己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ユン&セツナ

ログアウトできないクォードからの返信がきて、ユン一行は、さっそく彼の指示する場所へ向かった。
「やはり、お前の名を出したのが効いたな」と満足げに呟いているのはキースだ。
すかさずナナが相づちを打ち、ユンとセツナを嬉しそうに見上げる。
「ギルド第九小隊って有名だもんね。この世界じゃ」
「現実でも、これぐらい有名ならねぇ」とセツナも苦笑し、先に到着していた相手を見やる。
「お前らが第九小隊の連中か?」
挨拶も抜きに話しかけてきたのは、緑色の肌に紫色の髪の毛という奇抜な格好の少年だった。
名をクォード。
クラスはサモナーとなっている。
例の書き込み主で間違いない。
ユンが頷く横では、キースも挨拶抜きに作戦を話す。
「強制ログアウトスキルが使われるのはバー三本目からだそうだ。従って、そこまで削る役目は前衛に任せ、三本目からは俺達後衛が様子を見ながら削る」
キースが話している途中で、二人の女性が出現する。
誰だ?と目で尋ねるユンへは、クォードが答えた。
「俺の仲間だ。あいつらもログアウトできねぇ」
名前はアミュ、それからフォーミュラー。
どちらもユンに聞き覚えはない。
「回復は女医がいるから安心してくれ。この作戦でいいか?」
確認を取られたクォードが素直に頷く。
「いいぜ」
ぽつんと立っているアミュへはナナが話しかけた。
「あなたもクォードさんのパーティメンバーですよね。一旦パーティを抜けて、こちらのパーティへ入ってもらえますか?」
我に返ったかして、振り向いたアミュは苦笑した。
「あ、パーティは組んでいないんです。では、おじゃまさせてもらいますね」
「ほぅ……」
パーティに入ってきたアミュを一瞥し、上から下まで彼女を眺め回したキースが惚れ惚れする。
かと思えば傍らのユンを突っつき、小声で囁いた。
「見事な巨乳だ。そう思わないか?ユン」
「俺に相づちを求めるな」
ユンは嫌そうに眉根を寄せて、バッサリ雑談をぶった切る。
「あと五分ほどでレイドボスが沸く。各自準備を怠るな」
「は〜い」と元気よく手をあげたのはナナだけで、他は黙って頷いた。
五分は、あっという間で、すぐにレイドボスが姿を現す。
頭がライオンで身体はドラゴンという、いってみればよくあるキメラの一種なのだが些か格好悪い。
「なんか……逆のほうが、まだマシだよね絶対」
ぽつりと呟き斬りかかるナナには、キースも深く同感だ。
身体がニョロニョロしているのに対し、頭でっかちにも見える。
こんなのにログアウトさせられて、アカウント消滅となったプレイヤーは納得いくまい。
前衛はナナとアミュの二人だけだが、ナナが意外や善戦している。
逆にアミュはレベルの高さの割には攻撃力がしょぼい。
何故だ?と一時は首を傾げたキースも、すぐにその理由に思い当たった。
なんとアミュの武器は、初期の店で買えるバスターソードのままだったのだ。
あれでは素手で殴りかかるのと同じで、強さを生かし切れまい。
何かの縛りプレイなのだろうか。
縛りプレイとは、プレイヤーが個人ルールを定めて制約付で遊ぶ事を指す。
縛りという部分がエッチなものを想像させてしまうな、とキースは一人でニヤニヤした。
「ちょっと、何ニヤニヤしているの?気持ち悪いわよ」
セツナには怒られ、キースは気を引き締める。
うるさいババアだな。
回復しか取り柄がないくせに。
ナナたんを見ろ。
一人でガンガン攻撃していて、実に美しく格好いいじゃないか。
ナナが攻撃した後に、クォードもフォローのつもりか召喚獣を嗾けている。
おかげで前衛が事実上ナナ一人でも、バーは三つ目まで削る事が出来た。
「よし!ナナたんは防御で休んでいてくれ。あとは俺達で削ろう」
「クォードも休んでいていいよ」
フォーミュラーに言われ、クォードは何かを思案した後、逆に前進してくる。
「おい、フォーミュラー。お前が俺を守れ。万が一、俺だけ残ったりしねぇよう」
「いいとも。紙防御だけど、君一人ぐらいなら守れない事もない」
戦闘中にいちゃついているとは、良いご身分だ。
キースは思わずからかってやりたくなり、ヒューヒューと口笛を吹き鳴らす。
「女に守ってもらうとは、良いご身分だな。お前ら二人は恋人同士なのか?」
「違う!」と苛立つクォードの横で、フォーミュラーは悠然と微笑んだ。
「うちのカレシは恥ずかしがり屋なんだ。あまり冷やかさないでもらえるかな?」
「おい、誰がカレシだ!?」と怒るクォードには、耳元で何かを囁いている。
全く、これだからバカップルは。
クォード達から視線を外したキースは、次の瞬間、あっとなる。
ナナが。
丸い光線がナナに当たった瞬間、彼女の姿が煙のように消えてしまったではないか!
「ナナたん?ナナたん、返事をしてくれッ」
セツナが上を指さした。
「見て!ナナちゃんの名前、グレー表示になっているわ」
名前の灰色表示はログアウトないし引退者の色だと、ユンは誰かから聞いた覚えがある。
となると、ナナは無事にログアウトできたのか。
俄然、ここを脱出できる希望がわいてきた。
「よし、防御このまま!回復は任せるよ、時々チクチク虐めてスキルを発動させよう」
フォーミュラーの指示に、誰もが頷く。
狼狽えていたキースも武器を構え直し、通常攻撃で様子見に入る。
「おい、そこの眼鏡!お前はレベル高すぎるから防御に徹しろッ」
間髪入れずに「俺は眼鏡じゃない!キースだ!!」と吠え、しかしキースは素直に防御する。
バーが四本目まで削れた後は、ログアウトスキル連発となった。敵も必死だ。
アミュ、ユン、キースと順に消えていった後はクォードの姿も掻き消えて、セツナとフォーミュラーも、どちらが最後だか確認する暇もないままログアウトした。


「う、う〜〜ん、よく寝たぁ〜」
うーん、と大きく伸びをして、ナナはベッドから起き上がる。
今日も退屈な武器磨きの仕事が待っている。
海軍に所属しながら、ナナのいる第九小隊は戦場最前線から遠く離れた海域に待機していた。
けれど、ナナは思うのだ。
前線で華々しく戦って散るよりも、今のまま僻地で雑務をしているほうがいい。
そのうち戦争が終われば、もっといい。
ユンと二人で家に帰れる。
「さぁって、今日も雑務がんばろっと」
ナナは元気よく宿舎を飛び出すと、港へ向かって走っていった。


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