CAT
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怪盗キャットファイター

第一話 夜の静寂を荒らす奴

騒がしかった街並みが、次第に夜の静寂に支配されてゆく。
深夜のネオンダクトには、人っ子一人、動く影はない。
――いや、いた。
屋根の上を軽快に走るのは、近頃、この街を騒がせている人影だ。
彼らを見た者は、声を揃えて、こう叫ぶのだ。

『怪盗キャットファイターが現われたぞ!』

ジャラジャラと、机の上に貴金属がまき散らかされる。
「どうよ?この戦利品っ」
さっそくアジトにて、泥棒自慢をしているのはメンバーの一人で名は樽斗。
怪盗団の中でも屈指のお調子者として名を馳せている。
「フン、偽物なんざ掴まされてちゃいねぇだろうな」
そいつを一つ手にとって団のボス、悠平が鼻を鳴らした。
「いっちょ前に万単位で盗ってきやがったか。抜け目ねぇ野郎だぜ」
「じゃあ、これを全部売っちゃえば!」と風花が勢い込み、ボスも頷いた。
「当分は生活にゃあ困らねぇな」

怪盗キャットファイター――

それが、この怪盗団の正式名称だ。
ボスの悠平を除けば、殆どが十代から二十代の若者で構成されている。
それだけではない。
この怪盗団には他の犯罪者とは異なる、大きな特徴があった。
メンバーの一人が、不意に部屋を見渡す。
「あれ、誉は?」
「さっきまで一緒にいたんだがな」と悠平も見渡し、すぐに諦める。
「あいつは飽きっぽいからなぁ、自室に戻っちまったかもしんねぇな」
自分を棚に上げて、そんなことを呟いた。
「そっかぁ〜。誉ちゃん、最近つきあい悪いよね」
風花の言葉に数人が頷き、「元々つきあい悪いでしょ、あいつは」と、樽斗が突っ込みを入れる。
初期の時代からメンバーに収まっているにも関わらず、誉が他のメンバーと馴れ合うことなど滅多にない。
ボスの悠平とだって、滅多に会話がないのだ。
無口なのか、人嫌いなのか。
たぶん、両方だろう。
だがメンバーは皆、彼を嫌ってはいなかった。むしろ、好いている。
先ほど憎まれ口を叩いていた樽斗だって、まんざらじゃないのである。
小柄で色白。実年齢よりも幾分、幼びて見える。
手足も細く、華奢で、言われなければ彼が盗賊だとは到底思えまい。
要は『可愛い』『守ってあげたい』といった理由で、誉はキャットファイターのマスコット的存在となっていた。
部屋の戸が開き、背の高い男が入ってくる。
「よぉ、また誰か狩りに出てったのか?」
龍輔だ。彼も、この怪盗団のメンバーである。
「いや、今日の狩りは、さっきのでオシマイだ」とは、ボスの弁。
「お前こそ、どこで何してたんだよ?」
樽斗の追及を無視し、龍輔は戸口を見やった。
「じゃあ、俺の見間違いか……?さっき、出ていく人影を見たような気がしたんだがな」
「出ていくって、お前」
部屋をぐるっと見渡して、悠平が口を尖らせる。
「ここにいなかったのは、お前と誉ぐれぇだぞ?」
かと思えば、一転して仰天。泡をくって叫んだ。
「もしかして誉か!?あの野郎、また街に出ちまったのか!」
たちまち部屋中が、皆のざわめきで一杯になる。
「ウッソォ!」
「一日一狩り!この鉄則、あいつが忘れますか?」
「忘れるわけないよ!だって誉ちゃんは初期メンバーだし」
そうしたざわめきは、机を叩いたボスの一喝で静まりかえる。
「えぇいっ、ここでこうして騒いでても埒があかねぇ!」
悠平の目が順番にメンバーを見てゆき、次々と名を呼んだ。
「龍輔!」
「あいよ」
「それから風花と、そうだな烈夜も来い!」
「はっ、はい!」「ハイ!」
「誉を探しにいくぞ!」
三人が勢いよく返事する。
「ハイ!」


かくして。
一仕事終えたばかりだというのに、怪盗キャットファイターは再び深夜のネオンダクトへ飛び出していった……