合体戦隊ゼネトロイガー


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デュランと過ごすハロウィン:2020 if Halloween

いつの頃からは忘れたが、毎年10月末には豊作祭がやってくる。
豊作祭と言っても現在は名ばかりで、実際には親しい者へお菓子をあげたり、相手の願いをかなえてあげるといった、お祭りと化していた。
昼間はデュランも候補生達に取り囲まれて、次から次へとお願いを聞かされて、すっかり身動きが取れなくなった。
これはこれで楽しいのだが、今年はもっとイベントを楽しめる相手が側にいるのだ。
浮かれ気分で宿舎へ戻る途中、背後で彼を呼び止める声があった。
「ラフラス様、少しお話が」
アニス少尉だ。
ベイクトピア軍に所属する、暗殺部隊のリーダーでもある。
「軍人が教官用の宿舎にまで入ってくるとは、何の緊急事態かな」
茶化すデュランの前で、アニスは仏頂面を崩さず問いかけてくる。
「いいえ、緊急事態ではありません。プライベートで、お話が」
「プライベート?」
「ラフラス様は、お菓子と要求、どちらがお好みですか?」
何を聞かれたのか一瞬判らなくて軽く固まってしまったが、ややあって、彼女は豊作祭の話をしたいんだとデュランの脳にも浸透してくる。
それならそれで、笑顔で話しかけてくれりゃーいいものを、なんで仏頂面なのか。
「君も参加したかったのか。軍じゃ祭りは、やらないものな」
「時間がありません。お菓子と要求、速やかに選んでください」
よくよく眺めてみると、アニスの瞳には焦りが浮かんでいる。
上司に断りなく、こちらの宿舎に来てしまったのか。
軍属の悲しいサガだ。祭りの日でさえも、自由に行動できないという。
「よし、じゃあ要求を述べたまえ」
「聞いているのは、こちらです」
アニスは苛ついた口調で遮り、お菓子の入ったバスケットをちらつかせる。
「ラフラス様は候補生の要求をかなえてばかりで、ご自分の要求をかなえておりませんでしょう?ですから、私がこうして」
「それは君も同じだろう。休憩時間を削って、わざわざ俺に会いに来たんだ。もっと素直になってみちゃどうだい」
ぐっと壁際に押しつけて極至近距離で見つめあっただけでアニスの仏頂面は解けて、頬を真っ赤に上気させる。
「あ、はい、では……デュラン様の施しを」
「よしきた」とばかりに、さっそくアニスの服に手を入れ、デュランが胸を揉んでくる。
廊下だというのに見境がない行動にはアニスも驚かされたが、考えてみれば一番最初に襲われたのも、研究所の廊下であった。
あの日以降、デュランの姿がアニスの脳裏を離れない日はない。
毎日毎夜、彼との情事妄想に耽り、会いたい気持ちを募らせた。
「ん、んんっ」
考えている間に唇を塞がれ、アニスの思考は二回目の遭遇に飛ぶ。
シンクロイスが地下街に現れたというのでベルトタワーへ急行したら、思わぬタイミングでデュランと出会い、部下の目前で彼にあしらわれ、シンクロイスを取り逃がしてしまった。
しかし任務失敗の上、屈辱行為をされたにも関わらず、アニスの心は幸せで満たされた。
デュランが自分を覚えていたこと。
そればかりか、好意的だったこと。
銃口を突きつけた自分に対して今だって積極的に接してくれて、いつの間にか裸に剥かれて両手両足でデュランにしっかり抱きつきながら、アニスは腰を振り乱す。
「あっ、あっ、デュ、デュランさまぁ、デュランさま、もっと激しく突きあげてェ」
「いいとも。君が満足するまで、つきあおう」
目の前にデュランの笑顔がある。
彼の腰が前後に動き、そのつど激しく突き入れられるたびに、アニスの心と体は熱く燃えて、肌寒い秋に廊下で素っ裸だというのに、いつしか汗だくになっていた。
「あ、あぁっ、デュランさま、デュランさまぁ、すきっ、すきぃぃっ!」
「うんうん。気持ちいいのは判るけど、あんまり大声を出すと誰かに聞かれてしまうぞ?」
だったら廊下で襲うなと突っ込まれようが、今、この廊下にいるのはアニスとデュランの二人だけ。
やがてイキ果てたのか、くったりしたアニスを壁に寄りかからせると、デュランは、そっと彼女の着ていたブラウスを裸身にかけてやる。
「本当はシャワーを浴びせてやったり着替えさせてあげたいんだがね、一日は短いんだ。そこはセルフでよろしく」
言うが早いか身をひるがえし、エレベーターに乗り込んだ。

デュランが急いで向かうのは、辻鉄男の借りている部屋だ。
スパークランの教官宿舎は原則一人一部屋。
間借りしている鉄男も例外なく一人部屋であり、今なら邪魔な木ノ下がいない。
家族環境を考えるに、鉄男は、こうしたお祭りには不慣れだろう。
是非とも彼の要望をかなえさせて、ニコニコの笑顔で祭りのフィナーレを飾ろうじゃないか。
だが――鉄男の部屋へ行きつく前に、再び誰かに呼び止められる。
「よぉ、さっきの、ありゃあなんだ?ここの原住民ってなぁ、所かまわず発情する生物なのか」
ルミネだ。
正確には体がルミネであって、現在はゾルズに乗っ取られたシンクロイスだ。
ゾルズは寄生元のルミネに同調して、人類の味方についた。
完全に乗っ取った今もベイクトピア軍の兵として働いており、となると彼もサボリで軍を抜け出してきたクチと見てよかろう。
「さて、想像にお任せするよ。それより俺を呼び止めた理由は豊作祭のお誘いかい?」
軽くはぐらかして伺うと、相手は「え、いや、なんだそれ」と初めて聞いたかのような反応を見せる。
ルミネの体に長らく寄生していた割には、地上のイベントに詳しくないのか。
じっと無言で見つめると、ゾルズは頭をぼりぼり掻いて言い訳した。
「あぁ、ルミネとは……あいつとは話す機会があっても、必要な事しか話してねぇ。だから、この地上で何が流行っているかとか、どんな風習があるかってのを、俺は全然知らないんだ」
「そうかそうか、なるほど、君もお祭り初心者か。なら教えてあげよう、豊作祭とは自分の望みを他人にかなえてもらう祭りだよ」
「かなえる?」とゾルズは首を傾げる。
「金持ちになりたいっつったら、かなえてくれるってのか」
無茶ぶりもしてきたので、デュランは少々訂正してやった。
「大きな願い事は無理さ。だが遊んで欲しい、本を読んで欲しい、おしゃべりしたいといった、ささやかな望みなら、かなえることができるだろう?」
ぐっと壁に押しつけると、ゾルズが上目遣いに見上げてくる。
「……こんな体勢に持ってくるってこたぁ、こないだみたいな真似がご希望か」
デュランはウィンクして「君が望むなら、ね」と言ってくるが、顔が超至近距離にあるし、やる気満々なのは間違いない。
実をいうとアニスとヤッているのを目撃した時、不覚にも身体のほてりを覚えたゾルズである。
嫌いだ苦手だと思っていた相手なのに、いざ体を併せてみると思いの他抜群の相性で、なるほどルミネが消滅寸前まで思いを寄せた相手だと、おかしな方向で感心してしまったぐらいだ。
もし掛け合わせで優秀な子種が生まれるなら、デュランの子を宿したいとゾルズは考えた。
元英雄で元パイロットだそうだし、こいつの遺伝子も優秀なはずだ。
まぁ、種族繁栄のメリットなんざ、この際どうでもいい。体が彼を求めている。
「それじゃ、デュラン……さまって呼んだほうがいいのか?」
「好きなように呼んでくれ。初めての時みたいに呼び捨てでも」
「あんま思い出させるんじゃねぇっ」
ぐっと壁に押しつけられ、デュランの足に己の足を絡ませる。
頬を優しく撫でてきた手が胸元にも伸び、素手で直接胸を触られ、ゾルズの唇からは熱い吐息が漏れた。
「ルミネさんは中をトントンされるのが好きだったけど、君は胸を揉まれるのが好きなんだね」
「あ、あぁ……いや、あんたの揉み方が上手いから」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
廊下でヤるのを、ついさっきまで批判していたはずなのに、今や自分も廊下ではしたない声をあげている。
それでもデュランを制止するのに躊躇いを覚える。
ここでやめさせたら、がっかりして他の人の元へ向かってしまうのではないか。
それが怖い。
先も何処かへ向かっているようだったし、この先に想い人の部屋があるのかもしれない。
昼間の引っ張りだこな人気者っぷりや、先ほどの女性との密な行為を目の当たりにした。
デュランに恋人が一ダースぐらいいたって、ゾルズは驚かない。
だが、どれだけ恋人が沢山いようと自分を嫌いにならないでほしいと、デュランの手に身を委ねながら夢うつつに考えた。
たった一人の、しかも他種族に想いを寄せるだなんて、この星に来る前の自分が今の自分を見たら、キチガイだと呆れるだろう。
原住民に恋したアベンエニュラやカルフをキチガイだと切り捨てた、他の同族みたいに。
中をトントンされる快感に、あぁ、と小さく吐息をついて身を逸らせる。
願わくば、生前のルミネにも味わってほしかった行為だ。
しかし彼女は、もういない。魂魄遮断で殺されてしまった。
彼女の分まで自分が精一杯受け止めよう――

不意に、がちゃっと音がして、振り返ったデュランとゾルズの目が捉えたのは。
ドアノブを握ったまま、こちらを凝視して固まる鉄男の姿であった。

何分何秒、何十分と過ぎただろうか。
相当な時間を要した上で、鉄男は「最低です」とデュランに向かってボソリと吐き捨て、忙しない足取りで去っていった。
「鉄男くん、待ってくれ!誤解なきように言っておくが俺の本命は君だけなんだ、本当だぞ!!」
おかげで行為途中で廊下に裸で放り出され、鉄男を追いかけて去っていくデュランの背中を睨みつけながら、ゾルズも同じ言葉を彼に向けて吐き出したのであった。


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