合体戦隊ゼネトロイガー


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ヴェネッサのお誕生日

誕生日が嬉しいのなんて、幼い頃だけだ。
カレンダーをめくりあげて、ヴェネッサは溜息をもらす。
一般にパイロット適正年齢は十五から十七歳ぐらいまでとされており、十九の自分は、ぶっちぎりでオーバーしている。
だというのに、もうすぐ二十歳になってしまう。
二十歳は結婚できる年齢でもあるが、まだ結婚する予定は入っていない。
結婚よりも先にパイロット就職を確実としたい。まずは生活が安定してからだ、結婚するのは。
卒業試験は三月末に行われる。
ラストワンの卒業試験は一見特殊だが、やるのは台座での性行為だけではない。
エンジンを起動させた上で動きを制御して、さらに複数のターゲットを全滅させるまでが試験内容だ。
その辺りは他校の卒業試験と大差ない。
パイロットに求められるのは瞬発力と敏捷性、そして冷静な判断力だ。
二十歳の自分は、果たして試験を突破できるのか。
同じクラスの昴とメイラは自分と比べると、かなり若い。若いというだけで有利なのは不公平だ。
パイロット育成学校の入学に決まった年齢はない。幾つであろうと入学できる。
ただ、遅ければ遅いほど肉体面でのハンデが大きくなるから、入学年齢は若いに越したことはない。
メイラと昴は途中転校でラストワンに入ってきた。
何故、卒業を待たずして学校を替えようと思ったのかは本人たちに聞かねば判るまい。
ヴェネッサは中学卒業と同時に届け出を提出した。
ラストワンを選んだ理由は二つある。
一つは実家との距離の近さ、もう一つは面接要らずの入試なしという点に惹かれた。
中学は偏差値の高い進学校へ通っていたのだが、勉強についていくだけで必死だった。
身の丈に合わない場所は生きづらいと学習した。だからこそのラストワン希望だ。
中卒からのパイロット志願は遅いと担当教官に言われて密かにショックを受けたものの、周りを見てみれば確かに二人とも幼い。
昴は十三歳、メイラに至っては十一歳スタートだ。
だが担当教官の乃木坂は、こうも言って励ましてくれた。
若い世代は瞬発力と記憶力に優れている反面、咄嗟の判断を見誤りがちだ。
冷静な判断力さえ感覚を掴んでしまえば、肉体のハンデなど大した問題ではなくなる。
広範囲をカバーできる余裕を身につけろ。お前が年下の二人を引っ張るリーダーになるんだ。
この時のアドバイスを支えに四年間、忠実に学んできたヴェネッサであった。

いつものように授業が終わり、食堂へ入った彼女を待ち受けていたのは大勢の同校候補生だった。
「誕生日おめでと〜!ヴェネッサ」
幾つものクラッカーがパンパン弾けとび、赤や黄色の線が飛び交う。
「ヴェヴェヴェ、ヴェネッサお姉さま、これ、プレゼントにございます!」
間借り先のスパークラン候補生も混ざっており、綺麗に包まれた箱を差し出してくる。
「ありがとう」と優雅な微笑みを崩さずプレゼントを受け取りながら、一体何人に自分の誕生日が知れ渡っているのだろうとヴェネッサは憂鬱になった。
お姉様と呼ばれるのは正直なところ、嫌だ。自分だけ歳をとっている気分になる。
しかし、そう呼ばれる経緯を作ったのが自分だというのも重々自覚している。
昴とメイラを引っ張るリーダーになるべく、お姉ちゃんぶって行動しているうちに、他クラスの年下からも、お姉様なのだと認識されてしまった。
一人が渡したのをきっかけに私も僕も俺もと次々プレゼントを出してきて、あっという間にヴェネッサの周りはプレゼントが幾つも山高く積まれて身動きが取れない量と化す。
「よぉ〜モテモテだな、ヴェネッサお姉ちゃん。あとで俺からもプレゼント渡すから、楽しみに待ってろよ」
乃木坂も一緒になって囃し立て、その隣では「もうヴェネッサはお姉ちゃんを飛び越えて、ラストワンのお母さんだよね!」とマリアが突拍子もない冗談を飛ばして笑っている。
全く。こちらは歳を気にしているというのに、微塵も気を遣ってくれない。
まぁ、皆、悪気があって言っているわけではない。
お姉様というのは、年上であり美人でもあるヴェネッサに敬意を払っての呼称なのだから。
プレゼントのお返しも、お姉様らしく上品な選別でせねばなるまい。これもまた、悩みの種の一つであった。


本当は、お姉様なんてガラではない。
自分の顔には昔から自信アリだが、それと上品か否かは別物だ。
本当はヴェネッサだって年頃の同級生と同じように、少女らしくはしゃいだりハメを外してみたかったのだ。
しかし進学校という環境が、彼女にそれを許さなかった。今もキャラ作りに失敗した感がある。
そもそも最初まで遡れば、メイラがヴェネッサを「おねえちゃま」などと呼んで甘えてきたのが原因か。
あれで九割方、ラストワンでの自分のキャラ作りが決まってしまったようなもんだ。
メイラは今でも可愛い甘えん坊なのが癪に障らなくもないが、可愛くふるまえるのは少女の武器であり長所だ。
それに――メイラのようにふるまうのは、自分には無理だとも判っている。
昴は可愛いを完全放棄している。最初から男の子っぽく振舞っていた。
なのに時々、彼女の見せる欠点を可愛いと思ってしまうのは何故だろう。見た目は男の子なのに。
まぁ、いい。今更可愛いを追及しても無駄だ、遅すぎる。
それよりも二十歳になってしまった自分が今後追及しなければならないのは、大人っぽさだ。
そう、乃木坂教官との関係を今より更に深めたい。
プレゼントを渡すと指定されたのは彼の部屋で、中に入ると同時に抱きすくめられる。
続けてのキスにヴェネッサは、しばらく幸せに浸りきった。
唇が離れた後、乃木坂が茶目っ気たっぷりに微笑んでくる。
「今日は、これで終わりじゃないぜ?なんたって二十歳の誕生日だからな」
目線が差すのはベッドの上で、まさかフライング卒業試験を致すつもりなのでは!?と、ヴェネッサは胸をときめかせる。
が、ときめいたのは「今日は卒業試験の練習をいっとこうぜ」とベッドに二人して抱き合いながら横たわるまでで。
後は、いつもの練習と同じような愛撫が始まり、内心ガッカリするヴェネッサの耳を乃木坂の声が擽る。
「本番は試験までのお楽しみ、な?じゃないと二人に怪しまれっちまうし」
「は、はい」
内心を見透かされたのかと慌てる彼女の頭を優しく撫でて、乃木坂が覆いかぶさってくる。
「なんだったら、誕生日限定での愛撫を考えようぜ。いつもと違う……こことか、そことか!」
普段の練習では触られない、お尻の穴を奥まで指でツンツンされたり、耳たぶを何度も甘噛みされて、「きゃぅんっ!?」とヴェネッサはキャラに合わない可愛い悲鳴をあげながら、二十歳の誕生日を満喫したのであった――


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