2012年クリスマス企画・闇鍋if

己作品で異世界トリップ

「双竜伝承」のギルギス・デキシンズが「小春日和」に異世界トリップ!

「ふ〜、酷い目にあったな……けど、ここまで来ちまえば平気だろ」
なんてことを呟きながら、黄色い服のヒゲオヤジが電車に乗り込む。
彼だって本当なら、こんな処へは来たくなかったのだ。
朝起きた瞬間、意識が途絶え、再び目覚めた時には、もう移動していた。
見知らぬ場所へ。
目の前には笹川と名乗る男がいて、地図を渡された。
教会で神父をやれと言う。
神父なんてやったこともないよと断ると、懺悔を聞くと美少年とのイチャイチャが待っているぞと唆された。
これはもう、行くっきゃない。
デキシンズの腹は決まり、さっそく教会へ出向いたのだが――
そこで恐ろしいバケモノに襲われ、命からがら逃げてきた。というわけだ。
適当に乗ったので、この電車なる乗り物が何処へ行くのかデキシンズには判らない。
窓の外は恐ろしい勢いで風景が流れていき、風をまともに顔で受けていた彼の目の前に手が伸びてきて、開きっぱなしの窓を閉めた。
「失礼、寒かったもので」
デキシンズが何か言うより先に、手の持ち主の青年が軽く頭を下げる。
「あぁ、すまん。こちらこそ、気が利かなくて」
デキシンズも謝りながら、相手を上から下まで素早く観察した。
まず、長身だ。
髪の毛も長く、茶色がかった長髪を後ろで軽く束ねている。
服は、どこかの制服だろうか?
紺色の背広にネクタイを締めている。笑顔の柔らかな青年だ。
「格好いいね」と思わず声に出して言ってみたら、相手は少しひいてしまったようだった。
「えっ?」
いや、何が格好いいと言われたのか判らなかったのかもしれない。
デキシンズは言い直した。
「いや、君がさ。格好いいなって。それ、背広っていうんだろ?とても似合っているよ」
「あ、ありがとうございます」
引きつった笑みで受け答える青年の肩へデキシンズは馴れ馴れしく手をかけると、耳元で囁いた。
「これを機に俺とイイコトしないかい?なに、手間は取らせんよ」
「え、いや……何を言って」
「何をしていやがんだ、テメェッ!!」
青年の声と、後方から飛んできた銅鑼声が重なる。
と思う暇もなく、デキシンズは横っ面を殴られて電車の床に転がった。
「たっ、高明!駄目だよ、一般市民を殴るなんて」と青年が声をあげ、駆けつけてきた方は鼻息荒く怒鳴り返す。
「こいつァ、お前に痴漢しようとしてたんだぞ?俺には判る、遠目に見ても手の動きが痴漢そのものだったぜ!」
痴漢とは、とんだ濡れ衣だ。
こっちは、ただナンパしていただけだというのに。
ぬるりとしたものが垂れてきて、拳で拭うと赤いものが付着する。
殴られた衝撃で鼻血が出てきたものらしい。
酷い奴だ。鼻血が出るほど殴るなんて。
例え自分が本当に痴漢だったとしても、いきなり殴りつけるなんて横暴じゃないか。
だが文句をいう権利はデキシンズに与えられず、襟首を引っつかまれて、無精髭の男に睨まれた。
「おいテメェ、厚志に何しようとしちゃってくれたんだか知らねェがな、この俺の目の黒いうちはこいつに何をすることも許さねぇぞ。そこんとこを、よーく覚えていやがれッ!」
男の目は真剣そのもの、直感でデキシンズには判ってしまった。
「そうか、君は彼を愛しているんだね?」
「んなっ!?な、なに言ってやがんでぇ、俺はこいつのダチってだけで!!」
ぶしつけに斜め上発言をくらって狼狽する相手の腕から、するりと抜けだし、まだ、この場に残っていた青年の側へ立つと、改めてデキシンズは名乗りをあげた。
「君は厚志っていうのか。良い名前だ。俺はギルギス・デキシンズ。気軽にデキシンズって呼んでくれよな」
「あ、はい……よろしく……」
呆然と応える厚志の背後で、高明が喚く。
「ヨロシクじゃねぇってんだよ、お前も!」

厚志は長田厚志と名乗り、これから署へ戻るところだったという。
ちなみに高明は広瀬高明というのがフルネームだが、こちらは、どうでもいい。
高明と厚志は同じ職業、どちらも刑事だというのだが、デキシンズの目には到底そうは見えなかった。
だって厚志がピシッと勤め人なファッションなのに対し、高明ときたら上はラフなシャツに下はヨレヨレでシワシワのズボン、顎には、びっしり無精髭が生えているし、髪の毛も乱れてグシャグシャだ。
デキシンズは自分の無精髭を棚にあげて、高明を値踏みした。
署って何処の?千葉のですよと言った厚志との会話の後に、ついでのようにデキシンズが付け足した。
「あぁ、そういや厚志は知らないか?この辺で泊まれそうな場所を。どうしても今日中に笹川と連絡を取りたかったんだが、連絡先が判らないんだ」
「笹川?そいつがお前の身元引き受け保証人だってのか」と尋ねたのは高明。
「身元引き受け保証人?違うよ、俺をここへ連れてきた奴だ」
笑顔で答えるデキシンズへ、更なる質問を厚志が飛ばす。
「すみませんが、身分を証明できるものを見せてもらえますか?」
「証明?どうして俺の身分が気になるんだい」
「あなたは日本人ではありませんよね」
「あぁ、見ての通り日本人ってやつじゃあないな。それがどうかしたのかい」
その疑問には答えず厚志が問う。
「あなたを日本へ連れてきた笹川氏が何者なのか、あなたはご存じなのですか?」
「いいや、全く。突然俺の前に現れて、教会への地図を渡して神父になれって言ってきたんだ。本当だよ」
どこまでも、のほほんと答えるデキシンズへ背を向けると、厚志と高明はヒソヒソ相談を始める。
「どうする、厚志。こいつの話を聞く限りじゃ、こいつは海外から拉致されてきた誘拐被害者そのものじゃねぇか」
「でも、それにしては本人の自覚が薄すぎると思わないか?」
「確かにな。けど、こいつが元々そういう性格なのかもしんねぇし」
ちらっと厚志がデキシンズを盗み見ると、彼はヘラヘラ笑っている。
自分の身に、どんな不幸が起きたのかも判っていないようだ。
「誘拐なら高明、君の出番じゃないか」
「バカァ言え、一課は一課でも、こいつぁ特殊犯捜査係の持ち回りだぜ。とはいえ、このまま放っとくわけにもいかねぇな……早急な身元確認が必要か」
「でも身分証明書は持っていないって」
「家に置いてきちまったか」
ヒソヒソ話を終えると、二人は向き直る。
デキシンズが尋ねた。
「内緒話はお終いにして、俺と話そうよ。もっと君のことが知りたいんだ、なぁ、厚志」
「俺はどうでもいいってか?」と高明が仏頂面で拳を固めるのをみて、彼は言い直す。
「い、いや、高明も!」
焦るデキシンズに、ますます眉間の皺が濃くなる高明。
「気安く高明なんて呼ぶんじゃねぇッ。広瀬刑事と呼べ!」
「けど厚志は高明って呼んでいるじゃないか。なら俺だって高明と呼んだっていいだろう?」
「口答えすんな、この間抜けな誘拐され野郎が!!」
とても被害者に対する態度じゃない。
頭をかかえた厚志の胸元で、ピーピー着信音がなる。
こんな時に誰だ、電話をかけてよこすのは。
出てみると、それは後輩の須藤であった。
『あぁ、長田さんご無事でしたか!』
「どうしたんだい、須藤くん。死にそうな声を出しちゃって」
『だって長田さん、帰ってくるって言いながら全然戻ってくる気配がないから俺、どこかで事故にでもあったんじゃないかって、心配して……っ』
耳を澄ませば、ずずっと鼻をすすり上げる音なんかも聞こえてきて、厚志は心配性な後輩を宥めにかかった。
「大丈夫、出がけに君が言ってくれたように車にも踏切にも気をつけてきたからね」
電話を押し当てていないほうの耳に、車内アナウンスが流れてくる。
「おい、次で降りるぞ。お前も一緒に署まで来い」
高明がデキシンズに、そう言って、デキシンズが難航を示しているのも横目に見えた。
「えっ、署へ行くのかい?俺は嫌だな、厚志とはホテルって処に一緒に一泊したいんだ」
「ホテルに泊まりてぇなら、テメェ一人で泊まりやがれ!!なんで厚志を引っ張り込もうとしてやがんだよッ」
『でも、事故じゃなかったら、どうして遅れているんです?広瀬さんも一緒なんですか?』
周りの騒音に負けぬよう、厚志も声を張り上げた。
「電車に乗り遅れたんだよ。ごめん、心配かけてしまったね。あとは署で話すから、一旦電話を切ってもいいかい?」
「へぇー、これがテレフォンってやつか!」
いきなり耳元でデキシンズに息を吹きかけられ、文字通りビクゥッと厚志が震えるのにもお構いなく、ヒゲオヤジはベタベタとiphoneを触ってくる。
おかげで全面に渡ってベタベタと奴の指紋がくっついた。
「てめっ、厚志に近づくんじゃねぇっつってんだろうが!」
高明が大声でがなりたて、今さらながら自分たちが好奇の目に晒されている事に厚志は気づく。
「も、もう、いいから。高明、それからデキシンズさんも降りましょう」
ちょうど上手い具合に電車のドアが開いたのをいいことに、高明の腕を引っ張ってホームへ降りた。

厚志の親切な説明によると、デキシンズが今いるのは千葉県だそうだ。
教会は東京都ってところにあったから、ずいぶん離れた場所へ移動したことになる。
最後に笹川と会ったのは何処だ?と若い刑事に聞かれ、デキシンズは正直に首を真横に振った。
「判らないんだ」
「判らない?」
「うん。辺り一面壁も床も真っ白でね。次に気づいたら、道路に放り出されていた」
「次に気づいたらって、ほな、一旦気を失ったっちゅうこっちゃか?」と首を傾げたのは、若い刑事の傍らに立つ青年だ。
短めの髪にくりくりなパーマをあて、瞳は切れ長、面長な顔と、黙って立っていれば美青年であるはずなのに、くちを開けばポンポンとおかしな訛りが飛び出して、デキシンズに褒め称えるチャンスを与えない。
この男は名を柳充、椅子に座っている若い刑事は須藤真作といった。
「いや、気を失った覚えはないんだけど……本当に、あっと気づいた時には場所が変わっていてね」
意識は保っていた。
笹川の言葉は一言たりとて聞き逃した覚えはない。
しかし一瞬で真っ白な空間からブロック塀に挟まれた道路へ移動したのも、また事実。
それ以外、どう説明したらいいのか。説明しようもない。
言いながら、我ながらおかしな話だとデキシンズは思う。
それは刑事達も同じ風に思ったようで、しばし空白の間が開いた。
「おかしなクスリでも嗅がされたんとちゃう?」
柳が小声で須藤に、そんな耳打ちをしている。
須藤が、かぶりを振って小声で返す。
「でも話を聞く限りじゃ誘拐されたって訳でもなさそうだし、正気を失っているようにも見えないよ」
「ほな、住所判明したら、とっとと送り返そか」
俺らの仕事とちゃうけどな、と小さく付け足す柳の脇腹を小突いてから、須藤はデキシンズへと向き直る。
「それじゃ、ここに住所と名前、家族がいたら、その名前も書いてもらえますか」
何かの書類を差し出されたが、さて、困った。
本当のこと――ジ・アスタロトの本拠地住所などを書けば、きっと目の前の二人はデキシンズを狂人扱いするであろう。
だから彼は咄嗟に、こう言った。
「それも判らないんだ。道路へ出た瞬間、こう、ガンと頭をどこかへぶつけたみたいでね。名前以外の自分のプロフィールを、全て忘れてしまったんだ」

記憶喪失の困ったヒゲオヤジを、結局は高明が面倒を見る事になって一件落着した。
厚志は勿論心配したし同輩後輩先輩諸氏も反対したのだが、言い出したら猪突猛進な高明が場を無理矢理収めてしまったのだ。
「病院へつれていけって皆はいうけどよ、一晩経てば綺麗さっぱり思い出すだろうぜ」
元々記憶喪失になっていないのだから、それはいいとして、デキシンズとしては厚志のほうが良かったなぁ、なんて思いながら高明のアパートへご一緒した。
――汚い。
まず第一にデキシンズの視界に入ったのは、あまりにも汚い部屋のとっ散らかり具合であった。
振り返った高明が言い訳する。
「いっとくが、いつも汚ェわけじゃねーぞ。大掃除の真っ最中だってんで、こうなってるだけだからな」
それには頷かず、デキシンズは尋ねた。
「君は一人暮らしなのかい?奥さんは?」
「いるわきゃねーだろ。いたら、もっと綺麗になってらぁ」
ふてくされるのへ畳みかける。
「厚志は?彼は奥さんじゃないのかい」
「厚志はダチだってなんべん言やぁ判るんだ!」
血相を変えて殴りかかってくる高明の拳を、ひょいとかわし、デキシンズは靴を脱いで上がり込む。
足の踏み場もないとは、まさに、この部屋の状況を指すのであろう。
どこまでも続く紙ゴミと脱ぎ散らかされた服の行列を踏まないように歩いていくと、敷きっぱなしの布団へ辿り着く。
枕元に置かれた写真立てを手にとって、デキシンズはにんまり微笑んだ。
「ただの友達にしちゃあ写真を枕元に飾ったりして、ちょっと度の過ぎた仲良しぶりだね」
「うっるっせっえっよッ!友達の写真を部屋に飾っちゃいけねぇって法律があるのか!?ねーだろが!」
勢いよくデキシンズの手から写真立てをひったくると、高明は高い棚の上に置き直す。
棚の上から微笑みかけているのは、厚志一人だ。
友達だというのなら、普通は肩を組んだり並んで立つ自分の姿も一緒に写しそうなものなのだが……
だが、それを突っ込めば、飛んでくるのは鉄拳だ。
デキシンズは肩をすくめ、話題を変えた。
「じゃあ、君はずっと一人で暮らしているのか。寂しくならないのか?」
「別に」と高明は素っ気ない。
「電話かけりゃあダチは呼びだせっし、署は常時むさくるしい野郎共で埋まってっからな。むしろ一人になれる場所が欲しいぐれぇだ。だから、この部屋には普段は誰も呼ばねぇことにしてんだ」
厚志も普段は部屋に呼ばないのか?とデキシンズは疑問に思ったが、今の高明に厚志の話題はタブーだ。
多分、何を言っても彼はムキになり、正直に答えてくれない気がする。
「でも、俺は呼んでくれたんだな」
自分では極上だと思っているスマイルを浮かべてみても「呼んだんじゃねぇ、俺が連れてきたんだ」と、やはり高明は素っ気なかった。
「それとな」と振り返った彼の眉間には、無数の縦皺が刻まれており。
迫力に一歩たじろぐデキシンズの胸を人差し指でグリグリ突きながら、高明はドスのきいた声で迫った。
「質問すんのは、こっちだ。テメェが俺のプライバシーに突っ込んでくるのは以降、絶対に許さねぇ」
「でも――」と視線を本棚へ移し、デキシンズの瞳が輝くのを見て。
「ま、待てッ!」
高明が止めるより早く、奴は移動していた。
お目当てのアルバムを引っ張り出すと、パラパラめくる。
「返せ、このやろう!!」
写真立ての時と違って、用心していたから簡単には奪い返されない。
ぱらぱらとページを捲りながら、歌うようにデキシンズが問う。
「思った通りだ。君は自分のアルバムだけじゃなくて厚志専用のアルバムを作っているね、何の為かな」
「うるせぇッ、作っちゃいけねぇって法律でもあんのかよ!」
「勿論、ないと思うよ。けど友達だけが写っている写真で一冊のアルバムを作るってのは、珍しいんじゃないか?」
アルバムの最後にあったのは、どこかの学校を卒業した時の写真か。
桜の舞い散る中で、厚志が、こちらへ向かって微笑んでいる。
「この写真を撮ったのは君だね。盗み撮りなら、ここまで見事な笑顔は撮れない」
「だ、だったら、何だって言うんだ!」
「いや……それほど仲良しなのに、何故君はむきになってアルバムを俺に見せたくないのかな、と思ってね」
高明は可哀想に、顔が真っ赤だ。
電車で絡んできた時から、高明が厚志に親友以上の何かを抱いていることなどデキシンズは薄々感づいていた。
だが多分、高明本人は自覚していない。だから友達だと繰り返すしかないのだ。
「このシャツ、君の趣味とは違うみたいだけど、厚志のかい?」
軒先に干されてカピカピに乾いた真っ白な開襟シャツを取り上げ、デキシンズが尋ねるのへは、顔も真っ赤に青筋立てて、高明が怒鳴り返す。
「プライバシーに関する質問は禁止だって言ってんだろうが!!」
「友達のシャツを後生大事に持っているなんて、そうとうな変態だぞ」
デキシンズに笑われ、とうとう最後の理性が粉々に吹っ飛んでしまったのか、高明は無言でぶるぶる震えていたが、顔をあげた時には悪鬼羅刹の表情で奴に猛然とタックルをかました。
「てめぇぇぇぇーッ!!記憶喪失だと思って優しくしてやりゃつけあがりやがって!」
いつ誰が誰に優しくしたのか。
それより窓際で暴れたりしたら危ないじゃないか。
タックルされた余波でデキシンズの体は半分ベランダに押し出され、もう一回どんと押されたら落ちてしまう。
「ちょ、ちょっとあぶ、危、危なぁぁいっ」
無我夢中で高明のシャツをむんずと掴み「放せ、このやろう!」と暴れた高明ごと、ベランダから転落した。


次にデキシンズが気がついたのは病院のベッド――ではなく、見覚えのある白い空間で。
「お前ね、せっかく異世界で物見遊山するチャンスを与えてやったのに、ベランダから落っこちるとか何やってんだよ?」という、笹川のお説教も付属した。
「好きで落ちた訳じゃないよ」
答える側から脇腹がずきりと痛み、デキシンズは顔をしかめる。
どうやらベランダから落ちたのは本当で、体のあちこちが痛い。
「高明は?」
「アパートの二階から落ちた程度じゃ死なないよ。厚志が見舞いに来て、イチャイチャしとる」
笹川は肩をすくめ、ぼそっと付け足した。
「もっと引っかき回してやれば、面白かったのに」
「うん、俺としちゃあ厚志にチューしてあげたかったんだけどな」
「チューねぇ。お前にしちゃ健全思考だこと」
褒められたんだかけなされたんだか、だがデキシンズがそれを追及する前に、「ま、いいや。今回はご苦労様」と言った笹川の姿が光に包まれていく。
「あ、待ってくれよ。傷ついた俺を癒してくれる役は、君に交替したんだろ?なら俺を癒してくれよ」
笹川へ勢いよく飛びついたデキシンズは「何をする!」と鋭い女の声に一喝され、たたき落とされた。
アイテテとばかりに見上げてみれば、そこにいたのは同僚のレイ・アラミスで、自分がいるのも真っ白な空間ではなくジ・アスタロトの基地内だ。
そうか、元の世界へ戻されたのか。
チェッ、残念。
もう少し早く飛びつけば、笹川の唇ぐらいは奪ってやれたのに。
「デキシンズ。気でも違ったのか?」
一応は心配してくれているらしい女同僚へ「なんでもないよ」と微笑むと、デキシンズは持ち場へ戻っていったのであった。

++End++

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