3.

能力的には強いけどメンタルの弱い勇者斬は、キースとエイジを仲間に加える。
まだ見ぬ化物、魔王と戦うにあたり、足りないものは幾つかあった。
「正直に言って、勇者のステータスを見た後じゃ冒険する気も萎えるぜ」
正直な感想を述べるキースの頭を、妖精ピコロットが軽く叩く真似をする。
「駄目よ、身体能力だけじゃ魔王は倒せないんだから」
「じゃあ、なんでステータスオープンさせたんだ。スキルが勝機だとでもいうつもりか?」
間髪入れず言い返してくる彼にも、妖精は律義に答えた。
「その通りよ。レベルアップすればするほどスキルのレベルもあがっていく」
「俺は最初から全スキルがレベル10のようだが……」
すかさずエイジが突っ込みを入れ、ピコロットが沈黙したのも数秒で、すぐに彼女は調子を取り戻す。
「あなたのスキルはレベルに左右されない固有だもの。特殊能力みたいなものね」
「お前、さっきから言っていることが、しっちゃかめっちゃかだぞ」
内容の前後が一致しないのでは、さすがに勇者も妖精をフォローしきれない。
重箱の隅をつつく代わりに、斬は別の質問をした。
「きみは新米勇者を導く役目なのだと言っていたな。魔王の居場所を知っているのか?」
ピコロットの返事は簡潔で、「当然よ。魔王は魔王城にいるわ」とのこと。
「魔王城?とってつけたような適当な名前だな。で、それはどこに」と尋ねるキースを置き去りに、ピコロットが外に出ていくもんだから、三人も急いで後を追う。
「遠くに、ぼんやりと山が見えているのは判る?」
遠方を指さし、妖精が言う。
「あの山奥にあるのよ。でも、そこへ行きつく方法が判っていないの。だから国の軍隊も、お手上げってわけ」
「きみにも判らないのか?」と、斬。
「ごめんなさいね」と謝るピコロットは、キースに逆さに吊り下げられて「きゃあ!」と悲鳴を上げる。
「なんだ、偉そうに出てきて新米勇者を導く役目という割には全く役立たずじゃないか。そんな無能には、オシオキが必要だな」
「乱暴はやめろ!」と怒る斬にも振り向いて、キースが睨んでくる。
「お前も怒っていいクレーム案件だぞ、これは。わけもわからん魔物を倒せと言われた挙句、向かう方法が判らんなど、投げっぱなしにも程があるじゃないか」
そう言われてしまうと、斬としては同感せざるを得ない。
勇者と呼ばれるのだって納得していないのだから。
逆さに吊りあげられてもピコロットは気丈にキースを睨み返す。
「オシオキって何するつもり?私を殺したら、この世界の情報が判らなくなってしまうわよ」
「殺したりは、せん。オシオキだと言っただろう」
ニヤリと口の端を歪め、キースは顔を埋めた。
ピコロットの、ちょうど股間のあたりに。
「ちょっと!何するつもりよ、セクハラする気!?やめなさい、この変態!」
非難も罵倒もなんのその、おもむろに、ふぅぅ〜〜……と生暖かい息を静かに吐き出す。
気持ちの悪い温風が、妖精の股間を直撃だ。
「ぎゃあああああぁぁぁ!」
表通りで響き渡る妖精の絶叫には、何事かと街の人々が振り返る。
いたたまれなくなり、エイジも止めに入った。
「やめろ、原住民に八つ当たりしても問題の解決にならん」
鼻水と涙でぐしゃぐしゃな顔になったピコロットに満足したのかキースも「それもそうだな」と、あっさり彼女を解放して話し合いに戻る。
すなわち、魔王城へ行く方法だ。
「魔王城へは、この三人でいくのか?」
キースの問いに、エイジが頷く。
「俺がランスロットを召喚すれば四人パーティになる」
だが、待ったをかけたのはセクハラ拷問の衝撃から立ち直ったピコロットであった。
「ま……待ちなさいよ、召喚で呼び出せる魔族やモンスターは戦闘中にしか出現できないわ。バランスが不安だと思うなら、僧侶を仲間に加えるのがオススメよ」
「傷を癒せる仲間か。よし、探してみよう」
酒場にもう一度戻ろうかと斬が踵を返した時、街の入り口から大声が聞こえてきた。
声は確かに言っていた、「大変だ!モンスターが攻めてきた」と。
「モンスターが街に?どうなっているんだ、この街のセキュリティーは」
ぼやくキースをそっちのけに、斬が走り出す。
「待て!一人で行っては危険――」
斬を止めようとするエイジには、さらにキースの追い打ち突っ込みが入る。
「でもないだろ、ステータス99なんだから」
一人で任せても安心か。
いや、しかし、それはメンタルが平常心な勇者ならばの話だ。
メンタル豆腐の勇者じゃ、心配でならない。
結局後を追いかけて走り出したエイジに溜息をつき、キースも後を追う。
斬は街の門扉にて、魔物と向かい合っていた。
一目で魔物だと判ったのは肌が緑色なのと、背中に黒い羽が生えていたせいだ。
背丈は小さいが、人間ではない以上、どんな能力を持っているのか判ったものではない。
「嘘……魔族が街に入ってくるなんて、何百年もなかったことよ?」
「それだけ魔王の勢いが増しているのかもしれん」
怯えるピコロットを背に庇い、エイジは目の前の怪物を警戒する。
まわり一帯を町人に囲まれていても、魔物は腕など組んで余裕綽々だ。
「貴様は何だ!人間を滅ぼしに来たのか?」
キースの誰何に、魔物が答える。
「人間を滅ぼす?そんな命令は聞かされちゃいねぇな。街に出現した勇者を確認して来いと言われただけだ」
「もう勇者の出現が噂になっているというのか」
まだ一歩も街の外に出ていないというのに、魔王勢の情報伝達の早さには当の勇者な斬も驚きだ。
「そうか。ならば貴様をここで倒してしまえば、情報が伝わることもないってわけだ」
キースが何やら悪漢めいたことを言い出したので、エイジは一応止めに入る。
相手が魔王側だというのなら、倒すよりも情報を引き出すほうが有意義だ。
ここへの経路は空を飛んできたのだとしても、空を飛べる魔物ばかりとは限るまい。
必ず徒歩で向かえる経路があるはずだ。
「少し、話をしたい。聞いてもらえるだろうか」
穏やかに話しかけると、魔物はエイジを見て、しばらくのちにビクンと体を震わせる。
「お前……一体」
「お?さっそく服従のスキルが働いたか」
茶々を入れるキースを「しっ」とピコロットが制する中、勇者も黙って見守っていると。
魔物は、ぶるぶると激しく首を振り、一転して怒鳴りつけてきた。
「てめぇか!てめぇが勇者か!なら、ここでトドメを差したほうがいいな。てめぇの魔力……危険極まりねぇ」
「え、いや、違う。俺は勇者では」
言い訳するエイジへ聞く耳持たずで襲い掛かってくるのへは、間一髪で斬が飛び込んで事なきを得る。
「仕方ない、戦うぞ!」
斬の号令に「いや待て、戦うのはいいけど銃がないぞ」と今頃になって狼狽えながら突っ込んだキースと比べたら、エイジの行動は、まだ迅速と言えた。
彼はすぐさま呪文を唱え、使い魔を召喚したのだから。

先制攻撃!
エイジの こうげき!
エイジは ランスロットを召喚した!


どこからともなく軽快な音楽が鳴り出して、やはり姿は見えずの男性声が実況中継を始める。
異様な雰囲気の戦闘になったが、まわりの町人も応援してくれているし、逃げるわけにはいかない。
呼び出されたランスロットは、全身鎧甲冑のずんぐりむっくりだ。
「なんだ、どうせ召喚するならオッパイ魔人を出してみろ!」
己の欲求丸出しなキースへは、妖精の叱咤が飛ぶ。
「いいから役立たずは後ろに下がって防御してなさいよ!」
「えぇと、状況が見えないのですが、目の前の魔族を倒せば宜しいんですか?」
鎧甲冑は斬が予想していたよりも甲高い声を発し、エイジに尋ねている。
その後方では、妖精とキースが取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「役立たずとは何だ!一番の役立たずに言われる筋合いはない!」
「なによ、銃がなけりゃ戦えないくせに!」
「お前なんか役立たずの上にチッパイじゃないか!色気すらないなんて、それでも案内役か!!」
しかも、かなりどうでもいい低次元の争いだ。
斬は見なかったことにして、改めて魔物と向かい合う。
「ケッ。勇者以外はバラバラじゃねぇか。俺が今、引導を渡してやるよ」

クォードの こうげき!
クォードは 両手に 魔力弾を集めた……
クォードは 魔力弾を ぶっぱなした!
全方向にいた 町人が いっせいに 吹っ飛んだ!


「ちょ、え、ちょぉぉぉっ!?」
喧嘩していたピコロットも泡を食って辺りを見渡すが、後の祭りだ。
まさか引導を渡されるのが自分達ではなく町人だったとは、さしもの案内役にも予想外だったに違いない。
斬も、てっきりこちらに向けてぶっ放してくると思っていたので反応が遅れた。
外野を巻き込んでしまったのは、悔やんでも悔やみきれない。
せめて戦闘を始める前に、人払いをしておくべきだったか。
町人は、あちこちに墜落して呻いている。
あれだけ派手にぶっ飛んだ割に死者が一人も出なかったのは、不幸中の幸いだ。
「貴様、よくも無関係な人々を!」
いきり立つ斬に、魔物――クォードも言い返す。
「暢気に見物しているのが悪いんだろうが。魔物が入り込んだってのに油断しすぎだぜ」

斬の こうげき!
クォードに 99999∞のダメージ!
クォードを たおした!


的確な突っ込みに言い返せなくなった斬は、ひとまず彼を殴って黙らせようと思ったのだが、ちょいと軽く殴った程度でクォードは遠くの建物まで一直線に吹っ飛んでいき、家屋と激突する惨劇になった。
ATK99の破壊力、恐るべし。
「コェーな、殺人兵器斬」
「たかがデビュー戦で、あそこまでやる必要あった?コェーわ、この勇者」
妖精とキースに声を揃えて言われ、斬は慌てて否定する。
「ち、ちがう。ちょっと叩いてオシオキするつもりだったんだ、それが」
「……まだ息があるようだぞ、油断するな」
エイジに言われて三人ともクォードの吹っ飛んだ方向を見やると、よろよろと魔物が立ち上がるのが見えた。
倒したと実況は言っていたような気がするのだが、死んではいなかったのか。

なんと クォードが おきあがり
仲間になりたそうに こちらを見ている!


じっと上目遣いの恥じらった視線で見つめられ、勇者一行に動揺が走る。
ピコロットも唖然として、クォードを見つめ返した。
「え、何この展開」
現地の案内役が言っているようでは世話がない。
「仲間になりたそうに見られても困るぞ、魔物だし」
キースも困惑し、仲間と相談する。
「だが、どうする?こいつをほうっておいたら魔王とやらに勇者出現の情報が伝わっちまう。完膚なきまでトドメを差すか、こいつを仲間に引き入れるか」
「それだったら、仲間に引き入れたほうが有意義だ」と答えたのはエイジだ。
さすが魔物を召喚するだけあって、魔物を仲間にすることに対する抵抗はないらしい。
「そうだな。ついでに魔王城の情報も教えてもらおう」
斬もエイジの意見に賛成し、近づいてきたクォードへ手を差しだした。
「ようこそ、クォード。一緒に魔王を倒そう」
「あぁ、いいぜ。よろしくな」
ついさっきまで魔王の使いで来ていたにしては、随分とあっさりした寝返りだ。
クォードは、ぐるりと周囲を見渡して、ぽつりと呟く。
「お前ら、なにも乗り物を持ってねぇのか」
「まだ冒険に出発してもいなかったからな」と、斬。
「魔王城に行くんだったら、馬車がないとキツイぜ?俺は空を飛べるからいいが、お前らはそうも行かねぇだろ」
クォードは肩をすくめて一同を小馬鹿にした後、ちらっとエイジを見て付け足した。
「……ま、勇者だけなら俺が運んでやらねぇでもないけど?」
この際だからとエイジは訂正しておく。
「勇者は俺ではない。そこの斬、彼が勇者だ」
これにはクォードも「えっ!」と驚き、エイジと斬双方を何度も見比べて、やがてついたのは失望の溜息だった。
「なんだよ……エイジが勇者なら、手っ取り早く片が付くかと思ったのによ。まぁいいぜ?勇者が斬、お前でも。物理的に魔王をぶっ飛ばして、早いとこ俺が魔界に帰れるようにしてくれよな」
神経にいらつくこと、この上ない仲間だが、クォードは魔王を知る唯一の存在だ。
背に腹は代えられない。
「あ、あぁ。任せておけ。向かってくる敵は全て俺が物理的に処理してやる」
内心ずどーんと落ち込みつつ、表面上は、にこやかに頷いた斬であった。





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