二十四周年記念企画・if短編

AIがお題を出す:俺正義「育が部活のマネージャーに告白された件」

高校二年の幕が開けた。
入学したての頃は文句しかなかったヤンキー高校も、一年が経過してしまえば、それなりに環境慣れしてしまう。
一年学年が繰り上がった育は恋香と同じクラスになり、登校から下校まで毎日一緒の生活を送っている。
二人の所属する空手部にも新入生が五人入ってきたばかりか、初のマネージャーまで誕生した。
これまでにも、マネージャーになりたがる女生徒は多かったのだが、主将が全部跳ね除けていた。
マネージャーをつけるほど真面目に活動していない、というのが主将の主張であった。
だが、本音は彼女たちが小野山しか目当てじゃないと見破っての嫉妬だったのかもしれない。
そんな主将も卒業して新主将の元、待望の女子マネージャーが入部した。
女子マネは早本 里奈と名乗り、頭を下げる。
新一年生。後輩だ。
彼女の挨拶は部員の拍手で暖かく迎え入れられ、順風なスタートを切ったと思えた、のだが……


「小野山先輩って、カノジョいるんですか?あっ、もしかして坂下先輩が、そうなんですか?」
そろそろ季節が五月に移ろうかという下校時、里奈に呼び止められた恋香は咄嗟に返事ができなかった。
一年の時に恋香が流した嘘により、二年三年は今でも育を硬派だと信じて疑っていない。
しかし新一年生は、そんな噂など知らないわけだから、いつも一緒にいる女子を恋人だと思うだろう。
迂闊にも里奈が入部してきた時に説明を忘れていたと気づき、恋香は頭を抱える。
初の女子マネだってんで、すっかり舞い上がっていた。
あわよくば彼女と親密なオトモダチになりたい、それしか考えていなかった。
「ちげぇーよ!俺とあいつはダチ!だ!!」
友人になってから、何度この返事を繰り返したのか自分でも数え切れないぐらいだ。
「え~ホントにぃ~?」と疑われ、ぶんぶん手を振って完全否定をかます。
「ホントだって!言っとくがダチとして付き合い始めてから、一度だってあいつに異性の魅力を感じたことなんかねぇっての」
異性に魅力を感じたことなんか人生に一度もないじゃんといった突っ込みはさておき、全力否定をジィッと見つめていた里奈は、ややあってから質問を変える。
「じゃあ、カノジョは、いないんですか?」
「あ!これも言っとくがな、あいつ女にゃ興味ねーぜ!」と先手を打てば、それにも怪訝な顔で「……ゲイってことですか?」と尋ね返され、もう一回手を振り回した。
「ちげぇ!硬派なんだよッ」
実際にはアセクシャル、無性愛だ。だが、勝手に教えるわけにはいかない。
しばしの間をおいて、里奈が呟く。
「へぇー……硬派、ですか」
「そうそう」
「判りました。質問に答えてくださいまして、ありがとうございました!それじゃ、また明日っ」
ぺこんっと勢いよく頭を下げて、駆けていった。
彼女が完全に去った後、恋香は、ふぅ~っと大きな溜息をつく。
仲良くなりたかったのに、やはりというか何と言うか、里奈は育に興味を持ってしまったようだ。
仕方ない。空手部だけではなく学内全体を見渡しても、彼ほど目立つ存在は少ない。
高校生とは思えないぐらい上背があり、他の男子がギブアップするような重たい荷物を軽々持ったりする上、さりげない親切とでも言えばいいのか、高い場所にある本を取りたい子に本を取って渡したり、机を持ち上げるのに苦戦している女子二人を自然に手伝ったり、掃除の時間もトイレや床の雑巾がけなど皆がやりたがらない箇所を一人黙々とやってくれたりで、真面目な上に恩を着せないのだから、人気が天井知らずなのも納得である。
何より顔の造形が良い。いわゆるイケメンってやつだ。
恋香には野郎の顔の良し悪しなど判らないのだが、友人のやっちんが声を大に褒めているから、そうなのだろう。
登下校を一緒にしたがる女子は多い。女子だけじゃない、男子もだ。
従って部活後の下校は、五、六人ぐらいで連れ立って帰る。
なのに里奈が恋香を育のカノジョだと決めつけてきたのは、部活も同じなのは恋香しかいないせいだ。
二年にあがっても育は恋香にしか興味が湧かないらしく、友人内で遊びに誘われる回数もダントツだった。
これじゃカノジョ認定されて当然だ。
我ながら、ホイホイ気安く引き受けがちな自分の性分に嫌気が差す。
一応言い訳をさせてもらうのであれば、育の誘いは断りづらい。
断ると目に見えてしょんぼりされるので、はいの一択しかないように思えてしまう。
改めて考えると、ずるいやつだ。
親友だと捉えておきながらも、ちょっとムカついてしまう恋香なのであった。
不意に、去り際の里奈が脳裏に浮かんだ。
硬派と聞いても落胆せず元気よく走り去っていったから、硬派という言葉の意味自体が判らなかったのか、或いは異性に興味ないというのが伝わらなかった可能性は充分にある。
万が一を考えて、育にも連絡を入れておこう。
もし里奈から告白されたとしても、彼女が傷つかないよう気を遣って断れ、と――

「あ、あのっ、先輩は硬派とお聞きしました!カノジョがいないのも、そういう理由だって坂下先輩が言ってました。けど、それって要するに今まで女性とおつきあいしたことがないから判らないってだけですよね!?」
下校後、近所の公園に呼びつけられて出向いた育は、里奈の珍解釈にポカンとなる。
異性と交際したことがないのは事実だが、そもそも誰とも交際したいと思えないからしていないだけだ。
わからない、というのとは違うと自分では認識している。
「いや」と一言返事な育をどう取ったのか、里奈は勢い込んで質問する。
「小野山先輩のタイプ、こういう人なら好きだなぁと思える性格って、どういうのですか?やっぱり坂下先輩みたいな人ですか」
坂下みたいな性格が好き……と答えたら、若干語弊が生まれるかもしれない。
なにしろ彼女は表と裏で別人級の差があるのだから。
表向きはガサツで大雑把、気のいい姉御肌だ。
だが、本来の彼女は繊細な気配りの出来る優しい人だと育は捉えている。
それも本人無自覚の優しさだ。
一緒にいて気疲れしない。これまでの人生で、坂下ほど気の休まる友人はいない。
言葉に詰まる育を見、里奈は更に予想の斜め上を越えてきた。
「やっぱり、そうなんですね!坂下先輩が理想のタイプなんですね。私とは全然違うっぽいけど……でも私、頑張って坂下先輩に近づくようにしますから!」
「いや、近づかなくていい」
ぽろりと本音が漏れた。
「え?」
困惑の里奈に、育も困って視線を外しながら、思ったことを伝えてみる。
「……坂下と同じになるのは、皆が困る。その、空手部の皆が」
恐らくだが里奈が恋香を真似するとしたら、ガハハな男言葉で喋る姉御二号が誕生するであろう。
しかし、それは空手部員の期待する女子マネージャー像から大きく離れること請け合いだ。
今のところ里奈は、どんな命令でも素直に従って動く、元気の良いお手伝いさんだ。
洗濯や掃除は言うまでもなく、練習組手の記録付けも丁寧だと皆に大好評だ。
このまま、自分の個性を大事にしてほしい。
けして、先輩の悪い部分を真似するような子になってほしくない。
「わかりました!じゃあ、小野山先輩の前だけで坂下先輩っぽく振る舞いますね」
何が判ったんだか、いや全然判っていない。
育は、ますます視線をそらしながら、ぽつぽつ尋ねた。
「いや……その……坂下っぽく、というが、どういうふうに?」
「そうですねぇ……たとえば、こんな感じでしょうか」
こほんと一つ咳をして、里奈が喋り方をガラリと替える。
「よぉ、小野山!いっちょ組み手やろうぜ、組み手!安心しろよ、お前のヘナチョコパンチなんざぁ、ささっと避けてやっからよォ!へへ、俺の素早さナメんなよ?俺が勝ったら一日デートしてもらうぜぇっ」
ニヤッと口元に勝ち気な笑みを浮かべて、表情まで寄せてきた。
しかも台詞は完全捏造、創作の域に入っている。
里奈には空手部ではなく、演劇部のほうが向いていたかもしれない。
それはさておき、予想通りの姉御二号を実演されて、育は頭が痛くなってきた。
「それは……モドキだな」と答えるのが精一杯、里奈には「え~?評価厳しいですね。なら、小野山先輩が受け止めている坂下先輩のイメージって、どういうふうなんですか」と駄目出しへの追求が返ってくる。
こちらにも演技をしろと言うのか。
深く深く考えた末に、育が出した答えはシンプルなもので。
「さりげない優しさを、さりげなく出してくる。俺は、坂下のそういう部分が気に入っている」
「なるほど……さりげない優しさを、さりげなく……」
ポケットから取り出したメモ帳に書き留めながら、なおも里奈の質問は続く。
「うぅん、私もいつか坂下先輩のそういう部分を見てみたい!小野山先輩は、どういうタイミングで、それを知ったんですか?」
「毎日一緒に過ごせば、ぽろぽろ出てくる」と答え、ついでだからと育は付け足しておいた。
「俺より坂下を観察するほうが、きっと楽しい」
「そうですね!」と里奈も乗り気満々。
もしかしたら、本当に恋香にも興味が湧いたのかもしれない。
――なんて淡い期待をする先輩には悪いのだが、里奈は里奈で、別の決心を固めていた。
小野山先輩を攻略するには、彼の親友への理解が初めの一歩だと、彼女は考えたのだ。
坂下先輩を丸め込んでしまえば、小野山先輩と一緒に遊んだり出来るかもって可能性にも気がついた。
伊達にマネージャーを志願したわけではない頭の回転の速さだ。
絶対、先輩が卒業するまでには恋人になってやる!
はっきり育が断らなかったせいで、里奈は己の野望にメラメラ闘志を燃やすのであった……


End.

【あとがき】
一人称形式じゃない俺正義は、ちょっと新鮮。
このあと里奈は悠という名の最大のライバルと出会い、様々な挫折感を味わうことになるのだ……!(南無三)