Dagoo

ダ・グー

2014バレンタインデー〜犬神vsランカ〜

雪の降った寒い二月の朝――
「犬畜生、勝負なのだ!」
事務所の前で座り込んでいた少女に、のっけから宣戦布告された犬神は、笑顔で「それはそれは」と受け流すと、何事もなかったかのように事務所に入り、中から厳重に鍵をかけた。
「……コ、コラーッ!ランカの話を聞くのだッ」
外で何やら喚いているが、知ったことではない。
連日仕事の山に囲まれていて大変忙しいのだ。ランカに構っている暇はない。
電話に書類整頓、データ打ち込みと手慣れた作業でこなしていく。
社員はいない。社長一人の小さな事務所だ。
お昼を回る頃には仕事も一段落を終え、ようやく犬神はランカの話を聞いてやろうという気分に至った。
というのも、ずっと仕事をしている間、ランカが延々扉を叩き続けていたからだ。
いい加減どこかに追っ払わないと、近所から苦情が来そうである。
「ランカさん、勝負とは何の勝負ですか?」
ドアを細く開けて応じると、ぐったり座り込んでいたランカが途端に元気を取り戻す。
「決まっているのだ!バレンタインなのだ、どっちがダグーをうならせるチョコをあげられるか勝負なのだ!!」
「ダグーさんを、うならせる?つまりチョコレート勝負を、僕と行いたいと?」
食通バトルだろうか。
しかし、それだと金に物を言わせられないランカが圧倒的に不利な気がするのだが。
犬神のツッコミにもランカは余裕の表情綽々で応えた。
「料理は愛情!ただ高いだけのチョコレートじゃ、ダグーを満足させることはできないのだ〜♪」
「しかし、何故僕なのです?勝負を申し込む相手をお間違えでは」
不意に犬神の脳裏に浮かんだのは、某学園の司書だった。
彼女ならダグーこと蔵田氏へチョコレートを渡すなど、すぐ思いつくに違いない。
そしてダグーも喜んで受け取るのかと思うと、犬神の心は暗く沈んだ。
ランカは犬神の気持ちなどお構いなしに、得意満面になって独自の勝負ルールを言い放つ。
「間違ってないのだ、ランカが倒したいのは犬野郎!お前なのだっ。そんで、ルールは簡単!どっちのあげたチョコが一番ダグーの好みにあうか。それだけなのだ」
「ダグーさんが喜んで、かつおいしいと食べてくれたほうが勝ち……ですか?しかし」
ダグーの性格を考えると、どちらにも喜んで完食しそうである。彼は優しい人だから。
「それだけじゃないのだ」
彼女にも同じ考えがあったようで、ランカは付け足した。
「チョコのお礼として、ダグーにチュ〜してもらうのだぁん」
「なんですって!?」
「おいしいチョコのお礼なら、ダグーだってきっと嫌がらないのだ♪どっちがより激しいチュウをされたかが勝負の決め手なのだ」
うっとりしながら明後日の方向へ熱い視線を飛ばす少女とは反対に、犬神は狼狽える。
「そ、そんなの……駄目ですよ。というか、この勝負、僕にメリットがないのでは?」
「えっ?」と、さも意外そうにランカが目を見張る。
「ダグーにチュウしてもらえるんだぞ?犬畜生は嬉しくないのか」
犬神が嬉しくないとも嬉しいとも答える前から、ランカは勝手に結論を出した。
「犬野郎がやる気ないなら、それでもいいのだ。ダグーのチューはランカが頂きなのだ〜!」
目を輝かせ、大通りへ飛び出していく小娘の背中を見送りながら、絶対に、それだけは阻止してやると心に決めた犬神であった。


ダグーの幸せを祝福したくないわけではない。
ただ、ダグーにランカは似合わない。そう、犬神は考えている。
「ダグーさんの好み、ですか……」
お酒は苦手だと言っていたから、ブランデーの入ったチョコレートはやめておいた方が無難だろう。
ランカの言い分を聞いた限りでは、彼女は手作りチョコで勝負するつもりのようだ。
なら、同じ手作りで張り合っても駄目だ。こちらは市販のおいしいチョコレートで対抗しよう。
要は美味しければいいのだ。
どうしても手作りじゃなければ駄目、とも言われていないのだし。
懸念があるとすれば。
「ランカさん、料理なんて作れるのでしょうか?」
眉をひそめ、チョコレート売り場で少しばかり思案した後、ダグーに贈るチョコを買い求めてから犬神は薬局にも立ち寄った。

一方、ランカは犬神の読み通り手作りチョコレートに挑戦していた。
彼女が悪戦苦闘している戦場は、ダグーのいるプレハブ小屋ではない。
「チョッコレェト〜、チョッコレェト〜♪早く溶けろよチョッコレェ〜トォ〜なのだっ」
それは――学校の屋上。
屋上に携帯用のガスコンロを持ち込んで、チョコレートを煮溶かしている。
無論、無許可だ。
授業中に屋上へ来る生徒はいないから、これ幸いとばかりに入り込んで調理場にしてしまった。
「よぉ、チョーシどうよ?ドロドロに溶けたら型に入れて固めるんだろ。そんな二度手間するぐらいだったら、固形のまま渡せばいいと思うんだけどね」
ひょいっと後ろから覗き込んでくるキエラへは、ぞんざいに答えるランカ。
「兄ちゃんは黙ってろなのだ、唾が入ったらどうしてくれるのだ?」
「なぁ〜に、隠し味っつっときゃ大丈夫さ」
自分が食べるチョコではないから、キエラもいい加減だ。
「フフ……しかしチョコレートを好きな人に渡すイベントですか、面白い」
何が面白いのか、本を読みながらクローカーがぽつりと呟き。
「今度、魔界でもやってみましょうか。意外な者に意外な数が贈られるかもしれませんね」
だが「やめとけ、やめとけ」とキエラはつきあい悪く手を振ると、真顔になってつけたした。
「そんなんやってクローカーんとこに知らねー女からドカドカ届いたら、どうすんだよ?姉さんが不機嫌になっちまうから、やめてくれよな」
クスリと苦笑し「君に恋人が出来るチャンスかと思ったのですが」と小声で呟くと、クローカーは読書に戻った。
「それこそ余計なお世話だって」と、しっかり聞き取っていたキエラは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
かと思えばランカへ振り返り、すぐに機嫌を直して義妹の作業に見入った。
「クックックッ……隠し味なら別に用意してあるのだ」
ドロドロに溶けたチョコレートに、ランカがパッパと何かを振りかける。
それにキエラが突っ込む暇も与えず、今度は型に流し入れ始めた。
「おっ、ついに型入れ作業か!なぁ、それ何の形のつもりなんだ?」
ランカがチョコレートを流し込んでいるのは、半分に切られた球体カップだ。
嬉々として尋ねてくる義兄に、ランカもニヤリと微笑んで答える。
「ふふふ……固まってからのお楽しみなのだ」
「ちぇー、ケチー。今教えてくれたっていいじゃんよー、俺とランカの仲だろ?」
「固まらないと説明できないのだ!」
どんな仲だかふてくされるキエラにはランカも癇癪を起こし、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
だが無言で作業をするのは苦手なのか、ややあって機嫌を直したランカが話を再開する。
「せっかちな兄ちゃんにクイズなのだ。ヒント、ひっくり返すと男の人が一番好きな形になるのだ」
ふてくされていたはずのキエラも、妹の話題提供には即飛びついてきた。
「男の人が?それって人間の?」
「当たり前なのだ」
「う〜ん、と、うーんと、え〜、むっずかしぃなぁ〜?人間の男が好きなもんって何だろ」
わざとらしいぐらい頭を抱えるキエラを盗み見、クローカーも微笑みを浮かべる。
悪いが彼には、すぐ判ってしまった。ランカが、どんな型を使ったのか。
同時に「下品な……」という考えもよぎったのだが、彼女が渡したいと思っている相手が誰だか判らない以上は黙っておく事にする。
それにしても、人間の男に渡す気だったとはランカも酔狂な。
渡す相手がキエラではなかった事に、クローカーは意外なものを感じた。
「早く固まれ〜早く固まれ〜♪」
傍らではランカとキエラがチョコレートの型を囲んで大合唱している。
あまり騒ぐと教師に見つかる?
いやいや、大丈夫。
そこは、ちゃんと結界を張ってあるから問題ない。
やがて「できたのだー!」とランカが大騒ぎして、チョコレートを型から取り外す。
皿の上に乗った半球体二個を不思議そうに眺めるキエラの前で、球体のちょうど真上に、ちょん、ちょんと生クリームを盛りつけた。
「じゃーん、完成なのだー」
「……これ、何?」と、やはり判っていないキエラに、ランカが正解を教える。
「何って、オッパイなのだ!」
「おっぱい……って、オッパイ?要するに女の人の胸ってやつ?にしちゃ〜でかすぎるんじゃね?」
キエラにはセクハラ全開でニヤニヤ笑われたが、ランカが気を悪くした様子はない。
むしろ彼女は胸を張り、堂々と言ってのけた。
「ランカのオッパイじゃちっちゃすぎるからボールで型取りしたんだけど、割合上手くいったのだ」
「ふぅ〜ん、そうなの。お前の好きな奴って巨乳が好きなのか〜」
しみじみ眺めるキエラの視界から遠ざけるかのように、さっとランカがチョコを皿ごと箱に放り込む。
「さっ、あとは渡すだけなのだ!ワクワクのラブ展開は、このあとすぐ!」
明後日の方向にガッツポーズで気合いを入れ、ランカは一目散に走っていった。
「ラブ展開!?あいつ一体誰に渡すつもりなんだ」
心配するやら呆れるやらなキエラとクローカーを屋上に残して。


その夜。
トントンと扉の叩かれる音にダグーが出てみれば、やってきたのは犬神で。
「ダグーさん、こんばんは」
来る予定など聞かされていなかったダグーは大いに驚いたのだが、彼を押しのけるかたちでランカが犬神を迎え入れたのには二重に驚かされた。
いつもなら「犬野郎どっか行け!」と恐ろしい剣幕で追い返そうとするのに、今日はどうした風の吹き回しか。
「犬畜生、逃げずに来るとはいい度胸なのだ」
偉そうに腕組みなどして見上げてくる少女に、犬神も普段の彼らしからぬ不敵な笑みで応える。
「あなたに勝負を挑まれたとあっては、逃げるわけに参りませんからね」
「ホホゥ?それはランカをライバルだと認めての発言なのか?」
「いいえ」と、あっさり首を真横に振り、犬神はプレハブ小屋へ入り込んだ。
「あなた如きに屈したとあっては、笑い者にされてしまうという意味の発言ですよ」
なかなかどうして強気な発言に、かちんときたか、ランカも大声で言い返す。
「ランカだって、お前のことなんかライバルだと思ってないのだ!へーんだッ」
「お、おいおい、ライバルだとか勝負だとか、一体何の話なんだ?」
そこへ割り込んできたのは小屋の主であるダグー。
どうやら全く勝負の話は聞かされていなかったと見えて、双方の顔を見比べては困惑している。
「言っていなかったのですか、ランカさん」
犬神が蔑む目線で見下してやると、ランカは怒りに顔を赤くして言い訳する。
「お、お前が悪いのだ。やる気なさそうにするから、勝負はお流れになったと思ったのだ」
「今度は人のせいにするんですか」
完全に犬神のターンだ。
このままランカが虐められるのを見ていても、話は一向に進まない。
「それで?犬神くん、この勝負は何をかけた勝負なんだい」
ダグーがランカから犬神へ話を促すと、彼はさらりと答えた。
「チョコレートですよ、バレンタインデーの。どちらがダグーさんに喜んで貰えるチョコレートを渡せるか、だそうです」
「チョコレート?あぁ、それなら知佳さんから貰ったよ」
あっけらかんとダグーが言うもんだから、ランカも犬神も殺気立つ。
「誰なのだ!勝手にダグーにチョコを与えるのは禁止なのだッ」
憤慨して喚くランカの横では、暗い目で犬神が呟く。
「あの女……司書のくせに手の早い」
ランカはともかく犬神の並々ならぬ殺気には怯えたか、ダグーが慌てて付け足した。
「あ、いや、チョコといっても本命じゃないよ。義理も義理、友チョコってやつだ」
「……本当に?」
疑わしき目を向けられて、ダグーはますます狼狽する。
「本当だよ、本人がそう言って渡してくれたんだから間違いない」
ダグーとしては知佳の口から義理の単語が出た瞬間、ちょっとガッカリしたのだが、今となっては義理でよかったと言わざるを得ない。
もし、これが本命だったりしたら知佳がおいぬ様に襲われてしまう。
冗談ではなく本気でやりかねないから恐ろしいのだ、目の前の青年は。
「そ、それで二人も俺にチョコレートをくれるんだよな?どんなチョコなんだろ、楽しみだなぁ」
二人の気を知佳から逸らそうと、ダグーは懸命に喜んでみせる。
はたして効果があったのか、ランカは早々に気持ちをダグーに戻してくれた。
「よし、じゃあ勝負なのだ!まずは犬畜生、お前のチョコから渡すのだ」
しかし犬神はフッと鼻で笑い、これを拒否。
「いいんですか?僕が渡したら、それで勝負は終了になってしまいますけど」
「なんだと!?」と憤るランカへ、追い打ちを放つ。
「僕の選んだチョコレートは美味しいですからね。これを食べた後では、あなたのチョコレートなどダグーさんは食べる気も起きなくなりますよ」
いつになく強気な態度の犬神には、ダグーも驚かされる。
そういや、今日は学校でも男子がやたら殺気立っていた。
バレンタインデーというのは温厚な人をも戦闘に駆り立てるイベントらしい。
「ムキー!そこまでいうならランカが先攻で勝負を決めてやるのだ!見るのだ、ダグー!これがランカの手作りチョコなのだ!」
ランカはバンッと勢いよく箱をテーブルに置き、自ら乱暴に包みを引きちぎる。
出てきたのは皿に乗ったチョコが二つ。
半分に切った球体のてっぺんには、生クリームが添えてある。
「……うっぷ」
見ただけでお腹いっぱいというか胸焼けのしてくる物体だ。
思わず視線を逸らしたダグーを、ランカは許さなかった。
「コラッ!その態度は何なのだ!?失礼なのだ、ダグー!」
「い、いや、だって、そのチョコ、中身も全部チョコレートなんだろ……?」
完全退け腰の相手に、ランカは鼻息荒く答える。
「当然なのだ!100%チョコ真っ盛りなのだ。しかも喜べ!ダグーの好きなオッパイ型チョコだぞ」
「誰の好きな型だって!?」
よりによって、犬神の見ている前で変なことを言わないで欲しい。
そりゃオッパイは好きか嫌いかって言われたら、好きと答えるダグーだが。
「気持ちだけで嬉しいよ……見ただけでお腹いっぱいになっちまった」
「遠慮せずに食え!食えったら食うのだ!!」
ぐいぐいとチョコを押しつけられ、あわや無理矢理口の中へ放り込まれるか――という時、犬神が助け船を出してきた。
「待って下さい、ダグーさん。食べる前に中身の点検をしたほうが」
「中身を点検?そりゃどういう意味だい」
ダグーは思わぬ意見にキョトンとする。
中身って中身は100%チョコだと、さっきランカが言ったばかりなのに?
犬神が詳しい説明をする前に、本人が口を滑らせた。
「ギクッ!点検なんて必要ないのだ、ランカは髪の毛なんて入れていないのだ!!」
「えっ、えぇっ!?髪の毛ッ?」と驚くダグーを横目に、落胆の色を隠せぬ犬神が近寄ってくる。
「ダグーさん。このような危険物は早々に処理してしまいましょう」
犬神は皿ごとランカ作成のチョコを持ち上げると、勝手知ったる人の家。
さっさと台所へ入っていき、問答無用でゴミ箱へ投げ捨てた。
「あーーー!酷いのだ、ランカがせっかく作ったのに」
悲鳴をあげる少女をひと睨みすると、犬神は冷たく言い放つ。
「こんなゴミを食べさせて、愛しのダグーさんを殺すおつもりだったのですか?酷い人ですね」
殺すとは言い過ぎだ。食べても、せいぜい腹を壊す程度だろう。
ダグーはそう思ったが、危機回避できたのは犬神のおかげなので、文句を言うのもお門違いというものであろう。
「わぁーーーん、あぁーーーん、ひどいのは犬畜生なのだーーー、あぁーーん」
と言っても、ビービー泣き喚くランカを放っておくわけにもいかない。
「ランカ、お前の気持ちは充分伝わったよ。チョコを渡されなくても、お前が俺を好きなのは知っているから」
ヨシヨシと彼女を慰めるダグーだが、今日ばかりは上手くいきそうもない。
「あぁーーん、ランカが作ったのにー、いっしょーけんめー作ったのにー、わぁぁーーん」
哀れランカは床に座り込み、大粒の涙を流して泣きじゃくっている。
無理もない。あれが初めての手作りチョコだったのだから。
いつもはランカに辛辣な犬神も、彼女に手を焼くダグーを気遣ったのか珍しく折れてきた。
「仕方ありません。これはダグーさんへ買ってきたチョコレートなのですが……お二人で召し上がって下さい」
途端に、けろりとランカが泣くのをやめて、犬神のチョコへ群がってくる。
「えっ?食べていいのか」
あまりの豹変っぷりには犬神も苦笑して「えぇ、いいですよ」と箱をダグーへ渡した。
犬神の買ってきたチョコは聞いたことのない店の物だが、けして安そうにも見えず、小粒のチョコが六つ綺麗に収まっている。
「わぁー、綺麗なのだ、真っ赤なのだ!」
ハート型のチョコを一つ摘んで、すっかりゴキゲンになったランカが口に放り込む。
「うまっ、あまっ♪」
六つだけでは、全部ランカの胃袋に収まる事だろう。
呆れながらも彼女の機嫌が直った件には感謝して、ダグーは犬神に礼を言う。
「重ね重ね、ありがとう。本当に君には何度感謝してもたりないな、犬神くん」
「いいえ、喜んでいただけて幸いです」
あくまでも犬神の態度は控えめだ。そんなところも心憎い。
「このお礼はホワイトデーにお返しを……ってだけじゃ、足りないな」
「いいえ、そんな……お返しなど要りませんよ、お気持ちだけで充分です」
どこまでも控えめな犬神に対し、ダグーの行動は迅速だった。
犬神の頬に軽くチュッとキスをして、ぽかんと呆ける彼にウィンクを飛ばす。
「今度、二人でどこかへ出かけよう。勿論、君の業務がお休みの時に。約束だよ?」
何をされたのか理性が把握しきれず、それでも犬神はぼんやりと頷いた。
「えっ……あ、はい……」
やがて意識がハッキリしてくると同時に、何をされたのか、ようやく犬神の理性も理解する。
六つ全部を平らげて至福のゲップを繰り出すランカと、お茶の用意をするダグーを横目に、今さらながら犬神は頬を赤く染めたのだった。


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End