第九小隊☆交換日誌

カネジョーのお誕生日

その日、カネジョーは我が家を抜け出すと、誰にも見つからないよう充分に警戒しながら友人の家へ向かった。
早く行かないと、あいつに見つかって強制誕生会を開催されてしまう。
そればかりか甘ったるいだけで美味しくないケーキを強制的に食わされて、数日寝込む羽目にもなりかねない。


果たしてキースの家へ辿り着いたカネジョーを待ち受けていたのは。
「カネジョーくぅぅん、お誕生日おめでとぉぉぉーう!」
真っ赤なドレスに濃い口紅をひいたセーラの姿で、カネジョーはキースの胸ぐらを掴みあげる。
「テメェッ、どうしてこいつを呼んだんだ!?テメェが、ここなら見つからないっていうから俺はOKしたんだぞ」
キースはカネジョーの腕を、やんわり解いて弁明した。
「待て、俺は招待していない。そこの女は勝手に押しかけてきたんだ」
本日、カネジョーの誕生会を企画したのはキースではない。
ユンだ。ユンが自宅を使えない代わりにキースの家で出来ないかと打診してきて、それに許可を出した。
従って本日のパーティーに参加するのは主役のカネジョーを除けば、ユンとキースとナナ、レンの四人だけであったはずなのだが……
「もう、私だけ仲間はずれなんて酷いじゃない。私たちは仲間だったのよ?カネジョーくんはマイスウィートラバーだ・け・ど」
何でかセーラまでやってきて、困惑したのはキースもだ。
彼女には住所を教えていない。パーティーの話だって外部へ漏らしていないのに、どこで聴きつけた?
キースが真っ先に疑ったのは女の友情、ナナとレンが漏らしたのではないかと考えた。
しかし二人とも、セーラの飛び入り参加には驚いていた。
「そのマイスウィートなんたらっての、やめろ!テメェと恋人になった記憶なんざ一秒たりともねぇっ」
「あぁん、私が一方的に想っているだけですもの、今は。でも、いずれは一緒になりましょう?」
眼の前では、会話の通じない会話をカネジョーとセーラがやりあっている。
第九小隊にカネジョーが編成されてきた初日からセーラは色狂いになり、以降ずっとカネジョーへ届かぬ恋心をぶつけるようになった。
かくいうキースもナナへ片想いの真っ最中だが、そのキースが見ても、セーラの恋は成就しないと思われる。
チンチクリンのヒネたガキは今日で二十歳になったのだが、それでもヒネ部分が改善されたようには見えない。
ユンみたいに大人しいやつを好きになれば、強引な押しで或いはイケたかもしれないのに、何故よりによってヒネガキを選んだのか。解せない。
おまけに、このクソガキはイケメンとも言い難い。好きになる要素が判らない。
ユンも何だって、こんなやつに友情を感じているのだろう。
軍に在籍中、キースはカネジョーに友情や信頼を感じたことが一度もなかった。
命令には逆らうわ、先輩にはタメグチだわ、人の話は聞かないわ、やる気が一欠片も見られないのでは可愛がる気持ちも失せようものだ。
それはレンにしても同様で、可愛げがある後輩はナナ以外、全滅であった。
ナナはキースを変態眼鏡と呼びつつも、こちらの話は無視しないし、気が向けば相槌も打ってくれる。最高のカワイコちゃんだ。
キースがナナへの愛を脳内でアピールしている間にもカネジョーはセーラの抱擁をくぐり抜け、ユンの背後へ転がり込む。
「おい、ユン!なんとかしろよ、こいつ。早いとこ追っ払ってくれ!」
ユンを盾に必死なカネジョーを「バカねー、ユン兄に頼んでどうするのよ?自分でなんとかしなさい」とナナが囃し立て、ユンは仏頂面でセーラと向かい合う。
「今日はカネジョーの誕生日だ。適度な距離を保って祝ってあげてくれ」
「あら。野暮ねぇ、ユンったら。恋人同士の語らい&ハグを邪魔するなんて」
「恋人同士じゃねーっての!軍を抜けた今、俺とテメェは赤の他人だろうが!!」
喚き立てるカネジョーに、レンも一応味方しておいた。このままでは、誕生パーティーを始めるにも始められない。
「そうですねぇ。カネジョーさんがセーラさんに住所を教えていない以上、恋人とは言い難いですね」
「そうだそうだ、俺もセーラには住所を教えていないんだぞ。なのに誕生パーティーをやるってことまで、どうやって突き止めたんだ?」とキースにも尋問されて、一人仲間はずれにされていると気づいたセーラは膨れっ面で答えた。
「そんなの、ウランブルド家を見張っていれば簡単よぉ。ユンのお出かけを探偵に尾行させて、キース、あなたの家を突き止めた後は簡単だったわ。ここ数日、あなたが購入したのは、どう考えても個人では使用しないものばかりだったしね」
ユンの行動を手がかりにキースまで見張っていたと知って、一同はドン引きだ。
やや遠慮がちに、ナナがバッサリ一刀両断する。
「あの、セーラさん。そこまで追跡するのは、はっきりいって逆効果だよ。あたしがカネジョーの立場だったら、ソッコー警備隊に通報すると思う」
「ひ、ひどいっ。ナナちゃん、あなたは私の味方だと信じていたのに……!」
ヨヨヨと泣き崩れるセーラを往来へほっぽって、キース達は家に入ると、中から厳重に鍵をかける。
「あらー!ちょっと、本気で私を仲間外れにするつもりなの!?酷いわよぉ、同じ釜の飯を食べた戦友なのにー」
外でセーラが、ぎゃんぎゃん騒いでるが無視だ、無視。
例えナナに会いたい下心だったとしても、あの変態眼鏡が、わざわざパーティーの用意を整えておいてくれたのだ。
今日のパーティー、絶対中止させるわけにはいかない。カネジョーの為にも。
軍にいた頃は彼に友情なんて微塵も感じなかったナナだが、先の誕生日では綺麗なアクセサリーを貰った。
その時、はじめてナナはカネジョーを一人の同年代として意識したのである。
「それじゃ、誕生日おめでとー!」とナナは乾杯の音頭を取り、カネジョーにプレゼントを渡す。
「お?へぇー、チェーンアクセかよ。お前にしちゃセンスいいじゃねーか」と素直に喜ぶ彼を見て、ナナが胸を張る。
「でしょー。あたしも研究したんだからね、男の人が好きそうな装飾品!」
「ナナたん、是非俺の誕生日にも二人の思い出となりそうな装飾品をプレゼントしてくれないか?」とイケメン顔で迫るキースなんぞは、当然のようにナナの視界には入ってもいない。
レンからは無難な黒の鞄、ユンのプレゼントはジャストフィックのオプション品と、皆それなりにカネジョーの好みに合わせている。
レンとナナも自分と同じでカネジョーには何の友情も感じていないと捉えていたキース的には、密かにショックだ。
プレゼントは適当なお古のコース皿をくれてやるつもりだったが、予定変更だ。
軍にいる間に見せてやろうと企んでいた、アレにしてやる。
「カネジョー、俺のプレゼントはこれだ!」
黒い機体を受け取り、カネジョーは怪訝に眉をひそめた。
「これって、お前の自慢のナントカって携帯機じゃねーか。いいのか?俺に渡しちまって」
「心配ない、それはお前専用に作った別機体だ」とキースは首を振り、眼鏡を光らせる。
「こいつの最大のウリはゲームだ。その名も、セーラちょめちょめ発禁ゲーム!!」
「何それ……?ちょめちょめって何だか気持ち悪い語源ね」
心底冷めきったナナの視線が痛い。
傍らではレンも「ナナで作っていた下品ゲームのセーラさん版ですか?あんなの貰ったって、あんま嬉しくないんじゃ」とカネジョーを慮った。
散々なこき下ろしにも関わらず、キースは「フッ。そんな単純な置き換えゲームを俺が作ると思うなよ」と自信満々なのが気にかかる。
好奇心に負けてゲームを起動したカネジョーは、二、三度画面を突くうちに「おぉっ!?」と驚きの声をあげた。
「フッ。お触りゲームとの違いに驚いたか」と自信満々なキースはさておき、レンとユンも覗き込んでみると、画面上には囚人服に身を包んだセーラが恨めしそうな顔で座っており、横に表示されたコマンド一覧が、これまた酷いものばかり。
『鞭打ち』
『泥水を飲ませる』
『犬のウンコを食べさせる』
『裸で散歩』
『雑巾で顔を拭く』
……等々。
該当人物へ恨みを持っていなければ、到底思いつかないような仕打ちばかりだ。
「うわぁ、陰湿」とドン引きするレンなどお構いなしに一通りのコマンドを試してみたカネジョーは、意地の悪い笑みを浮かべてキースへ礼を言う。
「ナナのゲームしか作れないのかと思っていたけど、こんなのも作れるのかよ。いいぜ、むしゃくしゃした時に遊んでやらぁ」
セーラに悪い感情を持っていないユンは、なんともいえない気分になったものの、もらった本人が喜んでいるようなら、まぁいいかと思い直す。
プレゼントを渡した後も、カネジョー主役の誕生会は大いに盛り上がる。
外で泣き喚き続けるセーラの怒号を、一切無視して――



おしまい

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