FES

ジパン狂乱

弐の陣:オオエド編

オオエドからナゴヤへ行くには、一旦キョウに入る必要がある。
この二つの間には検問所があった。いわば領域境の"門"だ。
半蔵が指さす方向には検問の他に、同じ羽織を着込んだ武士の集団も見えている。
羽織は背中の部分に【ナゴヤ討伐隊】と書かれており、あれなら誰が見ても彼らが討伐隊だと判るだろう。
討伐隊の面々が何故、検問の側で立ち往生しているのかというのは近づくにつれ判ってきた。
検問の向こう側、キョウヘの入口側に誰かが突っ伏している。
背中から大量に出血している上、さっきから ぴくりとも動かないが……
そして、検問の側にいるのは討伐隊と倒れている男だけではなかった。
黒くてゴワゴワした剛毛に包まれた巨大なモンスターが、そこに居た。
およそ、検問にいるとは普通では考えられないような生き物だ。
そいつを討伐隊の面々が取り囲んでいる。
それぞれに抜刀しているが、飛びかかろうという勇気のある者はいない。
モンスターの足下には、薄汚れた着物に身を包んだ男もいる。
近くまで行くと、会話が聞こえてきた。
「なんべんも言っているだろう!俺達は、そいつを殺るつもりはなかった、そいつが先に仕掛けてきたんだ!だから、俺達は仕方なく」
「何を言うか!この方はオオエド城が侍の一人、月見健太郎殿だぞ!月見殿は穏和なお方。先に仕掛けるなど、断じて有りえぬ!」
「だが、仕掛けてきたんだ!やらなきゃやられる、そう思ったから俺達は仕方なく……本当だ、信じてくれ!」
「オオエドの武士を手にかけておいて、信じろと申すのか!?莫迦な!信じられるものか、あやかしをつれた男の言葉など!」
どうやら、お取り込み中のようだ。
黒い毛並みのモンスターは、何をするでもなく棒立ちしている。
両手は血で汚れていた。
討伐隊の一人が一歩進み出て、モンスターに呼びかける。
「お主は竜魔殿か?降魔忍群、竜魔殿なら返答を頼む」
モンスターの代わりに傍らの男が答えた。
「そ、そうだ!この方は我らが頭目、竜魔様だ!そして俺は降魔忍群が一人――」
だが、すぐ別の討伐隊メンバーに邪魔される。
「黙れ!キョウの城は落ち、降魔忍群は囚われたと聞くぞ。降魔の名をかたり、それで月見殿殺害を無しにしようとは片腹痛いわ!」
討伐隊の中には女性の姿も見える。
彼女は一歩進み出た武士に話しかけていた。
「犬神様。黒き妖かしが竜魔殿であるならば、すぐに返答なさるはず。しかし答えもせず術も解かぬのであれば、竜魔殿ではないということ。いえ、術を解かぬのではありませぬ。解けぬのでございましょう。何故なら あれは降魔術ではなく、本物の妖かしだからです!」
決めつけているけど、本当にそうなんだろうか。
モンスターの側にいる男は「違う!俺達は本当に降魔なんだ」と、弁解を続けている……
「あちらの女性曰く本物の妖かしとのことですが、あのように巨大なモンスターが、ジパンには古来より生息しているのですか?それと、降魔術とは何でしょうか。話の流れからすると、降魔忍群特有の術のようですが」
レナの問いに半蔵は「ふぅむ」と唸り、テトラとレナの両名へ囁いた。
「降魔術とは、魔を内に降ろす降魔特有の術でござる。拙者は前に一度だけ見たことがあるのでござるが、まさにあのような姿に変化したのでござった。しかし……九十九殿が申されておるように本人であるなら、すぐに術も解けるはず。それをしないのであれば、あれは妖かしなのかもしれんでござるな。まぁ、それはともかく今のうちに犬神のご子息を説得と参るでござろう」
半蔵にとっては、モンスターの正体など何でもいいらしい。
……大きなモンスターが敵かどうかを調べなくて、本当にいいのだろうか?
「説得するにしても、彼らはモンスターの対処に困っている様子……まずは、あれを何とかしなければ説得もままならないでしょう」
言うが早いかレナは討伐隊へ声をかけた。
「すみません、ナゴヤ討伐隊の皆々様方!お困りのようですが、どうなさいましたか?」
振り向いた侍たちは、一斉にどよめいた。
「うぉぉぉ!あやかしが一体増えおったぞ!?」
「おのれ、あやかしめ!仲間を呼びよせおったな!」
彼らの敵意が自分に向けられていると知り、テトラは慌てて半蔵の後ろへ隠れる。
「お、おいらは黒いのと関係ねぇだよぉ」
狭まる包囲網へ待ったをかけたのは半蔵だ。
「やれやれ……これだからジパンは閉鎖主義などと呼ばれるのでござるよ。仕方あるまい、無理にでも話を聞いてもらうと致そう」
一歩前に進み出た半蔵を見、「半蔵殿!?何故ここに」と驚く侍をぐるり眺めた後、半蔵の目が犬神に止まる。
「犬神殿は、これまでの経過を説明して頂きたい。それから討伐隊の皆々、こちらの虎男と異国の騎士は拙者が連れてきたのでござる。彼らに刀を振るうのは、拙者を敵に回すと同じと思われよ」
半蔵の殺気に気圧されたか、詰め寄っていた討伐隊は二歩三歩と下がり始める。
逆に一歩前に進みでた侍が、黒い生き物へ鋭い視線を送ったのちにレナとテトラを見やり、犬神 真之丞と名乗った。
「これまでも何もない、半蔵殿。この黒き妖かしが突然我らの前に現れたのだ。月見殿の亡骸を抱えてな……妖かしの両手は血で染まっていた。何を疑うものがあろう、月見殿は此奴に殺されたのだ。我らはナゴヤへ行く前に月見殿の仇を討つ。止め立て致すな」
それを聞いて連れの男が何かを言いかけるが、すぐさま討伐隊の面々に口を塞がれる。
犬神は、ちらりと男を一瞥してから言葉を繋いだ。
「理由がどうであれ、月見殿を殺したのは彼らだ。許される行為ではあるまい」
「うーむ、その通りでござる」と言い含められそうな半蔵の代わりに、レナが口を挟んだ。
「彼らは何故、この検問に立ち寄ったのでしょう。理由は聞き出しておりませんか?」
「あの男の話によれば、黒い妖かし……竜魔殿らしいのだが、竜魔殿がふらふらと、こちらへ向かって歩いてきてしまったそうなのだ」とは、犬神の返答だ。
「オオエドに用でもあったのでござろうか?」
半蔵が首をひねるのには、男が反応した。
「違う!俺達はオオエドに用なんかねぇ!一刻も早くキョウへ戻らなきゃならねぇってのに、竜魔様がこっちへ来ちまって」
男が熱弁を振るっている間も、黒いモンスターは放心したように突っ立っている。
「そもそも、お主は何者でござる?」
男の側へしゃがみ込んだ半蔵が尋ねると、すぐさま答えが返ってきた。
「そこの侍どもにも言ったがな、俺達はキョウの流民だ。俺は降魔忍群が一人、凶。後ろにおられるのが我らが頭目、竜魔様だ」
後ろにおられるのは一匹しかいない。黒いモンスターのことか。
「竜魔様は昴様を置き去りにしてしまったことを悔いておられる。そして放心しておられるのだ……月見って野郎を弾みで殺しちまったからな」
「弾みとは何だ!貴様、人の命を何だと思っている!!」
再び殺気立つ侍達にも、凶は怒鳴り返す。
「俺達だってハナから殺す気で殺ったんじゃねぇ!そいつが血走った目で斬りかかってきたから、やむなく殺したんだ!」
「まだ言うか!月見殿が、そのような真似を致すはずがないと言っておろうに!」
埒のあかない喧噪を黙って眺めていた犬神は、不意に空を見上げる。
「日が落ちてきたか……」
「そうでござった」
半蔵がポンと手を打ち、犬神の正面へ回り込む。
「いきなりの急展開に用事を忘れるところでござったが、見回り組討伐へ行かれるのは少し待たれよ。そこな物の怪の問題もある。ひとまず今日は近くに宿を取り、対策を練ると致そう」
暢気な半蔵の意見に、犬神は首を横に振った。
「物の怪をこのままに宿を取れと?正気か、半蔵殿。この問題は、ここで片をつける。黒き魔物を斬り殺せば全てが終わるはずだ」
腰の刀を一気に引き抜く。
その時、初めて黒いモンスターが言葉を話した。
「…………殺してくれ…………俺を…………」
「なっ……何ッ!?こ、こやつ、言葉を!?」
魔物の言葉に驚いたのは侍達だけではない、レナやテトラもだ。
「ジパンのモンスターは人の言葉を話せるのですか!?」
犬神は刀を収め、黒いモンスターを見上げる。
「言葉を話す……ということは、本当に竜魔殿なのか?」
討伐隊に押さえつけられたままの男、凶が怒鳴った。
「だから何度も言っただろ、あの人は竜魔様だと!!」
討伐隊の殆どが、信じがたいといった表情を見せている。
女性の侍が一歩前に抜き出た。
「しかし、もし本物の竜魔様だとしたら何故殺せと?否、それ以前に何故、降魔の忍者がオオエドにいるのか?……さては、キョウが滅んだのでオオエドを代わりに乗っ取ろうという気ではござらぬだろうな?」
彼女は抜刀している。
いきり立つ九十九を制したのは、他ならぬ犬神だ。
「待たれよ、九重殿。まずは竜魔殿に話を聞こうではないか」
「犬神様は、あれが竜魔殿と信じなされるのか!?」
咎める九十九を無視し、犬神は黒いモンスターに話しかける。
「お主が竜魔殿であるという証拠を見せて貰いたい。人の身に戻ることは可能か?」
黒いモンスターは黙って頷くと、草むらへと消えた。
ややあって、戻ってきたのは長身の男性が一人。
鍛え上げられた肉体には無数の痛ましい傷を残し、そして何も身につけてはいなかった。
「キャー!!」と叫んだ九十九が頬を真っ赤に逃げ出すのを横目に、犬神が今一度、竜魔に尋ねる。
「さて、竜魔殿。お主が共をつれ、このオオエドに現れた理由……そして、先ほどの発言。殺して欲しいとは、どういった意味なのかを教えて頂こうか」
別の侍に差し出された羽織を腰に巻いた竜魔が、ぼそぼそと語り出すには――

キョウの城は突然襲われた……
奇襲を仕掛けてきたのは、ナゴヤの見回り組だ。
彼らはオオエドを攻める手始めに、キョウを占拠すると言っていた。
犬神殿も知っての通り、オオエドを攻めるにはキョウをまたがねばならない。
ナゴヤとしても、背後にキョウを残したままオオエドへ攻め上がるのは不安だったのだろう。
いつ、キョウがオオエドと手を結ぶとも限らないのだからな。
城が墜ちる寸前、頼智は俺達に逃げるよう言った。
自分が身代わりとなるから、お前達だけでも生き延びろ、と。
無論、俺達は、その願いを飲む気などなかった。
最後まで戦うつもりだった……
だが、頼智は城から飛び降りた。俺の手を振り切って。
俺は頼智を守れなかった。
友を見捨てて独りになった今、生きていたところで意味などない。


「だから殺せと?」
聞き終えた犬神は腕を組み、目を閉じて黙している。
再び、討伐隊の面々が騒ぎ始めた。
「た、例え竜魔殿の弁が真としてもだ。この二人が月見殿を殺したのは、まごうことなき事実!」
「そうだ、月見殿の仇を討つべきでござる!」
「それに今の話は、竜魔殿の狂言とも考えられる。全てを鵜呑みにするわけにはいかぬ!」
どうあっても倒す方向にしかいかない侍にはテトラも焦れて、犬神へ仲裁を頼んだ。
「お侍様、犬神様は、こん中じゃ一番偉いんだべ?殺す以外の選択肢で丸く収めらんねぇだか。ただ逃げてきただけだっちゅうし、こうやって取り囲んでワァワァ責め立てるのは可哀想だべ」
返答を決めかねているのか、犬神は黙ったままだ。
討伐隊が仲間を殺されて荒ぶるのは判る。
しかし月見が生前どのような性格であれ、一方的に罪だと決めつけるのは公平ではない。
全くの狂言だとも、レナには思えなかった。
暗く落ち込む竜魔を見る限り、キョウの城が落ちた際、彼が殿様と離れ離れになったのは本当なのではあるまいか。
「殺害事件の全貌を明かすには、彼らが月見氏を殺害した現場での聞き込みが必要でしょう。凶と言いましたか、そこの貴方。皆を現場まで案内してもらえますか?」
「待たれよ、レナルディ殿。犬神殿も九重殿も何処かへ行かれては困るでござる。殿が城を留守にしておられる今、オオエドを手薄にするわけにはいかぬ。その意味も含めて止めに参ったのでござるよ、犬神殿」と待ったをかけたのは半蔵で、皆の目が彼に集まる。
「殿が留守……?では、ナゴヤへ向かったという話は本当だったのか」
動揺する犬神へ頷き、半蔵が目を覗き込む。
「お父上から聞いてござらぬか?殿はお忍びでナゴヤへ向かったと」
オオエドの殿様がナゴヤへ向かったという話は、討伐隊の面々も初耳だったようだ。
あちこちで『ナゴヤへ討ち入る訳にはいかなくなった』という呟きが囁かれる。
ひとまず、ナゴヤへの討ち入りは無事回避できたようだ……
「月見殿殺害の真実が判るまで、竜魔殿の身柄は預かろう。だが、本当にキョウヘ行くつもりなのか?今のキョウは見回り組の配下で占拠されているぞ。半蔵殿、お主が同行し彼女を守ってはどうだろうか」
犬神の案に、半蔵は頷いた。
「元よりキョウヘは侵入するつもりでござった。しかし、それにつき竜魔殿もお借りしていくでござる」
「何故だ?」
「拙者は殿より任を受けているのでござる。昴殿の安否を確かめよ、と。拙者が集めた情報によれば、キョウ城の最上階に要人が囚われているとの話でござる」
こんな往来で堂々と極秘任務の内容を話す忍者なんて、見たことない。
だが囚われの要人と聞き、竜魔と凶は同時にハッとなる。
二人の顔に光が差したのを確認しつつ、半蔵は自信満々言い切った。
「囚われの要人が昴殿かどうかを探るには、顔見知りが必要でござる。月見殿の一件を確かめるまで人質が必要と言うのであれば、そこにおられる凶殿で充分でござろう」
討伐隊の一人が反論してくる。
「ならば連れてゆくのは、凶と申す者の方でも良いではござらぬか?」
半蔵はしっかり首を横に振ると、重ねて言った。
「昴殿は恐らく竜魔殿にとって大切な御友人。拷問でどのように代わり映えしていようと、必ず判るはずでござる。凶殿は竜魔殿の配下でござるが、果たしてそこまで殿様にお詳しいかどうか?」
犬神は竜魔を一瞥後、視線をレナへ向けた。
「……では真相を確かめるべく、キョウヘ潜入して貰えるだろうか?」
「判りました」と頷くレナへ頷き返し、犬神は踵を返す。
「お主らが戻るまでの間、この者は我らの手により保護致そう」
地に押さえつけられていた凶は、ようやく立ち上がることを許されたようだ。
オオエドへ戻っていく討伐隊を見送った後、早足に歩く半蔵の後を追いかけて、レナとテトラと竜魔は近場の宿屋に入ったのである。

食事を終えて部屋に戻った一行は、なんとなく寛ぎのひとときを過ごす。
「はぁー、このタタミって床ァは気持ちいいだべなー」
ごろごろと畳の上に寝転がって、テトラはご満悦だ。
食事も故郷にはない味付ばかりで、腹いっぱい食べてしまった。
「あとで風呂にも入るとよかろう。明日は早めに出発するのでござるからな」
畳の上であぐらをかく半蔵の真正面に陣取り、レナが切り出した。
「具体的な策を練る前に、お聞きしたいことがございます」
「なんでござる?」
「ナゴヤの配下は見回り組だけなのですか?」
「いや、他に甲賀忍群が仕えておるでござるよ」と、半蔵。
「甲賀忍の頭目は劫火殿と申すでござる」
「では、その忍者や城主にも、見回り組の暴走を止めることは出来なかったのでしょうか?」
竜魔が、ぼそりと口を開く。
食事中も心あらずと言った様子だったのに、きちんと話を聞いていたようだ。
「劫火殿の話によると、見回り組は隊員を集めていると聞いた。だが、戦いの相手はキョウではなくオオエドだとも劫火殿は予想されていた」
「なんと?では、キョウへの侵攻はオオエドを目指しての第一歩でござったか」
驚く半蔵へ頷く竜魔へレナが問いかける。
「彼らがオオエドを攻め落とす理由は、何だと考えられますか?」
「……オオエドとナゴヤは対立していた。ジパンの開国問題を巡って、な。馬鹿馬鹿しい話だ」
吐き捨てて、そっぽを向いてしまった竜魔の代わりに半蔵が話を続ける。
「ナゴヤとオオエドは、以前より対立していたのでござる。竜魔殿が申されたように、問題はジパンの開国にあり。ナゴヤはジパンを観光地にしたがっているのでござる。世界各国から無頼漢を呼び寄せるなど、冗談ではござらんよ。観光客は礼儀がないと聞いているでござる。この美しい国を土足で踏み荒らされてはたまらぬでござる」
オオエドの住民である半蔵もまた、顔をしかめた。
異国の地からやってきたテトラは首を傾げる。
「だども、観光客は金を落としてくれるだよ。おいらにゃあ、ナゴヤの殿さんの気持ちも判るべなぁ」
「金を落としてくれる客ばかりとは限らないでござる!無頼漢に何かされてから泣き寝入りしても遅いのでござる」
ぶんすか憤る半蔵から視線を外し、竜魔が窓の外を見下ろした。
「それで……明日は、どのような策で出るつもりだ、半蔵殿」
レナも窓の外を眺めてみると、宿へ向かって歩いてくる二人の行商人がいた。
特に、これといって珍しい光景ではない。
「そうでござるなぁ。ラガナート殿とレナルディ殿は目立つでござるから、検問を抜けるのも一苦労でござる」
「おいらが検問前で騒ぎ立てっから、どさくさで三人が駆け抜けるってのはどうだべ?」と、テトラが囮を買って出る。
「ギャンギャン騒いで、うまく牢屋に放り込まれりゃ〜、難なく城の中へも潜り込めるだよ」
不意に竜魔がテトラのほうへ膝を進めてきた。
「ならば、俺も同行しよう」
「えっ?駄目でござるよ、竜魔殿には拙者と共に昴様をお捜しするという役目が」
半蔵の文句にも拒否を示し、竜魔は己の策を主張する。
「牢破りには道案内も必要だろう。半蔵殿とレナ殿は我らが牢へ放り込まれた後に、検問を抜けて欲しい」
「共にいったほうが良くないでござるか?」
「数が増えれば向こうも容赦せぬ。ついでに町の様子も探ってもらえるか」
「それぐらいは、お安い御用でござるよ」
ほいほい安請け合いした半蔵は、押し入れから布団を取り出して敷き始める。
「そうと決まったら、さっさと寝るでござる」
「え、風呂にゃ〜入らねぇだか?」
「明日は早くに出ると申したでござろ?おやすみでござる」
言うが早いか、さっさと灯りを吹き消すもんだから、部屋の中は真っ暗に。
「ま、待ってください、まだ私達が用意しておりません」
手探りで歩き出したレナは畳の縁に足を引っ掛け、「おっと」と竜魔に抱きとめられる。
「す、すみません」とすぐに逃れ出るも、レナは再び躓いて竜魔の腕の中へ倒れ込んだ。
「どこだべ?押入れ、あいたっ」
ぼすっと襖を破く音、これはテトラか。
夜目の効かない二人の為に竜魔が布団を敷いてやり、やっとこ眠りについた。


翌日――
レナと半蔵が宿を出たのは、お昼過ぎであった。
早朝に出たのは、テトラと竜魔の二人だ。
テトラ達が検問で暴れている間に、半蔵達がキョウへ潜入。
町の様子を調べた後はレナと半蔵も城へ忍び込み、どちらかが囚われの要人を救出して脱出、降魔の里で合流する――
という、慎重なんだかアバウトなんだか微妙な作戦でいくことになった。
レナルディは黒髪のヅラを被せられ、慣れない振り袖に身を包まされた。
かなり遠目に見れば、ジパン人に見えないこともない。
半蔵も見回り組の法被を模した格好に着替えて、宿を発つ。
しばらくして、彼らの後を追うように、二人の旅商人が宿を出た。
偶然か、それとも。


-参の陣へ続く-