合体戦隊ゼネトロイガー


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act6 希望を胸に

二日に渡って留守にした御劔学長の小旅行は、多くの関係者に驚きを齎した。
一番の驚きは、なんといってもクローズノイスが生きていて、且つ一緒に帰ってきた事だ。
休む間もなくゼネトロイガーの改造手伝いに回ったばかりか、鉄男の中からシークエンスを取り出してやるとも言われたが、鉄男は丁重に辞退した。
シークエンスが離断されるには、代わりの器が必要になる。
こちらの都合で誰かの未来を奪うのは、気が引けた。

「うぅむ、何故断られてしまったのだろう」
グリグリと外装のネジを外しながら、クローズノイスは嘆息する。
「器を探すのが嫌ならば僕との同居にするといったのに、それも蹴られてしまった。もしや、あの子と一心同体でいるのに慣れてしまったのか?」
「辻くんからすれば、あなたも他人の一人ですからね。遠慮したのでしょう。それに、乗り移りに失敗すれば消滅もあり得ます」
休憩用のお茶を淹れた御劔は、クローズノイスの傍らへ腰を下ろす。
彼はゼネトロイガーの改装をすると申し出て、今は一人であちこち弄繰り回している。
探しに行くと決めた時は、まさか生きているとは思いもしなかった。
誘ったら、あっさり君についていくと頷かれ、こうして連れて帰ってきた次第だ。
「そうだ、その乗り移りなのだがね。決闘で勝った場合は禁止にしたほうがよいのではないか?故郷の星でも、若い連中は節操なしに器を変える傾向があった。器の無駄遣いは、種族の滅びを意味するぞ」
クローズノイスの忠告を受け、御劔は素直に頷いた。
「では後出し条件だと怒られないよう、今のうちに提案しておきましょう。カルフを呼んで、ベベジェに連絡をつけてもらいます」
ついでにクローズノイスとイーシンシアを見つけたことも報告しておくべきだろうか?
電話片手に思案する御劔へ助言したのは、ベイクトピア軍に所属する新兵のゾルズだ。
「ベベジェに連絡するんだったら、俺に任せてくれ。カルフに任せたら、余計な喧嘩が始まりそうだしな」
「判った。それじゃ、お任せするよ」と頷く御劔に、重ねて確認を取る。
「んで決戦後の約束変更以外に、伝えておきたいことはあるか?」
「諸君らの中で、クローズノイス氏と懇意にしていた者はいただろうか。いや、いたのであれば生存連絡したほうが親切じゃないかと思うんだけどね」
「懇意ってのは仲良しって意味か」と聞き返し、ゾルズは横で聞き耳を立てていた本人に伺いを立てる。
「あんたと仲良しな奴なんてイーシンシアぐらいしか、いなかったよなァ?」
「まぁ、そうだ。ベベジェなんかは僕が生きていると知ったら、怒り出しそうだ」
二人揃って軽快にアハハと笑った後、ゾルズは笑顔で御劔に伝えた。
「別に知らせる必要ないと思うぜ。むしろ知らせないほうが平和かもな」
今のは笑うポイントだったのか。
元リーダーとしてのカリスマがあったんだかなかったんだか判らず御劔は頭を悩ませたが、それでも傍らのクローズノイスを見やると、呑気な顔でお茶をすすっている。
連絡を取る必要がないと本人が考えるのであれば、御劔の親切も余計なお世話だ。
ゾルズは無駄口を止めて、急に黙りこくる。
テレパスで直接ベベジェと会話を始めたのだろう。
ベベジェらの居場所は判明している。
彼らはベイクトピア軍のお膝元、軍隊本部の周辺に隠れ住んでいた。
同じ範囲にいたのでは盲点も盲点、道理で全然見つけられなかったはずである。
器工場も軍用敷地内にあった。
現在工場は廃棄され、誘拐された人々は家に戻っていった。
工場で産み落とされた子供たちは施設に入れられるか、親のどちらかが引き取った。
シンクロイスの手元に、器と称される人間は一人も残っていない。
彼らが乗り移りで誰かを犠牲にする危険性は、常にあった。
「――見返りが少なすぎると文句言ってるぜ」と、ゾルズ。
「うん。ベベジェなら、そういうと思っていた」
納得するクローズノイスを横目に、御劔が妥協案を出す。
「私の財産で永遠の住居と生命の安全を提供する。これでは駄目だろうか?」
「あいつら全員を、か?あんたが、どれほどの金持ちか知らないけどよ、無茶言うなぁ」
呆れつつも妥協案を飛ばしたゾルズは、ややあって向こうの返事を伝えた。
「ロゼは近所に、かき氷屋を建ててくれるならオーケーだと言っている。ベベジェは豪勢な屋敷を所望だ。ミノッタはシークエンスとの同居、シャンメイはカルフと同居したいんだってよ、どうする?」
遠慮のない要求に、思わず御劔は苦笑が漏れる。
ミノッタの要望以外は大体かなえられそうだが、それで本当に約束を守ってもらえるのかどうかを確認してもらったところ、「約束は絶対だそうだ。ただし、勝つのは俺達だとも豪語しているがね」と、ゾルズは肩をすくめた。
お茶を立て続けに飲み干して、ポットを空にしたクローズノイスも決意する。
「ベベジェは武器を作るのが得意だからなぁ。僕は正直に言って武器を作るのは苦手なんだが、タカさんの為となれば、やむをえまい。ゼネトロイガーの手数を増やすとしよう」
たちまち「オイオイ、あんたがソレ言うのか?俺達が作れる武器の殆どは、あんたが発案の元祖じゃないか」とゾルズには冷やかされ、「違うぞ、僕は一発で消滅させられる省エネ道具を作りたかった。従って、過去作は全て失敗だったんだ」とクローズノイスも応戦する。
ちらりと御劔へ視線をやり、呟きを付け足した。
「そう、本来はブルットブルブックを完成させてほしかったのだが」
「すみません」と御劔が頭を下げて、発案者に謝罪する。
「すべては私の技術不足です」
「というよりは、材料に無理があったのかもしれない」
一応は慰め、クローズノイスの目が宙を見つめた――
かと思う暇もなく、どすんと重たい物質の塊が落ちてくるもんだから、その場にいた全員が肝を冷やす。
「これが足りなかった材料、ですか?」と尋ねる御劔へ頷くと、堅い表面を見せる物質をガンガン蓑で叩いて砕いてゆく。
「そうそう、僕は一つ過ちを犯していたよ。君達原住民は僕らと違って、材料を生み出せなかったんだっけね」
シンクロイスは材料から自前で作り出す種族だ。
種族の異なる御劔が設計図通りに作れなかったとして、何の落ち度があろうか。
複数の設計図をツギハギして作ったのがゼネトロイガーだ。
形として完成させただけでも褒めて然るべきだと、ゾルズは考えた。
もっとも、クローズノイスも御劔を責めるつもりで先の発言を繰り出したのではない。
「材料が足りないのに、あれやこれやとアレンジして、武器として完成させている。素晴らしいよ。君には物作りのセンスがある」
余分を削り落とし、塊だったものは一本の大きな棒へ姿を変える。
そいつをグネグネと折り曲げて、ゼネトロイガーの胸部へと差し込んだ。
「いえ、あなたの設計図がなければ作り出すことすら、できませんでしたから……」
謙遜する御劔へ振り返ると、クローズノイスは首を傾げてみせる。
「そうかな?いずれ同じ発想へ辿り着けたと思うよ、君ならば。だって君は僕の案を全面的に理解できていたんだからね」
「あんたの発案は便利なものもあるが大半は意味不明で複雑なモンばかりだ。これを理解できたってのが、まず凄いじゃないか。しかも異種族なのにさ」
ゾルズにもポンポン気安く肩を叩かれ褒められて、頬を赤く上気させながらも、御劔の脳裏に浮かんだ言葉があった。
「ありがとうございます。そうだ、物を直接作り出すのは禁止とさせて頂きますが、こうしたほうがいいといった助言までは禁止するつもりもありません。創作意欲を奪われるのは、我々でも辛いものがありますからね。それも彼らに伝えてもらえるかい、ゾルズ」
「いいのか?助言と称して武器の作り方を他国の軍隊に伝授されちゃっても」とゾルズは皮肉ぶってきたが、クローズノイスが、それを制する。
「生活はタカさんが保証してくれるんだし、金儲けする必要がない。そもそもが気まぐれな連中だ、頼まれたからと言って素直に教える輩じゃないのは君もよく知っているだろう?」
「確かに。誰かの頼みごとを喜んで叶える変人なんざぁ、あんたしかいなかったか」
またしても笑いがあがり、笑い処が判らなかった御劔は一人蚊帳の外におっぽりだされる。
ゾルズの返答を聞く限り、乗り移ってから自我に変化があった他のシンクロイスとは異なり、クローズノイスだけは最初から変わり者だったようだ。
そっと本人に尋ねてみた。
「……乗り移って以降、クロさんの自我に変化はあったのですか?」
「自我に変化?いや、僕は元々こんな性格なんだが」
真顔で首を真横に振る彼を見て、ゾルズが横でニヤニヤする。
「怒りや憎しみと無縁なマイペース野郎に変化がなかったとしても、俺は驚かないぜ。これは推測だが、自我に変革があったのは短気だったり冷酷だったりと、性格に難のある奴だけじゃないかと思うんだ。クローズノイス、あんたはフーリゲン星のシンクロイスっつぅよりも、この星の原住民だと言われるほうが納得だよ」
「きみも、そうだったのかい?」
御劔の問いを、ゾルズは素直に認めた。
「あぁ。この星へ来る前の俺は、そりゃ〜自分で言うのも何だが恐ろしく傲慢で自分勝手な奴だったぜ?変化後に俺と出会えたのはラッキーだったな」
「あの星は、そんな奴ばかりだったじゃないか」とクローズノイスは溜息をこぼし、ポットを逆さまに振って中身がないのを確かめる。
お茶のお代わりを持ってこようと立ち上がりかけた御劔の手を取り、しみじみ囁いた。
「あの時、星と一緒に爆発しなくて良かった。この器は、自殺に失敗したというんで僕が代わりに貰ってやったのだ。生きているのが嫌だと言っていたよ、この器の持ち主は。勿体ないね。生きていれば、こうやって最良の友人に巡りあえる機会もあるというのに」
すかさずゾルズが合いの手を入れる。
「器に感情移入するなんてのもシンクロイスじゃ、あんた一人だけだった。まったく、生まれてきた種族を間違ったとしか思えないねぇ」
握られた手を握り返し、御劔は微笑んだ。
「何故地味な器を選んだのか疑問でしたが、手放す意識と引き換えだったのですね」
「地味、というのはイーシンシアの器と比較して?」
クローズノイスは首を傾げ、ちょっとばかり不満げに口を尖らす。
「……地味、かな。そうでもないよ。よく見ると、個性のある顔立ちをしている」
これには「どこが?」とゾルズにも突っ込まれ、今度こそ御劔も笑いの合唱に加わった。
「しかし日帰りで別れてしまっては、じっくり拝見できません。どうでしょう、今後は私の家で一緒に暮らすというのは?」
「うん。いいとも。荒野の一軒家は、誰も来なくて寂しくて仕方ないからね」
クローズノイスは、あっさり承諾し、御劔家に新しい家族が一人増えたのであった。

クローズノイスが仲間に加わって、乃木坂だけは不機嫌を隠そうともしなかったが、他の面々は概ね大歓迎の意を示す。
「すげぇな、シンクロイスの半数以上が俺達の味方じゃんか!」
喜ぶ木ノ下には、鉄男も同感だ。
「ほとんど共存できていると言っていいだろう。だが……それでも決戦は行わねばなるまい」
「まぁな」と頷いて、木ノ下は鉄男を、じっと見つめた。
「……どうした?」
怪訝に首を傾げる鉄男へ「いや、着任したての頃と比べると、お前も随分成長したなぁと思ってさ」と屈託なく答え、突然の誉め言葉で硬直する後輩へ笑いかける。
「面接で初めて見かけた時は、もし受かったら俺が手取り足取り教えてやろうなんて考えていたけど、お前に教えられることも結構多くて驚いたよ。これからもヨロシクな、鉄男。そんでいつか俺のことを進って呼んでくれよ、親友っぽく」
鉄男の緊張は最大限まで高まり、真っ赤に染まった頬でぎこちなく頷くのが精一杯だ。
「しょ、精進する……」
「ははっ。そういうトコは、あんま変わってねぇのな。あぁいや、それが悪いってんじゃないから誤解すんなよ?お前らしさも残っていたほうが安心するしな」
まだ何か木ノ下は言っていたのだが、緊張と嬉しさで茹った頭の鉄男は半分以上を聞き漏らし、二人並んで仲良く廊下を歩き去った。


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