24th Anniversary

2025年夏休み企画・ワーグと夏祭り(if)

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Prologue.

アーシス設立祭が行われなくなって、久しく経つ。
幼い頃は毎年やっていたのに、いつの年だったか町長が経費削減だとか言い出して、開催を打ち切られてしまったのだ。
子供心に腹が立ったが、幼い立場では如何ともし難く。
自由騎士スクールに入って、ようやく自分で自由に出来る金が入るようになってから、ワーグは思い立った。
設立祭――は無理だとしても、似たような祭りを開催してやろう。己の出費で。
さっそくスクールの休み時間に話題を持ち出したら、ソマリが家でじっくり話し合いましょうと言い出して、放課後にはワーグの家で作戦会議が始まった。
「やるからには、でっかい規模でやりたいよね!」と、はしゃぐ姉を横目に「でっかい規模にするんだったら俺も資金を出すけどさ、具体的にどんな祭りを想定しているんだ?」とフォースはワーグに尋ねる。
「お前らは金を出さんでもいいぜ、俺一人でやるって決めたんだからよ」と断った上で、ワーグは計画を話した。
まず、祭りは一日限定とする。演し物は引退騎士を呼んでの談話を主体に、演奏、舞踏など。屋台は商店街に協力を仰いで出してもらう。
「舞踏かぁ〜。なんか、男の娘おとこのこが出しゃばってきそうだよね……」
レーチェの呟いた一言に、ソマリが眉をひそめる。
「オトコノコ?何、それ」
「え!ソマリ、知らないのォ!?男の娘ウィンウィンだよ、今、街角で悪い方向に有名な踊り子!」
「踊り子なのに悪評が高いなんて矛盾しているわ。その話、本当なの?」
「それが、ホントだから噂になっているんだよ!」
女子二人がキャンキャン騒ぐのを横目に、グラントも意見を出す。
「随分漠然としてんな、屋台方面。何をどれだけ出すか決めとかないと、あとでダブったりかぶったりで揉めちまうぞ?」
「ダブるもかぶるも同じだよね」と突っ込んでおいてから、フォースが自案を出してきた。
「商店に依頼するんじゃなくてさ、俺達で屋台やらない?」
「えーっ!?祭りの楽しみっつったら屋台での買い食いだろ!?自分で屋台やっちまったら、自由に歩き回れねーじゃねーか!」
真っ先にグラントが反対、ワーグも「俺達の未熟な料理よかぁ、手慣れた商店のほうがいいだろ、屋台は」と却下する。
「舞踏だけど、見るだけではなくて自分たちも踊るようにしたら楽しいんじゃないかしら」とは、ソマリの案だ。
「いいねぇ、それ!やっぱ盆踊りか」と喜ぶグラントへ「や、盆踊りって?」とレーチェが尋ね、「以前、図書館で読んだんだがよ、昔のファーストエンドには皆でお盆を持って踊るヘンテコな踊りがあったらしいぜ!」と語るグラントを見ながら、フォースは次なる案を思いつく。
「いっそ設立祭とは全然違う、オリジナルの祭りを作っちゃおう!」
「自己流の祭り?いいねぇ、思いっきりハジケっちまうか!」
意外にもワーグはノリノリで返してきて、全員の顔を見渡した。
「本番をやる前に予行祭りを開催してみようぜ。あぁ、もちろん参加するのは俺達だけで、場所もココでやる」
「何それ、面白そう!」と喜ぶレーチェの真横でソマリが「身内だけで?面白いの?」と怪訝な表情を見せてくるのにもメゲず、ワーグは持論を突き通す。
「面白くなるかどうかを確かめるための予行だってんだ。嫌ならソマリは参加しなくたっていいぜ」
「参加しないとは言ってないでしょ」
売り言葉に買い言葉で参加に誘導されるソマリを見て、彼女以外の面々はニンマリする。
ソマリはクールでソツがないのだが、ワーグの押しの強さには、いつも負けてしまう。
そこがいい。見ていて飽きないコンビである。
二人が付き合っていると知ったのは合同会でのソロ戦だが、グラントは違和感を覚えなかった。
むしろ、つきあっていないと言われる方が違和感なぐらいの距離感だろう。
美男美女だし、お似合いだ。直接冷やかすとソマリが怒るので、普段はあまり言わないが。
「なら、各自で思いついたやつを予行でやってみようよ」とレーチェも両手喝采の大賛成。
「屋台はどうするの?予行でお金かけるのも何だし、なしにしとく?」と確認を取るフォースへ真っ先に「アリだろ!予行でも手を抜くのはよくないぞ」とグラントが鼻息荒く反論し、ワーグは少し考えてから結論を出す。
「叔父貴に頼んで、二、三の屋台を作ってもらうかな……」
「ワーグの叔父さん、そんな権限もってんの?」とレーチェが驚いているが、何を驚くのやらだ。
プライストン家は代々続く富豪、何人もの優秀な自由騎士を輩出している。
ワーグの叔父ブレイヤは自由騎士を引退後、商人頭を勤めていると聞いた。
ソースは、そこで顎を撫でて思案顔の甥だ。
「そう、なら叔父さんに頼んで本番でも人気の出そうな屋台を出してもらって。私は祭りに関係ある演し物を調べてみるわ。グラントは盆踊り?その踊りについて詳しく調べてみて」
テキパキとソマリが仕切りだし、名前を挙げられる前にレーチェが叫んだ。
「私はお祭りで着る服について調べたい!前に図書館で読んだんだけど、昔は催事に着る服が決まっていたんだって〜」
「そんなのも、あったんだ。どうしてなくなっちゃったのかな」
疑問を掲げるフォースには、ワーグが肩を竦める。
「設立祭だって金不足で中止になったんだ。金がかかるもんは全部なくなっちまう運命なんだろ」
それよりも、とフォースを見据えてワーグは口角をあげた。
「フォース、お前、屋台やろうって言い出すぐらいだし料理に興味あるのか?」
「え、まぁ」
元は出費減で言い出した案だが、興味のあるなしで問われたら、ないこともない。
「じゃあ、これ、再現してみてくれよ。俺達の祭りで」
バンと机の上に広げてみせたのは古い文献で、コップの中に山盛りのふわふわした何かが盛り付けられた料理の絵が描かれている。
「かき氷って言うらしいぜ。氷ってのを細かく砕いたそうだ。食感はフワフワのシャクシャク、口の中でスッと溶けるんだってよ。どうだ、食べてみたくならねぇか?」
本当に再現できたら、すごいが、肝心の材料がわからない。
「氷ってなんだよ?見たことないものを作れって言われても」
氷もだが、上にかけるシロップとやらも未知のもので、大いに困惑するフォースの肩へ両手を置いてワーグが言うには。
「氷ならフォルテが知っているってウィンフィルド教官から聞き出したんだ。まずは、そいつの作り方を教えてもらおうぜ」
「えっ!?」とワーグ以外の全員が叫ぶ。
フォルテはサークライトなる遠方の街から来たお客様だが、現在は自由騎士スクールの学者コースに通っている。
ウィンフィルドが何故、氷の製造法なんぞを彼女に聞いたのかも謎だ。
もしや同じ本を見て、ワーグ同様、食べてみたくなったとか?
「この文献、夏によく借り出されてんだよな」と、裏表紙に挟んである記録カードを取り出してワーグが呟く。
「この文章通りに美味いんだったら、一度は食べてみたいじゃねぇか。やろうぜ」と真っ向からワーグに熱い視線で見つめられて、断れるほどフォースの意思は強くない。
いや、ワーグ以外の人が言ったんだったら、やだよ面倒くさいで突っぱねたかもしれないが、ワーグが相手じゃ断れるはずもない。
いい加減でも口が悪くても、フォースはワーグが大好きだ。初めて彼を見かけた頃から。
ソマリとつきあっていると知った時に僅かな恋心は諦めたけれど、まだ親友の座が残っている。
「う、うん。やってみよう」
頷くフォースの肩をバンバン叩き、ワーグは輝く笑顔で「決まりだな!」とトドメを刺す。
かと思えば、残りのメンバーにも号令をかけた。
「それじゃ今日のとこは解散して、予行練習は一週間後だ!各自面白いもんを持ってきてくれよ」
「おーっ!」とソマリ以外の全員が元気よく手を挙げて応えたのであった。


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