十七周年記念企画・闇鍋if

ドキドキ☆闇鍋肝試し大会

1話 ドキドキ☆闇鍋肝試し大会

――夏が来た。
待望の夏が!

「いや、まだ六月だよね?」
六月だって暦の上では夏である!
とにかく、とツッコミを入れてきた長田へ振り向き、内木が言う。
「夏と言えば肝試しの季節よ!えぇ、反論は許さないわ。今から全員で肝試しをやるわよ!」
「全員?全員って、署の、かい?」
おどけてみせる長田だが次の瞬間、激しい目眩に襲われて、ぐらりと体を傾ける。
なんだ?と思う暇もないまま意識は闇に沈み、そして気がついたら、見覚えのない公園に立っていた。
内木と二人で……

「夏休みだよ?」
「闇鍋肝試し大会〜!」
突如どこからともなくファンファーレが鳴り響いたかと思うと、やはり、どこからかスポットライトが公園を照らしてきて、二人の男を浮かび上がらせる。
男達は幽霊柄のレインコートを着込んでいた。
夏休みだと言っていたような気もするが、格好は六月を意識したものだ。
「わけがわからないな」
首をひねる長田の横で、内木も突っ込む。
「闇鍋肝試しって、なんなの?」
そっちかよ。
男達は内木を見つめ、口々に答えた。
「そりゃ〜もちろん世界観ごっちゃで肝試しするから闇鍋なのでぃす(≧∀≦)納涼っていうには、まだ早いですしおすし?」
「ちなみに脅かす役と驚く役は、俺達が勝手に決めといたから」
改めて、長田は男達をまじまじと眺めてみる。
一人は十代にも見える童顔で、もう一人は褐色の肌に尖った耳と、とても珍妙だ。
しかし彼らの容姿にツッコミを入れる暇もなく、再び大音量のファンファーレが耳を劈く。
ふと、公園にいるのは男二人と内木と長田だけではないのに、内木も長田も気がついた。
ざわざわとざわめく人影が、あちらこちらに存在する。
いつの間に?と驚く長田の肩を、ぽんと気安く叩いてくる手があった。
振り向けば、背後に立っていたのは、かつての上司ではないか。
「三島さん……お久しぶりです」
「あぁ、長田。ぶしつけですまないが、ここはどこだ?」
「本当にぶしつけッスね」
「ッスね?」
ナチュラルに混ざってきた後ろ前帽子のやつに、長田も内木も、そして三島も注目する。
「誰だ、きみは」
「俺スか?ジロっす」
「そうか、ところで君は何で唐突に俺達の会話へ混ざってきたんだい?」
「ツッコミの手を誰も入れられそうになかったんで、つい」
「そんなことないわよ。あなたが言わなきゃ私が入れていたわ」
「いやいや、内木さん。一応三島さんは元上司だし」
「今でも署こそ違え同業ではあるのだがな……」
「そんなことより、肝試しね」
社交辞令を「そんなこと」の一言で片付けると、内木は男性陣をキッと見つめる。
いや、睨みつけた。
「先ほど脅かす役と脅かされる役が決まっていると言っていたけど私達はどちらなのかしら?」
「内木。今問題にすべきなのは、現在地だろう」
「私は出来れば脅かし役がいいんだけど……他の人達にも話を聞いてみましょう」
マジレスする三島をほったらかしに、内木はさっさと歩き去ってしまい、長田はジロと三島の側に置いていかれた。
「なんかすみません、三島さん。彼女、オカルトが絡むと自分の思考に入りがちで」
「いや、構わない。彼女のオカルト好きは、俺も耳にしていた。仕方ない。彼女は放っておくとして、我々だけで情報収集するとしよう」
「あ、ここは亜空間ってとこらしいッスよ」
さらっと情報提供してきたジロに、長田も三島も次の言葉が続かない。
ややあって、我に返った三島が「亜空間とは何だ?」と聞き返す前に、みたびやかましいファンファーレが鳴り響く。
「先ほどから何なんだ、この騒音は」
「注目して欲しいって事ですかね……?」
三島の眉間に寄った縦皺を気にしながら長田が呟けば、スポットライトで煌々と照らされた真下に立った例の二人組が騒いでいる。
ちょっと目を放していた隙に、彼らの側にはホワイトボードが置かれており、そこに一枚の紙が貼り出されていた。
「はいは〜い、お立ち会い!え、お立ち会いって何?って?ぐぐれカス(゚Д゚)それはさておき皆さ〜ん、注目ですよぉ〜!」
「脅かす奴と脅かされる奴の一覧表が、さっき出来たんで、ここに貼っとくから、見ておけよ」
リアルタイムで小道具その他が作られる、やっつけ感満載なイベントのようだ、闇鍋肝試し大会とは。
律儀にも紙を眺めた三島と長田は、双方の名前を脅かされ役に見つけた。
「脅かすのは趣味ではないから、まぁいいだろう」
「というか、これって強制参加なんですかね……」
「イッケメ〜ン、発見☆」
紙を眺める二人の背後に甲高い声が接近してきたかと思うと、身構える暇も振り向く暇も与えられず、三島は声の主にガバッと後ろから抱きつかれ、さらには胸をサワサワと撫でられる。
あまりの気持ち悪さに勢いよく振り払うと、声の主は「キャピ〜ン」と謎の奇声を発し、可愛らしく微笑んだ。
「何だ、貴様は!」
「はぁん、イケメンルックスにイケメンヴォイスなのに口汚いとか、ギャップ萌え〜」
「それはいいけど俺達に何か用なのかい?セクハラは感心しないぞ」
「何言っているの?イケメンを見つけたらセクハラする!それが、あたしのディスティニーよっ」
わけの判らないマイルールを振りかざしてきたのは、見た目十代ぐらいの少女であった。
目にも鮮やかな、まっピンクの髪の毛を後ろで縛っている。
「公僕の前で堂々と犯罪宣言とは、いい度胸だ」
「はぁん、怒った顔もス・テ・キ☆」
「君、気が済んだなら、どこかへ行ってくれないか?このままだと三島さんが、ブチキレてしまいそうだし」
「いいえ、まだよ、まだっ!雄っぱいを揉んだだけで、あたしの気が済むと思ったら大間違いなんだから!下も確かめさせてもらうわよ〜」
「ふざけるな!貴様、現行犯で逮捕してやるッ」
「三島さん、落ち着いて下さいっ……!ここは俺達の管轄じゃないんですよ!?」
いきりたつ三島を長田が宥める。
二人を見つめて少女が名乗りをあげた。
「あたしの名は、ビルゾアラノクタール!長いからビアノで結構よ。ふふっ、あたしが脅かし役となったからには上も下も、めいっぱい触りまくってやるから覚悟しておきなさいよね、そこのイケメン二人組!」
堂々としたセクハラ宣戦布告の後、助走もなしに、くるくるくるっと見事なバク転三回宙返りを見せながら、ビアノは去っていった。
「ふざけるな……長田!こうなったら、闇鍋肝試し大会とやらで完膚無きまでに、あの小娘を叩き潰すぞ!!」
「いや、待って下さい三島さん。相手は少女ですよ?」
「少女だから何だ!性犯罪者を野放しにしろと言うのか!?」
完璧頭に血がのぼった三島の熱を冷ましたのは、必死の長田ではなく内木であった。
どこに行っていたのか、いつの間にやら戻ってきた彼女は、二人を交互に見つめて、ふふんと鼻で笑ってきた。
「どうやら二人とも、やる気になったようね。それでこそ、こちらも脅かし甲斐があるってものよ。長田くん、三島さん、張り切って脅かされるといいでしょう。私も心おきなく、あなた達の心臓を止めにいくわ!」
「えっ」
「内木、きみも脅かし役なのか?」
「フフフ、オカルトを舐めてかかる者には災いが降りかかる……覚悟して下さいね、三島さん」
内木にまで宣戦布告された。
呆然とする男二人を残し、内木も、どこかへ去っていく。
いや、彼女の歩き去った方角には『オバケ役更衣室』と書かれた看板とテントが建てられていたから、そこで待機するのであろう。
「三島さん、彼女に何か恨みでも買ったんですか……?」
「知らん。身に覚えもない、冤罪だ」
「やる気満々でしたよ、内木さん……セクハラ布告もありますし、ここからは極力、二人一緒に行動しましょう」
「あぁ」
肝試し大会に出ないと、物事も進展しないようだ。
釈然としない気分のまま、長田と三島は肝試し大会へ参加することとなった。

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