合体戦隊ゼネトロイガー


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モトミのお誕生日

モトミは自分の誕生日が大好きだ。
いえば何でも欲しい物を買ってもらえたし、ごちそうを食べられる日でもあったから。
ニケアで生まれたモトミは空襲の少ない区域で安全な幼少を過ごした。
そんな彼女が、ロボットパイロットという危険な職業に将来の夢を定めたのは他でもない。
お金だ。お金が欲しくて、あえて危険な道を選んだ。
なんせニケアの辺境じゃ、ろくな就職先がない。
ほぼ農家しかないと言っても過言ではなく、重労働の割に低賃金じゃ働く気力が失せてしまう。
目新しい生活をベイクトピアに求めてもいた。ベイクトピアはニケアにはない物品であふれているとの噂だった。
実際にラストワンへ入学してベイクトピアに引っ越したモトミは、毎日が輝いて見えた。
ただ一つ、同じクラスになったメンヘラが鬱陶しい点を除けば。


「今日はウチの誕生会を開いてくれて、あんがとー!」
満面の笑みでジュースを飲み干して、モトミは感謝を述べる。
モトミの誕生会を開こう――そう言ってくれたのは隣のクラスのマリアだ。
彼女の声かけで最上級生からスパークランの候補生まで巻き込んで、盛大なパーティになった。
「モトミちゃん、おめでとう!これ、私達が選んだプレゼントよ。大切にしてね」
同じくニコニコなメイラに大きな箱を差し出されて、モトミも上機嫌で受け取った。
何であろうと誰にもらおうと、もらえるものは貰っておく主義だ。
プレゼントは値段じゃない、あげようという気持ちが嬉しい。
「じゃあ、これも受け取って」「これ、あげる!」
メイラのプレゼントを皮切りに、次々大小の箱を渡してくる少年少女たち。
中にはモトミの見知らぬ顔もあったりで、さすが声をかけられて集まっただけはあるノリの良さだ。
目の前に並べられたオードブルもマリアやレティが用意してくれたもので、ほとんど炭水化物及び揚げ物の盛り合わせだ。
かつてニケアに住んでいた頃は、両親が誕生会の用意をしてくれた。
栄養価を考えたバランスの良い彩りであったが、どこか物足りなさもあった。
ラストワンに来てからの誕生会は友達主催による友達のベストセレクションであり、要は他人であるはずなのにモトミの好き嫌いを完全に把握しているのは驚きの一言に尽きる。
モトミは炭水化物大好きっ子、つまりはパン食派である。
友人が彼女の好みを把握しているのは、毎日昼飯にベーグルサンドを注文していたおかげだろうか。
おまけに、これは一番重要なのだが、誕生日用にケーキまで用意してくれた。
今、ヴェネッサが盆に乗せて運んできたのが、そうだ。
上に苺がちょこんと乗った、ふわふわ真っ白クリームのショートケーキ。
実は自分の誕生日にケーキを食べるのは、これが初めてのモトミだ。
両親は娘の栄養バランスには気を遣ってくれたけれど、食べ物の好き嫌いにまで気の利く人々ではなかった。
たとえ誕生日であろうと栄養重視な食事を出されたし、三時のおやつだって大抵は果物か蒸した芋の二択だった。
ケーキなどのスイーツを作れなかったのか、それとも自然派のこだわりだったのかはモトミの知るところではない。
彼女に判るのは友達のほうが何百倍も気が利いている、その一点だけだ。
友達セレクションのケーキは、手作りではない。お店買いだ。
ちゃんと人数分用意してあり、これを買うだけでも結構かかっているのではあるまいか。
「やっぱ誕生日っていったらケーキだよね」と笑って、マリアがフォークを突き入れる。
「んー、ベルシーズのケーキは相変わらず美味しいわぁ」と喜んでいるのは相模原で、口の周りはクリームでベタベタだ。
ベイクトピア生まれの子ならケーキなんて食べ飽きていてもおかしくないはずなのに、こういったイベントでは必ずケーキを食べて、何度でも舌鼓を打つ。
どこか不思議な感覚に包まれると同時に、これまでケーキを食べられなかった自分の誕生日が、モトミには惨めに感じた。
これまでの誕生会に愛がなかったわけじゃない。
欲しいものは何でもプレゼントしてくれた。
ごちそうにだって、両親の愛がこもっていたはずなのだ。
でも、あの中にはモトミの大嫌いなピーマンも混ざっていて、何度入れないでと頼んでも毎回入っていて……
ケーキを食べているうちに、じんわりモトミの視界は涙で覆われる。
一番最初に気づいたのは隣に座っていたレティで、「あ、あれ?モトミちゃん、生クリームケーキは好きじゃなかった?これならハズレがないと思ったんだけど、気が利かなくてごめんね!?」とハンカチで涙を拭きにかかってくる。
「え、ごめん。もしかしてアレルギーだった?」
「あ、もしかして苺ショートよりもチョコのほうが良かったの?」
マリアや相模原も騒ぎ出し、場は騒然とする。
せっかく買ってきてあげたケーキなのに不味そうに食うなんて、と罵る者は一人も居ない。
皆、本気でモトミを心配してくれている。
ぼろぼろ涙をこぼしながら、モトミは小声で呟くのが精一杯だった。
「違う、違うんや、ウチ、こんな素敵な誕生パーティ、生まれて初めてで……」
皆がポカンとなったのも一瞬で。
「あー、出身ニケアだっけ?モトミちゃん。そっか、じゃあ初の自誕ケーキ、目一杯味わってね」
判ったような顔で頷く同郷出身者や、ニケアの経済事情を知る者の同情で溢れかえる。
民間の懐が安定しているベイクトピアと異なりニケアは不安定、いってしまえば貧乏人が多い。
物資に関しても、ベイクトピアと比較してしまうと絶対的な品薄だ。
辺境ではスイーツの店自体がない。いや、なかったのはスイーツの店ばかりではなかったのだが。
「なによぅ。ニケアにだってケーキぐらいあるんだから」と膨れっつらなメイラには、昴が呆れて宥めに回る。
「あったとして、買えるかどうかは別問題だろ?」
自分の家が貧乏だったかどうかは、モトミには判らない。友達も似たりよったりな環境だったから。
けど、ベイクトピア生まれの子にとって誕生日にケーキを食べるのは"当たり前"なのだ。
モトミもベイクトピアに引っ越してきて、ついに今日、当たり前の仲間入りを果たした。
加えて、ごちそうに嫌いなものが含まれていない。このパーティを素敵と呼ばずして、なんと呼ぼう。
「ウチ、ウチ……ラストワンに入って、ベイクトピアに引っ越して、よかったぁ……幸せやぁ〜〜〜っ!」
感激の涙を流してケーキにがっつく彼女を見つめる目は、どれもが慈愛に満ちている。
ラストワン、及びスパークランに通う候補生は、ほとんどが地元ベイクトピアの生まれだ。
自分の生まれた国を褒められて嫌なわけがない。
「うんうん、モトミちゃんにはベイクトピアの美味しいお店、いっぱい教えてあげるね」
「ケーキだけじゃないよ、ベイクトピアの美味しいスイーツ!今度一緒に行こう?」
いろんなお誘いの言葉を知っている顔や知らない顔の少年少女にかけられながら、今日だけで友達リストが二、三ページは増えた気がするモトミであった――


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