BREAK SOLE

∽61∽ 居場所


名も無き廃棄ステーションの中で、小型偵察機が入ってくるのを見届けて、宇宙服に着替えたクレイは立ち上がる。
メリットの姿は近くにない。
クレイとリュウの二人が真剣に話し合えるよう、身を隠している。
彼女は言った。
リュウの言うまま、思うがままに従ってはいけない。
友達が間違っている方向に進んでいるのであれば、正しい道へ連れ戻すのも友情だ。
このままインフィニティ・ブラックへ身を置くのは、リュウにとって正しくない。
インフィニティ・ブラックが、彼の言うように対話で平和を目指す組織とは思えないからだ。
宇宙人と対話して平和を目指すというのであれば、同じ地球人とも会話で判り合えるはず。
なのに、彼らは武力でアストロ・ソールを奇襲した。言葉の通じる相手なのに。
一時は信じかけたが、こうして冷静に考えてみると、矛盾だらけであることに気づく。
「よぅ。大人しく待ってたか?」
偵察機から降り、宇宙服を脱ぎ捨てるリュウへ、クレイは強く出た。
「兄さん。話があります」
「何だ?」
「兄さんは、俺を必要だと言ってくれた。死ぬなとも言ってくれた。それは、俺も同じです。兄さんには死んで欲しくないし、必要だとも思っている」
「なんだ、急に可愛いことを言い出しやがって……萌えるじゃねェか」
ニヤニヤするリュウの腕を強く掴み、クレイは殊更言葉にも力を込める。
「ここにいては、兄さんは駄目になる。死んでしまうかもしれない。だから、俺と一緒にアストロ・ソールへ戻りましょう」
「あァ?」
片眉を跳ね上げる彼には構わず、クレイは続けた。
「口約束とは一時的なものです。今は無事でも、いつ裏切られるか判ったものではない。宇宙人との友好関係は、いつまで有効なのですか?永久に信用できるのですか」
「いつまでだって?そんなの、俺達が死ぬまででいいじゃねェか」
意気込むクレイの肩をポンポンと気安く叩き、リュウが肩を竦める。
「俺達が死んだ後のことまで心配する必要があるか?」
「死ぬまで続くのなら、それでも構わない……」
呟くクレイへ満足したように頷くリュウだが、続く言葉には、口をへの字に曲げた。
クレイは、きっぱりと否定したのである。
「でも、それはやはり駄目です」
「なんでだよ?」と訝しがるリュウへ、クレイは無表情に答えた。
「俺達だけが幸せになっても、皆が不幸になってしまうというのは公平ではない」
「ハァ?じゃ、逆に問うけどよ。世界が平和になっても、お前だけが不幸だったらどうすんだ。身を粉にして世界平和のために戦って、それで誰にも感謝されなかったら!お前のやってきたことって、何だ?ただの自己満足じゃねぇか!」
一気にまくしたてるリュウをジッと見つめ、クレイはゆっくりと首を真横に振る。
「構いません。たとえ誰にも感謝されずとも、世界は平和になるのですから」
ハッと鼻で笑い、リュウは肩を竦めてみせる。
「俺ァ、嫌だね。感謝されない労働にやる意味なんざ見つけられんぜ。世の中はギブ&テイクだ」
「……兄さんに、それを強要するつもりはありません」
少し悲しそうに瞳を伏せて呟くと、クレイは再びリュウを真っ向から見つめた。
「ですが、俺はそれを実行します。それが、俺の生まれてきた理由です」
「そいつぁ違うな。あのジジィに、そう思うよう洗脳されてんだ、お前は!」
青髪の青年の肩を強く掴んで揺さぶった。
リュウに強く意見するクレイなど初めて見た。誰の入れ知恵だろうか?
いや、何であれ、この可哀想な青年を博士どもの洗脳から解いてやりたかった。
「お前が生まれてきた理由が、地球を宇宙人から救うだって?ンなーわきゃあねぇ!ジジィがどう考えようと、生まれてきたお前の運命を勝手に定めていいわけがねぇだろうが!お前はお前の考えるように生きろ!」
熱くなるリュウとは正反対に、クレイは静かに断言した。
「――ですから。俺は俺の命を、地球の平和の為に捧げます」
宇宙服のメットを外し、青い瞳が激昂するサングラス男を直視する。
「インフィニティ・ブラックは信用できません。対話による平和対策をしているというのなら、何故アストロ・ソールに攻撃を?同じ地球人が相手です、対話で協定を結べば済む話ではありませんか」
先ほどから考えていた結論を伝えるとリュウはポカンと大口を開けた後、不意に大声で笑い出した。
「ハッハ、なんだ気づいちまったのかよ。そりゃ〜お前も怒るわけだよな」
悪い悪い、とポンポン肩を軽く叩き、リュウも真っ向からクレイを見る。
ニヤッと口の端をつりあげ、いつもの皮肉めいた笑みを浮かべた。
「騙したのは悪かった。けどな?口八丁も作戦のうちっつって、対話は宇宙人を騙す作戦の一つなんだよ。奴ら割と単純だぜ。おべんちゃらで持ち上げたら、技術は見せるわ新型はくれるわ」
「嘘をつくものは、いつか必ず報いを受けます。騙されているのは兄さん、あなた方のほうかもしれません」
突き刺さるようなクレイの冷たい視線も何のその、リュウは気楽に笑い飛ばす。
「どっかの宗教信者みてーなこと言ってんじゃねぇよ。ったく、お堅いなぁお前は!」
彼を見ているうちに、インフィニティ・ブラックは本当に宇宙人に騙されているのでは?
という危惧がクレイの脳裏を掠めてよぎった。
例え今は敵対していても、彼らは自分達と同じ地球人だ。
宇宙人に地球人が騙されているというのは、あまり気分の良いものではない。
リュウを救い出した後はメリット、そして関与する全員を助け出す必要がありそうだ。
「兄さん」
さらに一歩近づき、リュウの腕を強く握る。
「さっきから熱烈にアピールしてきやがって。なんか悪いもんでも食ったのか?」
冗談めかす彼を軽く無視し、クレイは真顔で尋ねた。
「リュウ兄さんはインフィニティ・ブラックに入ってから、幸せでしたか?」
ずっと聞きたかったことでもあった。
ドイツの研究所を焼け出されようという時、クレイ達と別れて以来。
アメリカ軍へ入るまでのリュウには空白の時間がある、とT博士が言っていた。
リュウは一人で、どこを彷徨っていたのか。
もう自立していたとはいえ、まだ二十代そこそこの青年だったはずだ。
寂しくなかったのか。
博士やクレイを、思い出すことはなかったのか。
そしてインフィニティ・ブラックとは、どうやって知りあったのか。
何故、入ろうと決めたのか。
地球にはもう、関心はないのだろうか。
どうして、地球を捨ててしまったのか――
全てを本人のくちから聞かせて欲しいと、クレイは願った。
「あぁん?なんだ、いきなり。幸せって幸せに決まってるじゃねぇかよ」
「本当に?」
じっと見つめてくる素直な瞳に、耐えきれなくなったかリュウは視線を外して応えた。
「まァ……幸せかどうかって聞かれると、微妙なトコだが。少なくとも退屈はしなかったぜ?いろんな技術を見せてもらったしな。研究もタダでやれた。俺の技術が上がったのは、Kのおかげみてェなもんだ」
Kとは?と問うクレイには、インフィニティ・ブラックのリーダーだと答える。
「Kが俺を拾ってくれたようなモンだ。俺の才能を、な」
顎を撫でて嬉しそうに語る彼を眺めているうちに、ぽっかりとクレイの心に穴が開く。
今度の寂しさは、前に無視された時の比ではない。
リュウには才能を認めてくれる友達がいる。
地球を捨ててまでKの率いる組織についたのは、Kへの恩返しか。
俯いて黙るクレイを心配したか、リュウが話しかけてくる。
「……ン?どうした、黙り込んじまって。やっと納得いったのか?」
「兄さん。兄さんは幸せだったんですね……俺がいなくても」
幸せだったとは言っていないし、クレイがいなくて寂しくなかったとも言っていない。
呟くクレイに哀愁を感じ、リュウは慌てて前言撤回、意見を多少修正した。
「いや、お前がいなかったのは寂しかったぜ?モチロン。でもな、Kはカトルジジィより俺を理解してくれてるからな。組織としての居心地はいい。そいつぁ間違いねェところだ。お前も会えば奴を絶対気に入るって!話のわかるいい奴だぜ、あいつぁ」
だが悲しいかな、リュウがKを褒めれば褒めるほど、クレイの胸の穴は大きくなってゆく。
これが嫉妬というものであることを、まだクレイ自身は自覚していなかった。
「兄さんと別れた時、俺は寂しかった。何故一緒に来てくれないのかと、何度も思いました。そして、いつか会いに来てくれると、ずっと考えていました」
「なら、よかったじゃねぇか。こうしてまた、会えたんだしよ。それにインフィニティ・ブラックに入れば、ずっと一緒にいられるぜ?」
「……でも、兄さんの側にはもう、俺以上の存在がいたんですね。自分を認めてくれるQ博士のような存在が」
自分を認めてくれる存在がいるというのは、嬉しいことだとクレイは考える。
ふと、ソールの姿が脳裏に浮かぶ。
誰にも認めて貰えない孤独。それと比べてみれば、ずっと恵まれた環境であろう。
Kに認められたリュウは幸せだ。彼自身は自覚していないようだけれど。
「俺以上って、ちょっと待てよ!?俺ぁ確かにKを褒めたが、お前以上だとは」
「俺を大切に思うのなら、どうして探しに来てくれなかったんですか?」
淡々と、だが突き刺さる視線のオマケつきで強く睨まれ、リュウは言葉に詰まる。
確かにクレイの言うとおりだ。
寂しいと思いながら、リュウはクレイの居場所を探そうとはしなかった。
生きてはいるだろうと思いながら、確認しようとまでは行動しなかった。
Kの元で技術開発や研究に勤しんで、クレイのことを忘れていた時期もあった。
「いや、まぁ、確かに。けど、それを言うなら、お前だって!お前だって、俺を捜したか?俺に会いに行こうとは思わなかったのかよ」
と言ってしまってから、そんな事が出来るわけもないという事実に自分で気づく。
クレイはアストロ・ソール、Q博士達に監視されているも同然の身だ。
勝手な行動など許されるはずもない。
言うことをきかない実験動物がどうなるかなんて、考えてみるまでもない。
処分されるのだ。クレイは博士達にとって実験動物でしかない存在なのだから。
「探せるものなら、探していました。ですが、俺は外へ出るコードを与えられていなかった」
リュウの予想通り、彼は外へ出る権限を与えられていなかったようである。
クレイは悔しそうに唇を噛む。
こいつ随分と表情を作れるようになったなぁ、とリュウは妙な処で感心した。
別れ間際の頃は、まだまだ人間とは言い難い人工生物であったはずなのに――
クレイが再び顔をあげた時、リュウはズドンと心臓を射貫かれる思いがした。
「認めてくれる人のいる場所こそが、人の生きる最終地点なのでしょう。兄さんには、認めてくれる人がインフィニティ・ブラックにいた。ですが俺を認めてくれるQ博士は、アストロ・ソールの人間です。……さよなら、兄さん。たとえ進む道は違えど、俺は、貴方を忘れません」
一方的な別れを告げるクレイの顔は無表情でも鉄仮面でもなく、瞳に涙を浮かべ、無理に笑おうとして失敗していた。
見ている方の胸が苦しくなるほど、切ない表情であった。
「俺は兄さんが好きです。兄さんを守るためなら、俺の命など惜しくもありません。ですが、兄さんを苦しめることは俺の本意じゃない。兄さんがインフィニティ・ブラックを信じ、アストロ・ソールを信じられないというのであれば、俺はもう、無理に誘おうとはしません。でも」
クレイの言葉は途中で途切れた。
飛びかかってきたリュウに、無理矢理途切れさせられた。
襲われて次の瞬間には、後頭部を嫌というほど堅い床に打ちつけたクレイであった。
床に押し倒され仰天している間にも、リュウの唇が、にゅうっとタコのように伸びてくる。
「に、兄さん!?一体、何を」
身の危険を感じたクレイは精一杯、迫り来るタコ唇を押しのけた。
だが必死の抵抗も虚しく。
「うるせェ!チュウさせろ、チュウ!」
などと訳のわからないことを喚くリュウによって、両手を押さえつけられてしまう。
チュウというのが何かは判らないが、リュウの豹変っぷりは、ただごとではない。
何か、まずいことを言ってしまったのだろうか。
そんな後悔が脳裏をよぎる暇もなく、迫る唇を反射的に仰け反ってかわした。
荒々しい鼻息が顔にかかり、不快、もとい、不安な気持ちが煽られる。
「や、やめて下さい。一体どうしたんですか、兄さん!」
「お前が萌え殺すよーなことをほざくからだろうが!とにかくチュウさせろォォッ」
この『萌え殺す』というフレーズも、クレイには、よく判らない。
リュウは頻繁に、この言葉をクレイに向かって投げかけてきた。
小さい頃から、ずっと聞かされていたようにも思うが、未だに意味は謎のままだ。
「俺のためなら命も惜しくねぇだと?可愛いこと言っちゃってくれんじゃねぇか!アレだろ、お前は俺を萌え殺すために生まれた愛の天使だろ?」
「殺すなんて、とんでもありません。俺は兄さんを生かすために守りたいと」
続いて出かかった悲鳴を、喉の奥ですりつぶす。
チュウするのを諦めたリュウが、クレイの首筋を舌でべろんと舐めてきたのだ。
「あぁもう、口答えすんな!何言っても可愛くて、俺が萌え死んじまうだろ!お前は黙って、俺の言うとおりにしてりゃーいいんだッ」
荒いのは鼻息だけではない。
密着した体からは、リュウの激しい心拍音も伝わってくる。
何が引き金となったのかは依然として不明だが、何故か彼は興奮しているようだ。
「に、にいさん」
自らの心拍数も恐怖が原因で高まりつつあるのを感じ、クレイは呻く。
「ん?なんだ、チュウさせる気になったのか?」
応えるリュウは、目が危ない領域に入っている。ギンギンに血走っていた。
彼の正気を心配しながらも、クレイは、ぽつりと答え返す。
「もし、俺が、チュウというのを許したら……俺と一緒に来てくれますか?アストロ・ソールの、仲間になってもらえますか?」
尋ねておきながら、自分でも、これは卑怯だとクレイは思った。
こんなのは友情でも何でもない。
相手の欲望に応じて選択を強制する、ずるい取引だ。
そうと判っていても、自分が言い出したことを撤回する気にならなかった。

リュウと一緒にいたい。
リュウのために地球を守り、また一緒に暮らしたいという思いが強すぎて――

「あぁ、いいぜ。お前と一緒にジジイどもんトコへ帰ってやるよ」
けろっと答え、リュウがニヤリと笑みを浮かべる。
いつもの不敵な微笑みだ。いつの間に正気に戻ったのか。
「んじゃあ、チュウさせろ。とびっきり濃厚なやつをお見舞いしてやるぜ!」
……前言撤回。
全然、元に戻っていない。
顔にかかる熱い鼻息を感じ、クレイは諦めがちに目を伏せた。
「兄さんが、それを望むというのなら俺は……何をされても、構いません」
「くはぁッ!チクショウ、お前の行動一つ一つが胸にキュンキュンきやがるッ。クレイィィィッッ、好きだぁぁ――ッ!!」
涎全開、気持ち悪さも全開のリュウが唇を寄せてきて、クレイの唇と重なる――
よりも前に、遠方から高速回転で飛んできたビール瓶がリュウの頭を直撃した。
「ごはぁッッ!」
「駄目よ」
瓶の飛んできた方角から、凛とした声が聞こえてくる。
「メリット」
「彼の思うようにさせては駄目だと言ったはずよ、クレイ」
声の主はメリットだ。
リュウの凶行っぷりに、黙ってもいられなくなったらしい。
「いってェな、コラァ!」
起き上がるリュウに冷たい目を向け、彼女は言う。
「リュウ、あなたも。彼は、あなたの大切な友達でしょう。恋人じゃない。いえ、恋人であったとしても、あなたが勝手に運命をねじ曲げていいものじゃない」
「んだとォ?いつから俺に意見できるほど偉くなりやがったんだ、メリット様はよォ」
リュウは立ち上がり、彼女を真っ向から睨みつける。
背丈は断然リュウのほうが高い。
見下ろされても心挫けることなく、メリットも睨み返した。
「友達というのは、自分に従わせるための相手じゃないわ。クレイの意志も無視して持論を押しつけるやり方は、エゴイストそのもの。そんなのは友情でも何でもない」
「クレイの意志?そんなもん、こいつにあるもんかよ。こいつはな、あのジジイどもに洗脳されてんだぞ!地球の捨て石となるようにな」
「いいえ、あるわ。そうでしょう?クレイ」
メリットに話を振られ、クレイはコクリと頷いた。
「はい。俺が皆を守ろうと思うのは、俺自身の意志です。けして、博士達に命じられたからというだけじゃない。俺は、リュウ兄さん。あなたが思っているほど馬鹿ではありません。考える脳ぐらい持っています」
「なにィ」
目をむくリュウへ、重ねてメリットが言う。
「リュウ、私にも大切な友達がいたわ。彼は彼の親友に命じられ、宇宙人の前に塵と化してしまったけれど」
「どういうことだ?」
尋ねるクレイに、彼女は答えた。
「彼の親友は、彼の上司だった。彼は上司の命じるままに流されて、疑うこともせず、戦闘機へ乗り込んだ。そして地球の上空で宇宙人と戦い、華々しく散っていった」
それ見たことか、とでもいうように水を得たリュウが混ぜっ返す。
「クレイだって、そうなるかもしれないんだぜ?このままアストロ・ソールにいたら、あの丸っこい、ソルってのに乗っけられて宇宙の塵になるところを助けてやったんだぞ。文句言われる筋合いはネェぜ」
彼を冷ややかに見つめ、メリットは小さく溜息をついた。
「……あなた、本当に彼と友達のつもりなの?」
「んだとォ」
口を尖らせるリュウの腕を、クレイが軽く掴む。
「兄さんが一緒なら、それは回避できると思います。一人よりは二人のほうが良い知恵も出る。俺がソルの特攻で命を散らさずともいい方法を、二人で考えましょう」
「だからぁ、そいつはインフィニティ・ブラックで……」
ごねるリュウの背中を、メリットの冷たい双眸が捉えた。
「リュウ。Kには何と言うつもりだったの?クレイのことを。強力な戦力?頼もしい仲間?いずれにせよクレイは使われるだけだわ、有力な捨て石として。Kにとって、クレイは友達ではない。信用できる仲間でもない。そんな場所へ彼をつれていくことが、本当に彼の為になると思っていたの?」
ちら、とクレイを優しい目で一瞥してから、再びリュウへ厳しい目を向ける。
「クレイは、そんな人生を望んでいない。彼が望むのは、あなたと共に、彼の信じる組織で、あなたと地球を守ることだけ。リュウ。あなたは、クレイをどうしたいの?殺したいの?生かしたいの?それをはっきりさせない限り、私はクレイをKの元へ連れていかせない。私の命に代えても、あなたの魔手から彼を守ってみせる」
彼女の手の内に光るものを見つけ、クレイは、あっとなる。
銃だ。銃口をリュウへ向けている。型こそ小さい、だが殺傷力は充分にあった。
リュウも、それに気づいたか、絶句した。
「お前……お前、俺を離反させたいのか?そんなに嫌かよ、俺のサポートが」
「違うわ」
メリットは短く答え、横目でクレイを見た。
「もう、二度と後悔する友情を見たくないの。それだけ」
ふぅ、と大きく溜息をつき、リュウは天井を見上げる。
ややあって、彼の口から出たのは降参とも取れる一言だった。
「Kには上手く言っといてくれるか?白滝竜は敵にさらわれた、とでもな」
「わかった」
頷く彼女からクレイへと視線をずらし、リュウは笑みを浮かべる。
いつもの不敵さはなく、どこか自嘲気味にも見える微笑みであった。
「……悪かったな、クレイ。お前のこと、判ってやれなくてよ。そうだよな、お前だって、いつまでも子供なわきゃ〜ネェか。自力でモノを考えたり自分の意見を持つようになるわなァ、人間だものな」
「兄さん」
嬉しそうに見上げるクレイの頭をナデナデした後、宇宙服のメットを拾い上げて彼に放り投げてやると、自分は偵察機へ乗り込んだ。
「いこうぜ。クーガー達が戦艦を沈める前に、ジジィん達の所へ戻るんだ」
「……はい!」
元気よく返事をしたクレイは一度だけメリットのほうを振り返ると、ぺこりと頭を下げる。
クレイが助手席に乗り込んだ直後、偵察機は発進した。

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