合体戦隊ゼネトロイガー


Top

act6 協力

桐本の協力要請に対し、当のシークエンスよりも先に候補生が騒ぎ出す。
「え、えっ、それって鉄男がラストワンを辞めちゃうってこと?」
「駄目だよ、そんなのーっ。せっかく教官が六人になったのに、また面接しなきゃなんなくなるじゃん」
口々に囀る少女達へ「ンンッ、ゴホン!」と咳払いで沈黙を促すと、桐本は改めて協力条件を言い直した。
「安心したまえ、我々は辻くんを軍へ引き抜こうとしているのではない。空からの来訪者、シンクロイスと呼ぶのかね?そいつにまつわる情報提供をしてくれと要求しているだけだ」
「それぐらいだったら、いいわよ」とシークエンスが、あっさり頷く。
「おぉ!では、さっそくだが軍部に連絡を取って検問室へ、お通ししよう」
嬉々として何処かへ案内しようとする桐本を制し、彼女は付け足した。
「ただし情報提供する時は、こちらの関係者を同行させた状態でね。じゃなきゃ、怖くて話せないわ」
桐本の片眉が跳ね上がり、「軍人を警戒しているのかね?」と聞き返すのへは、「そりゃあそうでしょう」とデュランが混ぜっ返す。
「辻くんから見れば、あなた方は暗殺部隊の隊長を送り込んで拉致しようとしてきた相手です。素直にのこのこついていって、軍人に取り囲まれての尋問など御免被りたいでしょう」
「尋問する気など、ないッ!」と癇癪を起こす桐本に、シークエンスも、これ見よがしに肩をすくめてみせる。
「そうね。それに、ぜ〜んぶ口先だけの約束だしね。あんた達が本当に約束を守るかどうかも、あたしには判らないワケだし?」
「彼女は」と、横に立ったデュランが言う。
「シンクロイスである以上、シンクロイスの長所も短所も弱点も全て、知り尽くしています。我々にとって、これほど強力な協力者もありますまい」
「ほう、弱点を。なら問うが、君達シンクロイスの弱点とは何なのかね?」
些か偉そうに桐本が尋ねた時。
「成長できない。そうではありませんか?ミス・シークエンス」と割り込んできた声こそは、御劔学長及びラストワンの教官達ではないか。
何故かグランプリで出会った伊能も一緒である。
御劔の問いに対しシークエンスは、さして驚いた様子も見せずに「やっぱりね」と呟く。
「何が、やっぱりなんだ?」と尋ね返した木ノ下には、小さく答えた。
「学長が、あたし達について何かを掴んでいるんじゃないかって疑惑の確信よ」
「おい、お前ら!」と乃木坂が大声で候補生へ呼びかける。
「無断で外出しちゃ駄目だって、いつも言ってるだろ。帰ったら、全員反省文だぞ」
「うへぇ〜」だの「判りましたぁ!」だのと叫び返す少女達を見渡して、最後に桐本の目が御劔一行を見やる。
「なるほど、本郷さんや木藤くんも一緒だったか。それで、ここまで辿り着いた、と」
「すまんな、桐本くん。だが、エレベーターの道筋は彼も知っていた」
顎で御劔を指して、本郷が怪訝な表情を浮かべる。
「君が教えたのではないのかね?」
「私が!?まさか!」
素っ頓狂に声を荒げ、かと思えば桐本は本郷の元に走り寄ってきて小声で尋ねる。
「そもそも、こやつらは何なのです?」
本郷は驚いた目で桐本を見つめ返し、すぐに何かを把握したように謝ってきた。
「あぁ〜、そうか。君は初めて出会ったのか。なら教えているはずもないな。疑ったりして申し訳ない」
「いえ、それは構いませんが」と慇懃に頷く桐本へ、改めて本郷が御劔を紹介する。
「彼は御劔高士。現在はラストワンという傭兵学校の学長を勤めている。かつては我らがベイクトピア軍で、ロボット制作技術担当に所属していた研究者だ」
えっ!?となり、桐本はしげしげ御劔の顔を見つめている。
外野が大人しくなったところで、シークエンスは先ほどの質問に答えてやった。
「そうよ。あたし達は寄生を繰り返すだけの生き物で、進歩や成長はありえない。今はすごく見えるかもしれないけど、いずれ、この星の人間にも追い抜かれるかもしれないわね」
「け、けど」と、難色を示したのは候補生のメイラだ。
「今追いつけないんじゃ、どうにもならなくないですか……?」
「追いつけないなら、無理矢理にでも追いつけばいいのよ」
シークエンスは、にべもない。
それでも少し言い方が乱暴だったと気づいたか、やや柔和な表情で言い直した。
「あんた達には、あたしがいるのよ?あたしを上手く利用してごらんなさい。シンクロイスの操る道具には弱点がある。大型機だって例外じゃない。アベンエニュラは一番簡単ね。だって、あいつは生身ですもの。いくらでも倒しようがあるわ。ここの軍隊はロゼやカルフと戦って惨敗したらしいけど、真正面きって戦うから、そんな目に遭うのよ」
「ざ、惨敗はしていない」と木藤が反論するも、シークエンスは全く無視して御劔を睨みつける。
「では、その具体案を教えてくれるかな?君の助言通りに動くとしよう」
切り出した御劔に、シークエンスも言い返す。
「その前に、あんたも味方に情報を提供したら、どうなの。最初にシークエンスの噂を軍隊でばらまいた奴のこと、あんたホントは知っているんでしょう?」
学長とシークエンスは真っ向から睨み合い、再び候補生がざわめき出す。
「え、どういうこと……」
「シークエンスって、あの人の名前じゃないの?」
動揺しているのは、候補生ばかりではない。乃木坂や剛助、ツユもだ。
春喜だけは平然としているが、彼は興味がないのだろう。これら一連の情報に。
ざわめきが大きくなる前に、御劔が口を開く。
「そう……だ。シークエンスは都市伝説なんかじゃない。はっきりと空からの来訪者、シンクロイスを指した言葉だった。それを私に教えてくれた人の名前なら、よく覚えている。ただ、他人に吹聴してまわる価値はないと思っていた」
「誰なの?」と、シークエンスの追及は容赦ない。
沈黙する御劔を見据え、続けて彼女の放った発言は、話についていけていない者達の目を点にさせた。
「言えないなら、あたしが当ててやりましょうか。そいつはクローズノイスなんて名前だったりしなかった?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」と、泡を食って木ノ下がシークエンスに掴みかかる。
「君が名前を出せるってこたぁ、その人は、もしかして」
「えぇ、もしかしなくてもシンクロイスよ。一番最初に時空移動装置を創り出した」
「そして一番最初に、この大地へ足を降ろしたシンクロイスの一人でもある」と、繋げたのは。
「学長!?どっ、どうしてそんなことを、学長が知っているんです!いやっ、どうして知っていながら俺達には一言も教えてくれなかったんですか!?」
乃木坂も泡を食う中、御劔は穏やかな表情を浮かべて答える。
「言っただろう。吹聴する価値はないと思ったのだと。何故なら彼は既に、この世の者ではないからね。彼の知識の一部は私が受け継いだ」
ふん、と鼻を鳴らしてシークエンスが嫌味を放つ。
「受け継いだと言えば聞こえはいいけど、要は盗んで事実を隠蔽したんでしょ。それでゼネトロイガーからも、あたし達の作る道具と同じ雰囲気を感じたってわけ」
彼女の言葉の意味が判るのは、この場では御劔だけだ。
ラストワンの面々は勿論のこと、軍関係者の本郷や桐本も首を傾げている。
「いつ、彼と出会ったの?軍にいた頃かしら」
シークエンスの問いには黙って頷き、御劔の視線が伊能を捉える。
皆と同じく動揺してはいたが、彼の目は御劔ではなくデュランへ向かっていた。
「どうやら知りたがっているのは君だけではなさそうだし、この際全部ぶちまけてしまおうか」
僅かに苦笑を浮かべて、御劔が話し始める。
「クローズノイスは遠い昔に、この大地に降りた。他の仲間と共に。しかし仲間とは諍いを起こして決別し、そして彼は一人で考えた。この大地に住む人間に、シンクロイスとの共存可能を教えておこうと。そうしなくては、仲間もこの地上も共倒れだ。そう考えたのだろう」
「なんで、あたしの名前で噂を流したのよ」
ぶすくれるシークエンスにも苦笑して、御劔が推理を披露する。
「君が地上の民に見つけられることも予知していたんじゃないか?正直なところ、私は彼の言葉を半分疑い、半分信じていた。だからこそ、彼の情報と異なる状況が出てきた時には驚かされた」
「あ……!」と、小さく亜由美が叫ぶ。
あの時だ。
学校を襲撃してきた巨大物体がボーンをかき消した時、学長は謎の反応を見せていた。
あれは彼の持つ情報との食い違いを指していたことにならないか?
「あたし達には成長も進化もない。クローズノイスだって、その認識でいたはずよ。彼とあたしの情報に誤差があるとしたら、そうね、アベンエニュラの件かしら?」と、シークエンス。
「あぁ、そうだ」と学長が頷き、視線を彼女へ向け直す。
「あれは……進化、しているね?」
「そうね。あれには、あたしも驚いた」
シークエンスも素直に頷き、「カルフやロゼは気づいていないみたいだったけど」と小さく付け足す。
「ど、どういうことだ?」と騒ぎ出す軍関係者を目線だけで黙らせると、再びシークエンスは口を開く。
「でもま、進化したって元の構造は同じなんだから敵じゃないわよ、あいつは。クローズノイスは、どこまであんたにシンクロイスの情報を教えたの?」
「大したことは教わっていない。君達が進化も成長もしないといったような、曖昧な内容だけだ」
淀みなく答えた学長へ、おずおずと質問を投げかける者がいる。
「その人は、最初からシンクロイスだと……空からの来訪者だと、名乗ったんですか?」
尋ねたのは四期生の昴だ。
学長とは四年も同じ場所で過ごしていたのに初耳情報ばかりで、さぞ困惑した事だろう。
表情にも、ありありと浮かんでいる。失望と躊躇いの色が。
「いや」と短く首を振り、学長は否定する。
「彼は予言者だと名乗ったんだ。軍属の研究者でありながら。だから、最初は私も彼の言葉を信じられなかった。他の者と同じように都市伝説だと思いかけた」
「シンクロイスが軍に紛れていただと!?」と、桐本が声を張り上げる。
デュランにしても初耳で、彼は小さく「ほぉ」と呟いたが、それ以上の言葉は続かず、御劔はデュランを見てからエリスに視線を移す。
「ライジングサンより優れたロボットを構築する、その途中経過で気配の判る者の存在を知った。そして彼の言っていたシークエンスが、気配の持ち主を指しているのだと確信した」
「ゼネトロイガーの発想は、クローズノイスから得たのかね?」と尋ねたのは、本郷だ。
御劔が答える。
「彼の残した発想は、ロボットではなく道具でした。しかし私に、それは作れなかった……ロボットという形でしか」
「そりゃそうね。コンパクトな道具で作る技術が、あんた達にはないんだもの」
ちらと候補生や教官を一瞥してから、シークエンスは説教をかます。
「あんたが言う必要ないと思ったとしても、最低限は話しておくべきだったんじゃない?見なさいよ、あの不信感。あの子供らやスケベ分けは、あんたの仲間なんでしょ?一応」
「一応ではない、仲間だ!」と声を張り上げる剛助の横で、「誰がスケベ分けだ!」と乃木坂も抗議する。
それらを無視して憤然と構えるシークエンスの前で、御劔は僅かに項垂れる。
「そうだな……その通りだった」
申し訳なさそうに乃木坂へ向けて謝罪の言葉を吐き出した。
「ゼネトロイガーにはブラックボックスがある。私にも理解の出来ない要素が……だが、それも当然だ。あれは、この地上の発想ではない。君を失望させてしまったかもしれないね」
「そっ、そんなことありません!」
打てば響く反論が返ってきて、驚いた御劔が顔を上げると、フンフン鼻息の荒い乃木坂と、ばっちり目があった。
その顔は失望していなければ、落胆してもいない。むしろ、どちらかというと興奮している。
「それってつまり学長が奴らの技術を流用したってことですか!?すごいです、地上外の発想を理解して形に仕上げてしまうなんてッ」
なるほど。
そういう見方をする事もできる。
改めて乃木坂の信奉者っぷりには驚かされた木ノ下達であった。
驚いたのは御劔も同じだ。
「君は怒らないのか?私は君に隠し事をしていたんだぞ」
「怒るも何もありません!発想が誰のものであれ、作ったのは貴方じゃないですか」
乃木坂のフンフン鼻息は留まることを知らず。
いや、ちょっとばかり勢いが弱まったかと思うと、彼は下がり眉で付け足した。
「それに、俺だったら、そんな秘密を知ったら大々的にバラして世界を大混乱に陥れると思います。学長は……俺達や世間に混乱を与えたくなかったから、秘密にしていたんでしょう?」
軍部が混ざり合う者の情報を一般公開しなかったのは、世間の混乱を避けるためだ。
御劔が自分の知る情報をラストワン関係者へ教えなかったのも、同じ理由か。
もう一度学長へ目をやり、木ノ下は確信する。
「隠し事は誰だってします。その悩みが大きければ大きいほど」と、乃木坂は言う。
「あけすけなく何も隠していない奴だけが、学長を叩く権利のある奴です。けど、そんな奴が地上にいるとは思えませんね。なぁ、そうだろ?お前らだって」
話を振られて、候補生に動揺が走る。
彼ら教官に話していない事実など、数えればキリがない。
隠し事をしていたなんて酷いと憤ったモトミやマリアにだって、隠し事の一つや二つは存在した。
そう考えると、学長を責める権利なんて誰にもない。
「さて、では」と本郷が話を戻して、皆の顔を見渡した。
「シークエンス、及び御劔くん。詳しく情報提供してくれるというのであれば、場所を移そう。あぁ、ただし、子供達は宿舎へ帰すように」
「子供達はどうでもいいけど、進とその他教官諸々は一緒に来てもらうわよ?いざという時の盾代わりにね」
シークエンスの口からは無情な一言が吐き出され、「誰が盾代わりだ!」と、その他諸々を激怒させたのであった。


Topへ