合体戦隊ゼネトロイガー


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マリアのお誕生日

この世で、自分ほど誕生日を楽しみにしている人間はいないんじゃないかとマリアは思っている。
自分のだけじゃない。他人の誕生日を祝うのも大好きだ。
ただし相手の意志は尊重したいので、祝いたくない人のは無理に祝ったりしない。
祝われて嬉しい人は、盛大に祝ってあげる。
そして自分の誕生日も盛大に祝ってほしい。
そういうポリシーだ。
だから、自分の誕生日は一ヶ月前から大々的にアピールして回った。
同級生だけじゃなく、上級生やスパークランの候補生、教官にまで。
よって、昨日は盛大なパーティになった。
スパークランに所属する者はセレブが多い。
ごちそうは彼らの手配した料理人が作ってくれたし、高価なものから手作り品までバラエティーに富んだプレゼントを貰ってホックホクな一日となった。
ただ一つ、不満がないこともない。
それは担任教官である、鉄男が不参加だった点だ。
一ヶ月に渡って毎日大アピールしたにも関わらず、来ないとは何事か。
人混みが苦手だったとしても、可愛い受け持ち生徒の誕生日である。祝うのが当然だろう。
祝いたくない人は、無理に祝わない。
祝ってほしい人は、盛大に祝う。
要するにマリアのポリシーとは、自分が祝ってほしいから他人も祝うといったものであった。


「もーっ。鉄男、なんで昨日は来なかったのよ、あたしの誕生パーティに!」
授業開始で教室に入った途端、文句を食らって鉄男は眉をひそめる。
昨日はマリアの誕生日だった。
一ヶ月前から毎日言われていたので知っていたが、別の用事が入り、鉄男は、そちらを優先した。
「俺にも俺の用事がある。それに……人混みは苦手だ」
ぼそっと呟いて話を終わりにしようとしたのだが、そうは問屋が卸さない。
「用事って何!?こっちのパーティが先約だったのに!」
ぐいぐい詰め寄られて、鉄男の声は次第に小さくなってゆく。
「参加すると言った覚えはない」
「受け持ち生徒の誕生日だよ!?祝うのがトーゼンでしょ!」
着任直後と比べたら多少は打ち解けたといっても、今でもマリアは苦手な相手だ。
亜由美やカチュアと違って遠慮がないし、ついでにいえば気遣いもゼロ。
こちらの都合お構いなしに自分の都合を優先しようとしてくるのには、子供といえど辟易する。
誕生会にしたって、そうだ。昨日の用事はパーティなんかと比較したら、絶対に外せない。
ラストワンが最も重要視しなければならないシンクロイス対策、それの一環だったのだから。
何より気に入らないのは、祝われるのが当然といった態度だ。
鉄男が誕生日に対して無関心なのは、子供の頃に祝ったり祝われた記憶が一つもないせいだ。
誕生会なんて、友達が一人もいない奴には無縁のイベントであろう。
自分の家は貧乏だからパーティなんて出来ないし、プレゼントも貰っていない。
そもそも家族の記憶自体、永久封印してしまいたいほど嫌な想い出しかない。
亜由美は誕生日を鉄男にアピールしてこなかった。
カチュアも今のところは亜由美と同じで、特に何も言ってこない。
マリアだけなのだ。自己アピールの強い生徒は。
個性だと言ってしまえば、それまでだが、その個性が鼻持ちならない。
誕生日なんて、祝いたいやつだけで祝えばいい。
亜由美に無茶ぶりプレゼントを要求されて以降、そう思うようになっていた。
マリアもどうせ、変な要求をするつもりだったんだろう。こちらが困惑するような。
すっかり疑心暗鬼に駆られる鉄男は、一つ大事なことを忘れていた。
それは――
「ふん、いいわよ。どうせ鉄男は、あたしのことなんか大事な生徒だと思ってないんでしょ。亜由美やカチュアと比べると、あたしと話している時だけ全然態度が違うもんね……」
だんだん語尾が湿ってきたマリアを、亜由美が慌てて慰める。
「そ、そんなことないよ、マリアちゃん。ただ、辻教官は、その、素直じゃないから……素直じゃない、恥ずかしがり屋だから、ね?」
途中から、ひそひそ小声で耳打ちしたのは、こちらに聞かれちゃマズイ内容なのか。
「こっちが祝ってほしいってアピッてんだから、素直に祝えばいいじゃないのよォ!」
マリアに大声で怒鳴られて、ふと鉄男の脳裏に浮かんできたのは木ノ下の顔だった。
女の子は誕生日を祝ってもらうのが大好きなのだと、彼は言っていた。
亜由美の反応が淡白だったせいで、好きか否かは人それぞれだと鉄男は自分流に解釈してしまったが、木ノ下が言いたかったのは、そうじゃない。
"大半の"女の子は誕生日を祝ってもらうのが大好き、という一般論だったのだ。
一般論に当てはまらない子がいるのは当然だが、全員が当てはまらないとも限らない。
人それぞれだというなら、それこそ鉄男はマリアの主張、祝ってほしい気持ちを尊重すべきであった。
「そう……だな。すまない。俺はまた、独り合点で勘違いしていたようだ」
ぽつりと呟き、鉄男はマリアに頭を下げた。
「なによ、今更!謝ったって」と言いかけるマリアを遮る形で、鉄男の謝罪は続く。
「詫びを兼ねてプレゼントを用意させてくれ。何がいい?俺にできる範囲であれば、なんでも用意しよう」
「なんでもって何?」と尋ねてから、マリアはピンと閃いた。
「じゃあ恋人になってって言ったら、なってくれるの!?」
「そ、それは駄目だよ」と間髪入れず却下したのは鉄男ではなく、亜由美だ。
「なによぉ、亜由美には聞いてないし!」
「でもプレゼントって言ったら、普通は物でしょ」
自分は物品でのプレゼントを退けたくせに、そんなことを言っている。
しかも自分がしてもらったプレゼントは伏せるあたり、亜由美も、なかなかに強かだ。
受け持ち生徒は三人とも、鉄男を取り合う恋のライバルなのだ。
先ほどから一人黙して静かなカチュアだって、鉄男とキスした件は他二人に非公開である。
「んー、じゃあ、次の休みにデート!……してくれる?」
可愛らしく小首を傾げてのお伺いとは、可愛い真似をしてくれる。
ついさっきまで鼻息荒く不参加を罵っていた奴と同一人物には、到底見えない。
休日デートは本来ラストワンにおける教官の義務だし、お安い御用だ。
あくまでも、抱きしめてだのキスしてだの恋人になれと言われるよりは、だが。
「あぁ。飲食は全て俺が奢ろう」
「やったー!」と無邪気に喜ぶさまは、年相応に可愛らしい。
マリアも普段から、こうやって素直に可愛らしくしてくれれば、鉄男だって可愛がりたくなるというのに。
まぁしかし、我の強さは彼女の個性だし、まだ十五になったばかりの小娘が計算高く振る舞ってくるのも、それはそれで気味悪い。
これから、少しずつ成長していくのかもしれない。鉄男が新米教官から熟練教官へと成長していくように。
デートのスケジュールをあれこれ提案してくるマリアの話を半分流し聞きながら、今月の預金は幾ら残っていたかを思い出そうとする鉄男であった。


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