合体戦隊ゼネトロイガー


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御劔学長と二人っきりの温泉旅行!:18周年記念企画・if短編

乃木坂勇一は悩んでいた。
目の前に置かれたのは、一枚のチケット。
表には温泉郷招待券と書かれている。
送り主は不明。ただ、同行する相手だけは判っていた。
行くべきか、行かざるべきか。
普通に考えたら、怪しい事この上ない。行かないほうが賢明であろう。
しかし同行者の名前を睨みつけ、乃木坂は「う、うぅぅぅ〜〜む」と唸る。
そこには、確かに書かれていた。
よく注意して見ないと判らないぐらい小さな文字で、同行者:御劔高士、と――
言うまでもないが、乃木坂は御劔を尊敬している。
簡単には語りつくせないほど尊敬しており、もはや崇拝していると言いなおしても良い。
従って、罠かもしれない生命の危険もあったかもしれない怪しさ爆発なチケットを前にしても、御劔の名前を見ただけで乃木坂の警戒心は、どこかへぶっ飛んでいき、今、こうして彼と二人で見知らぬ温泉宿の前に立っている。
ここまでの道のりは、よく覚えていない。
「行こう」と思った瞬間、ここへ飛ばされてきたとでもいうべきか。
とにかく、意識がはっきりする頃には御劔と二人で宿の前にいたという次第だ。
御劔も全く同じ状況だという。
何故行こうと思ったのかを乃木坂が聞けば、同行者に乃木坂勇一と書かれていたからだと学長は笑った。
たったそれだけで、非常識な経路など乃木坂の脳裏からは抜け落ちてしまったのだった。

「すごいね、乃木坂くん。この床を見てごらん?ザラザラしているのに不快感がない」
個室に案内されるなり、御劔は部屋一面に敷き詰められた緑の床を撫でて喜んでいる。
靴を脱いで上がり込んだ乃木坂も、初めて見る客室に目を見張った。
四方を土壁が覆い、真横に細長い。
壁に沿ってTVと木製の棚、それから灯りが置かれている。
室内は、さらに細かい部屋で区切られており、部屋と部屋を区切るのは薄い紙の貼られた扉だ。
土壁も紙張りの扉も、ベイクトピアでは見ない建築だ。
改めて思う、ここは何処なのだろうと。
乃木坂の思考は、「これは、すごい!」と叫ぶ御劔の声によって四散した。
「ど、どうしました」
慌てて近寄ると、キャビネットを開いていた御劔が振り返り、一枚の布を差し出してくる。
「ごらん、乃木坂くん。これは服だそうだぞ」
広げてみても、やはり細長い布にしか見えない。
しかしテーブルに置かれた宿のしおりを読んだ御劔曰く、これは体に巻き付ける服なのだそうだ。
着替え方も、宿のしおりには書いてあった。
不思議なことに、まったく見覚えのない文字でありながら、意味がスラスラ脳裏に入ってきた。
布はユカタという名称らしい。着替え方は絵でも説明されている。
このしおりを作った者は、よほどの暇人か超のつくお人よしであろう。
「これが帯か。これを……こうやって」
ぶつぶつ呟きながら、すでに御劔はパンツ一丁になっており、乃木坂はゴクリと唾を飲み込む。
すらりと伸びる腕と、うなじから背中にかけての、つるりとした肌。
すね毛の一本も目視で見えない美しい足には、男に興味がないはずの乃木坂でも魅了される。
実際には言うほど細くなく力も成人男性の平均値並にあるのだが、華奢と感じるのは肌の白さのせいだ。
彼の色白に勝てるのは、病的に青白いエリスぐらいではなかろうか。
少なくとも相模原や香護芽、モトミや杏よりも色白だ。
杏は表に出ないインドア派であるはずなのに、男の御劔よりも色黒なのは生まれがニケアなせいもある。
まぁ、肌の色は勝ち負けではない。乃木坂も、それは判っている。
それでも御劔の白さを見るたびに、他の女性と比較してしまったり目を奪われてしまうのであった。
その御劔は、乃木坂が凝視する前で細長い布を羽織ると、帯でしばって体に固定する。
裾のあたりが短くて少々頼りなく見えたが、本人はご満悦な調子で、くるりと一回転した。
「どうだろう、乃木坂くん。似合うだろうか?」
「は、はい、とても、よくお似合いです」
頬を紅潮させる乃木坂を見て、御劔はクスリと微笑む。
「乃木坂くんも着てみるといい。意外や快適だぞ」
「は、はぁ……」
乃木坂の見ている前で、御劔は背の低い椅子に腰掛けて足を崩す。
そのように足を広げては、パンツが見えてしまうのではないかと乃木坂はハラハラした。
いや、パンツが見えたところで今この部屋にいるのは自分と御劔の二人だけなのだから、何も問題はないのだが。
ひとまずユカタに着替えるのは保留して、乃木坂は御劔の対面に座る。
パンツはテーブルに隠されて見えない。セーフだ。
たゆんとした襟元から白い胸が見え隠れして、そして、それを凝視している自分にも気づいて乃木坂は緊張する。
考えてみれば、こうして御劔と二人きりになったのは、研究チームで働いていた頃以来だ。
学校に来てから教官召集の際には、必ずツユや剛助が一緒にいた。
「みっみ、御劔さん。お茶でも、オノミニナリマスカ?」
何故かカタコトになりながらポットを探す乃木坂へ、御劔の質問が飛んでくる。
「どうしたんだ?いやに畏まっているじゃないか。昔みたいにミッさんと呼んでもかまわないんだぞ?」
「い、いや、オソレオオイ……で、あります……」
若かりし頃、新人時代の乃木坂が御劔をミッさんと呼んだのは酒の席、べろんべろんに酔っぱらって前後不覚になった時に何度か、そう呼んでいたとツユや剛助経由で聞かされたのだが、本人は全く記憶にない。
なんと失礼極まりない真似をしてしまったのだろうと内心青くなったが、飲み会の翌日の御劔は普段と同じ態度で接してくれた。
当時新人だった乃木坂が御劔の研究チームに編成されたのも偶然人事であり、御劔がチームメンバーを募集していた時、ちょうど新人で担当もまだ決まっていない乃木坂たちが割り当てられただけだ。
だが、そのおかげで御劔に近づけたのはラッキーだった。
噂に聞いた彼の才能を、自分の目で直接見ることができたのだから。
御劔は乃木坂にとって、とてつもなく雲の上の人物であった。
乃木坂は、自分に研究者の才はないと思っている。
自分が軍属研究者になれたのは、努力の結果だ。
筆記試験は手ごたえを感じたが、面接では極度にあがりまくって、何を言ったのか記憶にない。
面接官が何を気に入ってくれたのかも定かではないが、一発採用となった。
面接の話は、御劔との初顔合わせの時にも話題にのぼったのだった。
御劔は見た者全てを魅了するかのような微笑みを浮かべて、言ったのだ。
「君は面白い発想を胸に抱いているんだね」と。
それに対して、自分が何と答えたのかも記憶は朧気だ。
思い出せないというのは相当恥ずかしい、忘れてしまいたくなるような発言だったのかもしれない。
御劔は、きっと覚えているだろう。それも恥ずかしい。だが、聞きだすのも憂鬱だ。
自分で忘れているなら、一生忘れたままにしておこうと乃木坂は考えた。
そうだ、今は黒歴史に想いを馳せている場合ではない。
憧れの御劔と、二人っきりの温泉宿泊中ではないか。
「そ、そういや」と改まって切り出す乃木坂に、御劔が首を傾げる。
「なんだい?」
「あ、あの眼鏡とは、どういうご関係なんですか?いや、あいつの親父さんが友人だというのは、お聞きしましたが!」
あのメガネだけでも御劔には誰のことだか伝わったのか再びクスっと笑われて、ただでさえ汗だくな乃木坂の額に、さらなる汗が浮く。
「家族ぐるみ、とでもいうのかな……彼の両親とは長い付き合いでね。軍で知り合ってから今に至るまで、二人との交流は続いている。だから十四郎くんは幼い頃から私を知っているし、私にも、よく懐いてくれているのではないかな」
正直なところ、十四郎のことはポッと出だと認識していた。
自分よりも長い交流関係に、乃木坂は内心ゲッとなる。
軍で知り合ったのは自分も同じだが、御劔が入隊してきた時期と、乃木坂が入隊した時期は異なる。
ロボット研究チームを持つまでの間で、伊能四郎との交流は育まれてきたのだ。
十四郎の年齢は教わっていない。だが恐らくは自分と、そう大差ないであろう。
あのメガネは自分の知らない若き頃の、しかもプライベートでの御劔を知っている。
そう考えると、乃木坂は嫉妬で頭が沸騰しそうになった。
「タカさんってのは四郎さんが言い出した愛称なんだけどね。それが香里さん……十四郎くんのお母さんにも伝染して、十四郎くんも真似し始めた。愛称ってのは仲良しの印だからね。嬉しかったよ、家族で使ってくれたのは」
嬉しかったのか。ますます乃木坂の脳裏は、憎悪と嫉妬で荒れ狂う。
カッカポッポする乃木坂に、御劔の気遣いが囁いてくる。
「……さて、そろそろ温泉とやらに入ってみないかい?我々は温泉旅行に招待されたのだからね」
「オ、オンセン、デスカ?」
気持ちの整理がつきかねて、まだカタコト状態の乃木坂へ、御劔はチケットを、ひらひらさせる。
「そうだ、温泉だ。我々の知る温泉との違いを比較するためにも、実際に入る必要がある。さぁ行くぞ、乃木坂くん……あぁ、そうだ、その前に君もユカタを着るといい。そこのしおりに書いてあったんだ、ユカタを着ていくと脱衣室で着替えやすくなると」
それで着替えたのか。用意周到なことだ。いや、それでこそ我らが学長というべきか。
妙なところで上司への尊敬を高めながら、乃木坂も四角い布との格闘に入った。
乃木坂が浴衣に着替えての第一感想は、包装紙に包まれた贈り物の気分であった。
あちこちスースー風が入ってきて、落ち着かない。
これを服と呼ぶのは無理がある。
バスタオルを体に巻いているのと大差ないのではなかろうか。
などといった文句は思考の横っちょに置いといて、脱衣所で男らしく浴衣を脱ぎ捨てる御劔を凝視した。
御劔はクルクルと綺麗に浴衣を丸めて籠に放り込むと、乃木坂へ振り向いて微笑んだ。
「なるほど、これ一枚なら脱ぎやすい。合理的だ。しかもバスタオルと違って帯で留めてしまえば、そう簡単には解けない。ユカタを考えた人は天才だね」
「そ、そうですね……」
バスタオルだって帯で留めてりゃ外れないのではないか。
しかし、面と向かって御劔に反論する勇気なんて乃木坂にはなかった。
全く納得いかない顔で頷くと、乃木坂も脱いだ浴衣を籠に放り込む。
そんなことより今は温泉だ。
そうだ、学長と風呂に入るのは、これが初めてではないか。
軍にいた頃も、全寮制の学校に移った後も、御劔とは使う風呂場が異なった。
今の学長は全裸だ。上から下までスッポンポンだ。
鼻息荒く眺めまわす乃木坂には気づかないのか、御劔は、さっさとガラス戸を開けて湯に近づいた。
すぐに「やぁ、すごいぞ、これは……乃木坂くん、早く来たまえ」と呼びつけてくるもんだから、乃木坂も慌てて戸をくぐり、一面湯気で覆われた視界の悪さに「なんすか、これ!?」と悲鳴をあげた。
何しろ、何も見えない。
ついさっき入っていったばかりの御劔さえも見失うほど白一色だ。
足元も見えなくて、不安に襲われる。
湯を沸かすにしたって限度というものがあろう。
「うぅーん、湯気に包まれているだけでポカポカしてくるね。温泉と言いつつ、実はサウナだったのかな?」
御劔の声は反響しまくって、どこでしゃべっているのか見当もつかない。
「いや、その、サウナ以前に何も見えなくて危なくないですかね、ここ。っと、うわぁ!?」
二、三歩、おぼつかない足取りで前に進んだら、何かに蹴躓いて乃木坂は前に倒れこむ。
手を伸ばした先で何か柔らかいものに触れたと思ったのも一瞬で、「わぁぁ!?」と間近に御劔の悲鳴を聞いた。
続けてバシャアンと激しい水音が上がり、視界がクリアになる。
お湯にダイブしたんだと判るや否や、乃木坂は勢いよく水の中から飛び出した。
「ぶっぱあ!」
「まったく、君にはたまげたよ、乃木坂くん」
超至近距離に御劔の顔があり、頭から濡れ鼠で硬直する乃木坂に御劔が苦笑する。
「勢いよく抱き着いて私ごとダイブするとはね。風呂に入る前は体を洗えと教わらなかったかい?」
見れば御劔もずぶ濡れであり、彼を巻き込んで盛大に転んだのは明白であった。
「すすす、すみませんっ!あの、足元が全然見えなくてですね!?」
「あぁ、もちろん君に悪意がないのは判っている。よかったね、どこも怪我をしなくて」
ヨシヨシと頭を撫でられて、怒っていないのは幸いだが、少し憮然とした気持ちが乃木坂に蟠りを残す。
前から思っていたのだが、自分はどうも御劔に子ども扱いされているのではないか。
いや、子ども扱いというのとも違うか。距離の遠さを若干感じるのだ。
嫌われてないのは判っている。気に入られているってのも。だが、所詮は部下止まりだ。
眼鏡野郎のように家族ぐるみでの付き合いではない分、距離が空く。
もし、ここで御劔にキスをしてみたら、彼はどんな反応を示すだろう。
嫌われてしまうかもしれない。
しかし永遠に近づけない距離を保たれるほうが、ずっとつらい。
ゴクリ、と生唾飲み込んだ乃木坂を見て、御劔が軽口を叩いてくる。
「お湯を飲んでしまったのかい?なら、うがいをしたほうがいいよ。誰が入ったのか判らないダシが取れているかもしれないからね」
「……あなたのダシなら……汚くありません」
それには取り合わず、低く呟き、乃木坂は手を伸ばす。
「何か言ったかい――」
きょとんとする御劔の顎をすくい上げ、唇を重ねあわせた。
舌を動かし、絡め、吸い上げる。
ゆっくりと片手を背に回して抱きしめる。
びくり、と御劔が体を震わせるのが腕越しに伝わってくる。
ややあって唇を放すと、御劔は恍惚と困惑がごちゃ混ぜになった表情を浮かべて乃木坂を見上げた。
「乃木坂くん……」
「み、御劔さん。俺は、俺はっ!俺は前から学長のことがっっ」
鼻息の荒い乃木坂から逃れるように、御劔は視線を湯に落として呟いた。
「……君も、同じなんだね」
何がと尋ねる前に、もう一度呟く。
「君も四郎さんと同じで、私を、そういう目で見ていたんだね……」
それが、あまりにも落胆した声色だったものだから。
乃木坂は自分を包む湯気が、急速に冷え冷えとしたものに変わっていくような錯覚を覚えた。
「お……俺は、四郎さんってのとは違います!」
咄嗟に叫んでみたものの、御劔と自分との間に空いた溝が深くなったように乃木坂は感じた。
御劔は溜息を一つ吐き出し、ぽつぽつと話し始めた。
「……四郎さんはね。最初は良き同僚として、私と懇意にしてくれたんだ。けれど、いつの間にか友情が愛情に切り替わってしまったらしくてねぇ……ある日、突然押し倒されたんだよ。研究室の床に、ね。好きだ好きだ、と何度も譫言みたいに呟いて伸し掛かってくる四郎さんへ、血迷うな、あなたにはフィアンセの香里さんがいるだろうって何度も諭して、やっと諦めてもらったんだけれど……その後、香里さんにも君が好きだと告白されて」
その頃は軍にいなかった乃木坂にも、当時の御劔が置かれた状況は手に取るように判る。
彼は、どこにいても、ひときわ目立つ容貌だ。
男女の性別の垣根を越えて、美しい。
眼鏡野郎の父親も、最初は他の同輩と平等に扱おうと努力していたのだ。
けして、彼一人だけを特別扱いすまいと。
だが、関係が親密になるうちに血の迷いを起こして、全てを台無しにしかけた。今の自分と同じように。
御劔が冷静でなかったら、フィアンセとも関係が気まずくなっていたはずだ。
そのフィアンセすらも、御劔の容姿に我を忘れてしまった。罪深きは美しさか。
「綺麗だ美しいと四郎さんや香里さんは言ったけど、そんなものは研究者には必要なかった。それよりも私の顔が原因で二人が不仲になるぐらいなら、いっそ、この顔を潰してしまおうかと考えたこともあったけれど……親からもらった自分の一部だしね。どうしても、整形には踏み切れなかったんだ」
顔が悪いよりは良いほうが――と他人ならば考えがちだが、良くても悪くても苦悩は発生する。
生まれついての顔が原因で疎まれたり、色眼鏡で低評価を受けることもあったのだろう。
寂しそうに語る御劔の横顔を見ていられず、乃木坂は、そっと視線を外す。
「あ、あの……その……すみませんでした……」
下向き加減に青白い顔で謝る乃木坂を、御劔は、じっと黙って見つめていたが、やがて、ふっと柔らかい笑みを浮かべると、部下の過ちを許してくれた。
「いいんだ。見た目をどう取るかは、他人の自由だから仕方ないよ。乃木坂くんは、自分の顔で悩んだことはなさそうだね」
「え、えぇ、まぁ」
乃木坂は自分が不細工でなくてよかったと、本気で思っている。
不細工だと女性は見向きもしない。
御劔はベイクトピア軍に所属していた頃もラストワンを創立した後も、女性にモテモテだ。
だから自分と同じでまんざら悪くないと思っていたのではないかと、ずっと思っていたのだが、それが大きな間違いであったと、やっと今日、気づかされた。
嫌だったんだ。
御劔さんは、自分の綺麗な顔が。
本音じゃ実力で評価されたいのに、周りからは顔ばかり評価されて。
彼の心の傷を抉るような真似をしてしまうとは自分で自分が許せなくなり、そう思った瞬間、乃木坂の両目からは涙がこぼれ、御劔には苦笑される。
「私の心情を慮って泣いてくれるだなんて、君は優しいんだね」
「や、やざじぐ、ないでずぅぅ」
ぽたぽたりと鼻水まで湯舟に垂れて、あぁ汚いなぁと思いながらも涙は留まることを知らず、ぐすぐすと子供のように泣きじゃくる乃木坂の頭を撫でて、御劔はこうも言う。
「いや、優しいよ。四郎さんも香里さんも、私に嫌われたくなくて引き下がっただけだったからね。本当に、こちらの苦悩を理解してくれたわけじゃない。十四郎くんを見ているとね、そんな気がするんだ」
あの眼鏡野郎も、御劔を心底崇拝している。
その原点には両親と同じ理由で美しい外見が、あるのだ。
本人が、それをどう思っているのかも考えずに。
「あの、ほんとに、すみません……けど俺、俺はあなたが綺麗だからってだけで好きなわけじゃ」
「うん。君は一番最初に出会った時、私の研究を褒めてくれた。容姿を褒めたたえる言葉ではなく、研究を褒めたたえてくれた。あの言葉に嘘偽りはなかったと、今でも思っているよ」
あの時は緊張で意識が半分以上飛んでいたから、そんなことを言ったかどうかも忘れた。
御劔が喜んでくれたのであれば何よりだ。
しかし「だからね」と御劔の小言には、続きがあった。
「今後一切、押し倒したりキスしたりなんてのは慎むように。これは君と私が仲良しでいられるための最低条件だ。私は、君をとても大切な友人だと思っているんだからね」
ずびっと勢いよく鼻水をすすりこんで、乃木坂は一も二もなく頷いた。
「了解です!今後二度と、美しいだなんだって言いません!押し倒したりキスしたりなんてのもしません!そんでもって、いつも優しくしてくださってありがとうございます!!今後とも、よろしくお願いしますぅぅぅ!!!」
叫んだと同時に視界は一瞬で切り替わり、ラストワンの自室に戻った乃木坂は、自分が何で泣いているのかと首を傾げたのであった。


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