市倉可憐の呆気ない最後

彼は、何をやっても駄目な男だった。
勉強は理解できず、運動は体がついていかず、恋愛も内気で声をかけられず。
市倉 可憐。
それが、彼の名前だ。
名前は可憐だが、れっきとした男である。
身長より、横幅のほうが長い。そんな男でもあった。
ありていにいうと、デブ。巨デブである。
女性は皆、彼を避けた。
そして、彼には聞こえない場所で陰口を叩いた。
それらは全部、聞こえないはずなのに、彼には伝わっていた。

彼には友達も、いなかった。
日々、生きる意味を見失っていた。
そんな彼でも唯一の娯楽と呼べる趣味を持っていた。
それが、深夜アニメだ。
アニメを見ている時間帯だけが、彼の唯一と呼んでも差し支えない居場所であった。
だが、そんな癒しの空間も、やがては終わりを告げる。
大好きだった作品が終わってしまったのだ。
明日から、何を糧にして生きていけばいいのだろう。
絶望だ。


家から滅多に出ることのない可憐であったが、次の日は珍しく家を出た。
好きだったアニメ、つい昨日終わってしまったばかりのアニメ。
それのグッズを購入するという目的があったのだ。
放送が終わってしまえば店も企業も薄情なもので、グッズはすぐに売られなくなる。
彼は、それを嫌というほど知っていた。
彼がこれまで愛してやまなかった、他のアニメのおかげで。

市倉家から駅へ出るには、踏切を渡らなければいけない。
最寄りの線は電車の行き来が激しく必ず足止めを食らうので、彼は踏切が嫌いだった。
なんで歩道橋を造ってくれないのだろう。
と、市にも八つ当たりをしてみたが、あったところで渡らない自分も容易に想像できた。
階段の上り下りが億劫なのである。運動不足なので、すぐ息切れする。
――今日は珍しく、踏切がカンカン鳴っていない。
渡るなら、今だ。
さっさと歩き出して、中央ぐらいまで渡った時だろうか。
予期せぬ出来事が、可憐を襲ったのは。

電車は、確かに来なかった。
しかし、猛烈な勢いでトラックが突っ込んでくるとは思いもしなかった。
何故トラックが猛スピードで暴走していたのかは、可憐も知るよしがない。
彼が最後に見たのは、自分に向かって突っ込んでくるトラックの鼻先であった――
2018/08/14 Start
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