女体化で女が攻めでもいいじゃない


街角に佇む占い師は今、強奪の危機に遭っていた。
相手は、この国の騎士団長だ。
「貴様がTSにゃんにゃん棒を配り歩いているというのは知っているのだ!さっさとよこせ!」
先回りしたメタ発言に、占い師は精一杯の抵抗を見せる。
「ウチは欲望のなさそうな人にしか棒を渡したくないんや!あんさんは、お門違いやでッ」
だが、必死の抵抗も虚しく。
「やかましい!冒頭の手間を省いてやろうというのだ。大人しく従え」
机をケリッと蹴倒されて、アワアワしているうちに棒を略奪された。
「か、返してぇな、その棒はソロンはんに渡すつもりやったんや」
哀れめいた懇願を見下ろし、騎士団長ワルキューレは吐き捨てた。
「ふん、ソロンに渡すだと?勿体ない使い方だな。これは私が使ってこそ最大の輝きを放つ道具だ」
白昼堂々強奪をやらかした騎士団長は、堂々と去っていった。
涙にくれる占い師を、路上へ捨ておいて……


正式名称は、ハロウィンにゃんにゃんTS棒。
これの存在をワルキューレが知ったのは、ほんの偶然であった。
朝、起きたら部屋にゲートが出現しており、中から一人の青年が顔を出したのだ。
顔は逆光でよく見えなかった、その男は。
『大通りへ出てみなさい。あなたの欲望をかなえるアイテムが見つかるでしょう。そのアイテムの名は、ハロウィンにゃんにゃんTS棒。占い師の格好をした者が持っています――』
と言い残し、消えていった。
夢だったのかもしれない。
しかし夢にしては、いやに生々しい記憶でもある。
半信半疑で街へ出て占い師を本当に見つけた時、彼女は正夢だと確信した。
そして思わず、凶行に及んでしまった次第だ。
これを使って何をするのか?
無論、決まっている。
にっくきソロンめを女体化し、思う存分楽しんでやる。
いつぞやのクリスマスだかでは上手く逃げられてしまったが、今度は逃がさない。
前回は笹川とやらを信じてティルの入室を許してしまったのが敗因だ。
彼女の目の届かない場所で、やるしかない。
そう――
ティルの知らない部屋を使えばいいのだ。
例えば、拷問室とか。

「こンなトコに俺を呼び出して何の用だ?騎士団長サマ」
来るなり挑発してくるソロンは、相変わらず礼儀作法のレの字もない。
いっぱしの冒険者になったという話だが、冒険者に礼儀作法は存在しないのか。
いや、こいつは生まれつき礼儀作法など持ち得ていない男だったと思いだし。
ワルキューレは本題に入る。
「よいか。今日という今日こそは、貴様を弄んでやる」
「ハ?」
いきなりの謎宣言には、ソロンも首を傾げるしかない。
大体この騎士団長は、何をするにも毎回唐突すぎるのだ。
「これを知っているか?ソロン」
じゃらりと持ち出されたのは、一見鉄の重りがついた手錠に見える。
だが、手錠の先は棺桶のような鉄の箱に繋がっていた。
「拘束具か?」
拷問室だそうだから、手錠で拘束した上で拷問する台なのかもしれない。
「鋼鉄の花嫁と呼ばれている。手錠でくくりつけた上で、箱に押し込め拷問を処す」
「ふゥン」
ワルキューレは貴族の割に、妙な知識に長けている。
そもそも、何故彼女は拷問室などに自分を呼び出したのだろう。
誇り高き騎士の国に拷問室がある事自体も、不思議なのだが――
「手を出せ、ソロン」
「俺にその手錠を嵌めようッてのか?お断りだ」
拷問するために呼び出したんだとしたら、悪趣味だ。
最近のソロンは、拷問されるような悪さもしていない。
「拷問具を試したいンだッたら他の奴でやれよ。じゃあな」
踵を返して、ソロンが部屋を出ようとした瞬間。
ワルキューレが、ふっと灯りを吹き消すもんだから、辺り一面真っ暗になった。
「何すンだよ……何も見えねェじゃねェか」
真っ暗闇でキョロキョロしていると、ガチャッと金属の鳴る音がして。
ハッとなって両手を動かそうにも動かせない。
「フッ、油断したなソロン!」
「おい、いい加減にしろ。悪ふざけにも」
程がある、と言おうとして後半は「グッ」と痛みに顔を歪める。
後ろ手に何かを掴まされる。これは、鉄の棺桶!?
「くそッ」
完全に身動きが取れない。
だが、この程度でソロンを拘束したつもりになっているなら甘い考えだ。
このぐらいの手錠、力づくでブッちぎって――
「そうは問屋が卸さぬぞ、ソロン!女になるがよいッ」
暗闇の中、光る肉球が飛んできた。
「な、なンだこりゃ!?」
驚いている間に肉球型の光線が当たり、ぽわんと弾けたかと思うと。
全身からは力が抜け、ソロンは激しい脱力を覚える。
「ふふふ、性格は最悪だが貴様の女顔は、いつ見ても美しい」
暗闇の中でもワルキューレにはソロンが見えているのか。
それに、女体化だって?
また女体化されてしまったのか?
訝しむソロンの顔に、眩しい光が当てられる。
蝋燭の炎だ。
炎は順番に顔、胸、腹と照らしていき、長いこと股間に釘付けとなる。
ワルキューレの手が伸びてきて、ソロンのズボンを真下にズリ降ろした。
「なッ!やめッ」
あるはずの物がなくなって、毛に覆われた丘の出現には本人が誰よりも驚いた。
さらにはワルキューレに丘をさわさわと撫でられて、ソロンは身震いする。
「美しい丘ではないか。普段そびえ立つ、薄汚い塔のなくなった丘は」
「勝手に人のモンを無価値にすンな!」
ソロンは暴れたが、棺桶に後ろ手で抱きつかされていては抵抗のしようもない。
磔状態のソロンを上から下まで眺め回し、ワルキューレは舌なめずりをする。
ティルとは違って、これはこれで愛し甲斐のある肉体だ。
ティルの健康的なムチムチ具合とは異なり、ソロンの四肢は締まりがよい。
触ると筋肉の弾力を掌に感じる。
それでいて胸の膨らみはティルよりも大きい。
ワルキューレとしては貧乳から美乳、巨乳にかけて何でも好きだから問題はない。
ふにふにと最初は軽く、だが次第に力を入れてソロンの美乳を捏ねくり回す。
「いっ!イテェだろうが!!つか、触っていいッて誰が許可した!?」
本人には悪態をつかれたが、騎士団長は平然と無視した。
「ウフフ、ソロン。お前の嫌がる顔は最高だ。私の萌えランキングの中でも上位に位置するぞ、光栄に思うがいい。まぁ、一位は不動のティの恥ずかしがる顔だが」
脳内ランキングにエントリーされたって、ソロンは全然嬉しくない。
「ンなこたどうだッていい!さっさと手錠を外しやがれッ」
暴れようにも足が地に着かないので、ふんばれない。
すかすか宙をかいていると、ワルキューレが一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
しまいには、びったり密着されて、彼女の胸が自分の胸の上に重ねられた。
すぐ間近にワルキューレの顔がある。
眉が太くて無化粧であるにも関わらず、どこか気品を漂わせる顔が。
否が応にもソロンの胸は高鳴り、頬が熱くなるのを覚える。
悲しいことに、顔だけはソロンの好みにストライクなのだ。この騎士団長様は。
「朱に染まる貴様は愛らしい。ただし、女体化時に限るが」
頬を撫で回され、息を吹きかけられる。
生暖かさと気持ち悪さに背筋をゾゾゾッと反らせて、ソロンは抵抗を続けた。
「う、うるせェ。お前を喜ばす為に生きてンじゃねェンだよ、俺は」
「ふふん、では誰の為に美しくなったのだ?」
「美しくなッた覚えもねぇッ!」
とにかく手錠だ。手錠さえ外せれば脱出できる。
だが、女体化したソロンは普段の半分も力が出せずにいた。
手錠をぶっちぎるどころか、手首が切れそうだ。
無駄な抵抗を続けるソロンを、ワルキューレは嫌な笑みで見下ろしていたが。
やがて指をソロンの割れ目に差し込むと、無遠慮にかき回し始めた。
「ンァッ!?や、やめろ、そンなトコッ触ンじゃねェッ!」
やめろと言われて素直に止める女ではない事など、ソロンにも判っている。
それでも言わずにおれなかったのは、彼女の指が奥を執拗に擦り始めたからだ。
爪で内部を擦られるたびに、なんともいえない刺激がソロンを襲う。
「やっ、やめ……ろッ、バカッ」
「ククク、もっと泣け!喚け!その美しい顔をぐしゃぐしゃにして、泣き叫んで請うがいい!『聡明で偉大なる騎士団長様、どうか私めのクリちゃんをクリクリ虐めちゃって下さい☆』となぁ!」
両足を掴まれ、肩に乗せられる。
ワルキューレから見ると、女体化したソロンの女性器が丸見えな格好だ。
その状態で、さらにしつこく中をかき回され、ソロンは息も絶え絶えに叫び散らす。
「誰が、ンなこと……言うかぁッ……!」
「ふふふ、強情なやつめ、では。これでどうだ!?」
騎士団長はソロンの茂みに顔を近づけたかと思うと、べろんべろんと舐め始める。
舌が陰核に触れた刹那。
「あァッ!?」
頭が一瞬真っ白になりかけて、ソロンは激しく体を痙攣させた。
自分でも信じられない。
普段生えているワルキューレ曰くの汚い塔を触られるよりも、気持ちがいい。
いや、そんな馬鹿な。
気持ちいいだなんて事が、あってたまるものか。
無理矢理されているというのに。
「ふはは、可愛いぞソロン。もっと可愛く喘ぐがいい。私の中のペニスも勃起しそうな勢いだ」
ワルキューレのトンチンカンな発言に、ソロンは飛びかけていた意識を奮い立たす。
ここで意識を失うわけにはいかない。
これ以上、おかしな真似をされない為にも。
「お、お前、女だろうが……生えて、ねェーだろッ」
「心の中だと言っただろう。私の心の中にはペニスが生えているのだよ。実際に犯すことはできぬが、勃起イコールいかせる気満々ということだ!」
もう、彼女が何を言っているのか判らない。
ソロンは追求をやめて、現状を抜け出す算段を練った。
まず、手は動かせない。
両手は相変わらず手錠で拘束されたままだ。
両足はワルキューレの肩の上に乗せられている。
この足で奴の首を絞めることが出来れば、抜け出せるのではないか?
幸い奴は自分が有利な状況にあることで、油断しているようだ。
腕力同様、脚力も落ちていよう。
だが人間、死ぬ気になれば何だって出来るものだ。
「さぁ、もう一度可愛い声を聞かせておくれ?ソロンちゃん」
ワルキューレが再び舌を差し込もうと、一旦茂みに顔を埋めた瞬間を狙って。
ソロンは力の限りに、太股での首締めを仕掛けた。
「ふんッ!」
「ごはっ!?」
ぎゅっと締め上げたら、騎士団長殿は女性らしからぬ悲鳴をあげて上を向く。
その顔たるや、絞め殺される寸前の家畜の如し。
足だと両手で首を絞めるよりも簡単に力が入る。
迂闊にも両肩に足を乗せるなんてやらかすから、お前は負けたンだ。
ソロンは心の中で勝利宣言をしつつ、ワルキューレが床に崩れ落ちるのを見守った。
――さて。
敵は倒したが、手錠が外れるわけでもない。
どうしたものかと考えあぐねていると、拷問室の扉が手荒く叩かれた。
「ソロン、ソロンいますか?大丈夫ですか!?助けに来ましたよッ」
この声はヨセフだ。
ティルではないのに多少落胆しながらも、ソロンは声を張り上げる。
「大丈夫じゃねェ!早く開けて助けてくれ!!」
「判りました!」と答えるや否や、ガチャッと鍵の外れる音が聞こえ。
続けて走り込んできたヨセフが、ソロンを見るや否や発したのは。
「なんだ……また女体化したのですか。助け甲斐のない格好ですね」
という、ありがたみのない一言であったという――

END
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