己キャラでMMO

14周年記念企画・闇鍋if


ナナ&キース

彼が目覚めた時、その世界にいたのは彼一人ではなかった。
傍らには彼の最も愛する少女のナナが、気を失って倒れていた。
辺りには、他に誰もいない。
二人っきりだ……
彼は注意深くナナの様子を伺う。
胸が微かに上下しているから、生きてはいるようだ。良かった。
それにしても、いつ見ても見事なおっぱいだ。
服の上からモミモミ揉んでも、柔らかい弾力が返ってくる。
このまま揉み続けているのもいいが、どうせなら下も確認しておきたい。
ナナのスカートに手を入れ、パンティを少し下にずらした時だった。
ナナが「う、うーん」と呻いて、目を覚ましたのは。
彼は、ずささっ!と咄嗟に飛び退き、ナナとの距離を充分に取ってから話しかける。
「よ、よぉナナたん、お目覚めかい?」
「んん……?」
ナナは少し寝ぼけているようであったが、視点が彼に定まった途端「げげっ!」と可愛い顔に似合わぬ声をあげる。
「誰かと思ったら変態眼鏡じゃないのよぉ!ここ、何処!?あたしを、こんな処に連れてきて何するつもりなの!?」
思わぬ冤罪に、彼も驚いて反論した。
「ま、待てナナたん!全部を俺のせいにする前に、俺の話も聞いてくれ!」
そして彼――キースは話し始めた。
自分達が今、とてつもなくおかしな珍現象に巻き込まれてしまったのであろうという事を……

「ふ〜ん、ゲームの世界ねぇ。それにしちゃあ、いやに生々しいんだけど?」
キースの予想を聞いても、ナナは驚かなかった。
というよりも、全然信じていない。
「ヘルプによるとバーチャル世界、つまり疑似世界だそうなんだ。まぁ、俺としても、これが疑似とは到底思えないんだが」
キースはしゃがみこみ、足下の草を引っこ抜く。
草には土がついてきて、ぽろぽろと下へ落ちた。
「でも、疑似なんだ。その証拠に」と先ほど引っこ抜いた草を放り投げると、落下して、しばらく経った後に草が跡形もなく消滅する。
「……え?今の草、どこ行っちゃったの!?」
驚くナナへは肩をすくめ「さぁな、俺にも判らん。恐らくだが、消滅したんだろう。いらないアイテムと判断されて」とキースは答えた。
「いらないって、誰に?」
「システムさ」とキースは答えたが、あくまでも彼自身の予想に過ぎない。
システムは何も答えてくれない。
全てはヘルプが教えてくれたのだ。
この世界が疑似世界のゲームであると。
「ホントにゲームなのかしら……」
ナナは、まだ疑っている。
かと思えば、「ねぇ、試しに死んでみてよ」とキースに無茶ぶりしてきた。
ご冗談を。
いくら愛しき人の頼みでも、死ぬのは嫌である。
ヘルプには死んでもゲートに飛ばされると書いてあったが、戦闘では痛覚を伴うという記述も目にしている。
痛いのは御免だ。
キースは頭脳派なのだ、バトルマニアのマゾ連中と一緒にされては困る。
「そ、それよりもナナたん、あっちに街があるようだ。行ってみないか?」
ナナの興味を逸らそうと、そんな提案を持ちかければ、彼女は案外あっさりと興味をそちらへ移してくれた。
「そうね、行ってみましょ。ユン兄も来ているかもしれないし」
その予想は外れてほしい。
キースはナナと二人っきりのバーチャル世界を楽しみたいのだから。
さっき触った胸の感触が両手に蘇る。
パンティを脱がすのには失敗してしまったが、二人でいれば再びチャンスが訪れるはずだ。
歩き出しながら、キースはそれとなくナナを誘う。
「ナナたん、俺とフレンド交換をしておかないか?あとパーティも組もう。一人よりは二人のほうが安全だからな」
だがナナは聞いているのかいないのか、否、全然聞いていなかったようで「早く街につきたいな〜」と呟いたのみだった……


街に入った途端、愛しのナナが「あっ!」と叫んで足を止める。
何事かと彼女の視線を辿ってみれば、黒髪の男性二人が店の前で話しているのが見えた。
片方は男前だ。
への字に曲げられた口元が、どことなく堅物そうで、面影がユンに似ているような気もする。
「はぅ、ユン兄そっくり……格好いい」
ぽろりとナナのクチから出た、聞き捨てならない台詞にキースは眉毛をつり上げる。
しかし次の瞬間にはナナがダッシュで彼らに向かって突進したから、二度驚かされた。
「ま、待て、待ってくれナナたん!どこへ行くんだ、おぉぉ〜い!」
キースは慌てて彼女を追いかける。
ナナは一足お先に黒髪二人組の元へ到着すると、空気も読まずに話しかけた。
「あのっ、すみません!」
唐突に割り込んできたナナに、二人とも困惑した様子だ。
「なに?」と猿顔のやつが反応してきたが、ナナは無視してユンに似た雰囲気を持つ青年へ話しかける。
「あなたも、この街へ来たばかりですか?良かったらフレンドになって下さいっ!」
見れば見るほど、ユンに似ている。
顔は全然似ていないのだが、全体の雰囲気が似ているのだ。
「うっ……」と小さく呻いて、青年が言葉に詰まる。
困った表情でツレを見て、猿顔が、それに答えてニッコリと笑った。
「鉄男、フレンドってのは多ければ多いほどいいらしいぜ。いいじゃん、なってやれよ。あ、俺もついでに申請いい?」
思わずナナは「えっ?」と一瞬戸惑ったものの、目の前の二人を交互に見つめ、ややあってからOKを出した。
「いいですよ」
この二人は友達なんだろう。
口下手なテツオを、猿顔がフォローする。そういう仲だ。
彼らとカード交換を執り行い、ナナはユン似な青年のプロフィールを確認する。
フルネームは辻鉄男というらしい。
クラスはストレンジャー。
「レベル1か、君も此処へ来たばっかなんだね」
猿顔こと、木ノ下が話しかけてきたので、ナナは答えた。
まっすぐ視線は鉄男へ向けて。
「はい!一人ぼっちで右も左も分かんなくて、困ってたんです」
「そっか〜。実は俺達もなんだ。それで買い物は、もう済ませ――」
言いかける木ノ下の言葉を遮るかのように、遠方から声が届いてくる。
「お〜いナナたん、待ってくれ!一人じゃないぜ、俺も一緒だっただろうが!」
変態眼鏡だ。
もう追いついたのか。
「げっ!」と叫ぶナナに、木ノ下が尋ねてくる。
「あいつ、君の知りあい?」
ナナは即座に首を真横に振った。
「変態眼鏡が?うぅん、知らない人!」
「いや、でも今、変態眼鏡って呼んだじゃんか」
「誰が変態眼鏡だぁーッ!」とキースに怒鳴られて、木ノ下も「ひっ!」と引きつった悲鳴をあげる。
咄嗟に鉄男が木ノ下の前に出て、彼を庇った。
だがキースは鉄男も木ノ下も全て無視し、ナナへ話しかけてくる。
「そんなことよりナナたん!俺とパーティを組めば安全だって、これはさっきも言ったが」
ナナは即座に拒絶した。
「い・や!あんたが一緒だと余計あたしの身が危なくなるじゃないっ」
彼が何をどう頼もうと、絶対一緒にいてやらない。
同じ部隊で、ずっと肉体を狙われ続けてきたのだ。
ここで奴と同行するのは自殺行為だ。
「あ、あんたって、いや、ナナたん、俺は一応君の先輩だぞ」
「今は先輩も後輩も関係ないでしょ!だから、あたしがあんたとフレになる意味もないわけ」
キースとナナの口喧嘩を、鉄男も木ノ下も唖然と見守っている。
「な、なぁ、お取り込み中みたいだし、俺達は退散しないか?」
木ノ下が鉄男に囁くのを聞きつけ、ナナは急いで待ったをかけた。
「待って!行くなら、あたしも連れてってくださいっ」
ここで二人と別れるわけにはいかない。
キースと二人っきりになるのだけは、断固として避けねば。
「え、でも」
「変態眼鏡の事なら、放っといていいからッ。あたし、あなたと一緒に冒険したいんです!」
またしても、じーっと鉄男に熱い視線を送ると、鉄男は、たじろぎ視線を逸らす。
ユン以上に人慣れしていないのか、あるいは超のつくコミュ障なのか。
そんなところもユンに似ていて可愛い。
ぼそぼそ小声で相談を始めた二人に、突然キースが割り込みをかける。
「そいつは聞き捨てならないな!」
何が聞き捨てならないんだか、他人の内緒話に割り込むほうが余程どうかと思われる。
「ナナたんは俺の嫁!貴様なんぞに渡しはしないぞ」
おまけに妙な事を、初対面の相手に吹き込むわ。
「誰が誰の嫁よ!」
頭にカーッと血の上ったナナは、即座にキースの股間を蹴り上げた。
ずむっと鈍い音がして、「あ、あがぁ……」とキースが蹲る。
泡みたいなものをブクブクと吹き出す変態眼鏡を横目に、ナナは二人を急かした。
「さ、いきましょ!これ以上変態眼鏡に関わっていたら、日が暮れちゃう」
「だが、行くと言っても、どこへ?」
困惑の鉄男に尋ねられ、ナナは自分が可愛く見える顔の角度を維持して答えた。
「あなたが行きたいと思う場所ですぅ。あたし、どこまでもお供しちゃいますから♪」
「そんじゃ、とりあえずナナちゃんの買い物を済ませてこようぜ?」
木ノ下が話題を振ってきて、鉄男もそれに乗っかった。
「では、君の買い物を済ませよう」
「わーい!ありがとうございます〜。さ、行きましょ♪」
鉄男の腕を取り、ナナは走り出す。
「おい待ってくれよ、俺も行く!」
後から木ノ下も追いかけてくる。
往来にキースを置き去りにして、三人は武具屋へ入っていった。
「えへへ〜、あたしに似合う装備ってどれかなぁ。鉄男さんは、どれが似合うと思います?」
店内に入るや否や、ナナは自分の胸を鉄男の腕に押しつける。
自分の胸が大きいこと、もちろんナナは自覚している。
ユン兄には、フラれたのだ。
だったら、鉄男と恋に落ちたい。
ユンに似ている彼と。
ナナは、すっかり鉄男に一目惚れしてしまったのだ。


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