2020年クリスマス企画・闇鍋if

世界観闇鍋カップリング

エイジと斬のクリスマス 〜勇者斬・外伝〜

突如見知らぬ異世界で勇者扱いを受けた斬は、同じく強制召喚されたエイジ他二名とパーティを組み、魔王討伐に出発した。
詳しくは十九周年記念企画の第一次己キャラ大戦を参照のこと。
次の町に到着した勇者を待ち受けていたのは、案内役の妖精ピコロットの唐突なお知らせであった。
「クリスマスだと?」
怪訝に眉を顰める斬を前に、ピコロットは鼻高々に説明する。
「そうよ。このお祭り期間中はクリスマストナカイを狩って、もぎとった角をクリスマスサンタがいいものと交換してくれるの。もちろん、クリスマスサンタを狩って直接いいものを手に入れるって手段もアリだけどね!」
彼女の話だけを聞くと、えらく物騒な、お祭りだ。
「だが、俺達は魔王を討伐しなきゃいけないんだろう。祭りに参加している暇は」
エイジが断ろうとするも、ピコロットは「参加しないのォ?」と目玉をひん剥き、威嚇してくる。
「参加しないのは勝手だけど、お祭り期間中は、どこの町も閉鎖されるわ。この町から出ることができなくなるけど、それでも参加しないのォ?」
「……わかった。判ったから、その顔で接近してくるのは、やめてくれ」
エイジに手で押し戻され、目玉をひん剥くのをやめたピコロットは偉そうにふんぞり返る。
「いいものはクリスマスに関連するアイテムよ。好きな人や友達にプレゼントすると好感度があがって、告白フラグに持ち込めるわ!これを機に、ガンガン好感度を高めてね」
なにやらメタな発言を残し、妖精は、ふよふよと何処かへ飛んでいった。
「クリスマストナカイを狩って閉鎖期間を過ごさなきゃいけなくなったか。まぁいい、戦闘は全て斬がやれば問題ないな?」
早くも他力本願なキースにクォードが「ほらよ。期間中は、これを着とけって、あのバカ妖精が置いてったぞ」と服を手渡してくる。
「なんだ?こんな派手な服、エイジ以外に似合わんだろ」
ばっさり拒絶する横でエイジも服を広げてみたが、上下ともに鮮やかな真っ赤の長袖長ズボンで、確かに自分はよく赤系統の服を好んで着ているし、今も真っ赤なローブに身を包んでいるが、その自分でも派手だと感じる。
「そうだな……エイジ、着てみてくれ。君が似合うようであれば、俺達も揃いで着よう」
何を考えたか、勇者が斜め上な発言をかましてきた。
「オイ、勝手に決めるな。俺は着ないぞ、こんな恥ずかしい服」
嫌がるキースには、ぼそっとクォードが呟いた。
「イベント期間中、この服を着ている奴はモテモテになるってバカ妖精が言ってたぜ?ホントかどうかは判らんが」
「よし、全員で着よう。更衣室は何処だ?」
たちまち前言撤回したキースを先頭に、衣類屋へ入っていった勇者一行であった――

クリスマストナカイとは、巨大な二本角のトナカイを指していた。
体のわりに素早い動きが特徴的で、二本の角を突き立ててのダッシュ攻撃に跳ね飛ばされる冒険者が続出だ。
だが、それでもATKとSPEが共に99な勇者斬の敵ではなく、数時間後には草原にこんもり積まれた角の山が出現した。
積み上げた角を見つめて、物憂げに斬が呟く。
「あれだけ大きいというのに、使えるのが角だけとは勿体ない獲物だな……」
「その前に突っ込んでいいか?こんなにいらないだろ、角」と、クォードがジト目で突っ込む。
「何を言っている。フラグだぞ、フラグ。告白フラグを得るためにも、俺は、より確実な道を選ぶ!」
誰への告白フラグなのかは、現在ここにいない相手に決まっている。
効率を求めるキースの指示により、エイジとキース、クォードと斬とで二手に分かれたのだ。
貧弱二人を組ませる件に関してはクォードが難色を示したのだが、キースに押し切られる形で結論が出た。
曰く、エイジは召喚術が使えるので、けしてひ弱ではないとのこと。
その点には、斬も同感だ。悪魔は強い。ランスロットが二人分の働きをしてくれるであろう。
「馬鹿眼鏡みたいなこと言ってんじゃねぇよ。誰にフラグを立てるつもりだ?」と、クォード。
「そ、それは……秘密だ」
ぽっと頬を赤らめる勇者に、なおもクォードの執拗な追及が追いかぶさる。
「お前が必死になって告白する相手なら、大体予想がつくぜ。エイジだろ?」
ド直球にアタリだ。
斬はアワアワと周囲を見渡し、本人がいないのを確認してから、クォードを窘めた。
「……予想がついたならついたで、そっと心のうちに秘めといてくれないか」
だがクォードときたら、「やっぱりか」とニヤついており、全く反省の色がない。
「お前の態度を見ているとキースとエイジで、かなりの温度差があるもんな。クロトや俺に至っては一歩下がって様子見しているような態度だし、バカ妖精も眼中になしとなりゃあ、消去法で一人しか残らねぇ」
そこまで圧倒的な温度差をつけていた意識が斬自身にはないのだが、他人から見ると、そうなのだろうか。
話題をそらそうと「クォードは誰かにあげる予定がないのか?」と、斬が問えば。
魔族は首を傾げ、しばらく考えたのちに答えた。
「特にあげたい奴もいねぇし、角は全部お前が使えよ。俺は、この辺を見て回ってくる」
「よし、それじゃ……クリスマスサンタを探して、よいものとトレードしてもらうとするか」
よっこらしょっと角を風呂敷に包んで担ぎ上げる勇者を見送り、クォードもまた、どこかへパタパタ飛んでいった。

合流したエイジ曰く、キースは女性軍団を追いかけて瞬く間に行方不明になったらしい。
だが今は閉鎖された街の中、いずれかの場所で合流できよう。
斬もクォードが見物に出かけたことを伝え、やっと互いにプレゼントを渡す機会が巡ってくる。
エイジは迷わず、贈り物の包みを斬へ差し出してきた。
「あなたには今後も世話になるだろうし、俺の体力を気遣ってくれた恩を返せるうちに返しておきたい」
「いや、体力に関しては、きみを無理させた俺が全面的に悪いのだから気に病まないでくれ」
斬も謙遜しながら、贈り物は、きっちり受け取った。
「ここで開けてもいいだろうか?」
ひそっと尋ねてくる斬へ、エイジが頷く。
「気に入ってもらえると嬉しいんだが……」
出てきたのは、紺色の毛糸で編まれた暖かそうなセーターだった。
もちろん胸部分に穴など空いていない、まともなセーターだ。
「これは、きみが編んだのか?」と尋ねてくる斬へは首を振り、「いや、サンタと交換してもらった品だ。他にもあったが、これが一番あなたに似合いそうだと判断した」とエイジは答えた。
それに……と言葉を濁し、ほんの少し上目遣いで勇者を見つめる。
「あの時は、酷い服を無理矢理着せてしまって申し訳なかったと思っている。これが罪滅ぼしになれば幸いだ」
エイジとて寒空の下、勇者に穴あきセーターを着せた件を心苦しく思わなくもなかったのだ。
上目遣いで見つめられた瞬間、斬の胸はキュンキュン高鳴り、後半の言葉を殆ど聞き逃す。
そういえば、思い出したことがある。
セーターと言えば、冬の定番贈り物だ。それもカップルや恋人が好んで選ぶと風の噂に聞いた。
色々あった中からセーターを選ぶというのは、エイジも、こちらをまんざらでもなく想ってくれているのでは?
斬は勝手に自己完結でまとめると、満面の笑顔で贈り物を差し出した。
「これを、きみに捧げたい。親愛なる友の、きみへ」
「ありがとう」と受け取ったエイジはイケメンスマイルで「開けてみてくれないか」と迫ってくる斬に、やや慄きながらも言われた通りに包みを解いてみれば、出てきたのは薔薇の花束とダイヤモンドの指輪のセットで茫然とする。
なんだ、これは。
この、めちゃくちゃ重たいツーセットは、とても友人に贈る品ではない。
結婚を前提とした恋人か婚約者に贈る品ではなかろうか?
そもそも花束は包装紙の中で、どうやって形を保っていたんだ。ミラクル。
突っ込みどころが多すぎて、突っ込みが追いつかない。
開いた口が塞がらないエイジに、なおも紳士の微笑みで斬が迫ってきて、両手をしっかり握られる。
「これからも、俺の仲間として末永く傍にいてほしい。俺は、どんな障害からも、きみを守ると誓おう」
熱い眼差しのオマケつきで、エイジは軽く眩暈を覚えた。
仲間として仲良くやっていきたいのは山々だが、どうも仲間の意味合いが自分とは異なる予感がしてならない。
自分とは違う世界の人間だからか。
だが、ここで冷たくあしらったりしようもんなら、相手はメンヘラLv7の勇者だ。
落ち込んで自死しかねない。
エイジは引きつった笑顔で、「あ、あぁ。俺は頭脳で、あなたを助けよう」と返すのが精一杯であった。
そこへ怒りの形相でキースが近づいてきて、二人の時間は終了となる。
「どうしたんだ、キース?」と尋ねる勇者に、あちこちボロボロになったキースが言うには。
「あのクソちっぱいは、どこだ?何がモテモテだ、サンタを狩る奴らに追い掛け回されるだけで、ちっともモテないじゃないか。あのダサ服!」
ちらとエイジを見、斬は確認を取る。
「と、キースは言っているが……きみは大丈夫だったのか?」
エイジも赤い服を着っぱなしだ。
しかし、どこにも怪我を負ったようには見えない。
ふるふると首を真横に振り、エイジは「サンタを狩る者たち?トナカイを狩っている間も、あなたと合流するまでにも全く出会わなかったぞ」と答えた。
斬と同じだ。恐らくはクォードも無事であろう。
彼が襲われたなら、どこかで町の人々が全方向に吹っ飛ばされていてもおかしくない。
「くそ、俺だけか!あの女ども、俺が角を大量に持っていると知った途端、襲い掛かってきやがって……角を全部奪われちまった。また最初から狩りなおしだ」
「なんですぐトレードしなかったんだ?」と斬が問えば、キースは「角を餌にナンパするつもりだったからに決まっているだろう!」と返してきて、エイジも斬も何故キースだけが襲われたのか、ようやく合点がいった。
要するに、キースが襲われたのは赤い服だけではなく角も原因だ。
角を大量に持っていたので、クリスマスサンタと間違われたのである。
クリスマスサンタも交換した角を沢山所持し、赤い服に身を包んでいたのだから。
「見かけによらず、キースは意外と、おっちょこちょいなんだな。どれ、俺がトレードした良いものを少し分けてやろう」
「キース、俺のほうでも余った物を譲ろう。気を取り直して、好きなだけ女性へ渡してくるといい」
ドサドサとトレード品を斬とエイジに横流しされ、二人がかりの気遣いにキースは気を良くし、「よし、ではレッツ再ナーンパ!」と鼻息荒く走り去っていった。
「さて……キースの用事が終わるまで、二人で町見物といこうか」
さっと差し出された腕には気づかないフリでやり過ごし、エイジもニッコリ微笑んで歩き出す。
「そうだな。まだついたばかりで、この町の情勢すら判らないんだ。魔王の情報を集めると同時に、軽く食事も取っておこう」
腕を組んでもらえなかった事に内心激しくションボリしつつも、エイジが、どんどん歩いていくので、斬も慌てて後を追う。
どこかで誰かが舌打ちをする音も聞こえたような気がしたが、それは一切スルーして。
「チッ、なんで贈り物を渡したついでにキスしとかないのよ。これだからメンヘラ7レベルのヘタレ勇者は……」

++End++

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