戒な顔で熟睡していた。
「該……」
二人で暮らしていた頃は、まさか別れる日が来るなど予想だにしなかった。
それが一方的に別れを告げられ、こうしてまた、二人は一緒にいる。
もう、二度と手放すものか。
この世で美羽を愛してくれる者なんて、該以外にはいないであろう。
美羽は生まれながらに美人だった。
だが彼女は、女のようでありながら女ではない。それどころか、男ですらなかった。
彼女は両方の特徴を体に持つ、いわば『ふたなり』という生き物であった。
人工生物だから、こういう体になってしまったのか。
それとも作る過程で失敗したのか。
研究所亡き今となっては、どちらが正解なのか知る術もない。
もしかしたら研究者の戯れで、わざとこの姿に作られてしまったのかもしれない。
思春期を迎え、己の体が皆とは違うと知った時、美羽は誰かと愛し合うことを断念した。
一生一人で生きていこう、そんなふうに考えた。
だが他の十二真獣が気味悪がって美羽を遠巻きにする中、該だけは何の警戒も持たずに懐いてきた。
美羽を「姉さん」と呼び、女性として慕った。
不思議な子だった。
十二人の中で一番パッとしない能力のくせに、どこか惹かれるものを持つ子でもあった。
どんなに虐めても叩いても、彼は美羽から離れようとしなかった。
しまいには美羽も根負けて、そのうち常に互いを必要とするようになった。
姉のように、弟のように、そして時には恋人同士のように。

該が目を覚ましたので美羽も回想を打ち切り、話しかける。
「アナタ、最近寝不足だったのではなくて?とてもよく眠っていらしてよ。ワタクシが暗殺者であったならば、アナタはとっくの昔に死んでおりますわね」
該は微笑み、美羽を抱き寄せた。
「君に殺されるのならば、本望だ」
こういうクサイ事をいうあたりも、昔と全然変わっていない。
「馬鹿な事をおっしゃらないで。それはともかく、先の質問の答えですけれど」
該の腕に力がこもるのを感じながら、美羽は上目遣いに彼を見つめた。
「ワタクシと共に財団で働くと誓うのであれば、許してさしあげますわ」
「判った」
該は頷いた。即答だった。

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