5.三すくみ

ソロンが『メイジ』に保護されてから、数日が過ぎた。
初日はショックでダウンした彼も、翌日からは真面目にリハビリに励み、剣を振り回せるまでに回復した。
ソロン自身が頑張ったせいもあるが、一番の支えは何と言ってもランスリーのおかげだろう。
彼女の甲斐甲斐しい介護がなければ、ここまで頑張れたかどうかも怪しいものだ。
体の調子を回復する一方で、メイジのメンバーから地上の勢力についても勉強させてもらった。

「西大陸に国は四つある。まず我等が魔導帝国ザイナロック、国境を挟んだ向こう側はロイス王国だろ。そして光の森には、エルフ達が治めるファインド王国がある。ザイナロック側の辺境にはコーデリン、こいつはケンタウロス達が治めている騎士国家だ」
講師を務めるマッチョ魔術師タイゼンの説明に、ソロンが首を傾げて質問する。
「あれ?じゃあグロリー帝国ッてのは、どこに位置してンだ?西大陸内にゃねェのか?」
「グロリー帝国はなぁ、正確には国じゃないんだよ」
言いながら、机の上に地図を広げる。
ソロンも横から覗き込んだ。ザイナ地方全域の地図だ。
「国じゃない?でも、帝国なンだろ?」と尋ねるソロンへ、チッチッチと指を振り。
タイゼンは、ザイナロックの隣に並ぶ村マークを指さした。
「グロリーは所謂、非公式国家なのさ。元々はザイナの近くで盗賊が集落を作っていたんだ。そいつが村になり、街になった。やがて奴らは帝国を名乗るようになったが、世間では今でもグロリーを集落としか見ていない」
グロリー帝国、というのは彼ら盗賊ギルドの連中が勝手に名乗っているだけなのだ。
だからグロリーは世界地図では、村、或いは街として書かれていることが多い。
「それでもエルフの王とロイスの王は、盗賊達の国に危険性を感じたんだろうな。ロイスとファインドの両国だけは、正式にグロリーと同盟を結んでいる。国家として」
「ザイナは?ザイナロックは、結んでねェのか」
ソロンの問いを、フフンと鼻で笑ってタイゼンは腕を組む。
「必要ないさ」
「必要、ない?」
「あぁ」
彼は頷き、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ザイナロックは盗賊如きに屈したりせん。それに」
闇に通じているのはグロリーだけではない。
ザイナロックこそが、混沌の元祖と呼べる。
秩序を重んじるファインドとロイスにとっては、混沌こそが最大の敵といえる。
特にザイナロックと敵対しているロイスは、これ以上の敵を作りたくない。
同盟を結ぶことで、起きうる戦争を回避するつもりなのだろう。ファインドも然りだ。
「エルフどもの主力部隊は弓矢部隊だしな。魔法と違って弾切れがある。その点、俺達魔術師部隊は精神の安定だけに気をつけていりゃあ、盗賊如きに遅れなど取らん」
「騎士は?騎士だッて、盗賊よかァ強ェンだろ?」
ソロンの脳裏に浮かんだのは、全身鎧に身を包んだロイスの騎士団長様だ。
あの鎧さえあれば、盗賊の飛びナイフも吹き矢も敵ではないように思える。
まぁなとタイゼンは頷き、しかしと首を振る。
「さっきも言ったがロイス王国は現在、我が国と冷戦状態にあるんでな……グロリーまで敵に回すわけにいかんのだよ。俺達と盗賊が手を組んだら、厄介だろ?」
ふむぅと唸るソロン。
そこへドアが開いて、盆を片手にランスリーが入ってくる。
「二人とも、お茶が入りましたよ」
「おぅ、サンキュ」
タイゼンがニッコリ微笑み、ソロンも「いつも悪ィな」とカップを一つ手に取る。
良い香りがする。彼女の煎れてくれるお茶が、すっかり好きになっていた。
それに、ランスリーは料理も上手であった。
初日こそ焦がして謎の物体を作っていたけれど、本来は料理好きな子だとメイスローからも自慢を聞かされている。
特にハーブを使った薬膳料理が得意で、あまりの美味さにソロンは何杯もおかわりした。
リハビリ中は鬼監督だが、こうして雑談している時は優しいし、何かと気を回してくれる。
先にティルと出会っていなかったら、惚れていたかもしれない。
「いいえ、ソロン様が喜んでくれるなら本望です」
ランスリーも微笑み、タイゼンの隣に腰掛けた。
「西大陸にはコーデリンという、もう一つの騎士国家がありますけれど。そちらは、グロリーとは同盟を結んでいないんです」
「ンー」
顎に手をやり、結構真剣に悩んだ後。ソロンは素直に質問する。
「……何でだ?」
答えたのはタイゼンだ。
「恐らくは、誇り……だろうな」
「誇り?」
「そうだ。ケンタウロス族ってのはな、人間以上に誇り高き種族でな。たかが盗賊、たかが人間風情に、自分達が遅れを取るわけがないという自信があるのさ」
その傲りが過ぎて第二次魔戦では滅びかかったのにな、とも笑った。
タイゼンの講釈によると、コーデリンとファインドは魔戦中に滅亡の危機を迎えている。
だが若きロイス王子を筆頭に何人かの英雄達のおかげで、なんとか国として存続することができたそうだ。
「といっても、まぁ、魔戦では我が国も魔族の協力がなければ危うかったらしいがな」
「何でだ?魔術がありゃァ、最強なンじゃねェか?」
散々徒党を組んだ魔術師連中から、痛い目に遭わされているソロンである。
今のところ、魔術師軍団を相手にして勝った試しがない。
怒濤の勢いで放たれる連続火炎魔法の恐ろしさなど、実際に食らったことのある人間でなければ判るまい。
「三すくみ、という言葉を知っているか?」とタイゼンに聞かれ、ソロンは首を振った。
「いィや」
くるくると地図を丸めながら、筋肉質の魔術師が断言する。
「いいか?どんな職業でも『最強』というポジションは無い。どの職業にも長所と弱点があるんだ。魔術師は近接に持ち込まれたら負けるし、どんなに素早い盗賊でも魔法はかわせない。そして鎧が強固であろうと、素早さで翻弄すれば盗賊だって戦士を倒せるんだ」
つまり戦士は魔術師に強く、魔術師は盗賊に強くて、盗賊は戦士に強い――ということか?
「……ま、その三すくみがあるせいで『メイジ』も他の勢力に、なかなか勝てんというわけだが」
タイゼンは苦笑し、飲み終わったコップを片付けようとランスリーが席を立つ。
ソロンも先に戸口へ向かってドアを開けると「洗うなら手伝うぜ」と気さくに申し出る。
ランスリーは嬉しそうに微笑み、素直に頷いた。
変に遠慮して断ったりしないのが、彼女の良いところだ。
「あ、すみません。それじゃ、お願いしてもいいですか?」
「今日の講釈は、ここまでだな」
ウーンと伸びをするタイゼンを部屋に残し、一緒に台所へ向かった。

「先ほどの話の続きですけれど」
食器を洗いながら、雑談の続きでランスリーが話しかけてくる。
「今、『メイジ』は『シーフ』と小競り合いを続けています。どちらの派閥が、本当に資質持ちなのかを決めるために」
12の審判、その素質があると名乗っている組織は三種類ある。
メイジ、シーフ、そしてファイターだ。
ファイターがコーデリンにある、というのはメイジのメンバーから聞かされている。
ただ、詳しい事はメイスロー達にも判っていない。
ある、という噂だけが広まっていた。
「けど、資質ッてのは色々あるンだろ?なら三つとも末裔の可能性だッてあるンじゃねーか?」
気楽なソロンにランスリーは溜息をつき「私も、そう思います。けれど……」と項垂れる。
メイスロー達やシーフのメンバーは、そうは思っていないのだろう。
もう一つの派閥、ファイターとはシーフもメイジも不干渉との話だ。
何しろ所在地がケンタウロスしか入国できないコーデリンとあっては、喧嘩したくてもできやしない。
ファイターの方から仕掛けてくることもないので、ひとまずは放置という形になった。
それにメイジとしては、遠くのファイターよりも近くのシーフのほうが目障りなのだろう。
まずはメイジとシーフの間で決着をつけ、それからファイターに干渉するという。
今も何人かのメンバーはアジトを留守にしている。
グロリーへ赴き、シーフの連中とやりあっているんだそうだ。
ザイナ傭兵団が盗賊ギルドへ奇襲をかけてからというもの、グロリーの警備体制はボロボロらしい。
いかに三すくみでは戦士に強い盗賊でも奇襲、しかも軍団に攻め込まれては、ひとたまりもなかった。
それでもグロリーが滅びずに済んだのは、ロイス騎士団の手助けがあったからだという。
ソロンは、無性にティルと会いたくなった。
だが、まだリハビリは完璧とは言い難い。
どうせ戻るなら、完璧に調子が戻ってからのほうがいいだろう。
今は我慢するしかない。
ふと気づくと、ランスリーがジッとソロンを見つめている。
しまった、自分の思いに浸るあまり無言になっていたか。
途切れた会話を思い出し、雑談を続けた。
「……そもそも12の審判である必要ッて、あンのか?」
メイジの目的についても、メイスロー達から聞かされている。
彼らは、この世界を救うという崇高な大儀を掲げていた。
『12の審判』という言葉は、彼らにとって世直しの代名詞みたいなものなのだろう。
「私も……そう思うんです。でも、メイスローやガイナは必然だと言って譲りません」
ランスリーは、またまた項垂れ、力なく呟いた。
西大陸は他の大陸と比べて、12の審判に関する伝承が根強く残っている。
ザイナロックの王立図書館にも、参考文献が山と積まれている。
今でも専門研究者がいるぐらいだし、彼らを救世主と崇める者がいたとしても不思議ではあるまい。
「ココじゃそうなのかもしンねェが、あいつは審判のこと、あンま詳しく知らなかったしなァ……その常識が通用するのッて西大陸だけなンじゃねェか?だとしたら、世直し代表としては役不足だな」
綺麗に皿を拭きながら受け応えるソロンを、ランスリーは聞き咎める。
「……あいつ?あいつって、ロイさんのことですか?」
一瞬、ロイさんって誰だっけ?と考えてから、慌ててソロンも帳尻を合わせる。
「そ、そうだ」
そんな嘘をついていたことなど、すっかり忘れていた。
ふぅ、と小さく溜息をつきランスリーが呟く。
「ソロン様はロイさんのことを、いつでも考えておいでなのですね」
別に、いつも考えているわけじゃない。
ロイス騎士団が出撃したという話を聞くまで、すっかりティルの事も忘れていたのだし。
「……ソロン様に想われているロイさんは、お幸せです」
ランスリーがしょぼくれているので、ソロンは彼女を慰めた。
彼氏がいなくてしょぼくれている女性を見るのは、彼女が初めてではなかったので。
「いやァ、ランスリーだッて、そのうち想ってくれるオトコができるだろうぜ」
だが言えば言うほどランスリーの表情は暗くなり、俯き加減になっていく。
「……そう。そうですよね……」
何か間違ったことを言ってしまったんだろうか。
ソロンは首を傾げたが、女心など理解不能だ。
ひとまず恋人の話は余所へうっちゃりして、話を元に戻しておいた。
「ま、それはともかくとしてだ。ここにいる間は何でもしてやるから、手伝って欲しい時は声をかけろよ。そろそろ剣の腕も戻ッてきたンだ、シーフとの戦いでも役に立てるかもしンねーぜ?」
項垂れていた彼女も顔をあげ「ありがとうございます」と微笑んだので、ソロンもホッとした。
ここへ来てから食事や介護、そしてリハビリのつきあいと、ランスリーには世話になりっぱなしである。
せめて世話になった分のお礼ぐらい、しておきたい。
彼女が命じるならば、ソロンは何でもやってやる気でいた。
「お皿洗いのお手伝い、ありがとうございました。お風呂が沸いてますから、先に入って下さいね」
「あァ」
皆が出かけている間、ランスリーはアジトの管理と家事一切を一手に引き受けている。
彼女は、いつ遊んだりしているんだろう。
この家から出かけるところも見たことがない。
なんとなしの気まぐれに、ソロンは声をかけてみた。
「ランスリー」
「はい?」
「暇があッたら明日あたり、つきあってくンねェか?」
「いいですけれど……何処かへ、お出かけですか?」
訝しげに眉を潜められ、ソロンは慌ててつけたした。
「いや、外に出ようッてンじゃねェンだ」
ソロンの首には賞金がかかっている。
誰かの陰謀によるものか、冒険者に危害を加えたせいなのかは判らないが。
「ただ、リハビリの成果を見てほしい。どれだけ回復したかッてのを、お前に見せたくてよ」
すぐにランスリーは穏やかな笑みに戻り「判りました」と頷く。
ソロンが外に出たがっているのではないと判って、安心したようだ。
それを見た瞬間、完全に治るまで『帰りたい素振り』は厳禁だ……と、改めてソロンは考えたのであった。

部屋に戻って、ようやくランスリーは一息入れる。
ソロンといるのは楽しいけれど、心苦しくもあった。
心苦しいというよりは、胸が苦しい。
一緒に暮らして判ったのは、やはり彼は賞金をかけられるような悪党ではない事だった。
誰にでも気さくだし優しいし、とても素直でカジュアリみたいに年下の子供にも威張ったりしない。
ランスリーが頼めば、大抵の手伝いもしてくれた。
どんなにつまらない、例えば荷物運びといった雑用でも。
いい人なのだ。ザイナロックに来てはいけないと思ってしまうほど。
魔導帝国ザイナロックは歴史ある魔導国家だけれど、反面、犯罪都市でもある。
この国には、ソロンを陰謀に巻き込んだ主犯もいる。
警備隊を動かせる権力を持つとなれば、外部の人間ではあるまい。
絶対に許せない。不正は勿論だが、彼を巻き込んだことが許せなかった。
必ず尻尾を掴んでみせる。彼が体調を回復して、国に戻った後だったとしても……
ソロンも、いつかは国元へ帰ってしまう。
それを考えるたび、ランスリーの胸は苦しくなる。
最近の彼女は、毎晩夢を見る。必ずソロンが出てくる夢だ。
ソロンとランスリーの二人っきりで、しかも何故か二人とも裸で現れる。
夢の中の二人は脈絡もなくキスしたり、とても人前で言えないような恥ずかしい行為もした。
だが所詮、夢は夢である。
目が覚めるたびに虚しくなり、彼には恋人がいるのだと思うと背徳である気もした。
名前しか知らない女性、ロイはソロンに愛されているのだろうか。
いや、彼が恋人を愛していないはずがない。彼は、とても良い人だもの。
枕の下に隠してあった紙を取り出し、ランスリーは眺めた。
ソロンの似顔絵が描かれた手配書だ。
「ソロン……」
できることならば、彼にはずっと『メイジ』の用心棒として一緒にいてもらいたい。
戦いが終わった後も、側にいて欲しい。彼と離れたくない……
不意にドアをノックされ、ランスリーは飛び上がった。
「どっ、どなたですか?」
慌てて手配書を枕の下にしまい込み、扉のほうへ呼びかけると。
「俺だ、ソロンだ」
何とビックリ、さっきまで思い浮かべていた人物の来訪である。
いそいそとドアを開けて招き入れると、ソロンは困ったような下がり眉で話を切り出してくる。
「なァ……ランスリー。お前、何か悩ンでるコトでもあるのか?」
「え?」
「いや、さッき話してる時もそうだッたけどよ。急に黙り込んで俯く事が多くねェか」
「そ、そんなことは……」
ごまかそうとするランスリーを遮って、ソロンが真摯な目で言い切った。
「お前、もしかして誰かを好きになったンじゃねーのか?」
ランスリーはドキンとする。まさか、恋煩いをソロンに見抜かれるとは。
「もしメイジの中に好きな奴でもいるンだったら、早めに告白しといた方がいいぜ。今、メイジはシーフと抗争中なンだろ?いつ、そいつが死ぬとも限ンねェワケだしな」
しかしながら名探偵の推理は何処かピントがズレており、ランスリーはガッカリすると同時にホッとした。
彼を安心させようと、笑顔で切り返す。
「えぇ。確かに今、好きな人がいます。でも、その人はメイジのメンバーではありません」
「そうなのか?」
「はい」
相手は誰なんだ、と聞かれる前に、こうも言って釘を刺す。
「相手はヒミツですけどね。いくらソロン様が相手でも、そこまでは言えません」
「そッか」とソロンも何処か安心したようで、笑顔で聞き返す。
「イイ奴なのか?そいつ」
「はい、とても」
「いつか打ち明けられると、いいな」
「はい」
打ち明けられるものならば、今すぐにでも言いたかった。
好きな相手を前にして、好きだと言えない辛さ。
だが好きだと言って玉砕するよりは、今のままを維持していくほうが楽かもしれない。
ふと思いつき、ランスリーが逆に声をかける。
「あの、ソロン様」
「なンだ?」
答えを聞くのは気持ち的に憂鬱だし勇気もいったが、思い切ってランスリーは尋ねた。
「ソロン様は……お幸せですか?ロイさんとつきあっていて」
幸せだと即答するかと思いきや、なんとソロンは「う〜ん」と悩んでいるではないか。
「幸せかッて言われると、正直微妙だな。つきあいが浅すぎて、まだよく判ンねェトコもあるし」
「浅いのですか!?」
驚いた。あんなに帰りたがっていたのだし、もっと昔からつきあっているのだとばかり。
「ン、あァ。俺がロイスに囚われて、すぐ向こうから好きだッて言ってきてよ。ンで、なんとなく、つきあうことになッたッつーか」
――ロイスに囚われて?
ザイナロックで陰謀に巻き込まれただけではなく、ロイスでも酷い目に遭ったのか。
つくづく不幸の元に生まれたらしいソロンに、ランスリーは深く同情した。
「それに、怒りッぽいンだよ……あいつ。ちょッと他の女に目がいっただけでも怒るし」
「それは恋人ならば、当然では?」
「目がいったッつっても、コナかけたワケじゃねェんだぞ?ほんの少し目を奪われた程度で」
受け答えに失敗しても、すぐむくれるし手間がかかる奴なんだよ、とソロンもむくれるのを横目に見ながら。
これはノロケなのか、それとも愚痴なのかしらとランスリーは考え込んだ。
「では、お幸せではないのですか?」
「すぐに答えが出せるような状況じゃねェのは確かだ。つぅかランスリー、一言だけ忠告してやるが、好きな野郎と結ばれても絶対に嫉妬をぶつけたりすンじゃねーぞ?うざッたいからな」
女に嫉妬されて喜ぶ男も世の中には居る。
ソロンは、そういうタイプではないのだろう。
「では、ソロン様」
「ン?」
「もし、ロイさんが浮気したとしたらソロン様はどうなさるのです?嫉妬は、しないのですか?」
「ンー……」
しばし考えた後、ソロンはきっぱり答えた。
「しねェ。あいつの決めることに、俺が口を挟む権利もねェしな。好きにさせてやるさ」
思った通りの返答だった。
自分に対しても、他人に対しても自由奔放というべきか。
「やっぱり、ソロン様に愛されているロイさんは幸せ者です。そんなソロン様だからこそ、私も……」
小さく呟いたランスリーが、潤んだ瞳で見つめてくる。
今までとは調子の違う彼女に戸惑いながらも「私も……?」と言葉の続きを待っていると、抱きつかれた。
背中に腕を回され、ぎゅっと体が密着する。
ティルより年下でありながら、ランスリーの胸はティルより遥かに大きかった。
「え?」
突然のことで、ソロンもどうすればいいか判らない。
戸惑う彼の耳に聞こえたのは、しがみついてきたランスリーの呟く告白であった。
「……好きです。あなたが、好きなんです……!」

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