2012年クリスマス企画・闇鍋if

己作品で異世界トリップ

「EXORCIST AGE」のZENONが「BREAK SOLE」に異世界トリップ!

広島の海底に沈む秘密基地、アストロ・ナーガ――その食堂で。
「宇宙人が攻めてくるってんならよ、やっぱ反撃しなきゃ駄目だろうが!」
ダン!と机を叩いて、鼻息荒く語っている男を遠目に眺め、晃が春名に尋ねる。
「あの人、誰?新入り?」
「さぁ……」と春名も首を傾げ、男を見た。
全く見た覚えのない顔で、髪はボサボサ、着ているものもタンクトップ一丁に迷彩ズボンと、随分肌寒い格好だ。
ここのスタッフは、全員濃い緑色のジャンパー着用を義務づけられているはずなのに。
何と闘ったのやら顔面は傷だらけ、鼻の頭にも深い傷跡が残っている。
さらに目つきは凶悪、声も大きいとあっては、嫌でも人目をひいた。
「あー、君、君、そこの君」
ジョン相手に熱く語っていた男が振り向く。
話しかけたのは、Q博士だ。
「君は、何者かね?」
なんと、総責任者の博士も知らない人物であるらしい。
ならば、一体どうやって基地の内部へ入り込んだのか。
「俺か?俺ァZENONってんだ」
何故か偉そうに男が名乗るのへ、Q博士はニコニコして頷いた。
「ではZENONくん。君は誰の紹介で、ここへやってきたのかね?」
「紹介?そんなもん、ねーよ」
ZENONの答えに食堂がざわめく。
が、すぐに「うるせぇッ!」とZENON本人の一喝で静まりかえった。
「気がついたら、この野郎のベッドで一緒に眠っていた」と、ジョンを指さす。
それで、さっきからジョンにばかり話しかけていたのか。
そうなのかね、とQ博士に確認され、ジョンも困った顔で受け答える。
「そうなんです……ビックリしましたよ、急に知らない人が隣に寝ていたんですからね」
「んで、ここは何処だ?っつったらヒロシマだっていうんで、なし崩しに食堂まで一緒にきたってわけだ」
「それで……」と難しい顔でT博士が問う。
この博士は、いつだって難しい顔をしているのだが。
「君は、どういう経路で、この基地へ入り込んだのだ?」
だがZENONの答えと来たら「しらねぇよ」の一点張りで、ますますアストロ・ソールの面々は困惑するばかり。
「名前は判っている。だが自分が此処へ来た方法が判らない……きみは、記憶喪失なのか?」
今度はマッシュルームカットの、これはR博士というのだが、新たな博士が質問に加わる。
「記憶喪失?フザケんな、頭はシャッキリしているぜ!」
ZENONは鼻息荒く答えると、全員の顔を見渡した。
「俺がどうやってここに運ばれてきたのかは、俺が一番知りてぇんだよ。誰か、しらねぇか?」
そんなことを聞かれても。
全員が彼とは初めて会ったのだ、知るよしもない。
「誘拐……かしらね。でも、こいつを誘拐してくる理由が、さっぱり判らないけど」
ヨーコは首をひねり、心外だとばかりにカタナが騒ぎ立てる。
「誘拐だなんて!ここには、犯罪をする人など一人もおりませんよ!」
博士達は一カ所に固まって、ひそひそと相談した。
「どう考えたものかのぅ」
Q博士の問いへ真っ先にR博士が吐き捨てる。
「外へ出すべきだ。彼は信用できん」
「ですが」と、これまで黙っていた太った博士――U博士が口を開く。
「自覚がないだけで、記憶喪失である可能性は捨てきれません。彼を放り出すのは可哀想では?」
「来た方法が判らない、という彼の言い分を信じるつもりか」
T博士が呻き、R博士も渋い顔を崩さず反論した。
「一般人が潜水方法もなく、この基地へ迷い込めると思うのか?変身した宇宙人の可能性もある、放り出すべきだ」
「それでしたら」
ポンと手を打ちU博士が言う。
「身体検査をしてみては?」
そう、それを一番初めにやるべきだった。
もしZENONが武器を持っていたら、今頃は全滅していたかもしれないのだから……

身体検査の結果、所持品は着の身着のまま何一つ持っておらず、体の構造は人間そのものであり、宇宙人の可能性は極めて低いと診断された。
無事に検査も終わり、ZENONは別の部屋へ連行される。
その部屋で待機させて、ひとまず様子を見ようという腹らしい。
「で、なんで海底なんぞに潜んでやがるんだ?戦える力を持っているんだろ?」
片っ端から飛んでくる質問を「ノーコメント」の一言で遮ると、先を歩いていたカリヤが振り向く。
「一般人にホイホイ教えられるわけないだろ?」
「誰が一般人だってんでェ」
「あんた以外に誰がいるっていうんだよ」
言われてキョトンとしていたZENON、すぐにガウガウ噛みついてきた。
「ふざけんな!俺を、そんじょそこらの一般人と一緒にしてもらっちゃァ困るぜッ。俺は」
「何処かでは一般人じゃなくても、ここでは一般人。だろ?」
カリヤには、あっさり流されて、しぶしぶ待機する予定の部屋に向かったのだが――
「うわっとぉ!?」
突如頭上からビービーとやかましい警告音が鳴り響き、カリヤの「敵襲!?まさかッ」という叫びを余所に、ZENONは颯爽と走り出す。
こいつは絶対、事件の匂いだ!

司令室では情報が飛び交い、スタッフが慌ただしく機材を動かしている。
中央の大型モニターに映っているのは、真っ赤な巨大ロボット。
アストロ・ソールが所持する護衛機のうちの一体、Aソルだ。
「Aソル、起動準備完了。いつでも発進可能です」
オペレーターのミグが淡々と告げる横では、R博士が叫んだ。
「奴らの動きは、どうなっておる!?」
モニターが切り替わり、空が映し出される。
上空に浮かんでいる、透き通った物体こそは宇宙人の乗る船だ。
「動きは、ありません!」
見て判ることをマチスが叫び返し、博士達が一斉にモニターへ詰め寄った。
「ぬう、最近は大人しくしておると思っておったが……しかし、何故ヒロシマに現れおったんじゃ?」
「まさか、此処がバレたんじゃ」と青くなるメディーナへは、T博士の叱咤が飛ぶ。
「そんなはずはないッ、シールドは完璧じゃ!」
だが、あくまでも、それは地球人の感覚と科学で考えた場合の防御壁だ。
もし、こちらの知らない技術でシールドを見破ったのだとしたら……?
司令室の沈黙を破ったのは、発射室の悲鳴であった。
『博士、大変です!例の男が、無理矢理Aソルに!!』
「なんじゃってぇぇ!?」
予想外の展開にQ博士の声は裏返り、マイクを掴んでT博士が問いただす。
「一体、どうやって!」
半狂乱のスタッフ、ヤゥネが答える。
『ブルーがコクピットを開けて、彼を中へ入れてしまったんです!』
なんということだ。しかし、何故――?
奴に乗せろと言われたにしても、何故クレイはZENONを招き入れてしまったのか。
ZENONを乗せろなどという命令は、誰も出していない。
命令に背く行動を、まさかクレイが取るなんて。
「クレイ!応答しろ、なんで見知らぬ男を乗せたんじゃ!!」
通信機に噛みつかんばかりの勢いなR博士へ、抑揚のない電子音声が答える。
Aソルのパイロット・ブルー=クレイが、手元の音声機を使って答えたのだ。
『戦う意志のある者を無下に断ることなどできない……そう、判断しました。ZENONは宇宙人と戦いたいと願っています。戦う意志のある者を集めたのがアストロ・ソールならば、彼にも参加の資格があります』
「それは、お前が勝手に決める事ではないワッ!!」
唾を飛ばしてR博士が絶叫する。
その横ではQ博士が泡をふいて倒れ、U博士に介護されていた。
『Aソル、いきます』
「待て、勝手に行くんじゃないッ」
博士という博士が一斉に騒いだものの、発射口は勝手に開き、「ゲートを開いてよいと、誰が許可した!?」と額に青筋立てて怒鳴るT博士の声は、はたしてAソルまで届いたかどうか。

激しい水しぶきをあげて、Aソルが上空へ躍り出る。
勢いで同乗を申し出たZENONは、ひっくり返って壁に押しつけられながら感想を述べた。
「こ……こいつぁ、スゲェな」
クレイは相づちも打たず、視線は宇宙人へ飛んでいる。
空中待機していた宇宙人――タイプはαと分類される、それもAソルの接近には気づいており、既に場所を移動していた。
「そのスーツが操縦桿の替わりってワケか、なるほどねェ」
ZENONの呟きを右から左へ聞き流し、視界の端に動くものを捉えたクレイが一歩踏み出す。
「――いたッ!」
途端にAソルが、ぐいっと加速をつけて飛んでいき、ZENONはグキッと壁に押しつけられた。
「あでッ!おい、こらクレイ!動かす時は動くと断ってから――」
「そこか!」
クレイは全然聞いちゃいない。
いきなり彼が足を蹴り出すもんだから、当たるはずもない場所だと言うのに反射的にZENONは身をすくめ、すくめてしまった自分に腹を立てた。
いや、怒っていても仕方がないのだが。
なんだ、なんなんだ、この状況は。
せっかく巨大ロボットに乗り込んでも、自分が戦わないのでは意味がない。
元来、見ているだけというのは性に合わないZENONである。
自分も何か手伝いをしたい。
激しい動きを繰り出す男の背へ、苛々しながら声をかけた。
「おいッ!俺にも何か出来ることはねーのか!?」
クッと小さく呻いて飛んできた光る何かをかわしてから、クレイは後も振り返らずに叫んでよこす。
「タイプαの動きを、教えてくれ!」
「タイプα?それがアレの名前だったのか。いいだろ、この俺がキッチリ見張っててやっから」
再びガクンと機体が揺れて、バランスを崩したZENONが壁に叩きつけられる。
「だァから、クレイ!動く時は動きますって言えよォ!」
そんな暇などないことは、クレイの必死な横顔を見ていれば判るのだが、一言言わないと気が済まないのだ。
Aソルとタイプαは互いに高速移動で飛び回り、近づいて攻撃しては離れるの繰り返しだ。
めまぐるしいったら、ありゃしない。
揺れまくる上、重力もかかって、まともに立つのも困難な状態だが、クレイはよく倒れないものだとZENONは感心した。
出撃する前に彼が言っていた『コンソール・コンセレーション』なるものと、何か関連があるのかもしれない。
チカッと何かが光ったような気がして「あァん?」とZENONが上を見上げたのと、機体に激しい振動が加わったのは、ほぼ同時だった。
それだけじゃない。
クソやかましい警告音が鳴り響き、機内が赤く点滅する。
「こ、今度は何が起こりやがったんだ!?」
クレイを見れば、蹲って脇腹を押さえている。
あれだけ揺れまくってもバランス一つ崩さなかったはずの彼が、だ。
「光線を……避け損なった」
額に脂汗が浮かんでいる。
そういや出撃前には、こうも言っていた。
機体が攻撃を受けると、パイロットにも直接そのダメージが加わると。
「大丈夫か?」と珍しく他人を気遣うZENONに、クレイが小さく答える。
「大丈夫だ……まだ、戦える」
しかし立ち上がった足下はフラフラしていて、おぼつかない。
思わずZENONは申し出ていた。
「お前は少し休んでろ!俺が代わりに戦ってやる!」
クレイは、しばし無言でZENONを見つめた後、無表情に首を振る。
「無理だ。念動力のない者にソルは動かせない」
「念動力?なんだ、そりゃ」
「念を通して……ソルを、動かす」
そこまで言うのが精一杯だったのか、再びクレイはがくりと膝をつき、ZENONは彼のパイロットスーツを脱がせにかかった。
「オラ、そんなザマで続投は無理だろ。いいから、俺に任せろっつってんだ!こいつを着りゃ〜いいんだろ?」
クレイの体格はZENONと、どっこいどっこいだ。
多少クレイのほうがスリムだが、まぁ、着れないってこともあるまい。
「スーツを着ても、能力がないと……」
されるがままに脱がされながらクレイがポツポツ呟くのへは、壮絶な笑顔で応えた。
「なぁに、俺も一般人にはない能力ってのがあるんだよ。念動力とは呼ばねぇが、念じて動かすぐらいできっだろ」
念じて動かす。
クレイは、そう言った。
動けと念じれば、中央に座したコンソールと呼ばれる球体が、その感情を受け取って機体に伝えるのだ。
「よっしゃ。動けと念じるんだったな……動け……動け……うごけぇぇあぁぁぁぁ!!!!」
叫びは勇ましく、しかし機体はピクリとも反応せず、そればかりか重力に従い下へ下へと落ちていった。
クレイがスーツを脱いだ時点でパイロットがいなくなってしまったので、飛行すら出来なくなったものらしい。
「落下しているな……」
諦め気分でクレイが囁いていたが、ZENONは諦め悪く、まだ叫んでいた。
「うがぁぁぁっっ!なんで落ちるんだよッ、動けっつってんだろーが、このクソ機械がぁぁぁッッ!!!」
絶叫を空に響かせながらソルは落下していき、やがて地上で大きな砂埃が舞い上がる。
ZENONの能力は霊力であり、悪魔と戦うには偉大な能力かもしれないが――
やはり、霊力は霊力。
念動力とは無関係であり、ソルを動かすなど、どだい無理な話であった。




「――はッ!?」
勢いよく起き上がり、ZENONは周囲を見渡す。
切れかけた電灯が、頭上でチカチカ瞬いた。
「よ、よぉ。お目覚めか?」と話しかけてくる人物を、ぼ〜っと眺め、だんだん意識が戻ってくると、慌ててキョトキョトもう一度、周囲を見渡してから、自分の格好を見下ろした。
タンクトップに迷彩ズボン。
体にぴっちりフィットするパイロットスーツなどではない。
「なんか必死で動け動けって騒いでいたみたいだけど、何の夢を見ていたんだ?」
呆然とするZENONに話しかけているのは、同僚のGENだ。
そうだ、そうだった。
今日は徹夜で、こいつと二人っきりの残業作業中だったんだ。
「空を……飛んでた」
ポツリと呟くZENONへ「へぇ〜、そりゃ楽しそうだな」と全然聞く気のない調子で受け流すGEN。
「空を飛んでどっかに行きたくなる気持ちも分かるけど、今夜中に終わらせないと明日泣きを見るぞ」
GENの差し出してきた書類をたたき落とし、ZENONは怒鳴った。
「違ェよ!現実放棄じゃねぇ、戦っていたんだ!相手は恐ろしい宇宙人だった……」
「ハイハイ」と、またもGENには聞き流され、今度こそ、しっかり書類を手渡される。
「宇宙人と戦うのも結構だけどさ、まずは仕事を終わらせなきゃ。はい、これ、お前のノルマだから」
手に持たされた書類は、ずっしりと重たい。
そいつを睨みつけ、ZENONは、ハァッと溜息をついた。
「ったく……現実ってやつぁ、どうしてこうも味気ないかねェ」
「味気ないのが現実ってやつだから。さ、お仕事、お仕事」と隣の奴が何か言うのも、おかまいなしに、ZENONは再び先ほどまでの夢に想いを馳せるのであった。

宇宙人……
今度戦うまでには絶対念動力ってのをマスターしといてやるから、覚悟しておけよ!

++End++

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