ヒューイ&マナルナ
二人がエムエムオーアールピージーという聞き慣れない単語を聞かされたのは初めて訪れた街の中で、そこで見知らぬ者達から、この世界は架空の存在であると教えられた。「でも不思議ね」とマナルナが言う。
「殴られたら痛いし、お腹は減るし、寝ないと疲れちゃうのに、これが全部嘘の世界だなんて!」
それにはヒューイも同感だ。
だが、ここにはヒューイの故郷では見かけなかった生き物が沢山いた。
架空の世界だと教えてくれた人達も、そうだ。
レジェンダーでもホルゲイでもフィスタでもない外見。
耳は丸く縦長で、翼も輪っかもつけていない。
肌の色は白かったり黒かったりと様々だ。
それなのに、何故か言葉が通じた。
本当におかしな世界だ。
空に浮かぶ文字を指さすと、知りたいことが一通り出てくる。
しかし、ヒューイが本当に知りたいこと――フィスタやホルゲイが、この世界にいるのか?といった内容は、一つも載っていない。
こればかりは、実際に歩いて探す他なさそうだ。
クラス、というのは職業にあたるモノと考えてよかろう。
ヒューイはファイターで、マナルナはレンジャーだった。
だがファイター、レンジャーと言われてもピンと来ず、ひとまずマナルナが弓でヒューイは剣で戦えばいいんだな、と漠然と考えた。
噂では、もうすぐ戦争が始まるらしい。
フィールドというのもよく判らないのだが、とにかく街一帯が戦火に包まれるそうだ。
そうなる前に、どこか安全な場所へ避難しようとヒューイは考えている。
しかし、安全な場所。
それは、どこを示すのであろうか?
不意にざわめきが大きくなり、誰かの「戦争が始まったぞ!」という声が聞こえてくる。
まだ何の用意もしていないうちに、戦争が勃発してしまったようだ。
「ど、どうしよう?ヒューイ」
焦ったマナルナに尋ねられ、ひとまずヒューイはマナルナの手を引っ張って走り出す。
「街の外へ逃げよう!」
「で、でも街の外にはモンスターってのがいるんでしょ?あたし達、食べられちゃう!」
「じゃあ、どうするんだよ!街の中にいて、殺されるつもりか?俺は嫌だっ」
喚きながら大通りを走っていくヒューイとマナルナ。
その進路を、ざっと塞いだのは人の壁。
「な、なんだ!?」
どいつも武器を手に構えている。
あきらかに戦闘態勢だ。
「そこをどいてくれ!」とヒューイが叫んでも、男達は無言で目配せしあうだけで答えない。
一人が号令をかけた。
「START!」
「きゃあ!」
後方で悲鳴があがり、ヒューイとマナルナの手が離れる。
「なんだ!?」と振り返ったヒューイが見たのは、大勢に取り押さえられるマナルナの姿。
「やめろ、うわっ!」
そちらに気を取られた直後、今度は正面の軍団がヒューイに襲いかかってきて地べたに押さえつけられる。
ヒューイの見ている前でマナルナが上着をはぎ取られ、下着までもを脱がされる。
彼女は「やだっ!やめて、いやぁっ」と半狂乱になって暴れるが、駄目だ、押さえつける人の手が多すぎて逃げられない。
そのうち一本の手がマナルナの胸を揉み、違う手が大事な部分に指を這わせる。
ビクンッと大きく背中を弓なりに反らせたマナルナの口からは、あられもない喘ぎが飛び出して、その声を引き金に、押さえつけていた手が全て遠慮のない動きに切り替わる。
「やめろ、マナルナを離せぇッ!」
押さえつけられた格好のままヒューイが叫び、上に乗っかった連中からは嘲笑された。
「何言ってんだ?対人モードをオンにしたまま戦場に来る奴が悪いんだよ」
「オンにしてるってこたぁ、こういうのを期待してたんじゃねーの?カノジョも」
男どもの手で揉みくちゃにされているマナルナの頬には、涙が伝っている。
とても期待していたようには思えない。
否、期待するはずがないのだ。
過去、彼女はホルゲイにも同じような目に遇わされている。
「ほぅ〜れ、ほぅ〜れ、挿れちゃうYO?」
お粗末サイズながらもいきり立ったモノをマナルナの割れ目になすりつけて、デブが満足げに笑う。
「いや、いやぁっ!やめて、お願いやめて、やめてぇっ!」
悲痛なマナルナの叫びも、盛り上がる男達の制止にはならない。
両脇から手が伸びてきてマナルナの両足を広げさせると、ヒューイの押さえつけられている位置からは大事な部分が丸見えだ。
デブの先端が、マナルナの中へ入り込む。
マナルナの顔が引きつった。
「やだ、ヒューイ助けて、助けてェ!!」
「うひょひょ、マナルナたんっていうの?かわいいNE〜♪」
デブが調子に乗って腰を上下に揺り動かす。
ぐりっぐりっと先端が出たり入ったりを繰り返し、マナルナは嫌悪で泣きわめく。
「やだぁぁっ!やだ、やだぁ!!誰かーッ!」
――その声が、天に届いたかして。
「やぁっ!」と勇ましいかけ声が戦場に響いたかと思うと、デブの竿にぶすりと刺さったのは一本の矢。
「ぎょはぼえあぁぁぁっ!」
絞め殺されたブタみたいな悲鳴をデブがあげて、地べたに転がり込む。
「誰だっ!」と誰何する軍団にも、問答無用で火炎魔法の乱射が降り注いできた。
攻撃してきたのは、いつの間にやら遠方に出現した新たな軍団だ。
ヒューイとマナルナを襲った軍団が剣士揃いなのに対し、向こうは手に弓矢を構えた者やローブ姿の者など色々揃っている。
リーダーらしき青い髪の青年が号令をかけた。
「目標、レッドビルダーに集中!まずは少女を救出しろ!!」
彼の仲間達は「覚悟!」だの「OK!」だのと威勢良く応えて、再び始まる怒濤の魔法攻撃と弓矢攻撃を前にして、ヒューイとマナルナを襲っていた軍団は為す術もなく撤退を始めたのだった。
無事に戦闘が終わり、「地形変更キター!我々の領土に色塗り完了しました」と誰かが叫ぶ。
「大丈夫?」と白衣の女性に尋ねられ、へたり込んでいたマナルナの双眸は瞬く間に涙があふれ出る。
「あ、う、わぁぁぁぁっ、あぁぁぁっ」
女性にしがみついて泣きじゃくるマナルナを横目に、青い髪の青年がヒューイの元へ歩いてきた。
「初心者か?戦争フィールドを個人でうろつくのは危険だ、街の外へ出たほうがいい」
ニコリとも笑わず無愛想な表情を浮かべていたが、根は親切な人のようだ。
助かった安堵から思わずヒューイも泣きそうになったが、寸前で涙を堪えて頷き返す。
「た……助けてくれて、ありがとう」
お礼を述べるヒューイに、ふ、と表情をゆるめて青年が微笑む。
「ヒューイ。俺達と居るならば、ここはお前達にとっても安全地帯だ。戦争が終わるまで、俺達のギルドに入るといい」
思わぬ笑顔を向けられて、ドギマギしながらヒューイは聞き返した。
「え、と……ギルドって?」
だが青年は説明が面倒になったのか会話を打ち切って歩き去ってしまい、投げっぱなしの会話にポカーンとなるヒューイには白衣の女性が挨拶してくる。
「もう、ユンったら最後まで説明しないのは悪い癖ね。あ、私はセツナ。宜しくね。ギルドっていうのは、そうね、集団で行動するグループのようなものかしら。仲間と一緒にいれば二人で行動するより安全なのは、判るわね?勿論、戦争が終われば自由に抜けて構わないわ」
てきぱき説明され、勢いに押されて「う、うん。判った。宜しく」とヒューイは素直に頷き、ギルド入会申請を出して、ユンの率いるギルド『第九小隊』へマナルナと一緒に加入した。