十一周年記念企画・チェンジif

EXORCIST AGEで立ち位置チェンジ

GENは主人公ティーガの育成係兼ラスボスとの因縁が強い重要人物なわけですが、そんな彼を敵役にして少々三枚目なラングリット=アルマーと取り替えてみたら「EXORCIST AGE」は、どういう展開になってしまうのでしょうか?
※古い企画ゆえ、加筆修正前の内容になっています

act8.学院 意識


ZENONが目撃したという、デヴィット=ボーン。
彼が九月から親善大使として桜蘭学院へやってくるというのだ。
無論、写真で見た限りの印象でしかないので、全くの別人という事も考えられる。
しかしミズノとて、THE・EMPERORの一員である。見間違えの可能性は、限りなく低かろう。
現に今、彼女から写真を見せて貰ったラングリットも、うぅむと唸り声をあげていた。
「確かに、同一人物と言ってもいいほど似ているでござる。ニヤケ具合といい、きっちり分けた七三といい」
「でしょ?こんなに似てていいのかってぐらい似ているわ、あいつに」
言いながら、ミズノは勝手に珈琲メーカーを動かして、珈琲を煎れている。
止めるでもなく写真と睨めっこするラングリットの手元にも、カップを置いた。
「影武者……?いや、そのような真似をするメリットがなかろう。となると、本人か」
「その可能性は限りなく高いわね。ただ、問題は何故このタイミングなのかって点だけど」
ただでさえ、学院内は悪魔疑惑でゴタゴタしている。
なのに学院長は何を考えて、西の親善大使なんぞを招き入れようとしているのか。
いや、もしかしたら親善大使の話は、ずっと前から決まっていた事だったのかもしれない。
学院に悪魔が紛れ込んでいるという噂のほうが、後に出た話だとすれば?何も不自然な事ではない。
「それにしても……悪魔祓いを雇ったり親善大使を招いたり、随分とお金のある学校よね」
「左様、左様。この家も」と、天井を見上げてラングリットが言う。
「学長の好意で用意されたのでござる」
ちらっと彼の顔を一瞥して、「一人で住むには広すぎない?」なんてことをミズノが聞いてくる。
だから、先回りして言ってやった。
「女の子なんて、連れ込んでおらぬ。パーシェルが焼きもちを妬くのでな」
「あら、誰の目が怖いのかと思えば、使い魔なの!?」
苦笑しつつ、ミズノが珈琲を運んできた。
とぷとぷと注がれる茶色の液体を眺めながら、ラングリットは頷く。
「あやつは、ああ見えて寂しがり屋さんなので候。俺が任務で誰かに優しくしたりするだけでも、スネまくりでな。大変なのだ、あとのケアが」
「優しくしたり……って、誰に?」
ミズノの目がキラリと光ったような気がしたので、ラングリットはゴホンと激しく咳払い。
「いや、なに、依頼主でござる」
「いいわ、そういうことにしておきましょ」
信じたんだかいないんだか、苦笑で流される。
憮然とするラングリットへ、ミズノが別の話題を振ってきた。
「でも、今回の任務は学校潜入でしょ?パーシェルは同行できないんじゃないの」
「いや?黒猫化して出入りしているようでござるよ」
答えるラングリットの脳裏を、黒猫のすました横顔がよぎる。
そうとも、黒猫がベッタリ張り付いているから、女性を家にあげるなんてのは到底無理だ。
「意外ね。パーシェルなら、あなたの命令を忠実に守って、大人しく留守番するかと思ったのに」
「俺もそう思っておったわ」
同意の意味で頷くと、ミズノは真面目な顔で付け足した。
「まぁ、猫が学校にいても咎められないか。あの子にしちゃ考えたわね」
「ほぅ……随分と学校にこだわっておるようだが、ミズノ、おぬしも学校に来たかったのか?」
からかうラングリットにミズノはキョトンと「私?」聞き返してきたが、すぐに否定した。
「私は、いいわ。部外者は不審者扱いされるのがオチですものね」
珈琲を飲み干して、ラングリットが言い返す。
「なに、用務員として入り込む手もあろう。俺が保障致す」
何の保障だか、ミズノも思わず目をパチクリ。
「それはともかくラングリット、あなたこそ、どうなの?」
「どうなの、とは?」
何気なく聞き返し、思ったよりも近くに彼女が座っていることに気がついた。
なんとなくドキンと高鳴る胸を押さえ、つとめて平常心で答えを待つと。
「学校生活よ。あなただって下手すりゃ不審者に見えなくもないわ。大丈夫なの?」
ミズノは失礼極まりない言葉を吐き出し、じっと見つめてくる。
「むむぅ……」
ラングリットは言葉に詰まり、部屋には静寂が訪れた。
……考えてみれば、ミズノと二人きりで話すのなんて初めてだ。
いつも、必ず誰かが彼女の周りにいた。
彼女を狙っている社員は多い。
などと、およそ場違いな事を考えつつ、ラングリットは言い返す。
「そういうお主こそ、どうなのだ?学校生活に混ざりたいのでは、ないのか」
不審者に見えると言われても、この依頼を受けたのはラングリットだ。
そこへ社則違反を犯してまで会いに来るというのだから、ミズノのやつ、よもやと思うが――
依頼の横取りを企んでいるのでは、あるまいな?
――返事はない。
チラリと横目で伺うと、ミズノは珈琲カップに視線をそそいだまま、黙っている。
気まずい。実に、気まずい。
もしかして、もしかすると、彼女は横取りが目当てなのではなく。
遠回しに、組まないか?と誘いをかけているのかもしれない。
そっとミズノの顔色を伺うも、俯いているもんだから、何も読み取ることができない。
「ミズノ?」
軽く肩を揺すってやると、相変わらず視線は下へ向けたまま、ミズノが不意に口を開く。
「ねぇ」
「な、なんだ?」
「入った時から気になっていたんだけど……」
顔をあげ、彼女は真っ直ぐ前を見やる。つられてラングリットも、そちらを見て首を傾げた。
アッチにあるのはベッドと、小さい机ぐらいだ。何もおかしなモノなんて置いていないはず。
「……あの写真、何?」
「むっ?」と思う暇もなく。
すっくと立ち上がったミズノがスタスタと歩いていき、窓際にあった写真立てを手に取った。
「ね、この白猫、何?昔の飼い猫?パーシェルじゃないわよね。パーシェルは、黒猫だもんね」
「の、ノォォォッ!ミズノ、ちょっと待つでござる!」
弾かれたようにラングリットも立ち上がり、彼女の手から写真立てを取り返す。否、もぎ取った。
勢いの激しさにミズノは一旦キョトンとするも、すぐに意地になって取り返そうと襲いかかる。
「待ったじゃないわよー、何よ、見られて困る写真なの?不倫相手が飼っていた猫?」
「ふ、不倫って誰とでござる!?違うナリ、この猫は、そんなのではござらぬ!」
いい歳した男女が写真立ての奪い合いでスッタモンダしていれば、いつかは転ぶのも判っていた結果というやつで。
あっと叫んだ時には、ラングリットは背後の棚で思いっきり後頭部を打ち付けた。
つられてミズノも足を取られ、転んだラングリットの急所をグニッと踏んづけてくるものだから。
ラングリットは痛みにのたうち回り、ミズノを慌てさせてしまった。
「ご、ごめんっ!大丈夫?」
顔を覗き込まれ、顔の近さにラングリットは赤面する。
「み、ミズノ……」
間近で彼女を見たのは、これが初めてである。
今まで気にもかけていなかったが、かなり可愛い部類に入るんじゃなかろうか。
同世代の女性をつかまえて可愛いと呼ぶのも失礼な話だが、美しいよりは可愛いってほうが似合う。
つまりは、童顔だ。年齢不詳と言ってもいい。
淡いピンクの口紅といい、ほのかに香る香水といい、艶やかさがない代わり、彼女には爽やかさがある。
それでいて、胸は結構大きい。幼さの残る顔と比べたアンバランスな体格も、男性の心を惹くのかもしれない。
下半身に熱くたぎるものがある。先ほど彼女に思いっきり踏みつけられた箇所だ。
ラングリットは全身をブルッと震わせた。
ミズノは、視線を外したまま硬直している。
頬に朱が差しているのは、けしてラングリットの勘違いではなく、彼女もこちらの股間を意識している証拠だ。
「ラングリット……その猫、写真の猫は、恋人……が飼っていた猫?」
やけに気にしている。
尤も、部屋を入った時から気になっていたぐらいだ。ずっと聞きたかったには違いないんだろうが……
囁く彼女に首を振り、ラングリットは答えてやった。
「違うで候」
「じゃあ、何……?」
どうしても気になるのか、外の景色に目線を逃しつつも尋ねてくる。
言うか言うまいか、少しだけ悩んだ。
だがハゲ頭に、そっと手を触れ考えた後。ラングリットは小さな声で答えた。
「姉上でござる」
「……お姉さん?」
「うむ」
「お姉さん……化け猫だったの?」
ミズノの視線は、じっと写真にそそがれている。写真の中でお腹を見せて寝ころぶ、白い猫へ。
「……でも、あまり似ていないよね。ラングリットとは……」

ミズノの問いに、何と答えようか迷っているうちに――
ピンポーンともチャイムが鳴らされず、いきなりドアが開いたかと思うと。
「お坊さん、いる?あがるよー!」という元気な一言と共に、どかどかとティーガが上がり込んできた!

End.

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