獣世紀

第17話　つかの間の休息

味方フェイズ：４ターン目

皆、順調に改造を終えたか……
そろそろバルサウェイから何らかの動きがあってもよさそうなものだが

なぁサイク

はっ、はい！

……？　何うろたえてんだ
いやらしいことでも考えてたんじゃねぇだろうな？

何を根拠にそんなことを……そ、それどころじゃないでしょう今はっ

まぁな　それよりも、お前に聞きたいことがあるんだ
お前は昔からバイノア研究をしていた……
だから他の奴らより人工バイノアを道具として扱っていた意識が強いはずだ　
なのに他の人工の奴らと比べて俺だけ特別扱いしていたのは何故だ？

そ、それは……そのぅ

ゼロとアリサは何の実験の為に作られたバイノアだったんだ？

ゼロは一番始めに人工授精の実験で成功したバイノアです……
ゼロを基に”ヒト”の感情をインプットしたものがアリサでした

フェンは？あいつも人工バイノアなんだろ

はい　アリサの「女性意識」を使った素体です
すぐに行方をくらましたため、実験には使えませんでしたが

なら……俺は一体何のために作られたんだ？答えろ、サイク！

遅かれ早かれ聞かれるだろうとは覚悟していましたが……
……ギアも１６ですから、そろそろ教え時なのかもしれませんね

隠し事が多すぎるんだよ、てめぇはッ

ご自分の出生は、やはり気になるものですか？

当たり前だろ　お前やエメラと違って俺には親がいねぇんだ

お前が俺の親父……みたいなもんなんだからな

お父さんですと!?確かに今そう言いましたかっ

ギ、ギア　私を父と呼んで下さるのですか？

呼びたくなくてもそうなんだろ　お前が親父になるんだろ？

生きててよかった……

それに……ある程度世の中が見えてくる歳になっても
何で自分がこの世に生み出されたか、気にならない奴なんているのかよ？

俺は知りたいんだ！俺が何のために産みだされ……そして、何ができるのかを
お前が俺の親だってんなら教えてくれ！俺は、何のために作られたんだ!?

……素晴らしい

えっ？

SE:サイクがギアにブッチュブチュvv→ギアのパンチ！→サイク転倒

何しやがんだッ、てめぇ!!

素晴らしいですよ～ギアァァ～

うおっ！　全然効いてねぇッ

この世に生を受けた理由の探求とは、哲学と呼ばれる物です
ヒトの持ちうる哲学を人工バイノアである貴方が持つ……それこそが進化の最高峰!!

お、おい……大丈夫か　打ち所でも悪かったのか……？

ギア、よくお聞きなさい　人工バイノアは誕生直前に頭脳へ人格を入力します
ですから、自分自身の思考を持つ人工バイノアは今まで一人もいなかったのです
あなたが世界で初めてヒトの哲学を持った人工バイノアになります！

……それってすごいのか？

すごいですとも！
お教えしましょう、あなたが何のためにこの世に生を受けたのかを

初代オーソリアン国王がバイノアの力に目をつけ、私に人工授精のバイノア大量生産を命じたのが今より遥か５００年も昔になります。
当時のガイワイアはヒトの住める環境とは言い難く、早急な開拓が求められていました。
バイノア達は、自身が持つ力を有効的に土地の開拓へと使い　社会に貢献していたのです。

しかし天然バイノアの数は少なく、開拓は一向に進む気配がありませんでした。
そこで初代王が人工授精に目をつけ、私が開発適任者として選ばれたのです。
私はその時から老いては再生を繰り返し、今日まで生き続けてきました。
バイノア・マスターとなった私にはバイノアを増産する永久機関として生かされ続け、寿命で死ぬことすら許されなかったのです。

ですが長い間、バイノアを生産する内に私の内部で疑問が生じました。
開拓する場所も既になく、豊かな暮らしができる今になってもまだ私はバイノアを生産している。
私は何のために、こんな事を続けているのだろう？――と。

現オーソリアン国王がバイノア増産を命じる理由……
バイノアを使い、オーソリアンが世界統一を果たすという野望です。
人工バイノアは道具に格下げされ、まともな扱いを受けられなくなりました。
オーソリアンで普通の生活ができるのは、天然受精のバイノアか移住民だけです。

……私達は何のために住めぬ土地を開拓したのか。
こんな世界を作るためではなかったはずだ……
その考えが私の中に生まれた時から私は進化するバイノアの研究を始めました。