新たな旅立ち!いざ、イルミへ

現世で交通事故にあった市倉 可憐は、異世界サイサンダラへ転生する。
そこで出会ったミル、エリーヌに誘われ、戦争を終結させる旅へ出ることになる。
その第一歩、クルズ国の皇帝の目を覚まさせた一行が次に向かうのは、魔導国イルミ――

「けどさ、ヒゲおばさんって、かなり強かったじゃん。あんなのを野放しにして大丈夫なの?」
道中。
どうしても気になっていた可憐は、エリーヌ達へ尋ねた。
先のクルズ内乱で国外追放となった騎士団長の件だ。
彼女はクラウンよりも素早い暗殺者だった。
またクラウンがセクハラで襲われたら、と思うと気が気ではない。
「クルズは死刑制度がない。代わりに両手または両足の自由が奪われる」
ぼそっと答えたのはクラウンだ。
へ?となる可憐の横で、ミルも付け足した。
「両手か両足のどちらかを使い物にならなくさせた上で、詛いをかけるんだ。考えようによっちゃ、死刑より恐ろしい刑罰だよね」
「罪の重さを考えると、やはり彼女にはギロチンでの斬首刑が一番望ましかったのですが……」
まだ未練がましく呟くエリーヌへは呆れた視線を向け、ミルが肩をすくめる。
「君が思っているよりも、あれは汚らしい処刑方法だよ?あとの掃除も大変だしね。だから廃止したんだろ、君の父上も」
クルズは今の皇帝になってから、死刑が廃止された。
殺す代わりに両手か両足のどちらかの骨を粉々に砕いて使い物にならなくした上で、自力では動けなくなる詛いをかけるのだという。
例え鷹の指が詛いを解除したとしても、粉微塵に砕けた骨は、どんな魔法でも治せない。
残りの一生を障害者として送る事になる。ミルの言うとおり、死ぬよりも残酷だ。
「手足が砕けても、ワ国には義手義足の技術があるって噂だけどね。ただ、罪人の財産で買えるかどうかは知らないよ」
無論、国外へ追放される際、ドルクツェルは全財産を没収されている。
暗にのたれ死ね、と言われているようなものであった。
「じゃあ、次にどこかでヒゲおばさんと出会うことがあっても」
「まぁ、戦える状態ではないだろうね、彼女」
ひとまず可憐の杞憂は、杞憂のままに終わりそうだ。
一番前を歩いていたジャッカーが、足を止める。
「ヒゲおばはんより、イルミに入る方法を考えはったほうがえぇんちゃう?」
くるりと振り向き、ミルへ尋ねた。
「ミルはんは、何か手段考えとるんかいな」
「え、国境沿いに入ればいいんじゃないの?」
ボケた発言をかましてきたのは可憐だ。
これには「あのね」と、ミルも眉間に皺を寄せる。
「国境沿いは、どこも戦場最前線だよ。可憐は、死にたいの?」
「いいえ、滅相もない」
無知が黙ったところで、ミルはジャッカーの問いに答えた。
「もちろん考えてあるよ。イルミへの潜入は海路でいく」
一行が向かっているのは海沿いの街ホレンだ。
そこで船長を雇い、イルミの海岸で安全そうな場所を探すのだとミルは言った。
ただ何となくブラブラ歩いていた道中ではないのである。
「そか。や、言われてみれば港町方面やったな、この街道」
「そうだよ。しっかりしてよ、ジャッカー」
ぽんとミルにリュックを叩かれ、ジャッカーも頭をかく。
ミルの後方を歩いていたフォーリンは、それらを微笑ましげに眺めた。
ミルに友達が出来るのは、喜ばしい。
物心がつくまで、彼女は母親と二人っきりの生活だったのだから。
エリーヌやジャッカー、それから途中で別れてしまったけれどガーレット達も、末永くミルと仲良くして欲しい。
そして可憐は、早くミルにプロポーズして結婚すればいいのに。
ちらりとフォーリンが可憐を見やると、可憐は、こちらを向いてデレーっとしていたが、不意にハッと慌てた様子を見せてくる。
それまで自分を見ていたんだと判り、フォーリンは小首を傾げた。
「如何なさったんですか、可憐さん?」
「い、いや、別に」
危ない、危ない。
可憐はミルに怒られてからというもの本筋への興味を失い、あとは後方で揺れるフォーリンの乳を延々と盗み見ていたのであった。
サイサンダラにブラジャーは存在しないのか、実によく、たぷんたぷんと揺れていて、触りたいなぁハァハァと考えていた時に、本人と目があった。
慌てて視線を背けたが、こちらの下心はバレなかったようである。良かった。
それにしても、と可憐の意識は過去に飛ぶ。
あの時なんでフォーリンではなく、ミルに恋人を持ちかけてしまったのだろう。
フォーリンにしておけば、今頃はパフパフし放題だったのに。
「……カレン」と横を歩くクラウンが、小さく囁いてくる。
「な、なに?」
「友として一応忠告しておく。あまり下心を表に出さないほうがいい。……気づいた仲間に殺気を向けられたくなければ」
えっとなってミルを見やると、ものすごく不機嫌に睨んでくる瞳とかちあった。
思わず「ヒッ!」と喉を鳴らす可憐に、ミルはフンと鼻を鳴らす。
「道中では気が散って話を聞いていない仲間もいるみたいだし、続きは宿に落ち着いてから、もう一回話すことにするよ」
言うが早いか、歩く速度を速める。
キレて怒鳴りつけてくるかと思ったら、拍子抜けだ。
ミルのほうでも可憐との恋人関係は、案外どうでもいいんだろうか?
いや、しかし、それなら今の殺気は何だったのか。
或いは、可憐が彼女の話を全然聞いていなかったから?
可憐は首をひねりつつ、早足になるミルを追いかけた。
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