CAT
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怪盗キャットファイター

第三話 風花と誉と龍輔と

今日は休日。
いや、怪盗家業に平日も休日も、へったくれもないのだが。
とにかくボスが、今日は休日だと決めた以上、休日なのである。

ま、そんなわけで。
せっかくの休日をごろ寝で過ごすのは、あまりにも勿体ない。
そう考えた風花は、さっそくお目当ての部屋へ向かったのだった。

部屋にいたのは誉一人ではなかった。
「……なぁ〜んで、あんたが当然のようにいるのよォ?」
ぷーっと頬を膨らませた彼女に、ソファで寝そべる人物が答える。
「いいじゃねーか、落ち着くんだよ。この部屋」
ソファの上に寝そべって、誉に耳かきしてもらっている人物こそは、風花が団の中で一番苦手としている相手、龍輔だった。
顔がどうとか、性格がイヤというんじゃない。
ただ、なんというか……生理的に合わない?そんな感覚。
あと皆のアイドル誉を独り占めしているのも気にくわない。
なんでか知らないが彼は誉と仲が良く、常に一緒にいやがるのだ。
いや、仲が良いというのは語弊がある。
龍輔が勝手に誉を追い回しているように、風花には見えた。
誉も誉で、それを嫌がっている風には見えない。
それがまた、風花の乙女心を傷つける原因となっていた。
――そう。
つまり、風花は誉が好きである。
だからこそ、龍輔とは気が合わないのかもしれない。
「まぁ、いいわ。誉ちゃ〜ん、今、お暇?」
いきなり猫なで声にシフトした風花を、ちらりと一瞥して、誉は、すぐに目線を下へ落とす。
「暇じゃない。耳かきが終わるまでは」
「耳かきなんて、自分でやらせればいいのよ」
誉の手から耳かきを抜き取り、風花は龍輔の耳にグッサーと突き立てる。
「ほぎゃあぁあぁっ!!」
絶叫する龍輔など、そっちのけで、彼女は誉に接近した。
「耳かきが終われば自由なのよね?さ、いきましょ」
「いくって、どこに?」
無表情に問われ、うーんと、しばし考えた後。
「そうね、ブティック!」
すぐに答えを出した風花へ、龍輔がツッコミを入れてきた。
「ブティックなんざ行ったところで、着る機会がねーだろが!」
耳からダラダラ血ィ流しているけど、治療しなくていいんだろうか。
「いいの!誉ちゃんの為だけにお洒落するお洋服なんだからァ〜」
バチコーン★と風花にウィンクされて、思わず誉は視線を逸らす。
昔から、何故か風花の事は苦手であった。
なにがどう、というわけでもないのだが……生理的に駄目、ってやつ?
それに引き替え、龍輔の側は安心する。
彼が一緒にいてくれれば、何でも出来る。そんな気がした。
「ヘッ。誉は興味ねーだろ。なぁ?誉〜」
その龍輔から相づちを求められたので、素直に誉は頷いた。
おかげで、風花の怒りはMAXに。
「なによぉ〜、誘導尋問で無理矢理頷かせてんじゃないわよ!もぉ、頭きたっ。いいわよ、ふーんだ!他の人と行くから!!」
主に龍輔へ怒りをぶつけると彼女は荒々しく部屋を出てゆき、傍らの誉にも聞こえぬほどの小さな溜息を龍輔は漏らした。
どうして、いつも自分は、こうなんだろう。
風花の事が気になって、風花の気を引きたいのに。
何故か、いつも彼女を怒らせる結果に終わってしまう。
彼女が誉を好きなのは、知っている。
だからこそ、誉を己の手元に引き寄せ、彼女の手の届かぬようにした。
なのに彼女は、そんな障害、ヘとも思わず平気で乗り越えようとする。
「龍輔、大丈夫か。耳の治療、してやるぞ」
心配そうな声色に、はっと我に返ってみると、誉が眉を八の字に下げて龍輔を心底心配しているではないか。
「あ、あぁ。悪ィ、頼む」
再びソファへ寝っ転がると、龍輔は目を閉じた。
今日は一日、ここで大人しくていた方が良さそうだ……