CAT
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怪盗キャットファイター

第五話 ターゲット・ロックオン

「よーし野郎共、ついでに女子供も良く聞けェい!」
賞金首ポスターが街中に貼りだされた、その翌日。
リーダー悠平を中心に囲んで、怪盗キャットファイターの会議が始まる。
「不覚にもサツに誉の顔が割れちまったわけだが、そこで活動を休止するような我々じゃあない」
「もちろんだぜ!」
「それでボス、今度の獲物は?」
それぞれに沸き立つ仲間の顔を見回し、悠平はニヤッと笑った。
「ネオンダクト警察内部に忍び込み、奴らの旗を盗んでやる」
警察が掲げる警察旗。
警察署のシンボルであり、多くの警察官が旗に正義を誓っている。
いわば、彼らの魂みたいなものだ。
それを盗んでしまおうというのである。
そんな火に油を注ぐような真似、普通なら何が何でも止めねばなるまい。
しかし彼らは盗賊。一般常識の通じる輩ではない。
当然、悠平の決断に反対する奴は一人もおらず、皆は口々に「やったろうぜ!」などと言って、大いに盛り上がった。
「となると、いつもみたいに屋根伝いでの移動は不可能だな」
ネオンダクト警察署は、住宅街から離れた場所に建っている。
その外見たるや、まるで塔。
塔のように高くそびえ立ち、その最上階に旗が飾られているらしい。
「その通りだ、龍輔。だから今回は飛行船を使う」
「飛行船?全員で一緒に行くの?」と、これは風花の問いに、悠平は悠然と首を真横に振った。
「いんや。飛行船が囮だ」
「飛行船が、囮ィ!?」
思わず、呆気に取られる仲間達。
だって飛行船は高価な代物で、盗賊団の大切な足でもあるのだから。
「だからこそ、囮になるってもんじゃねぇか。囮になるのは誉!おめぇと、風花だ」
「えっ!」
風花が弾んだ声をあげ、誉はというと、しょんぼり俯いてしまう。
「おっと、勘違いすんなよ?」
誉のショボクレをどう取ったのか、悠平がフォローを入れてきた。
「何も、おめぇをメインから外そうってんじゃねぇ。お前の顔を覚えてやがるサツを誘き出そうってんだ」
「どういうことだ?」と、龍輔が首を傾げる。
「どうもこうもねぇ。風花は警察署ギリギリに飛行しろ、乗ってる、お前らの顔が見えるほどにな」
「誉ちゃんの顔に見覚えがある奴を誘き出そうっていうのね?」
さすがは古株、風花の飲み込みは早い。
「その通り」と悠平は頷き、項垂れたままの誉を見やった。
「囮だからって、手ェ抜くんじゃねーぞ?誉。こいつは、おめぇv.sサツの真剣勝負な鬼ごっこだ」
――実は誉が項垂れているのには別の理由があったのだが、彼は、それを一切説明することなく顔をあげる。
「……判った。頑張ってみる」
「よぅし!それでこそ、おめぇだ」
バシバシと悠平には肩を叩かれ、仲間から口々に激励される。
「誉ちゃん、頑張って!」
「誉、捕まったら俺達が絶対助けにいってやるぜ!」
風花には、龍輔が励ましの言葉をかける。
「風花、お前が捕まったら俺が必ず助けてやるから」
「結構よ。誉ちゃんが一緒だもん、捕まったりしないわよねぇ〜」
しかし、あっさり彼女には受け流され、肩へ伸ばした手も空を切り、飛行船へと移動した風花の背中を寂しく見送ったのであった……