十一周年記念企画・チェンジif

双竜伝承で立ち位置チェンジ

坂井は主人公・葵野の大切なパートナー。そんな彼を、敵でありながら葵野にとっては恩人でもあるデキシンズと取り替えてみたら「双竜伝承」は、どういう展開になってしまうのでしょうか?
※古い企画ゆえ、加筆修正前の内容になっています

第五十話 監禁


自分の部屋を抜け出し地下牢へやってきた葵野は、真っ先にデキシンズのいる牢屋へ走り寄る。
見張りは、いない。見張らなくても、ここへ放り込まれた者が逃げることなど叶わない。
中央国の地下牢は、頑丈な石造りだ。MSの怪力をもってしても壊せない設計になっている。
何重にも分厚い石を積み重ね、隙間を粘着度の高い砂土で塗り込めてある。
中央国の王家はMSを信仰する反面、MSの能力を恐れてもいた。
将来、MSの犯罪者が出た時に備えて、この牢屋を造ったものらしい。
牢屋のスミッコで、いじけたように丸くなっている緑色の塊を見つけ、葵野はそっと呼びかけた。
「デキシンズ……デキシンズ、もう寝ちゃった?」
「寝てないさ。一人ぼっちじゃ、とても眠れそうにないよ」
拗ねたぼやきが返ってきて、首を回したカメレオンと目が合う。
「ねぇ……もっと、こっちに来てよ。そこじゃ触れない」
「君はいいよな、自由に動き回れて。さすが、この国の第一王位継承者だ。完全部外者の俺とは違う」
思わぬ嫌味に、葵野はビクッと体を震わせる。声にも震えが走った。
「ご、ごめん……俺が、もっと権力を持っていたら……皆も、閉じこめられなくて済んだはずなのにね」
少し言い過ぎた、と慌ててデキシンズは身を起こし、葵野の側へ近寄ってくる。
頬を流れる涙を舌で舐め取ってやり、クリクリとした目で葵野の顔を覗き込んだ。
「すまない。君に当たってもしょうがないのに、な」
「う、うぅん、いいんだよ、デキシンズ。デキシンズには怒る権利、あるから……」
慰められれば慰められるほど、葵野は自分が惨めに思えてくる。
デキシンズの言うように、葵野力也は第一王位継承者だ。
だが、そうでありながら実質上の権力は祖母の美沙が一人で握っていると言っても過言ではない。
「自分を責めないでくれ。君を外の世界へ連れ出したのは、他ならぬ俺なんだから」
長い舌が、頬と言わず、葵野の手を、腕を舐めてくる。
「君は悪くない。悪いのは、人の話を聞かない女帝と、人の話に流されやすい、この国の移住民だ」
「デキシンズ……」
いぼいぼの背中を撫でているうちに、デキシンズが、ゆっくりと変化を解く。
何度見ても不思議だ。緑色の硬い皮膚が見る見るうちに肌色に変化し、人の肌になる。
するすると尻尾が短くなってゆき、見えなくなったと思えば、つるりとした尻が表われた。
「……服、どうしたんだよ……」
デキシンズは、素っ裸だった。彼は両手で股間を隠し、照れくさそうに答える。
「それがね、不覚を取って兵士どもに脱がされちまったんだよ」
「え!?」
てっきり彼が自分で脱ぎ捨てたんだとばかり思っていたので、葵野は素っ頓狂な奇声をあげる。
ところが脱がされた本人は、マイペースにも落ち着いており。
「そんなに驚く事じゃないだろう?この格好じゃ、どこにも逃げ出せないようにしたってだけの話さ」
「だ、大丈夫だった!?何か、誰かに変なことされなかった?」
逆に葵野のほうがオロオロしてしまい、妙なことを口走る有様。
「お尻の穴に指を入れられるなんてこと」
「誰もしないって。俺を弄くって喜べるのは、君ぐらいなもんだぜ」
被害者たるデキシンズには、呆れられる始末。ようやく我に返った葵野は、ふぅっと大きな溜息を一つ。
「……良かった。お前が無事で」
ホッと安堵に顔を綻ばせる葵野の手を柵越しに握ると、デキシンズも笑顔になる。
「まぁね。いきなり処刑されなかっただけ、ラッキーだったよ」
途端にガバッと立ち上がり、葵野が大声で喚き立てた。
「処刑なんて、そんなこと!俺が、絶対にさせやしないッ」
「さすが王子様、格好いいねぇ」
やんややんやと囃し立てた後、デキシンズが葵野を見上げてくる。
「でも、君だって勘当一歩手前だったんだぞ」
「う、うん……」
あれには心底驚いた。
どんなことがあっても、婆様だけは力也を迎え入れてくれると思っていたのに。
ま、自業自得が招いた結果だと言われれば、そうかもしれないので、納得する部分もあった。
不意にデキシンズがボソリと呟く。
「……ごめんな」
えっ?となって葵野が座り直すと、デキシンズは視線を下へ向けたまま謝ってきた。
「俺が誘ったばかりに、君は帰る場所を無くしかけたんだ。君こそ、怒る権利がある」
「そ、そんなこと」
「何も知らない世間知らずの王子様を無断で外につれだしたんだ。普通なら、死刑になって当然だ。この程度の監禁で済むのが不思議なくらいさ」
放っておいたら自殺してしまいそうなほど、落ち込んでいる。
だんだんデキシンズが心配になり、葵野の慰めにも力が入る。
「で、でも、お前についていこうと思ったのは俺自身だし」
「だけど俺に出会わなきゃ、君は外の世界へ出ていこうとは思わなかっただろ?俺が、君の人生を狂わせた。自分勝手な理由で君を連れ回し、何度も危険な目に遭わせてしまった」
うつむき加減で表情は見えないが、彼の気持ちは痛いほど伝わってくる。
声が震えていたし、頬には光るものが滴っていた。
「君が死にかけた時……こう、思ったんだ。俺のせいで君を失うぐらいなら、俺が死んでしまえばいいのに……って」
語尾が涙で染まる。言葉に詰まり、かわりに出たのは嗚咽だ。
何度も目元を拭い、何かを言おうとするのだが、言葉の代わりに出るのは嗚咽ばかりで。
あぁ、二人を隔てる柵さえなければ、ぎゅっと抱きしめてやりたい。
否。柵など関係ない。
葵野は手を伸ばし、デキシンズの腕に触れた。
ビクリと震える彼の腕を掴み、自分の元へ引っ張り寄せる。
まだ彼は顔を上げようとしなかったが、葵野は言ってやった。
「デキシンズ、俺を連れ出したことを後悔するのは、やめてくれ。俺は、お前に誘われなくても、きっと……お前を誘って、いずれ外の世界へ飛び出していたと思うんだ。中央国を、この国をもっと良くする為には、外の世界を知る必要があるからね」
「力也……」
かすれる声で、デキシンズが顔をあげる。
溢れる涙を、もはや拭おうともせず、彼は泣いていた。
「デキシンズ、俺が必ず何とかしてみせる。だから……自分を責めたりするのは、やめようよ」
柵ごしに口づける。
さっきデキシンズがしてくれたように、今度は葵野が彼の唇を舐め、頭の後ろに手を回し、吸い上げる。
「……んっ……」
舌が蠢き、絡み合う。片手を伸ばして股間に触れると、デキシンズは小さく身じろぎした。
まだ名残惜しかったが、唇を放す。デキシンズの涙はもう、止まっていた。
「……デキシンズ。約束だ。だから早まって……その、妙な気を起こしたりするんじゃないぞ?」
「うん……」
素直に頷くと、デキシンズは弱々しく笑って見せた。
「君のこと、信じている。吉報を待っているよ」

End.

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