十一周年記念企画・チェンジif

友達の友達で立ち位置チェンジ

酒木は主人公クロードの友達、トシローのオタク仲間にして腐女子です。そんな彼女を、17歳にして社会人な火浦と取り替えてみたら「友達の友達」は、どういう展開になってしまうのでしょうか?
※古い企画ゆえ、加筆修正前の内容になっています

5.腐女子の暴走


「なぁ、トシロー」
「なんだ?」
「その、コミックマーケットってやつだがよ」
「うん」
「……火浦も、来るのか?」
空手一辺倒の栃木が、何故コミックマーケットなどという言葉を知っているのか?
答えは明解。友達の友達、トシローが超のつくヲタクだからだ。
「いや、あいつは来ないんじゃないかな。誘ってもいないし」
「どうして?友達なんだろ、あいつとは」
「違ェーよ、そんなんじゃない。あいつだって俺が友達じゃ嫌だろ」
「そんなこたないんじゃねーか?」
「クロードまで、何言ってんだよ?」
「だって趣味が同じなんだろ?趣味のあう異性が身近にいるのって、嬉しいと思うけどな」
「嬉しいのと友達になるってのは別だろ!第一、あいつは――」
「あいつは、何だ?」
すっと三人の前を塞ぐようにして、軽く会釈をしてきた少年こそは。
今まさに噂をしていた当人の、火浦であった。
「響、ちょっといいか?ついてこい」
急に声を低めて、有無を言わせぬ口調で火浦が命じる。
逆らえぬ雰囲気に怯えながら「う、うん……」と頷くトシローへ、栃木と黒鵜戸の二人もついていった。


ひと気のない公園へ到着した途端、トシローは火浦に詰め寄られる。
「オイ、響。俺とお前の趣味が、いつ一緒になったってんだ?チョーシこいてんじゃねーぞ」
「だ、だから否定したじゃん!お前とは友達じゃないって!」
「だったら、会話そのものに俺の存在を匂わせんじゃねーよッ。お前と顔見知りってだけでも胸くそ悪ィんだからな、こっちは!」
なにげに酷いことを言っている。
「いや、トシローだけを責めないでくれ」
たまりかねて、栃木と黒鵜戸も口を挟む。
「トシローを問い詰めて、お前の存在を聞き出したのは俺達だ。トシローは悪くねーよ」
すると火浦は、二人にも人相の悪い目を向けた。
「てめーら、このことは、絶対に他言無用だ。誰にも話すんじゃねーぞ?」
「ハイハイ」「あぁ、判ってる」
「ホントに判ってんのか?特に、そっちの空手バカは往来で話してたしよ」
「い、いや、それは、すまなかった。だから、その……」
「罰として、俺の練習台になれ」
「ハ?」
「ハ?じゃねーだろ。お前を叩き台にさせろってつってんだ」
「おいウラッち、やめてくれよ。こいつらは関係ないだろ?悪いのは全部俺なんだから!」
「ウラッちなんて馴れ馴れしく呼ぶなっつったら何度判るんだ!?このクソデブがッ」
「ご、ごめん……でもクロードとケースケを巻き込むのは、やめてくれよぉ。関係ないじゃないか、二人とも!」
二人の会話は、どう見ても友達って間柄ではない。
一方的にトシローが火浦に虐められている、或いは嫌われていると言った方が正しいか。
「うるせーな。こいつぁデキそうだから、俺のケンカ練習の相手にしようってんだ。文句あんのか?」
「やめてくれよー!もう、本当に!」
「つーわけで、栃木!」
「おっ、おう?」
「今すぐ、ここで始めようぜ」
「……ン、まぁ、いいぜ」
「いいぜじゃないだろ、ケースケも!どうして、二人が戦わなきゃいけないんだよ!?」
「ったく。アニメばっか見てるキモヲタは、飲み込みも悪ィんだな」
「おい、トシローをあんま虐めんな」
「何だ、てめぇ。いたのか?」
「いちゃ悪いのかよ?つーか最初から、いただろうが!空気扱いすんじゃねぇっ」
「そうかい。ま、お前にゃ用もねーから、その辺で響と一緒に見学してろ」
「オイ。やるのは構わねぇがな、30分だけでいいか?」
「ふざけんな。30分程度で、この俺が満足するとでも思ってんのか」
やる気満々な発言に、空気扱いされた黒鵜戸も間に割って入る。
「いい加減にしろよ!」
「うるせぇっつってんだろうが、このエアーマンがッ」
「エアーマンって言うな!つか、ここ一応公園だしケンカの練習とかは」
「公園だったら、何だっていうんだ!?ガキが遊んでいるならいざ知らず、誰もいねぇ公園で誰に迷惑がかかるってんだ、言ってみろ!」
「いや、黒鵜戸の言うとおりだ。やっぱ公園で暴れるのは、やめとこうぜ」
「今さら逃げ腰か?その筋肉は、ただの飾りだったのかよ」
「筋肉質ってのと、公園で迷惑行為をやらかすってのは、別次元の問題だろうが」
「グダグダと説教の好きな野郎どもだな……てめぇ、ストリートファイトを申し込まれても、今みてぇに屁理屈ぶっこいて尻尾巻くんじゃねーだろーな?」
「ストリートファイトってなぁ、道で戦うルールだろうが!公園で暴れるバカは、いねぇよ!」
火浦の勢いにつられて、栃木までもが冷静さを欠く始末。
二人の口喧嘩を唖然と見つめながら、黒鵜戸は、同じく呆然と佇むトシローに頼む。
「言ってる事が、無茶苦茶だ……トシロー、あいつを何とかしろ」
「む、無理だよ。ウラッち、普段からああだし、俺の言うこと聞いてくれた事なんて一度もないし」
しかし今は誰もいないけど、いつまでも公園に誰も来ないとは限らない。
こんな処で暴れている間に、うっかり子連れのママさんでもやってきたら大変だ。

End.

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