Friend of Friend's

トシローのお誕生日

今日は、待ちに待った誕生日。
親と別居しているから、そちら方面でのプレゼントは期待していない。
期待しているのは学校の友達だ。
そう、友達と呼べる存在が二年になって初めて出来た。
一年目は悲惨だった。
完全ボッチで、どちらかというと苛められっ子枠にカウントされていた自分。
そんな自分とも、もうサヨナラだ。
二年の半ば、黒鵜戸 藍栖と名乗る何人!?な隣人が引っ越してきたおかげで、トシローの生活は一変した。
これまではコミケで偶然出会った酒木ぐらいしか話せる相手のいなかった学校が楽しい場所へと変化したのも、隣人がトシローと仲良くなってくれたからだ。
そこからトントン拍子に友人が増えていって、今じゃリア充と呼んでも差し支えなかろう。
黒鵜戸には感謝しかない。
そして、今日。
今日になるまで毎日、彼には誕生日をアピールしておいた。
どんなプレゼントをくれるんだろう。
彼は、ちょっと天然というか変わったところもある人だから、トシローが思いもつかないような物をくれるかもしれない。
或いはトシローの趣味を慮って、レアな鉄道写真やオタク関連グッズを用意してくれるかも?
期待に胸を膨らませて、トシローは学校へ急いだ。


――朝のホームルーム前から放課後に到るまで、これでもかと今日俺誕生日アピールしたにも関わらず。
誰一人ハピバを言ってくれない状況にトシローは一人、教室で自失呆然となっていた。
空手バカの栃木には最初から期待していないが、我が親友、黒鵜戸に無視されたのはダメージがでかい。
何度言っても「あーハイハイ」と「判った判った」で全部流すなんて、酷いじゃないか。
酒木とはクラスが違うから、一度も会えずじまいで全授業が終わってしまった。
期待が大きかった分、失望に打ちのめされて、トシローの頬を涙が伝う。
声を出さず、ズボンをぎゅっと両手で握りしめてトシローは泣いた。
涙は、ぽたぽたズボンにも垂れて、幾つもの染みを作る。
学校で泣くなんてのは一年生だった頃、一人寂しくトイレで弁当を食べた時以来だ。
年に一度しかない大切なイベント、誕生日。
高校最後の誕生日が、まさか一年目のぼっち誕生日と同じ結末で終わろうとは思っても見なかった。
プレゼントが欲しかった。
おめでとうと言って欲しかった。
ケーキを皆と一緒に頬張りたかった。
「……っく、えっ、えっ……わぁぁ〜〜〜〜んっ!」
無言だった悲しみが次第に声となって漏れて、やがて大声を張り上げると、トシローは机に突っ伏した。
誰かに見つかって、子供っぽいと馬鹿にされたっていい。
俺、今日は誕生日だったんだよ。
誕生日おめでとうって、誰でもいいから言ってくれよォ……!
どれだけ声を張り上げても、他のクラスの子も帰ってしまったのか、放課後の教室を覗きに来る物好きは現れない。
やがて泣くのに疲れたトシローは、諦めて帰ることにした。
一人とぼとぼ帰る通学路。
黒鵜戸は、だいぶ前、栃木と一緒に帰った後だ。
もしかしたら、あまりにもしつこく誕生日アピールしすぎたせいで、嫌われてしまったのかもしれない。
彼に嫌われたら、今後の人生に差し支える。
それぐらい、トシローは彼に依存しまくっていた。
だって友達が増えたのは、百パーセント黒鵜戸のおかげなんだから。
最近の黒鵜戸は栃木との距離が縮まりつつあり、それもトシローの肝を冷やしてくれる。
客観的に見て、ピザデブキモオタな自分より空手一筋マッチョゴリラな栃木のほうが、一緒に歩いて恥ずかしくない相手ではある。
怖い。
いつか、黒鵜戸の興味が自分から栃木へ移ってしまったらと思うと。
誕生日を祝ってもらえなかったせいでナーバスになったトシローの思考は、どんどんネガティブな方向へ落ち込んだ。
ずっと下を向いて歩いていたから、気づくのに遅れた。
アパートの扉近くで誰かとぶつかり、「あ、すいません」と顔をあげたトシローの瞳に映ったのは――

「誕生日、おめでと〜〜っ!」

複数名の揃えた大声、そして次々鳴り響くクラッカー。
黒鵜戸を筆頭に廊下でトシローの帰りを待ち受けていたのは酒木と栃木、それから火浦兄妹の姿もあるではないか。
「え、えっ?」と考えが追いつかないトシローのお腹をポンポン叩いて、黒鵜戸が笑う。
「一度やってみたかったんだ、サプライズおめでとう。まんまと引っかかってくれてサンキュ」
なんだ。
祝う気、あったんだ。
わざと気のないフリまでして、酷い前フリだ。
酷いけど、でも嬉しい。
差し出されたプレゼントの箱を受け取りながら、またしても眼鏡が涙で滲んできたトシローであった。


おわり
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