合体戦隊ゼネトロイガー


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シロさんとタカさんの温泉宿録:20周年だよ!温泉でイチャイチャ祭

気がついたら、温泉郷にいた。
ここまで、どのような手段で来たのか全く思い出せない。
机の上に置かれた、わくわく温泉旅行と書かれた紙に目をやった瞬間、宿の前に立っていたのだ。
瞬間移動したと言ってもいい。だが、そんなことってありえるのだろうか?
よく磨かれた透明扉の向こう側では人影が歩き回っており、幻の類ではない。
茫然と立ちすくんでいると、法被を着た人物が近づいてきて、ぺこりと頭を下げた。
「一名様、ご到着ー!」と大声で叫ばれ、手を引かれて部屋へ通される。
一歩入った御劔へ「よぉ、きみも来たのか」と声をかけてきたのは、我が親友の伊能四郎ではないか。
彼もまた、ここへ来るまでの記憶が曖昧だと言う。
宿の前で我に返り、宿の従業員に手を引かれて部屋に通された。
キャビネットにあった浴衣を御劔に手渡し、四郎は微笑んだ。
「この浴衣という服は恐らく、この辺りの民族衣装なんだろう。他の客も着ていたから俺も着てみたんだが、思いのほか快適だ」
改めて彼を上から下まで眺めてみれば、実にシンプルな格好をしている。
長袖ワンピースに似ているが、筒ではなく平面の布であるのと、羽織った布を帯で留める着用が異なる。
見慣れぬ構造の服を前に好奇心を刺激された御劔は自分も着てみようと思い立ち、上着を脱ぎすてた。
途端に勢いよく四郎が立ち上がり、開けっ放しになっていた扉を閉めに走る。
「おぉっと!着替えるんだったら、まずは扉を閉めないとな」
かと思えば「あ……すまない」と振り返る御劔の背後に立ち、「いいんだ、俺も言うのを忘れていたし」と着付けの手伝いに回った。
普段どちらかといえば嫁の香里に気が利かないと、どやされることの多い四郎にしては、えらく気を回したサービスっぷりだ。
くすっと笑った御劔に、四郎が怪訝な表情を見せる。
「随分張り切っているんだな」と御劔が笑った理由を告げると、すかさず四郎も「そりゃそうさ。だって、きみと二人っきりの宿泊なんだからね」と笑顔になり、片目を瞑った。
「料金は割り勘なのか?」と尋ねながら、宿泊まで決められていると知って御劔は驚きを隠せない。
どうやって来たのか判らないのに、宿泊するのは当然のように受け止めている四郎にも驚きだ。
四郎は「いや、タダらしい」と答え、そっと耳打ちした。
「俺達は、この温泉郷に招待された――何者かにね。そういう設定らしい。一体誰の仕業なのか、何が目的なのか。それを調べようと思って、宿泊してみることにしたんだ。きみには勿論、拒否権がある。ただし、拒否したからといって家に戻れるかどうかの保証もないんだが」
彼曰く、宿を出て周辺を歩き回ってみた限りでは、どこかに繋がる道路の存在は一切認められなかった。
実質、宿に幽閉されたも同然だ。ここから、どこへも行けない。
だから四郎は、居直って謎を解く方向に舵を切り替えたのだ。それしか手段はないと御劔も考える。
「一泊したからといって翌日は家に戻れるのかどうかも判らない。だが」
「試すしか選択肢がない。なら、決まりだ。私もつきあおう」と頷き、御劔は浴衣の着付けを再開した。
四郎の腕が前に回ってきて、帯を何度も腹の上へ巻きつけてくる。
「結ぶんじゃなく巻いて留めるんだと、そこの"旅館のしおり"に書いてあった」と注釈を加え、四郎は御劔を鏡の前に立たせる。
「どうだい?きみによく似合っているじゃないか、ミヤビだよ」
ミヤビとはニケア人が多用する形容詞で、養成学校を作って以降は様々なニケア人にミヤビだと連呼されたが、具体的な意味が御劔にはイマイチ判らず、そのつど営業用笑顔で誤魔化した記憶だ。
あまり良い思い出のない誉め言葉である。
「私よりシロさんのほうが似合っているよ。イナセっていうんだろう?」とやり返したら、「そう見えていると嬉しいんだけどね」と複雑な表情で返されて、思わず二人揃って爆笑してしまった。
「さて――せっかくだから、温泉にも入ってみようじゃないか」
元々研究者魂を持つ二人なだけあって、色々怪しい部分はあっても探求心が先に立ってしまう。
浮かれる御劔の勢いにつられるようにして、四郎も部屋を出た。


砂壁が続く板張りの廊下を進んでいくと、ロビーに出た。
ここからだと、外との出入り口が遠目に見える。
部屋に通された時は慌ただしくて、じっくり眺める余裕もなかったが、客として改めてロビーを見渡してみれば、自分達以外にも客の姿がパラパラあり、ちゃんと宿として経営しているのだと驚かされた。
誰かの作った大掛かりな装置という可能性は、捨てたほうが良さそうだ。
風呂場周辺にも数人の客がいて、男女で出入り口が分けられている。
「この辺は大衆浴場と同じシステムか。混浴と言われなくて良かったよ」
心底ほっとした様子の親友に「シロさんは混浴のほうが嬉しいんじゃないか?」と御劔が小声で突っ込むと、四郎は「とんでもない!」と大慌てに慌てて手をブンブン振り回す。
「混浴は苦手だよ……特に若い女性との混浴はね」
よほど混浴にトラウマがあるようだ。
四郎は若い女性が好きという記憶を辿っての冷やかしだっただけに、意外な反応を見てしまった。
深く突っ込むのはヤメにして、御劔は脱衣所の籠に近づいた。
竹で編んだ籠だ。使い方は周りの客を真似すればいい。
すなわち、脱いだ衣類をポイポイ籠に突っ込んでタオルを腰に巻くのが温泉の流儀であるらしい。
浴衣の場合はクルクル丸めて放り込めばいいのだから、簡単だ。
浴衣をくるくる丸め、パンツも脱いで気楽に籠へ放り込む。
タオル一枚となった御劔の真横に、ぴたっと四郎が密着してきて「さぁ、入ろう」と促してきたので、御劔は距離の近さに若干違和感を覚えつつも、他の客を見本に透明な扉を開いた。
むわっと湯気に包まれる中、周りを見渡した二人は、湯につかる前に右に倣えで体を洗う。
タオルを外して、湯に入った。
足元はゴツゴツした感触、全体が岩で出来ているのであろう。
湯加減は最初の頃こそ熱湯で飛び出したくなったが、次第に体が熱さに慣れてきたのか、じんわりと心地よくなってきた。
「ふぅー……大衆浴場と似ているようで、あちらよりもゆったり足を伸ばせる利点がいいね」
「う、うん……だが、きみ、あまり足を伸ばすんじゃないぞ」
ゴクリと生唾飲み込んでの説教に「あ、ごめん。蹴飛ばしたかい?」と、これまた見当違いの反応を返す御劔を見やり、四郎は内心、深い溜息をつく。
この友ときたら時々自分が他人に見える印象を、まるっと忘れてしまうから困りものだ。
御劔の大きな特徴を上げるとしたら、まずは外見に皆の目が集まる。
目鼻立ちが整っており、すらっとした体格に笑顔が柔らかいとあっては、人目を惹かないわけがない。
彼が初めてベイクトピア軍の研究室へ現れた時も、天使が舞い降りたのではないかと思ったぐらいだ。
今だって、屈強な男が数人チラチラこちらへ欲望に満ちた狼の眼差しを向けてくる。
御劔を一分一秒たりとて一人にしたら危険だ。
いやらしい連中に捕まって、手籠めにされてしまうかもしれない。
駄目だ、エッチな真似をするんであれば是非とも自分が一番目を飾りたい。
四郎は御劔が好きだ、大好きだ。
だが男同士という社会の建前に敗北を喫し、泣く泣く幼馴染の腐れ縁である香里と結婚した。
建前以前に御劔からもバッサリふられたのだが、そこはそれ。
ふられても好きな気持ちは消え去らず、今もひっそり片想い継続中である。
この旅行に香里は同行していない。二人っきりだ。
「タ、タカさん」
四郎は、もう一度ごくりと大きく唾を飲みこんで、御劔の肩に手を置く。
「なんだい?」と振り返った友へ大真面目に申し出た。
「背中を流してあげよう」
本当なら、体を洗っている時に言うべきだった。
しかし、ささっとお湯をかけて終わりにされては言い出す暇もない。
御劔は一瞬きょとんとしたが、すぐに「うん、それじゃお願いするよ」と素直に頷くと四郎の目前で湯縁を跨ぎ越し、岩が敷き詰められた床の上にしゃがみ込んだ。
そんな無防備な格好で座ったら、見えてはいけない場所が丸見えだ。
シャワーの前に陣取った爺さんが丸出しでしゃがんでいるから真似してしまったんだろうが、御劔には今一度、美形の自覚を持ってもらいたい。
たとえ周りのムサい男どもが丸裸でも、御劔だけはタオルで隠す権利が与えられるべきだ。
理性では倫理的に考えつつも丸見え部分に視線は釘付け、鼻息も心なし荒ぶらせて、四郎は御劔の背後にしゃがみ込む。
「いろんなボディソープが並んでいるね。どれを使ったら、いいんだろう」
首を傾げる御劔にアドバイスしたのは、反対隣で髪を洗っていた青年だ。
「右がサッパリ系で真ん中は普通、左が保湿系ですよ」
言った後まじまじと御劔を眺め、不意にハッとなって視線を外す。
御劔の美しさに当てられたのだ。初めて彼を見た者は、大体同じ反応を見せる。
御劔は気にしなかったかのように「ありがとう」と自然に笑って返し、真ん中を手に取った。
「これで背中を洗ってくれるかい。せっかく風呂に入ったんだし、徹底的に綺麗にしてしまおう」
泡でわしゃわしゃにしたタオルを手渡され、四郎は俄然張り切って背中を擦ってやる。
綺麗な背中だ。シミやほくろが一つもない。
きめ細やかな白い肌は、とても同性の肌とは思えない。
異性の香里だって、ここまで色白ではない。
やはり、そこんとこは半分シンクロイスの血が混ざっているのと関係するのだろうか。
いや、どちらかというとシンクロイスが乗り移った女性の持つ遺伝子か。
なんにせよ、イーシンシアは奇跡と呼べる子を産んでくれてありがとう。
たとえ浮気が原因の出産でも、生まれた子供に罪はない。
手が届く範囲に来てくれた高士にも感謝だ。
こんなふうに仲良くなって親友と呼ばれるほどの距離にいられるのは幸運だ。
あの時、企業の誘いを蹴ってまでベイクトピア軍に入って良かったなぁ!
「あ、あの、シロさん。そこは背中じゃないよ」
ごしごし熱心に擦るあまり、脇の下まで擦っていたようだ。
「あぁっと、ごめん、いやしかし、背中だけじゃなくて全部洗わないと洗ったとは言えないだろう?」
やや早口に言い繕い、四郎は腋毛一本生えていない御劔の脇に鼻の下を伸ばす。
「前は自分で洗えるよ……」と言いながらも、嫌がって振り払ったりしないのが御劔の良い処だ。
歳は四郎のほうが上で、年下の同僚を可愛がるつもりでタカさんと呼んだのだが、御劔がシロさんと呼び返してきた時には心底驚いた。
年功序列と上下関係にうるさい軍体制において、年上を愛称で呼び返す。
常識を覆された気がした。だが、悪い気分ではない。
同期の同僚でありながら御劔は年上の四郎に甘えてくることもあり、やがて彼のすることなすこと全てが愛おしいと感じるようになり、いつしか恋心へとすり替わっていった。
世間では、同性同士で愛し合うのは禁忌とされる。
愛を語るのはおろか、性的な意図で肌を触れあうのもアウトだ。
愛し合う例が全くなくもなかったが、世間一般において彼らは存在しないものとして扱われた。
四郎の告白を断った時、御劔は言った。
世間体を考えて行動しろ、フィアンセの香里を悲しませるな。
きわめて一般論である。
しかし世間が同性愛を認めていれば、香里と婚約していなければ、四郎の愛を受け止めてくれたのか?
告白を断られた後も、交流は続いている。
けして距離は置かれず、距離が縮まることもない。
もし、ここでまた、香里のいない場所で同じ告白をしたら、同じ答えを返すのだろうか。
御劔には嫌われたくない。
でも、これ以上つかず離れずの距離を保たれるのも辛い。
ぐっと唇を噛みしめ、四郎は決意する。
この温泉一泊でタカさんの真意を確かめよう。
その結果、嫌われたとしても後悔しない。
彼とは元々無関係な立場だったと諦める。
死ぬまで友人ごっこのふりで誤魔化して生きるよりは、心が耐えられるはずだ。
「シロさんっ……!?」
熱心かつ執拗に脇の下を擦っていたかと思ったら、無言で股間をゴシゴシやられて驚愕したのは御劔だ。
身じろぎしようにも、後ろから抱きつかれているため振り払えない。
タオルで擦っていたのが直接手で握り始め、上下に扱かれる。
こんな大勢の人の目がある場所で、なんと大胆な真似をしてくるのか。
だが――だが、嫌ではない。
告白は断ったけど、四郎が嫌いだったんじゃない。
先約だった香里に遠慮したのだ。
同性同士の恋愛が禁忌なのは、知っている。
知っていても、御劔は四郎が好きだ。
大切な友人ってだけじゃない。
人として、頼れる兄貴分として、溢れる愛情を向けてくる相手として。
この感情が愛なのかどうか、御劔自身には判断できない。
自分が誰かを愛せるのかどうかも、彼には判らなかった。
多くの人に愛されて慕われたけれど、それに対してどう答えればいいのかを知らなかった。
親と家庭教師が教えてくれたのは、上に立つ人間の心構えだけだったから。
抱きついた四郎が、耳元でボソリと呟く。
「……好きだ、タカさん。今日一日だけ、きみに触れていたい弱い俺を許してくれ」
苦渋に満ちた声だ。
嫁への裏切りと御劔への愛とで、板挟みになっているのだろう。
香里は四郎の嫁というだけではない。
幼馴染で親友、その彼女を裏切って御劔への愛を取った四郎に、御劔は衝撃を受ける。
香里と秤にかけてでも手に入れたい愛だったのか。
あの告白は、てっきり御劔の容姿だけに惹かれて血迷ったのかとばかり思っていた。
「シロさん……いいよ、好きなだけ触って構わない。ただ、ここじゃ人目につくから部屋で、ね」
囁き返すと驚いた目がこちらを見つめ、続けて四郎は周囲を見渡し、赤く染まった頬を、ますます赤らめる。
ようやく周りの目全部が向けられている状況に気づいたようだ。
二人っきりの空間であれば、香里にもバレまい。
贖罪の気持ちは御劔にもあるが、今日一日だけの秘め事と割り切って四郎をつれて部屋に戻った。

部屋には布団が敷かれ、奥の一角にテーブルが押しつけられていた。
「しおりによれば、食事は食堂で取ってほしいそうだ」と言って、四郎が扉を閉める。
「私はお腹が全然空いていないんだけど、シロさんはどうする?」
御劔に問われ、答える代わりに四郎は彼を布団の上に押し倒す。
胸に顔をうずめて呟いた。
「今は、きみと二人でいたい。飯は、その後でいい」
良い匂いがする。
さっきのボディソープの香りに混ざって、御劔自身の体臭を感じた。
こうやって抱き合うだけで充分だ。これ以上は求めない。
求めたら、きっと香里だけではなく御劔も傷つけてしまう予感がした。
「……ねぇ、シロさん。私も、ね。本当は、ずっとこうしてみたかったんだ」
注意していないと聞き逃してしまうほど、小さな囁きを御劔が漏らす。
ハッとなって顔を上げると、熱っぽく潤んだ瞳と目が合った。
「香里さんの手前、どうしても言えなかったけれど。居ない今だからこそ、言ってしまうよ。本当は、告白を受け入れたかった。一緒に暮らしてみたかった。世間が認めてくれなくても、結婚という形にならなくても。弱いのはシロさん、きみじゃなくて私だ。許しを請わなければいけないのも、私なんだ」
涙が御劔の頬を伝って落ちる。
四郎は彼を強く抱きしめ、これ以上の謝罪を遮った。
「いいんだ。きみが俺を嫌わないでくれた。それで充分なんだから。だから今日は、今日だけは抱き合って眠ろう。そして、明日は何事もなかったように友達に戻ろう」
本当は抱き合うだけじゃなくてキスしたり、その先も妄想していた。
今の返事を聞く限りだと、御劔も同じ気持ちだろう。
だが、やはり、これ以上は無理だ。
これ以上、踏み込んだら、日常へ戻れなくなるのではないか。
御劔なしの生活に戻れなくなる。それも怖い。
悶々と考え込む四郎へ、そっと御劔が唇を重ねてきて、驚く親友に悪戯っぽく微笑んでみせる。
「考え込まなくていいよ。きみが言ったんじゃないか、今日一日だけ私に触れていたいって。そして私は、それを受け入れた。きみの触れるってのは、抱き合うだけで充分だったのかい?私はキスも許容範囲なんだけど……もし行き過ぎた行動だったんなら、すまない。しちゃった後で謝るのも、おかしな話だけど」
「い、いや!今のは最高だった!!も、もう一回、今の感触を確かめても?」
鼻息荒く顔を近づける四郎を嫌がりもせず、御劔は笑って受け止めた。
「いいよ。シロさんが飽きるまで何回でもね。シロさん流のキスってのも受けてみたいし」
恐る恐る重ね合わせて、一回目。
そっと舌を差し入れた二回目。
両手で抱き寄せ、情熱的に貪る三回目。
優しく吸いあう四回目のキスを終え、ほぅっと満足の溜息を漏らして御劔が四郎に問う。
「香里さんとも、こうやって熱烈にやっているのかな」
「馬鹿言うんじゃない。あいつとキスしたのなんて、結婚式の一回きりだよ」との素っ気ない答えには驚いて、思わず聞き返す。
「本当に?だって、きみ達は夫婦だろ。夫婦なら、おはようやお休みにもキスしたりするんじゃないのか」
「どこの新婚さんだよ」と四郎も呆れた目で返し、肩をすくめた。
「どの夫婦も一律で毎日チュッチュしまくっているわけがないだろ。そりゃあな、新婚時代は早く子供が欲しいとせっつかれてセックスに励んだ時期もあったが……って何を言わせるんだ!?」
自分で言ってテレている。
「と、とにかくキスは好きじゃないらしくてな。結婚式にしたっきりだ。ハイ、この話は、もうオシマイ!」
動揺しまくる姿が可愛くて、クスクス笑いながら、御劔は尚も四郎をからかった。
「それにしては、私には熱心だったじゃないか。四回も立て続けにキスしたりして」
「あいつは好きじゃなくても俺は好きだからな、キスするの」と真顔で迫られ、五回目のキスを受けた。
「……きみとキスしたかったんだ、ずっと。やっとできて、今は最高の気分だ」
「友達だと出来ないからね」と頷き、抱き寄せられるまま御劔は四郎の背中へ腕を回す。
「今だけは友達じゃなくてもいいかな」と御劔に尋ねられたので、四郎が聞き返す。
「じゃあ、今の俺達って何なんだ?」
御劔は答えず、微笑んだっきりだ。
友達でも恋人でも愛人でもない、そういう曖昧な関係があったっていいじゃないか。
そう言っているようにも見える笑顔だ。
四郎は黙って頷くと、御劔との抱擁に包まれた――


そして、翌日。
自分の部屋で目覚めた四郎は、コキコキと肩を鳴らして起き上がる。
全く内容を覚えていないけれど、なんだか良い夢を見た気がする。
今日もスパークランへ出向して、御劔と一緒にゼネトロイガーの整備をする仕事が待っている。
「いってきまーす!」と元気よく家を飛び出して、軽い足取りで中央街方面へ歩いていった。


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