act0.プロローグ
サイサンダラ歴15年より長く続く覇王戦争は、世界統一を目論むクルズ国がイルミ国へ侵略を始めたのをきっかけに、全世界を巻き込んだとされている。
それから200年の年月は流れたが、未だに決着がつかず、四つの国は今でも交戦中である。

そして今、サイサンダラ歴235年。
ワ国の帝が死去し、国中は悲しみに包まれた――


父が死んだと聞かされても、白羽 刃は実感がわかなかった。
父といっても共に暮らした日は、一日たりとてない。
所詮は血縁上の親だ。ワ国の帝――それが刃の父親である。
父は死ぬ間際、遺言を残していた。
刃を一司令として軍隊に入れ、空撃部隊を率いらせよと書いてあったらしい。迷惑な話だ。
だが国の大臣が迎えに来て、刃は否応なく招集されそうになり、苦し紛れに一つの提案をする。
それは、幼馴染みのシズルが一緒であれば引き受ける――といったものであった。
ワ国軍は各小隊ごとにキャンプを所有しており、クルズ国との国境に複数点在している。
しかしながら、空撃部隊が滞在するのは、最前線のキャンプではない。
馬車で揺られること、首都から遠く離れて約一日半。
ようやく辿り着いたワ国第38小隊空撃部隊の駐屯地は、国境より遠く離れた僻地にあった。
「ここが俺たちの本拠地かぁ。陸部隊と違って安全地帯から指揮できるってわけだ」
シズルの軽口を、刃が窘める。
「最前線ではないとはいえ、ここも戦闘区域だ。いつ爆撃されても平気なよう、油断だけはするんじゃない」
「駐屯地が爆撃されるようじゃ、ワ国の滅亡も間近だぜ?」と、やり返してから、シズルは改めて敷地内を見渡した。
中央にある大きな建物、あれが第38小隊の本部と見ていいだろう。
奥にある建物は、バトローダーの製造工場か。遠目には滑走路も見える。
あそこから、部隊のバトローダー達が飛び立っていくのだ。
「シズル」と刃が話しかけてきたので、シズルも振り向く。
「どうした?」
「……その、大丈夫か?」
「大丈夫か、って?」
「シズルは、バトローダーを創造するのは初めてだろう?」
親友の懸念が判り、シズルは途中でストップをかける。
「あぁ、平気だ。俺だって一応生命学は学んできたんだし」
バトローダーとはワ国が開発した、戦闘用の人工生命体だ。
世界の覇権を争うクルズ国、イルミ国、セルーン国、ワ国。
四つの中で一番の小国であるワ国は圧倒的戦力不足を補う為、人工生命体-ローダー-の開発に着手する。
何十年にも渡る実験と開発を繰り返し、ようやく生命体を創り出す技術が安定した。
学生達が学舎で習う"生命学"は、ローダー技術の基礎を教えている。
シズルも学生時代は生命学を専攻していた。故に、シズルをつれていきたいという刃の要望も通ったのだ。
「それと先に言っとくけど。俺を誘って悪かった、なんてのは、たとえ窮地に陥っても、絶対くちにするんじゃないぞ」
「何故だ?」
刃の問いに、シズルはニヤッと笑う。
「俺は無理矢理、お前に引っ張られて、ここへ来たんじゃない。俺は俺自身でついていきたいから、お前に同行したんだ。だから謝られるのも見当違いってもんよ」
刃に何か言い返される前に、シズルが歩き出す。
「さぁ、いつまでも外に突っ立ってねーで、中に入ろうぜ?持ち場の確認もしておきたいしな」
友の背中を追いながら、胸の内が暖かくなるのを刃は感じた。
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