「俺が正義になってやる」より
2.偏差値Dのヤンキー高校
「てめッ、バカたァなんだ、バカたぁ!」とキレているのはニ年の先輩諸氏だ。
あれは……以前、屋上でたむろって煙草を吸っていたのを見た記憶がある。
うちの学校内でも一番面倒くさい類の、所謂ヤンキーって奴だな。
そのヤンキー先輩が、なんで俺ら一年の教室がある廊下にいやがんだ?
廊下には人だかりができていて、その一番真ん中にいる人物が、先ほど大声で叫んでいた奴に違いない。
俺には判る、女子だ。女子の誰かがヤンキー先輩に虐められているんだ……
「廊下でオッパイ見せろっつって絡んでくるバカをバカと呼んで何が悪いってんだ、バーカ!」
なんですとォォ!?
常日頃からヤンキーは馬鹿だと思っていたけど、ナイス提案!
俺も見たい〜、ちょっと失礼。興味本位で人垣に割り込み、最前列まで出ていった俺が見たものは。
「テメェ、Tなんだろ?性自認男だったらオッパイぐれぇ見せられんじゃねーのかよ!」
先輩と真っ向からやり合う、女子の姿であった。
「だから性自認も女だってなんべん言えば、テメェのチッポケな脳みそは理解すんだ!?俺は女だ、Tじゃねぇ!」
Tじゃないと騒いでいるけど、前髪パッツンの上下ジャージじゃパッと見男子みたいだし、ヤンキー(バカ)が間違ったとしても仕方ないぞ。
あの子は1−1に転校してきた女子だ。噂じゃクラスのヤンキーと対等に渡り合う超ヤンキーなんだとか。
なおも眺めていたら、やべっ、先輩と目があっちゃった。
「なんだテメェ、ジロジロ見やがって。こいつぁ見せモンじゃねーぞ!」
「あ、あうぅ」
俺は言葉にならない返事をして、即座に人垣の奥へと引っ込んだ。
全然関係ない野次馬の俺にまで喧嘩をふっかけてくるとか、ヤンキーコエー。
先輩は尚も転校生とギャンギャンやりあっていたが、やがてHRのチャイムと共に「放課後裏庭に来やがれ!」だの「誰が行くか、バーカ!」だのと吠えあいながら、各々の教室へと歩き去っていった。
ヤンキーって時々、妙に素直な面もあるよな。
別にチャイムが鳴ったからって戻る必要もないと思うんだけど。
ま、俺も行かなきゃね。
見物していた生徒と一緒に、先生が来る前に教室へ入った。